第58話「筋肉とドラゴン」後編
## 第58話「筋肉とドラゴン」後編
### 【あらすじ】
ついに現れた予言で見たドラゴン。
圧倒的な制圧力でリディアとユージの体勢を崩すと、その隙を見逃さず、残酷な攻撃を繰り出す。
緊急回避のスキルをねじ伏せ、身を挺してリディアを守るユージ。その攻撃は無情にもユージを貫いた。
ユージから最期の言葉を受け取ったリディアは覚悟を決めたが、そこに現れたのは……
### 【本文】
(転生勇者……!)
リディアに再び嫌な記憶が蘇る。
「貴様ら……!やはり来たのか……!」
「おぉ、覚えてんだ嬉しいね。この前はどうも、部下をぶった斬られて逃げ帰った立派な騎士サマ」
「ちょっとコウキ……そういう挑発はやめなさいって」
「あぁ……?別にいいだろ。で?そこに転がってるデカブツの死体はなんだ?」
「……手を出したら斬るぞ」
「お〜怖い怖い。いいよ別に、興味ねぇ。用があるのは……」
コウキと呼ばれていた男は背負っていた超大型の大剣をドラゴンに向ける。
「こっちのドラゴンさんだ。今度こそ邪魔すんなよ?」
グゥォォォォォォァァァァ!!!!
上位ドラゴンがものすごい勢いで威嚇の咆哮をかます。
「おうおう、怒ってんな……ってか前にいたやつより随分ゴツくないか?」
「ええ。おそらく別の個体ね」
「チッ……めんどくせーな。あのクソ女神の欠陥ルールならどんなドラゴン狩っても変わらねえってのによ」
「よく見て、コイツ……足が――」
転生勇者の女性はそこまで言って絶句したような様子に変わる。
(何……?あの外傷は……!?折れている?いや……潰された?一体どうやって!?)
ドラゴンは具合が悪そうに体をゆすっている。ユージを捉えた前脚はだらんとして力が入っていないようだ。
「なるほど……マジでやり合ったら結構めんどくさそうだと思ったがこりゃ楽勝だな」
「な、何を勝手なことを……!そいつは私の獲物だ――」
そう言うと、リディアは上位ドラゴンに向かっていく。
「っとお!なに手ェ出してんだ女ぁ……!」
「グッ……!?」
コウキの攻撃がリディアを捉える。
目にも止まらぬ速度の剣撃。どうやら斬ったわけではないようだ。
「ぐ……あぁ……!!」
「この前よりは随分マシになったみたいだがよ。それだってまだまだだぜ?」
(な、なんと言う速さ……。気づいた時には、体が吹き飛ばされて……)
「そこで見とけ。これが“勇者”の戦いだぜ?」
上位ドラゴンVS転生勇者コウキ。
それは今まで見たこともないような壮絶を極める命の取り合い。しかし、コウキという男は全く死を恐れていないようだった。
「あなた、すぐここから立ち去ったほうがいいですよ」
悶えながらその様子を見るリディアにもう一人の転生勇者らしき女性が話しかける。
「彼はドラゴンスレイヤーの称号のためならあなたのことも殺すと思います」
「貴様は――」
「あまり喋らない方がいいですよ。骨が何本か折れてます。私、治癒系のチートスキルを持ってて、色々わかるんですよ」
そう言うと、彼女は再びコウキの元へ戻って行く。
「チート……スキルだと……?」
リディアには聞き覚えのない単語だ。
「あっ……!おい!!!何逃げようとしてんだ!!」
コウキが叫ぶ。
ドラゴンはいつの間にか空に飛び立っていた。
「チクショウ!やっぱり移動系のスキルとかなんかねえとドラゴンは飛びやがるから追いかけらんねえよ」
「……どうする?もう帰る?」
「いや、もうちと追おうぜ。あーあ!お前の転移スキル、もうちょっと融通効かねえの?」
「無茶言わないで。転移は門を設置した地点にしか行けないんだから」
「わーってるよ!いちいち説明すんな。じゃ、この女ぶっ殺してすぐいくぞ」
「えっ……?」
「なんだよ?前回も今回も、うろちょろされたら邪魔くさくてしょうがねえぜ」
「だからって殺さなくても……」
「ッせーな!下がってろ、巻き込んじまっても知らねーぞ」
「……ッ!あなた、ごめんなさいね。こうなるともう止まらないから」
リディアに呼びかける転生勇者の女性。
「……何を勝手に私が殺される前提で話しているんだ」
リディアはゆっくりと立ち上がる。
「お?おお!まだ立てんのか。案外ガッツあるな」
コウキは嬉しそうに言う。
「じゃあ、死ねよ!」
ガキィィィィィン!!!!
