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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第12章「北へ」

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第49話「筋肉とリューネ村防衛戦」

## 第49話「筋肉とリューネ村防衛戦」


### 【あらすじ】


 王都を出発したユージたちの馬車を、森で盗賊たちが取り囲む。


 しかしシスター・クラリスが「神罰」と称して突撃し、リネアやルノアも加わって盗賊団はあっという間に制圧完了。


 捕らえた盗賊から、ユージたちの噂が大きく広まっていること、さらに近くのリューネ村が何者かの依頼で襲撃されているという情報を聞き出す。


 その村には騎士団もいるらしい。


 ユージは盗賊を放置することに葛藤しつつも、急いでリューネ村へ向かう決断をするのだった。


### 【本文】


「これは……かなりまずい状況じゃないか!?」


 盗賊の男の言う通り、リューネ村はすぐに見えてきた。


 しかしどう見ても普通ではない。


 村と呼ぶに相応しい少々心許なさを感じる建物から煙が上がっているのが見える。火を放たれているのは明白だ。


「ユージ!入り口は塞がれてるみたいよ!」


 賊の侵入を拒むために村の入り口は簡易的なバリケードで覆われているが、随分お粗末な作りのように見える。


 しかしならずものたちはそのバリケードの突破に随分と苦労しているようだ。


「マルティナさんの結界です!」


 ノエラが叫ぶ。


 ノエラの言うことが本当ならマルティナもリディアについてきているという事だ。それならあの予言の世界にいなかったのは――?


「どうすんのよ!このままじゃ中に入れないわよ」


「ん。ルノアわるいひとたおす」


 ルノアはそう言うといつも通り一瞬で視界から消えてみせる。


「馬車停めますね!」


 ひとまず村を取り囲むようにしている奴らを何とかしなくては。


「先行くわよ!」


 リネアは馬車から飛び出し、華麗な身のこなしで突撃していく。


「ノエラ、移動強化頼む!」


「はい!」


 各々で村を取り囲むならずものたちを成敗していく。


 先ほどの盗賊との戦闘もそうだが、我々の戦闘力はこの程度の賊は何でも無いほどになっているようだ。


「ユージ!」


 しばらく賊を追い払っているとリネアが合流した。


「シスターの姿が見えないけど見てないわよね?」


「ああ……俺は見てないな。ルノアはどうだ?」


 姿は見えないが、ルノアに呼びかけてみる。


「ルノアもみてない。かっこいいぶきのひと」


「うおっ!相変わらず瞬間移動してるようにしか見えないな」


 どうやらルノアの方もあらかた片付いたらしい。


「ユージさん!あそこにいるのって――」


 ノエラが指をさす先にいたのは騎士団副団長のカイルだった。


◇◇◇◇◇◇


「まさかとは思ったがあんた達も来てるとはな」


 賊の襲撃が落ち着きを見せると、村の入り口が開放され馬車ごと中に入ることができた。我々はカイルの案内で村の中央に向かっている。


「……ひどいな」


 村は多くの家が破壊され、中にはまだ燃えているものもある。


 見回すと、ある家から二人の騎士団員が出てくるのが見えた。


 二人がかりで担いでいるのは――人だ。恐らく亡くなっているのだろう。


「俺たちがここに着いた時にはすでにこの有様さ。撃退すんのは簡単だったがいかんせん賊の量が普通じゃねえ」


 カイルは複雑そうな表情でそう言う。


 村の中心部にある広場ではリディアの指揮のもと住民の避難誘導が行われていた。


「動けるものは村の周囲を警戒してくれ!入り口にはできるだけ資材を集めろ!またいつ来るかわからんぞ!」


 広場には教会らしき建造物も見える。


 騎士団によって何人も負傷者らしき人々が運ばれていく様子が見える。


 凄惨な光景だが、予言で見た村とは様子が違う。

 

