第43話「筋肉と女神様」
## 第43話「筋肉と女神様」
### 【あらすじ】
リディアの想いを聞きいよいよ進退きわまった状態のユージ。
何にしても情報が必要なので“転生勇者”について教皇たちから聞くことに。
隣国アスレイド聖統国のことや大帝国の内乱でグラシオン王国を含む三国に分裂した話などを聞いたが……。
### 【本文】
「どうだ?こやつの話は分かりやすかろう」
エドガルドの話で転生勇者がどのような存在なのかはわかった。
だが、聞いてみてやはり対立するのは避けるべきだと直感する。
「どうしても仰々しく聞こえるがの、所詮領土をかすめ取っていった卑怯者の集まりよ」
「そ、そうは言われましても……」
「なんだ?まだ決心がつかぬか。困ったのう……」
教皇はどうしても我々を転生勇者打倒に巻き込みたい様子だ。
返事に困る私を見て、エドガルドが教皇に何かを耳打ちする。
「……ほう。確かにそれが良いかも知れぬな」
エドガルドの助言を聞いて教皇は納得した様子を見せる。妙な話じゃなければいいが――
◇◇◇◇◇◇
「こちらが、“女神の間”でございます」
教皇は私に“女神の神託”を請うように勧めてきた。
話によると、大聖堂にあるこの“女神の間”にある女神像の前で祈ることで神託が下ることがある……らしい。
正直関わり合いになりたくもなかったが、断る方が面倒なことになりそうなので渋々従うことになった。
「きっと女神様はお答えになりますよ」
案内してくれたクラリスが言う。
大きな扉を開けて中に入ると、神々しい空間が広がっていた。
自然光を取り入れるようにして配置されたステンドグラスが神秘的な空間を作り出している。
「……お越しになりましたか」
女神像に向かって進み始めると、何者かに声をかけられた。
「この女神の間までたどり着くとは、あなたは大変運の良いお方のようですね。これも女神様の意思ということか」
「お前は……」
女神像の影から姿を現したこの老人は見覚えがある。王都で一度、騎士団の訓練施設で一度会っている教皇の右腕と言われているザハリエルという老人だ。
「警戒する必要はありませんよ。私にはもうあなた方を攻撃する理由がありませんから」
「……どうして王都で俺たちを襲った」
「それも“女神の神託”だったのですよ。悪く思わないでください。しかし、その神託は取り下げられました」
神託は取り下げられることがあるのか……。それなら、“転生勇者”の件も取り下げてくれれば一件落着なのだが。
「ともあれ、女神様がお待ちだ。祈りを捧げるといい」
女神の神託を受けるには、その像の目の前で祈りを捧げる必要があるらしい。
「どうやればいいんだ?」
流石に無作法は働きたくないので聞いてみる。
「如何様でも構わぬ。必要なのは女神を信じる気持ちだ」
意外と彼らが信仰する女神様は寛容らしい。
とりあえず手を合わせ一礼してみる。祈りを捧げる方法はこれしか知らない。
(女神様。お答えください。私は一体どのようにすれば良いのでしょうか)
そう念じると、閉じているはずの眼前に鋭い光を感じる。
眩しい。だが、目を瞑っている以上逃れようがない。
「……なんだ!?」
一瞬気の遠くなるような感覚がすると――
「賢者よ、あなたの祈りも、届くといいですね」
ザハリエルの声が聞こえる。一体どういうことなんだ――?
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「ごめんねー!色々巻き込んじゃって!」
「……は?」
目を開くと私は奇妙な空間にいた。あたりは淡い光に包まれている。
目の前にいるのは……ザ・女神という衣装の女性と思われる存在。
当たり前のように宙に浮いているが、足元を見るとそれは私も同じようだ。
「これは一体……」
「驚かせちゃってメンゴ!でも君と直接話すにはこれしかないからさ。って……実物デカ!上から見てるより二倍はデカく見えるわ!」
「そ、それはどうも……で、これは……」
「君が思っている通りだよ。私が女神教の信仰対象で女神そのもの」
な、なるほど?この世界には神がしっかりと自我を持った存在として人々に干渉しているのか?