交錯音がこだまする。
「……ん?なんだお前――」
「舐めるな……と、言っているんだ!」
リディアの剣がコウキの大剣を止めている。
「おいおいおいおい!!冗談じゃねえぜ!!こんなやつ相手してる暇ねえってのによ!!」
コウキは力任せにもう一度大剣を振るう。
その攻撃を低姿勢でかわし、反撃を入れるリディア。
意表をつかれたコウキは攻撃をまともに受ける。防具で受けたとはいえリディアの全力の斬撃が入った。コウキの口から鮮血が漏れ出る。
「ぐぉ……くそっ!あぁ……痛ってえなコラ!おいレイナ!回復しろ!」
「え、ええ!」
直後、レイナと呼ばれた女性の転生勇者が回復魔術らしい何かをコウキにかける。
(なっ……!?確かに手応えがあったはず……!今の一瞬で回復したのか……?ありえん……!)
「あ〜クソ。完全にキレちまったよ」
「おいクソ女騎士。タダで死ねると思うなよ?」
(私の全力が……“痛い”で済むのか……?全くメチャクチャだ)
(どうする……?相手はまだ手の内をほとんど見せていない……せっかく彼にもらった命をこんな形で……)
リディアは気力を振り絞り、再び剣を強く握る。
(……ふざけるな。彼は何と言った!?)
(生きるんだ――!必ず!何としてでも!!)
「来い!回復できなくなるまでいくらでも付き合ってやる!」
「チッ……!まだそんな元気あんのか。きめぇ体力してやがんな」
両者、間合いは十分。先に仕掛けたのはリディア。
「喰らえェェェ!!」
リディアは決死の攻撃を繰り出す。
それは今までのすべての経験、知識、プライド、そして最も尊い感情を乗せた渾身の一撃。
「うざってーなぁ!!!」
コウキは迎え撃つ。
両者の攻撃がぶつかり合うと、この世のものとは思えぬ衝撃と甲高い音が辺りを駆け巡る。
「グッ!!ガァァァ!!」
リディアの剣が折れた。だが彼女は剣を離さない。そのまま折れた剣でコウキに斬りかかる。
再びつんざく剣と剣の交錯音。
「クッ……なんちゅー女だよ。ゴリラかってんだ。剣折って正解だぜ」
コウキは怯んだ様子を見せる。
「仕方ねぇ……。ちと残酷だがアレ、使うか」
「ちょっとコウキ!いい加減に――」
「うるせえ!お前は黙ってろ!!こっちはドラゴン逃して腹立ってんだよ!」
コウキは大剣を構える。その大剣が禍々しく光り始めた。
「俺のスキルは“処刑の剣”って言ってな。発動したら剣が所有者の生命力を喰らって超絶強化されるっつーチートスキルだ」
「調子いいこと言って……!そんな出力で使ったら私の回復がないと一瞬で死んじゃうんだからね?」
(――また厄介なスキルだな……ここは冷静に回復役を狙うべきだが……その前に奴の攻撃が来るだろう)
リディアの握る折れた剣に力が入る。
(考えろ――!もう勝ち目はない……?ふざけるな……)
(彼は逃げなかった。)
(……だったら)
(私も逃げない)
「……来い。受けて立つ」
「オォ!何と立派な騎士様だこと!」
コウキはブンっと剣を一度素振りする。
「まぁまぁ楽しかっけどよ。さすがにもう黙って死ね」
そう言ってリディアに斬りかかろうとしたその時――。
『人の子らよ……そこまでだ』
天空から“何かが”現れた。
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