 やはり……まだ決戦の時は来ていない。


「団長!賊はあらかた引いてったぜ、それにホラ、心強い援軍も来た」


 カイルはリディアに声をかける。


「ユージか……!?」


 一瞬リディアの表情が緩んだ気がしたが、すぐにいつもの凛々しい顔つきに戻る。


「……教皇の差し金か。先ほど大聖堂のシスターが教会に行ったぞ」


「まあそんなところだ……。お互い大変だな」


「そうだな。だがそうも言ってられん。騎士団の誇りにかけてこの村は必ず守る」


 我々と騎士団も同じ目的で北を目指している。その道中でこの大惨事。騎士団はここで足止めになる可能性が高い。


「団長、見張りは俺の指揮で村のもんとやるから、こいつらと今後の計画を立ててくれ」


 カイルがリディアに言う。


「……彼らは教会側の勢力だぞ」


「わかっちゃいるが……ドラゴンの件も無視はできねえだろ?そっちだってSOSがいつ来たっておかしくねえんだからよ」


 騎士団側もこの状況に難儀しているようだ。


「皆様よくぞリューネ村を救いに来てくださいました……!」


 話していると、随分と切羽詰まった様子の老人がやってきた。


「私はこの村の村長、バルムと申します。今朝から何度もならずものたちの襲撃が続いておりまして……皆様方がいらっしゃらなければどうなっていたことやら」


 バルムという老人はすがるように話し続ける。


「しかしまあ、団長様がいらっしゃるとは思いませんでした。どのようにして我々が襲われていることをお知りに?」


「ああ。ここに来たのは別件での通りすがりだ」


「何とそうでございましたか」


 そう言うと、村長はこちらを見る。


「それで、こちらの方々は――」


「それは私からご説明いたしましょう」


 そう言って現れたのはクラリスだった。


 彼女は我々から少し距離を取ると、スゥと息を吸ってから高々と宣言する。



「皆様もう安心です!今ここにいらっしゃるは、かの名高き“筋肉の賢者”様!」



 彼女の透き通るような声が村に響き渡る。



「そしてこちらが賢者様のパートナー“勇者リネア”様!」



 住人たちがざわつき始める。


 どうやら我々の噂はもはや王国中の常識と化してしまっているのかもしれない。


「おぉ……かの有名な賢者様までお見えになるとは」


 村長は感激した様子で頭を下げる。


「あ、頭を上げてください。大丈夫ですよ、なるべく力になれるよう頑張りますから」


 とは言ったものの、正直どうしたらいいか全くわからない。


 ここまで多くの人が命を失い、苦しみ、傷ついている光景を前に頭がうまく回らない。


 そんな私の状態とは正反対に、住民たちの期待の眼差しが向けられている。


「負傷者は教会に運んでおります。こちらに」


 村長は我々を教会へと案内した。


 ひとまず回復ができるノエラとクラリス、マルティナも一緒に向かうことに。


 残りのカイル、リディア、リネア、ルノアは周辺の警戒に向かった。


◇◇◇


 教会の中には数十人の負傷者が運び込まれていた。


 幸い、村の子供達は誰も傷つかずに済んだようだ。負傷した大人たちがノエラ、マルティナ、クラリスの三人と村の聖職者の回復処置を受けている。何とか大事には至らず済みそうだ。


「申し訳ありません……何か契約の儀式ができるものがあればもっと完璧に治療できるのですが」


「とんでもございません!賢者様が施しになる“奇跡”はそう易々と受けられるものとは思ってもおりません」


 この村にはグラートの持っていた水晶や騎士団施設にあった契約の儀式書のような類のものは準備がないらしい。


 そのため私の“悟り”スキルで住民たちを回復させることはできなかった。


「そもそも、なんで騎士団施設に奴隷契約の儀式書なんかがあったんだ?」


 私は話の流れでマルティナに聞く。


「あれは騎士団が法を犯した罪人を裁くために使うものです。奴隷として国のために奉仕する契約を結ぶことで罪を償わせるのですよ」


「お、俺はそんなものを二人に――」


「過ぎたことです。それに命には変えられませんから」


「ちなみに、そういった儀式ができる魔術具ってのはどれくらい貴重なものなんだ?」


「かなり貴重なものです。奴隷契約に使用できる魔術具は……これは少々厄介な話ですが“とある大商会”が管理してますから、まず自由市場に出回ることはありません」


 “とある大商会”……?もし仮にそこが奴隷契約を牛耳っているなら、リネアの母親やルノアの両親についても知っていたりするんじゃないか?