「まぁ、大体合ってるけど……君のいた世界にも私みたいな神様はいたはずだよ?」
なんだかナチュラルに心を読まれている。ここでは隠し事はできないみたいだ。
「お〜!思ったより物分かりが良くて助かるよ」
「……なんか随分と軽いノリですね」
「んー、そう?まあずっとこんな感じでやってるからなぁー」
「それにしては神託ってずいぶんエグい感じで出してませんか?私たち一回襲われてるんですけど」
「あ!それね!!ホントごめん!なんか私、君のこと誤解してたみたいでさー」
「誤解?」
「いや私って神じゃん?だから信者と信仰、お布施がないと存在ごと消えちゃうわけ。だから私を信仰する人たちに加護とか奇跡の力のヒントを与えて信仰を維持してるんだよ」
「で、その奇跡の力……ようは“悟り”のスキルが無関係の私に使えるから――」
「信者を奪われると厄介だから、とりま消しとこうかなーって思ったんだよね!」
「こ、殺す気でいたんですか?」
「ま、過ぎたことはしゃーなしじゃん?君にそんなつもりがないって分かったらすぐ取り下げたし!」
「というか、そもそもなんで俺が“悟り”のスキルを使えるんです?」
「あ、それね!なんでだろ?まじウケる!」
「……冗談ですよね?」
「いやマジマジ!“悟り”スキルの取得条件、ヤバいくらい厳しくしたから!神託で条件教えてあげた教会の人ですらほとんど取得できない伝説のスキルって扱いだったのにな〜」
「ちなみにその条件って……」
「向こう十年!自らに苦痛や極度の負担を強いる修行を不断の努力をもって続けること!これが条件だね」
「十年……」
前世では筋トレが習慣となっている人はそこまで多くない。
さらに十年続いているとなればなおさらf少ないだろう。
筋トレの強度も問題だ。
“自身に苦痛や極度の負担”というのは常に“プログレッシブオーバーロード”(漸進性過負荷)※トレーニングにおける負荷を継続的に増していくこと※を意識したワークアウトメニューの管理が必要だ。
それを十年実施するというのは確かにレジェンダリースキル獲得に足るのかもしれない。このスキルが前世の世界にあったらまあまあ取得してる人いるだろうが……。
「心当たりがあるみたいだね。驚いたな〜まさかなんのヒントもなしにそんな修行してる人がいるとは、まさか君ドMだったりする?」
「変なこと言わないでくださいよ」
「アハハ!ウケるんですけど〜」
なんだか、ギャルみたいな喋り方のせいで気が抜けるな……。見た目も心なしかギャルっぽいし。
「んー……これ、君が元々いた世界からいい感じの姿を借りてきたんだけど、微妙っぽい?」
「い、いや、むしろ言動と容姿がピッタリかと」
「おー!よかった!じゃあこのままで」
「それで……なんで私をここに連れてきたんですか?」
「あ!そうだった忘れるところだった危ない危ない……」
そう言うと、女神はこちらに飛んできた。
「――君に転生勇者を殺してほしいんだよね」
これまで教会を通して再三要求されていた事と内容は変わらないが、ここまではっきり言われると動揺してしまう。
「……顔が近いです」
「アハ!ドキドキした?」
「してないです」
「えー?ショック!まあ、こっちの世界であれだけの美女に好き好きされてたらしょうがないかー」
「……それ、断ったらどうなるんですか」
「んー……そもそも神託に断るとかそういうのないからな……」
女神は少し考えるようなそぶりを見せる。
「とりあえず女神教は敵になる。また君を殺しに来るかもね」
「……それだけですか」
「それだけって……まぁ、君が本気になったら女神教ごと潰されかねないんだけどさ」
「それって私に言っていいんですか?」
「だって君、そんなことしないでしょ。その“筋トレ”ってのができれば君は満足なんだから」
「……どうでしょうか」
「あれー?こっちにきた時はそんなテンションだったのに!人って短期間で変わるんだね!感動しちゃうかも!」
女神は全くそんなこと思っていなさそうな顔で言う。
「……それで、話はこれで終わりですか?」
「うーん、そうだね。じゃ、最後に一ついいものを見せてあげるよ。“女神の予言”特別サービス!」
そう言われるとまた強い光に晒され、思わず目を閉じる。
徐々に意識が遠くなっていくのを感じる。
一体何が――。
◇◇◇◇◇◇
「さ、これで君はきっとあそこに行くことになる」
「そういえば他にもこの件に関して神託聞かせてたような……。なんだっけ?まぁ、いつも通りそっちは不発でもいいや」
「私の本命も君だよ。“戦争の時代”に負けないくらい、私を大きくしてね」
遠のく意識の向こう側で、女神の声が聞こえる。
内容はほとんど聞き取れなかった。
――そして、私の意識は完全に途絶えた。
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