第48話「筋肉と狂気の修道女」
## 第48話「筋肉と狂気の修道女」
### 【あらすじ】
リネアと気まずい空気が続くユージ。
その間にも一行の馬車は北へと進んでいく。
クラリスによって目的地“龍里嶽”の話を聞いていると、何かが馬車に接近しているようで……。
### 【本文】
「ノエラ!何があった?」
馬車を止めたのはノエラ。すぐに状況を聞きにいく。
「は、はい!恐らく盗賊の類でしょうか……?いくつかの集団がこちらを狙うように接近してます!」
なるほど……模擬戦の件で強化された彼女の結界魔術は高度な索敵も可能になっているようだ。しかし、この手の索敵はルノアのスキルでも代用できそうだが……。
「ルノア、何かわかるか?」
「ん。盗賊いっぱい。でもししょーたちじゃない」
わ、分かってはいたのか……あとでしっかり報告するように言っておこう。
しかし、“ししょー”たちじゃないってことは騎士団を襲撃した“闇の盗賊団”ではないってことか。
王都を出てから数時間は経った。そして森に入ったところでの襲撃。
おそらく王都を出た荷馬車を襲うにはこのくらいの距離が離れている必要があるのだろう。王都の周辺は騎士団の警備が届く範囲だ。
「襲ってこないあたり相手も教会の馬車相手にどうするか迷ってるって感じよね」
そう言いつつもリネアは臨戦体制だ。
「……女神様の紋章に臆せず、あろうことか略奪を企てるとは」
「ク、クラリスさん?」
クラリスは握ったモーニングスターを掲げながらジリジリと前進していく。
「と、とりあえず殺っちゃうのはナシの方向で頼む」
「な、何故です?せっかくの機会ですのに!」
な、何故と言われても!このクラリスという女性は全く予想に反して血気盛んな人物らしい。
「やむを得ない場合以外はなるべく穏便に行こう。な?」
「し、仕方ありません。賢者様がそう言うのなら」
納得してくれたみたいで何よりだ。それで――
「では、参ります!」
「あ!?ちょっと!」
そう言うとクラリスは前方に向かってものすごい勢いで駆けていく。
「あの人、結構やばい奴なんじゃない?」
リネアがその様子を見て言う。
直後、野太い男の悲鳴が響き渡った。おそらくクラリスに襲われた盗賊のものだろう。
「ルノア、わかるか?」
「ん。しんではない」
「ノエラ、一応回復魔術準備しておいてくれ」
「わ、わかりました!」
◇◇◇◇◇◇
「おりゃぁぁぁ!!」
森にこだまする美しいながらも野生的な女性の声と男の悲鳴による協奏はしばらく続いた。
その後すぐに混乱状態に陥った盗賊たちが次々と無計画に飛び込んで来る。
「うおっ!?危ねぇ!!」
この世界に来て何度目かの殺意がこもった攻撃。
盗賊と呼ぶに相応しい格好をしている男は飛び込んでくるや否や私に短剣を振るったが、危機察知と緊急回避スキルをマスターレベルで持っている私には容易に回避できる。
「アンタ何やってんのよ?避けるだけじゃ一生終わらないわよ?」
そう言いながらリネアは剣の柄での打撃や蹴りで見事に盗賊たちを退けている。的確に起き上がってこないレベルの打撃で応戦しているようだ。
「ん、ご主人様はみてるだけでいい」
ルノアも“暗殺術”スキルの応用だろうか、一瞬消えたかと思うと不自然に盗賊がばたりと倒れる。そんな現象を繰り返している。
……正直何をしているかは全くわからないが殺してしまわないように配慮はしてくれているようだ。
「ノエラ、こっちは大丈夫そうだからついてきてくれるか」
「え?あ、はい!」
懸念があるとすればクラリスの方だ。
いくら盗賊とはいえ死屍累々とあってはどちらが悪人か分からなくなってしまいかねない。
◇◇◇
「す、すごいですねこれ……」
しばらく進むと、胸の部分の防具が意味不明なひしゃげ方をしている盗賊が数人倒れていた。どう考えても骨の数本はいかれていてもおかしくない。そんな衝撃を想像させる有様だ。
「これ、本当に死んでないよな?」
「は、はい。気絶しているだけ、みたいですね」
それにしても、クラリスが持っていたモーニングスターで殴ってるのだとしたら不自然な“打痕”だ。私が非殺傷を命じたから工夫してはくれているのか……?