「とにかく、あなたのそのスキルは人間に対して気軽に使えるものじゃないというのは自覚してください」


 “悟り”スキルは異世界転生あるあるのチート系のスキルかと思ったが、どうやら他者に対してはそう便利なものではないようだ。


◇◇◇◇◇◇


 この村に契約を行う方法がない以上、私のするべきことは村の状況をマシにするための力仕事だ。


 教会を出ると、瓦礫をどかしながら使えそうな資材を集めているリネアを見つけた。


「……手伝ってもいいか?」


「ええ、もちろん。助かるわ」


 なぜかリネアの周りには子供が大勢ついて回っている。


「……勇者ってのも楽じゃないわね」


 リネアは言う。


「私も小さい頃、勇者の話は聞かされた事あるけど……まさか自分が、なんて考えたこともなかったわ」


 口調は穏やかだが、その心中は察するにあまりある。


 この子たちの中には、先ほどの負傷者や死傷者の中に親を持つ子もいるだろう。


 父を亡くしているリネアにとっては、自分と重ねるなと言う方が酷な話だ。


「ゆーしゃさまは、けんじゃさまのおよめさんなの?」


 子供一人がきく。


「なっ……!?」


 リネアは答えあぐねている。


「私は勇者様の大事なパートナーですよ」


 私はそう返す。こういった場合は別の言葉に言い換えて返すのが定石だ。


「ふーん!よくわかんないや!」


 そう言うと、子供らしいと言うべきか、すぐに別のことに興味が移ったらしい。瓦礫の中から手頃な棒を拾い上げて遊び始めた。


「ゆーしゃのけん!」


 この村がこんな惨状で無ければ、非常に微笑ましい光景なのだが……。


 ふと脇に目をやると、未だ煙が立ち上っている家屋の方角をぼんやり見つめている子供が立っている。


 リネアはその子を見て、ぐっと何かを堪えている様子だった。


◇◇◇◇◇◇


 日が暮れてきた。


 夜になる前に今後の計画を決めたいということで、村の集会所に集まったリディア、カイル、リネア、ルノア、私、そして村の村長で会議の場を設けた。


 マルティナとノエラは大型の結界を展開することでしばらくの間周囲の警戒を行う。クラリスは教会に残って負傷者の看病を続けるようだ。


「では、賊たちは何者かによって多額の報酬を持ちかけられこの村を襲っていると?」


「はい。私たちが盗賊から聞いた話だとどうやらそのようです」


「撃退するだけではまた襲ってくるかもしれん。もう容赦はできなくなったな」


 その言葉を聞いて、内臓を掴まれたような恐怖を感じる。そうだ、この世界は殺るか殺られるかという構図が簡単に出来上がる。


 人の命も、尊厳も簡単に踏み躙られる世界だ。


「ユージ、大丈夫?さっきからちょっと顔色が悪いわよ?」


「……大丈夫だ。すまん」


 正直なところ先ほどから目にしている光景とこれから起きるであろうことを考えるとかなり堪える。


「とにかく、この村を守んなきゃならねえ。賊は大したことねえがいかんせん数が多いしこの村もそこそこ広い。」


「今外で結界張ってくれてる二人はここに残んなきゃならねえだろうな」


 カイルは続けて言う。


「それにこれから夜になる。外の二人に夜通し結界展開させる訳にもいかねえ」


「ん。ルノア、よるはとくいぶんや」


 ルノアは自信満々に言う。


「おう。頼もしいな。なら嬢ちゃんもこの村担当だ。あとは純粋に戦闘力担当で俺と連れてきた団員はここに残る。ってのが最善策だと思うがどうだ」


 カイルは目線をリディアにやる。


「異論はない。私とリネア嬢、ユージの三人でドラゴン調査に向かうとしよう」


「そ、それについてなのですが」


 口を開いたのは村長のバルム。


「できれば勇者様にもこの村をお守りするために滞在していただけると……」


 村長は控えめな様子で言う。


「……そうね。わかったわ」


 リネアはそう言うと剣を持ってあっさり集会所を後にする。


「……なんだ?いやに飲み込みが早いな」


 カイルはその様子を見て不思議がっている。


「村の者たち……とりわけ子供達が勇者様のおかげで随分と勇気づけられているようなのです。勇者様が去ったと知れれば士気にかかわるかと……」


 その村長の話を聞いてカイルとリディアは唸る。


「ぶっちゃけリネア嬢がいなくても村の方は何とかはなると思うが……」


「ドラゴンの件は調査に過ぎん。私とユージだけで問題ない」


 リディアはそうきっぱりと言って見せた。


 しかしこの状況はまずい。どんどんと“女神の予言”通りの展開になっていく。まるで強引に引き寄せられるように――


「子どもたちも勇者様がいると分かれば安心して眠れることでしょう。団長様が発たれるのなら尚更……」


「そうか――じゃ、決まりだな」


 カイルはそう言って立ち上がる。


「村のことは任せとけ。そっちも頑張ってくれよな」


 カイルは私を見てそう言う。


 あの予言で見た未来だけは避けなくてはいけない。何があってもリディアを一人にしないよう。そう自分に言い聞かせるのだった。


◇◇◇◇◇◇


「おい、賢者」


 立ち去り際に、カイルが私に声をかける。


「頼むぞ、団長のこと」


「……ああ」


 そう答え、出発の準備に取り掛かるのだった。

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