第45話「筋肉と女神の予言」
## 第45話「筋肉と女神の予言」
### 【あらすじ】
教皇の勧めで女神の間を訪れたユージ。
神託を請い祈りを捧げると、なんと異空間に飛ばされ目の前に女神そのものが現れた。
女神教とのいざこざに関して説明と謝罪を受けるユージ。
そして最後に“女神の予言”の特別サービスが……。
### 【本文】
「ここは……どこだ?」
気がつくと、見知らぬ場所に倒れていた。
起き上がると、雪が降っていることに気づく。
ここは王都……じゃないことは辺りを見渡せばすぐにわかった。恐らく、人が暮らしていた村のような場所だ。
「――酷いなこれは……」
破壊された家々は原形を留めておらず、壁は崩れ、屋根は焼け落ちている。粉々になった木材と石材が雪に埋もれ、まるで墓標のように突き出ていた。
倒れている人々の体は、すでに雪に覆われている。
……逃げることすら叶わなかったのだろう。
争った形跡はほとんどない。
一方的に、蹂躙された跡だけが残っている。
「ここで一体何が――」
その瞬間。今までに感じたことのない危険信号を“危機察知”スキルが発する。
反射的に顔を上げる。そこには――
「ドラゴン――!?」
堅牢そうな銀の鱗を持つドラゴン。
ものすごい勢いでその巨体が頭上を通過する。
幸いこちらには興味がなかったようだ。
眼前に広がる果てしない大きさの山の頂上目掛けて飛び去っていった。
「何なんだよ……」
ふと、リディアが話していたことを思い出す。
彼女が初めて人の死を眼前で見たという北の山での事件、ドラゴンが関係していたよな……。
嫌な予感がする。ドラゴンが飛んできた方へと急ぐ。
“その場所”はそう遠くなかった。
「……そんな」
どこか頭の中で恐れていたこと。
それがまさに現実となって眼前に広がる。
死屍累々。騎士団の鎧を着た亡骸たち。
そして――
「……リディア、なのか」
この鎧には覚えがある。腹部を大きく切り裂かれた鎧から酷い出血が――
「……ユージ……か……?」
息も絶え絶えでこちらに縋るように手を伸ばすリディア。
その手を掴み抱き抱える。
――まだ息はある。
どうにかしなくては……クソ!何が何だかわからねぇ!
「最期に君の顔を見ることができるとは。人生捨てたものではないな」
「な、何言ってんだ!冗談よせよ!」
「……自分の死期ぐらいわかるさ」
彼女を抱え、全力で走る。どうやってここに来たかも思い出せないが、とにかく走ることしかできない。
リディアの冷え切った体からどんどん力が抜けていく。
「待て待て待て!おい!」
グッと腕に力が入る。
彼女を支える腕に力がこもった。
感じていた――重さが変わった。
……嘘だろ。
どうして、どうしてこんなことになっているんだ?
俺は……なんでリディアは――
俺が、一緒に行くことを拒んだからか?
記憶が曖昧だ。
俺は転生勇者討伐を受け入れるかどうかで迷っていたはずだ。
受け入れれば王国全土の教会を拠点として使える。リネアとルノアの家族探しも、ノエラの実家への仕送りを稼ぐことだってできるはずだ。
それなのに、それがどうしてこんなことになるんだ。
俺は教会を選んだのか?それでリディアを見捨てたのか?その結果がこれか!?
意識が混濁したまま必死で走る。どこに向かえば良いかも、ここがどこかもわからない。それでも走るしかない。
抱き抱えた美女は、幸せそうな顔で安らかに眠っている。
一体どこで間違えた?
一体どこで――
「グォッ!」
その瞬間、体に衝撃が走る。
何かに体当たりされて吹き飛ばされる。
「な、なんだ!?」
体を起こすと――
「ご主人様。いきてる」
私の体にしがみついているルノア。
……そうだ。
私はこの“女神の間”で祈りを捧げていたはず……。
「ちょっとユージ!ほんとに大丈夫!?ルノアがいきなり慌て始めて――」
「皆さん落ち着いてください!ユージさんは大丈夫みたいですから」
頭が痛い。混乱していて前後の記憶が曖昧だ。
「どうやら神託は下りたようですね」
我々の混乱がおさまらないうちにクラリスが女神の間に入ってきた。
「神託の途中で女神の間に入るのは感心しませんが……しかし緊急とあれば仕方ないでしょう。賢者様、いかがでしたか?」
どうやらルノアたちは半ば強引にこの部屋に入ってきたようだ。
「いかがでしたかと言われても……」
落ち着いて何があったかを思い出す。
私は妙な空間に飛ばされ、そこで女神と話した。
ヤツは私に転生勇者を殺すように頼んできて、それを神託として教会に流布した。そして……。
「クラリス――」
「はい。なんでございましょう」
「女神の予言ってのは必ずそうなるってわけじゃないんだよな」
「予言をお聞きになったのですね。女神様は起こるべき様々な“未来の可能性”をお告げになります」
「そうか」
それがわかればいい。いまやるべきことは間違いなく一つしかない。
「それで、みんなどうしてそんなに慌ててんだ?」
「ルノア、ご主人様いなくなったとおもった」
「“いなくなった”……?」
それは……恐らく私が女神によって何がしかの異空間に飛ばされたからかもしれない。
私の気配が急に消えたことがルノアにとってはショックだったのだろう。
「……心配かけたな」
しがみついているルノアを抱き抱える。
「ん……ご主人様、かってにいなくなるのはだめ」
ルノアにねだられ、頭を撫でる。満足そうな様子を眺めるに落ち着いてくれたようだ。
「とりあえず私たちにもわかるように説明してくれる?」
リネアとノエラは何が何だかといった様子だ。
「そ、そうだな……」
リネアたちにも説明したいのは山々なんだが、一つ懸念があるとすれば“女神と話した”ってのが教会的にはどういう扱いなのか……。
軽率に口走ってまた妙な肩書きが増えても困る。そんなことを考えていると――
「シスター・クラリス!教皇様がお呼びだ!」
慌てた様子のエドガルドが飛び込んできた。
◇◇◇◇◇◇
「と、とりあえず教会関係者がいなくなったし俺の話からするか」
クラリスがエドガルドに連れられて退出したことで警戒する必要がなくなった私は、三人に女神の間で起こったことを話す。
「――とりあえず、その話は絶ッッ対に誰にもしちゃダメよ」
「あ、やっぱり?」
「正直まだ信じられないわ……“女神と話した”なんて……」
「ご主人様、すごい」
「で、女神の予言を直接見せられたってわけ?それで――」
リネアは何かを言いかけて躊躇する。
「アンタの話が本当なら……」
「いや、分かってる。それに、教皇が言っていたリディアが団長の重責から解放されるって話も気になる」
「そ、それって団長が教会に――」
「ただの憶測だ。今はまだ、な」
「そうね。それにこの話はこの辺にしておいた方が良さそうよ」
リネアが女神の間の入り口に視線をやる。
「……賢者様。そして皆様も。教皇様がお話があると」
開け放たれた扉からあらわれたのは疲れ果てた様子のエドガルド。
どうやら我々にも用があるようだ。
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