第53話「筋肉と北の村」
## 第53話「筋肉と北の村」
### 【あらすじ】
龍里嶽へ向かう道中、ユージとリディアは二人きりの野営を行う。
筋トレを欠かさないユージの提案でテントはまさかの“サウナ”と化し、奇妙ながらも心地よい時間を共有した二人。
ついに龍里嶽の入り口にあるグレイストン村へと辿り着く。
### 【本文】
「見えたぞ。あれが龍里嶽の入り口、“グレイストン村”だ」
私たちの二人旅は何の問題もなく進んだ。かかったのはおおよそ三日半。
ちょっとしたモンスターと戦ったり、騎士団仕様のテントを満喫しながらトレーニングをしたり。なかなか充実した旅路だった。
しかしこうなってくるとリューネ村に残ったみんなのことが気になるが、あの戦力なら問題ないことを信じよう。
グレイストン村はリューネ村にたどり着いた時の印象と正反対にのどかな村だったが、村民たちはどこか張り詰めた様子だ。
「私は騎士団の詰所と村長を探してくる。君は教会にでも顔を出してドラゴンの情報を集めてくれ」
なんと、こんな辺境の村にも騎士団と女神教の教会はしっかり出張っているらしい。感心しながら村を見回る。
村は石を積んだ低い家が道の両側に並び、その屋根には山から吹き下ろす風を逃がすためか、板が重ねて固定されている。
壁には乾燥させた薬草や獣の皮が吊るされていて、通りには薪の匂いと、どこかで煮込んでいるらしい肉の香りが混ざって漂っていた。
村の奥には切り立った灰色の山肌がそびえている。
あれが龍里嶽。ということなのだろう。その名に恥じず頂上など見えようもない超巨大な山である。
しかし、見回ってみると所々痛々しく破壊された家屋も見受けられる。前回ドラゴンが出現し転生勇者たちが暴れ回った痕跡だろう。
そして……。
間違いない。女神の予言で見たのはこの村だ。
ここからは――いつ何が起こってもおかしくない。
リネア、ルノア、ノエラはここにいない。
――騎士団の面々も。
予言と違うのは、私が惨劇の前にここに到着しているということ。それがあの予言が見せた未来を変えることになればいいのだが……。
「お主、随分でかい体をしているのぉ」
そんなことを考えていたら声を掛けられた。
振り返ると、かなりくたびれた印象の杖をついた老婆が立っていた。
「ど、どうも」
「その姿、噂の“筋肉の賢者”じゃろう?」
もう驚くまい、私の噂はすでに全国規模だ。
「騎士団長にも挨拶されたわい。王国にとっちゃドラゴンは一大事さね」
「ここでは違うんですか?」
興味本位で聞いてみる。
「ワシらにとっちゃドラゴンは日常の景色さ」
「景色、ですか」
「普段は遠くに小さく飛んでる姿が見えるだけじゃけどな。そういう意味なら今は一大事じゃ」
な、なんだかつかみどころのない不思議な人だな……。
「村長!ここにいたんですか」
そう言いながら駆け寄ってきたのはリディアだ。
「あ……あなたが村長さんでしたか。コレは失礼しました」
「いいんじゃいいんじゃ。自己紹介もまだだったしの。ワシはダグマという。しがないドラゴン博士の老婆じゃよ」
ドラゴン博士……?自分で言うあたり今回の件ではお世話になりそうだ。
「団長さんはさしずめ村の騎士団連中からの報告で、賢者様は手柄を独り占めされたくない教会の連中が差し向けたってところかの?」
「ご察しの通りです」
「……なんじゃ、筋肉の賢者様は思ったよりもまともそうじゃの」
「ど、どういう意味ですか……?」
「やれ騎士団と争っただの、教会から命を狙われたことがあるだのいろんな物騒な噂を聞いてたからの」
人の噂は尾鰭がつくものだ。と言いたいところだが、正直否定しきれない部分が多くて悲しくなる。
「それで、ドラゴンの様子は?」
「あぁ、その話じゃったのぉ。おそらく取り付けられた魔装具が原因じゃ」
「魔装具……?」
「ユージは魔術には疎かったな。魔装具は魔術に関する細工が施されたアクセサリーのようなものだ」
「そんなものがドラゴンに取り付けられるのか?」
「難しいじゃろうな。じゃが、実際付いとる」
「それが原因でドラゴンが?」
「そりゃもう怒り狂っとる。恐らく魔力を暴走させる効果のある魔装具じゃな」
「じ、じゃあ、それを破壊しなくちゃならないってことですか?」
「……そういうことになるじゃろうな」
ドラゴンに取り付けられた魔装具を破壊。そしてそのドラゴンは怒り狂ってるときた。はたしてそんなことが可能なのだろうか……?
