第47話「筋肉、北へ向かう」
## 第47話「筋肉、北へ向かう」
### 【あらすじ】
女神の予言は現実となるのか。
それを食い止めるためにユージたちも北の山を目指すことに。
リネアの不器用な想いの吐露を聞いたユージだったが、少々不完全燃焼のまま出発した一行は……。
### 【本文】
「ユージさん、リネアさんと何かあったんですか?」
ドラゴンの目撃情報があがった北の村へ出発した我々は、ノエラの馬車に揺られている。
今朝がたご丁寧に教会の紋章を幌に付けてもらったため、今のところ何のトラブルもない。
「いや……まあ何もなかったわけじゃない、な……」
ノエラの隣に座らせてもらっているが、彼女は今朝のリネアの様子が気になるようだ。
教会が豪華な朝食を振る舞ってくれたのだが、リネアはそれを食べる間一言も会話せず、荷造りの間も黙ったままだった。
正直、先日のリディアへの返事も考えていない中で何をどう話したら良いのかこちらとしても困っていたのもあり、結果的にお互い避けているような感じになってしまい今に至る。
「喧嘩しちゃったならちゃんと謝らないとダメですよ?ほら、ずっとこっちにいないで荷台に戻ってください!」
なんとノエラに怒られてしまった。
初めて会った頃と比べたら素晴らしい打ち解け具合で嬉しいものだが、今その感じを出されると大変弱い。
馬車の速度が落ちたタイミングで荷台へ戻ると、クラリスが自慢のモーニングスターをルノアに見せて遊んでいた。
何も知らない人が見たらものすごいアバンギャルドな絵面だ。
そしてこの馬車はそこまで広くはないので当然リネアもすぐ近くにいるわけだが、やはり目を合わせてはくれない。
「その様子を見るに、夫婦喧嘩ですか?」
クラリスが言う。
リネアがピクリと反応したような気がしたが……。
「ち、違いますよ!少なくとも夫婦ではないですし」
「あら、そうでしたか?てっきりそのようなご関係かと」
乗合馬車の時の男たちといい、この世界ではリネアと私のような年齢差の夫婦は珍しいことじゃないのか?それとも私たちがとりわけそういう関係に見えるのか……。
「でしたら、ご結婚の儀式をぜひ大聖堂で。割引価格でご提供いたしますよ」
な、何だか商魂逞しいな……。あの親にしてこの娘あり、か?
チラリとリネアを見ると、俯いたまま何か考えているようだ。
若干機嫌が治っているようにも……気のせいだろうか。
ともかく、王都から目的地の村までは四日以上かかる。
ノエラの強化魔術のおかげでかなりいいペースで移動できているようだが、リディアたち騎士団一行は我々より先に出発していたようだ。
どうにかして追いつけるといいのだが。
そんなことを考えながらも、脳裏に焼き付いて仕方がないあの光景。リディアの周りにいたのは騎士団員たちだけ。記憶の限りではカイルやマルティナの姿は見えなかった。
冷静に考えると今回の一件に関して二人が同行していないのは不自然だ。あの惨状を避けるためにも、二人の力が借りられれば心強いのだが……。
「……リネア、おこってる?」
悶々と考えを巡らせていると、ルノアがリネアに絡みに行った。
「え?ああいや、怒ってるわけじゃないわよ。心配させて悪いわね」
「ん。ルノアわかる。リネアご主人様となにかあった」
「なっ……これも“暗殺術”スキルの効果ってわけ?」
「ルノア、なんでもおみとおし」
そう言うと、ルノアはリネアの膝に座る。
「全く敵わないわね……」
そう言いながら流れでルノアの頭を撫でるリネア。
ルノアも満足そうにしているその様子は非常に微笑ましい。
「……何見てんのよ」
その様子をほんわかと観察していたらリネアに怒られてしまった。
「す、すまん。つい」
「つい、何よ?」
「いや……可愛いなって思って」
「……そう」
やはり今朝よりは機嫌を直しているようだ。
話すきっかけをくれたルノアには感謝しないとな……。
「リネアはドラゴンについて何か知ってるのか?」
「……正直あまり詳しくないわね。トレヴィルはドラゴンがいる北の山とは反対側にあるから」
「その山とドラゴンに何か関係があるのか?」
「さあ?でも基本的にドラゴン関係の話がその周辺でよく持ち上がるから何かしらあるんじゃないのって思ってるだけ」
「そうか――」
「では、そのことは私から」
私とリネアのやりとりを聞いていたクラリスが口を開く。
「私たちが今向かっている村のさらに北にある巨大な山は“龍里嶽”と呼ばれており、その多くは未踏の領域です。伝説では龍神が治める龍の里があるとも言われていますね」
「なるほど……それでドラゴンの目撃情報が多いと」
「そのようです。今回のような例は龍里嶽から追放されたドラゴンが人里に降りてきているというのが通説となっています。」
「基本的には人目につくことを嫌う種族ですので、ドラゴンを目にすることは滅多にありませんね」
「そうか。じゃあ今回の個体は身内から追放を喰らった奴ってことだな」
「そう考えるのが自然じゃないかと」
「ちょ、ちょっとアンタ」
流暢に説明するクラリスをリネアが制止する。
「なんか……いや別にいいんだけど、喋り方変わってない?」
「ええ。もう教会を出たので」
そう言われれば、出発してからクラリスの口調がだいぶ砕けた感じになっているような……。私も思わずタメ口で話してしまっていたが――
「お気になさるようでしたらいつものシスター・クラリスでお話しすることもやぶさかでは――」
「別にいいわよ。ちょっと気になったから聞いただけ」
リネアはじっとクラリスを見ている。そ、それはどういう心境なんだ?
「ではお許しも出たと言うことで――」
クラリスはそんなリネアの様子を気にせず傍のモーニングスターを拾い上げる。
「少々厄介なお客様が来たようですね」
クラリスがそう言うと、馬車はゆっくりと速度を落とし、やがて完全に静止した。
――何かが我々を狙っている。
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