「後遺症とか残ったりしないといいんだがな」
「じゃ、じゃあ……起き上がらない程度に回復しておきましょうか」
「ああ。頼む。」
そうしてしばらくクラリスの蹂躙の跡を辿って回復魔術をかけてまわっていく。
「これって私の回復魔術スキル、ユージさんのスキルのおかげで効率よく鍛えられてるんでしょうか?」
「え?ああ、“合トレ”スキルは発動してるだろうから、そうだろうな……」
相手をボコボコにして効率よく回復魔術のスキルレベル上げ……。
なんだか腑に落ちない状況である。
だがしかしまあ、ここは甘んじて受け入れるほかないだろう。
◇◇◇
さらに痕跡を追っていくと、盗賊たちの馬車に辿り着いた。周辺には相変わらず数人の可哀想な盗賊たちが倒れている。そこでようやくクラリスの姿を見つけた。今まさに男の一人を他の盗賊たちと同じ目に合わせようとしている。可哀想な被害者は恐らく身なりからこの盗賊たちのボスだろう。
「ストップストップ!!多分この人最後の生き残りだから!一旦待ってくれ!」
私はクラリスを制止する。
一応、全滅させる前にこの男たちが本当に盗賊なのか確認はしておかなくては……なんだかんだこちらから手を出しちゃってるしな。
◇◇◇
ひとまず、暴れられても困るので盗賊たちの馬車にあった縄で男を縛ることにした。幸い、観念した様子の男は素直に従ってくれた。まあ、こんな状況じゃ無理ないよな。
「クソっ!なんなんだお前らは……教会の人間がどうして――」
盗賊ボスは状況が飲み込めていない様子だ。
「クラリス、そういえば教会ってこんな感じの暴力は大丈夫なのか?」
「そんな……人聞きが悪いですね。これは暴力ではなく“神罰”。女神様に不敬を働いた輩に罰を与えているのですよ?」
「な、何言ってんだ俺たちはまだ何も――」
クラリスはそういう盗賊ボスの男をゴミを見るような冷たい目で見る。
「……こいつはやってしまってもいいですよね?」
「ダメダメダメ!ちなみにこの人が言ってること半分正しいから!こっちから仕掛けちゃってるから!」
「女神様の前には略奪を画策することそれ自体が罪です」
「んん〜まあそうだとしても!な!一回落ち着こう!」
「は、はい……他でもない賢者様のおっしゃることですから――」
クラリスが言う。
その言葉を聞いた盗賊のボスは驚いた表情を見せる。
「け、賢者様だってぇ!?それにその巨大な体――なんてこった、俺たちゃ“筋肉の賢者”の馬車を狙っちまったのかよ!」
なんと、私の噂は盗賊にまで広がってしまっているらしい。
「ってことはあの馬車を引いてる馬は、賢者様から女神の祝福を賜った“神馬”か――!?」
し、神馬――!?
な、なんかまたどんどん話がでかくなってないか!?
「それに、その子が“神獣使い”、馬車を守っていたのが“勇者リネア”と“夜葬姫”ってわけかよ!なんて運の悪い――!」
一体何がなんだって!?知らないうちにどんどん私に限らずリネアたちの噂も広がってしまっているのか?教皇によって宣伝されているであろうリネアと、動物と話せるノエラが“神獣使い”なのはまぁまだ理解できるが、ルノアの“夜葬姫”に関しては全く由来がわからん……!
