第46話「筋肉と決意」
## 第46話「筋肉と決意」
### 【あらすじ】
“女神の予言”で見せられた光景は悲惨なものだった。
リディアの過去をなぞるような出来事、そして彼女の死。
なんとか現実世界に戻ったユージは仲間と情報を共有する。
教会では何やら不穏な空気が漂い始め、一行は教皇に呼び出される……。
### 【本文】
「何度もすまんのぉエドガルド。」
教皇は珍しく額に汗を滲ませながら言う。
相変わらず豪華な椅子に踏ん反り返っているのは変わらないが……。
「先ほど北の辺境から連絡があっての。どうやら山からドラゴンが降りてきているらしい」
その言葉を聞いて全身が強張る感覚に襲われる。
北の山。そしてドラゴン。
覚悟はしていたが女神の予言で見た景色がフラッシュバックする。
「ちょっとユージ……大丈夫?」
私の様子を見てか、リネアが心配そうに言う。
「あ、ああ。大丈夫だ」
リネアのことだ、これが女神の予言に関係した出来事だと言うことはわかっているだろう。
「お主らも知っておると思うがしばらく前に同じようなことがあってのぉ……またドラゴン討伐を口実に転生勇者どもがやってくるやもしれぬ」
「……行きます」
もう迷ってはいられない。
ここで私が行かなくてはリディアが――いや、そんな事があってはならない。
「お?おお!?ついに決心してくれたか!」
教皇は興奮した様子で身を乗り出す。
「転生勇者たちと戦うことになるかもしれないというのは受け入れます。ただ、彼らをどうするかはまだ――」
「よいよい!とりあえずは女神教の宣教師“筋肉の賢者”、そしてその伴侶の勇者リネアとして実践デビューしてくれれば良い!その後のことはドラゴンが片付いてから話し合おうではないか!」
この辺の柔軟さがあるのはこの教皇の良いところだと思う。
「わかりました。早速ですが私たちはどうすれば?」
「うむ。実のところこういった事案は王国の……まぁ平たく言えば騎士団の管轄なのだが」
珍しく教皇はエドガルドに頼らずに話はじめる。それだけ重要な話なのだろう。
「教会としても新たな信者獲得のために騎士団の剣術保守派にプレッシャーをかけたくての。ぜひとも騎士団より活躍してくれい」
人命がかかった場面だというのに、この男は呑気なものだ。
「ドラゴンは恐らく先の事件と同じ個体であろう。まぁお主なら余裕じゃろ」
冗談じゃない。
女神の予言で見たドラゴンは正直恐怖以外の何者でもなかったぞ。
「場所は王都からずっと北に行った国境付近の村であるな。案内には娘のクラリスを同行させるでな。安心するが良い」
「……え?」
ク、クラリスが?どう見ても戦闘向きではなさそうな彼女を、しかも自分の娘をそんな危険な場所に……?
「あぁ、心配するでない。娘は優秀なアタッカーであるぞ」
あ、アタッカーだと?それはどういうこと――
「お父様、お待たせしました」
な、何だそれは――!?
部屋に入ってきたクラリスは、いわゆる“モーニングスター”を持っている。
長い鉄製の棒の先端に棘がたくさんついている鉄球をつけたアレだ。
「必ず神託を遂げることを約束します」
クラリスはいつも通りの穏やかな笑顔を見せるが、持っているもののせいで印象が反転している。
「ご主人様、ルノアもあれほしい」
「クラリスさん……カッコいい!」
その姿はなぜかルノアとノエラの琴線に触れたらしい。二人とも目を輝かせている。
「話が逸れたな。出立の準備はすでに進めておる。明日の朝には出れるよう準備をしておくのだ。馬車はお主らに任せて良いな?」
きゅ、急だな……。
だが、モタモタしてリディアたちに先を越されるようなことがあれば……。
「わかりました。明日の朝ですね」
あの惨状を止められるのであれば、それが今私のやるべきことに違いない。
ここは腹を決めて準備に取り掛かろう。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜。
部屋の扉がノックされる。
「……ユージ、起きてる?」
部屋を訪れたのはリネアだった。
ルノアはいつも通りのポジションでぐっすり寝ついている。
「いいぞ入っても」
そう言うとリネアは静かに扉を開ける。
「お邪魔するわね……ってアンタ――」
リネアは部屋に入るや私を見てそう言う。
「本当に妙なことしてないわよね」
「妙なことって何だよ」
「い、いや、何でもないわ」
リネアはベッドに腰掛ける。
ルノアを起こさないように気をつけながら私も隣に座った。
「……アンタ、私に隠してることあるわよね」
「な、何だ急に」
「言いたくなかったら別にいいんだけど」
リネアはそう言いながら続ける。
「私たち、今回の旅で死んじゃうかも。いまのうちに言っておいた方がいいわよ」
「縁起でもないこと言うなよ……」
「どうかしら?女神の予言は私たちが行ったところで変わらないかも。それに、行ったら死ぬのはこっちかもしれないわよ?」
「……考えもしなかったな」
「それだけあの団長に死んでほしくないわけ?」
「当たり前だろ」
そう答えると、リネアは私の方を向きじっと見つめた後に言った。
「……私が行きたくないって言ったらどうする?」
……本心で言っていないことはわかる。
短い期間だが色々な経験をしてきた間柄だ。
「その質問はずるくないか?」
「……そうね、冗談よ。アンタだって、ノエラもルノアもいるんだもの。大抵のことはなんとかなるでしょ」
しばしの沈黙が部屋に広がる。
リネアはリディアのためにパーティーメンバーを危険に晒すことを快く思っていないかもしれない。
それに、リネアやルノアの家族を早く探しに行きたいところではある。
ノエラの実家への仕送りはひとまず教会からの臨時収入で賄えそうだが――。
「ああ!もう!やっぱり私こういうの苦手!」
「な、何だ急に!?」
重苦しい空気が漂う中、リネアが急にそう言うと立ち上がり私の目の前に立つ。
座っている私より少し高い位置から見下ろすように私の顔を覗き込むリネア。
「良い?ちょっと先越されたぐらいで焦ってるわけじゃないから!」
「お、おう」
「だから!だから……」
「――私のことも忘れんじゃないわよ!」
「……それって」
「うっさい!喋んな!とっとと準備して寝なさい!」
「理不尽じゃない――?」
そう言うとリネアはプンスカとしながら部屋を出て行ってしまった。
「……なんだったんだ――?」
「ご主人様、モテモテ」
「……ルノアさん起きてたの?」
今のってリディアに先を越されたことを気にしてってこと、だよな……。
正直リネアとはそこそこ年が離れてそうだから考えたこともなかったが、リネアにとって私とリディアの関係は……。
だが、例えそうだとしてもリディアを助けたいという気持ちは一緒のはずだ。
目的地まではノエラの馬車で行くことになったし、彼女の魔術には助けられることもあるだろう。
今となってはルノアの戦闘力も頼りになる。
――我々なら大丈夫だ。
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