第54話「グレイストン村での夜」
## 第54話「グレイストン村での夜」
### 【本文】
(……勢いでベッドに入ったものの、全く寝付けんな)
ユージとこの村を目指して数日。
正直かなり充実した旅だった。
我々にかかれば危険なモンスターが出る地帯も易々と通り抜けることができる。
実際、危なげなくこの村に到着したわけだが、どういうわけか旅が始まってから一番の窮地だ。
彼が村長に他に空いている部屋がないか聞きに行ってからしばらく経つ。
もう帰ってきていてもおかしくない時間だが、一体何をしているのだろうか。
――もし、彼が帰ってきて、この部屋に二人で泊まることになったら。
このベッドで寝るのか――?二人で?
彼の筋肉へのこだわりは名状し難いものがある。
睡眠の質とやらを重要視する彼のことだ。私がベッドを譲らなければ確実に二人で寝ることを受け入れるだろう。
しかし、別の部屋があれば彼はそっちに行く。そういう男だ。
私は……期待している。と思う。
この部屋しか空いていなければ……。
きっと……このことを話したらリネア嬢は怒るだろうな……。
◇◇◇◇◇◇
(いつの間にか寝てしまっていたか……)
物音がしたので目が覚める。
音の正体は……ユージが帰ってきたのか。
「リディア……起きてるか?」
起きている――が、返事はしない。
「……寝てるのか。まぁずっとテント生活だったしな」
妙な熱気を感じる。これは……知っているぞ。
「流石にこのまま寝るのは無しだよな。宿っていうくらいだから水浴びくらいはできるかな」
彼はそう言うと再び部屋を後にする。
(恐らく彼が遅くなったのは筋トレをしていたからだろう。それもかなりハードなやつだ……)
(あの彼から放たれる熱気……というか、オーラといった方が良いか。それは筋トレ後の彼の特徴だ)
戻ってきたと言うことは……無かったのか?他の部屋が……。
再び緊張が走る。
このまま寝たふりをしていれば、彼は水浴びをして綺麗になった体で戻ってきて、そしてこのベッドに入って来て――!
考えがぐるぐると巡る。
考えれば考えるほど思考が活発化して寝付けなくなってしまった。
◇◇◇◇◇◇
「ふー。すっきりしたぜ。腕が全然上がんなくて苦労したが」
しばらくすると、彼が戻ってきた。
「……リディア?」
また彼が呼びかけてくる。返事はしない。
どうだ?私はぐっすり眠っているぞ。
「……」
何をしている。もうかなり深い時間だろう。いつも通り睡眠の質だなんだと言ってベッドに入ってくればいい。
「う〜ん……」
何だ!?一体何が不満なのだ!リネア嬢の話ではいつもあの猫獣人の子を抱いて寝ているそうではないか!
「まぁ、離れて寝ればいいか」
ようやく彼はそう言うと、やや広めのベッドの端で寝ている私の反対側に入った。
(……もう少し真ん中で陣取っておけばよかったか?)
そう思った私の後悔はすぐに覆ることになる。
――数分後。
(彼はもう寝ついたのか?全くここまで意識されていないとは……)
そう思ったのも束の間。彼はウンウンとうなりながら徐々にこちら側へとにじり寄ってくる。
(な、なんだ!?寝相が悪いにも程があるぞ!!)
しかし、彼の様子を見るに寝てはいるようだ。それに、何かを探しているような手の動きが……。
(あ……)
彼の手が当たる。
「ん?おお……」
彼は寝ぼけながらそう言うと、私の腰に手を回し――。
彼の元に引き寄せられ、抱き枕にされるような形になる。
(――――!!!)
心臓が跳ね上がるような鼓動に変わる。一体彼は何を考えて――!
……しかしその後は先ほどの寝相が嘘のように静かに、穏やかな様子で彼は眠り始めた。
(……もしや)
もしかして、だが。
彼が普段抱いて寝ているというルノアという猫獣人の少女。
彼女の存在の“代わり”にされているのか――!?
(全く……全く腑に落ちん!!)
そう思いながらも、この状態に心地よさも感じている。なんというか、絶対的な存在に守られているかのような……。
(確かに、これはクセになる、かもな……。)
そう考えていると、誘われるように私も眠りについた。
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