「わかりました。」
リディアはキッパリとそう言って見せる。
「カカカッ!頼もしくなったのぅ!」
ダグマは嬉しそうに笑う。
「それにいい相手を見つけたようで何より!随分と幸せそうじゃのぉ!」
ダグマはリディアを杖で突っつくようなそぶりを見せる。
「そ、村長!揶揄うのはやめてください!」
「なんじゃ違うのか?先の事件の時とは比べ物にならぬほど色気付いておるからてっきり……」
「村長……!」
「すまんすまん冗談じゃ」
そうか、このダグマという村長はリディアが以前に同じような状況でドラゴンや転生勇者と戦った時のことを知っているのか。
「それで、どこまでやったんじゃ?」
「村長!」
完璧にダグマのペースに乗せられているリディア。
この老婆はなかなかに癖のある人物のようだ。それに王国の騎士団長を相手にして随分と気さくな会話をしているようにも見える。
それこそ、リューネ村の村長のような応対になるのが自然な気もするが……。
◇◇◇◇◇◇
「グレイストンにはいつも世話になっているが……あの村長にはいつも調子を狂わされる」
リディアは困ったような様子で言う。
「私はこの村である種“家族”のように迎えられていてな。村長はずっとあの調子だ」
その後、日も暮れてきたと言うことで今日はこのままグレイストンで泊まることになった。
「やっぱりドラゴン関係はこの村が関係していることが多いのか?」
「ああ。伝説では龍里嶽にはドラゴンの里があるとか」
それは先日クラリスからも聞いたことがある。
「ちなみに、ドラゴンってどの位危険なんだ?万が一戦うことになったら……」
「ああ。そうだな。それについては話しておこう」
リディアが教えてくれたのは、この国、ひいては女神教におけるドラゴンの立ち位置だった。
女神教はドラゴンを“排除するべき危険”だとしているようで、今回のように領土に接近するドラゴンが発見されるとその都度騎士団が出向いているらしい。
龍里嶽の入り口となっているグレイストン村はそれが理由で騎士団との交流が多く、また教会とも密に連携をとっているらしい。なるほど、ここの村長がやけに情報通っぽいのはそのためか。
また、ドラゴンを討伐した者には“ドラゴンスレイヤー”の称号が与えられ、特別なスキルを得ることができるらしい。
これも、“悟り”スキルと同じで女神が作ったスキル取得ルールの一つなのだろう。
しかし……これで転生勇者たちがドラゴンスレイヤーのスキルを取ってしまったら、彼らを消そうとしている女神にとっては皮肉な話だな。
前回、リディアが転生勇者と遭遇した時も彼らはそのスキルを狙ってドラゴンを追っていたようだ。
◇◇◇◇◇◇
「それで……これはどうすればいいんだ?」
我々は村長に紹介された宿に到着した。
少し広めの一部屋。大きめのベッドが一台。ご丁寧に枕は二つ並べられている。
先ほどの事情から騎士団や教会聖職者の遠征が多く宿は多いグレイストン村。
しかし今はその多くが転生勇者とドラゴンの襲撃によって破壊された家屋の住人の避難所として使われてしまっているようだ。
「し、仕方ないな!今日はここで寝るほかあるまい!」
リディアは混乱した様子だ。
「い、いや、流石に一回村長に他の空き部屋がないか聞いてくる」
私はそう言うと足早に部屋を後にする。
……リディアは私のことを良く思ってくれている。
それに道中では勢いに流されたとはいえ筋トレやサウナでお互いを曝け出すようなコミュニケーションをとってきた。
だがそれが逆に……このタイミングで一緒に寝ることをすんなり受け入れるのは、違う気がした。
◇◇◇◇◇◇
「おお、筋肉の。どうしたんじゃ?」
「どうしたもこうしたもないですよ……」
私はすぐに村長のいる村役場に行くと、村長は上機嫌で出迎えた。
「ん〜?用意した部屋が不満じゃと……?贅沢言うでない。この村は家が不足しとるんじゃ」
「しかし、お主にとってはラッキーじゃったろ?ちゃんと両隣の部屋のものに配慮してするんじゃぞ」
「そ、村長!?」
先ほどもだが見た目の年齢にそぐわない冗談がお好きなようだ。
「なんじゃ何が不満か?あのような別嬪さん、そうはおらんぞ?それにあの子はお主に惚れておる」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「まぁ、後はお主次第じゃな。大変じゃの〜奥手な男に惚れると」
村長は楽しそうにそういうと、何かを思い出したような様子を見せる。
「そういえばお主、王都の“龍の試練”を達成したと言うのは本当かの?」
「え……?ああ、はい。ありましたねそんなのも」
王都の騎士団訓練施設にあったベンチプレスもどき。あの“龍の試練”はグレイストン村と関係があるのか。
恐らく龍、すなわちドラゴンに関係する事柄だからだとは思うが……。
「騎士団の軟弱連中はアレを誤解しとるようでの……お主がやったという方法が正しい」
「も、もしやそれってこの村にもあったり……?」
「あるも何も、この村の言い伝えを面白がって騎士団がマネしとるんじゃ」
「ぜ、ぜひ見せてください!」
久しぶりのベンチプレスへとありつけそうだ。
ここ数日自重トレばかりしていた体に、バーベルの高重量をぶつけるぞ!
私は誰にも邪魔されず、最高のベンチプレスを堪能した。私のトレ歴ならそこまでの筋肉痛にはならないはずだ。明日以降の戦いに備えて、しっかりトレーニングしようではないか。
第十三章「龍里嶽へ」 完
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