◇◇◇
とりあえず捕縛した盗賊ボスから色々と話を聞いてみると、私たちのパーティーの話は随分と脚色された形で広まっているようだ。
「こっちは片付いたわよ……ってすごいことになってるわね」
「ルノア、がんばってとうぞくたおした」
リネアとルノアも無事盗賊たちを退けたようだ。
「この人たち、どこからか色々盗んできたみたいですよ」
ノエラは盗賊たちの馬車を見ながら言う。
「これはリューネ村の教会のものです」
クラリスが盗品のうちの一つを見て言う。
「……女神教の教会から盗みを働くとは」
「待て待て!ストップ!」
完全に目がガン決まっているクラリスを制止する。
「止めないでください!私はこの男に神罰を下さなければ!」
モーニングスターを振りかぶるクラリスを全力で止めに入る。
「ちょちょちょ!うわ力強!」
その見た目からは想像もつかない怪力で抗うクラリス。この力は確実に何かしらのスキルが働いているに違いない。
「ゆ、許してくれ!俺たちは頼まれてあの村を襲ったんだ!天罰ならそいつに与えてくれよ……」
「頼まれた……?」
その言葉を聞いてクラリスはようやく武器を下ろす。
「はあ……はあ……やっと落ち着いてくれたか」
この世界に来てそこそこ経つが、私が純粋な力でここまで苦戦するのは初めてのことだ。
「それで、どこの誰ですか?そのような依頼をする不届者は断罪しなくてはなりません」
さて……このままいくと我々の行き先が脱線してしまいそうだ。どうにかして軌道修正をしなくてはだが……。
「知らねえよ!怪しい男が信じられねえ量の報酬をくれるって言うから受けただけだ!村に騎士団の連中が来たから当分は手を出せねえだろうがな……!」
騎士団……その襲われたっていうリューネ村にいるのか?
「……それはいつの話だ?」
「ついさっきだよ!リューネ村はこっから目と鼻の先。他にも盗賊だか冒険者崩れだか無法者たちに狙われてるみたいだったぜ!全く依頼してきた野郎は何考えてんだかな……あの村にそんな重要なもんねえってのに騎士団長まで出張ってきてやがる」
間違いない。リディアたちはリューネ村に立ち寄っているらしい。しかもその村は襲われている真っ最中。状況を知るために早く合流したいところだ。
気絶している盗賊たちやこの男は仕方ないので放置することになってしまうが、モンスターに襲われてしまったりしないだろうか……。
「アンタまさかこいつらのこと気にしてるんじゃないでしょうね」
リネアは呆れた様子で言う。
「え?ああ、まあ気にはなるだろ。このまま放置していくわけだし」
「あのねぇ……こいつら盗賊よ?金品盗んで平気で女子供を殺すような奴らの命が心配なわけ?」
それはそうかもしれないが、前世での倫理観がある私にとっては無視できないことだ。
ノエラの結界を使えばこの盗賊たちを守ることは可能かもしれない。
……しかしよく考えると目を覚ました後、再び人々を襲う可能性もあるよな。そうしたらこの場でトドメを刺そうとしているクラリスが正しい――?
「……さっさと行きましょ。私たち、そんなに時間ないかもしれないわよ」
リネアは決めあぐねている私に気を遣ってか、そう言った。
私たちは再出発のために自分たちの馬車へと戻っていく。
「お、おい!このまま置いてくってのか!?モ、モンスターに襲われたらどうすんだ!黙って喰われろってのかよ!?おい!」
この世界の倫理観には慣れる自信が無い。頭の中の罪悪感を振り切るように出発の準備を進める。
……今の最優先事項は無事にこの件を解決して帰ることだ。
予言で見た場所はもっと山に近かった。リューネ村は予言で見た村とは違うだろう。しかし、そこで騎士団が足止めされているのは事実。
少しずつ、“その時”が近づいている気がする。
毎日20:00更新中!ブックマーク・評価いただけると励みになります!




