表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第10章「交渉」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/89

第41話「筋肉と説教」

## 第41話「筋肉と説教」


### 【あらすじ】


 教会の提示した条件を踏まえて騎士団の提案を伝えるリディア。


 しかしこういった交渉は苦手なようで、マルティナの提案で二人だけの時間を過ごす。


 リディアの過去と今の彼女を知ったユージは彼女に言葉をかける。


 リディアは心動かされたようだが……。


### 【本文】


「で?街中で白昼堂々何してんのよ」


「すまない。時間と場所をわきまえるべきだった」


「そういうこと言ってんじゃないわよ」


 リネアの登場でリディアはいつもの調子に戻ったようだ。


「ど、どこから見てたんだ?」


「コイツがアンタを引っ張って押し倒させたところから。なにうちのパーティーメンバーに愛の告白してんのよ」


「告白だなんて。ただ私は彼に一緒にいてほしいとお願いしただけだ」


「アンタ言っとくけどそのキャラのまま行くのもう無理よ」


「何のことだか」


「ま、まあまあ……」


 この二人の仲は模擬戦の前から険悪だったがさらに悪化している気がする……。


「で?ユージはどうすんのよ。また妙な気起こしたりしてないでしょうね?」


 確かに、今の話を聞いてなおさら彼女を置いて王都を出て行き辛くなってしまった……それに――


(あ、あれってやっぱ告白……なのか?前世はそんな経験全くなかったが――)


「そのにやけヅラなんとかしなさいよ」


「え?ああスマン……」


 リディアは勝ち誇ったような顔でリネアを見ている。


「……まあいろいろ腑に落ちないけど、大聖堂に戻るわよ。なんか豪華な朝食準備してくれてるみたいだし、すっぽかしたら悪いわ」


「おや、お話は終わったようですね」


「ご主人様、ただいま」


 時機よく帰ってきたマルティナとルノア。


 ……これはいよいよどうしたらいいかわからなくなってしまったぞ。


 その後、リディアは吹っ切れたような様子で我々を見送った。


 どうやら先程のやりとりで私が騎士団を気にかけずに立ち去ることはないと確信したのだろう。


 悔しいが、あそこまで言われると確かに彼女を気にかけずにはいられない。


 それに、やはり筋トレのことを考えると騎士団との交流は維持したいものだ。


◇◇◇◇◇◇


「う〜む。お主のその“筋トレ”とやら、教会では力になれんかもしれんのお」


 なぜか朝食に当たり前のように同席する教皇。


 雑談的に騎士団の示した条件の話になると彼はそう言った。


 無論、リディアに告白された部分は黙っている。


「あの女、アンタが王都を出られないように嘘言ったんじゃないの?」


「おお、騎士団長が語ったというあやつの過去は事実であるぞ。あのものは女神の神託をそっちのけで逃げ帰ってきたのだ。どんな事情があったのかは知らぬがな」


 なるほど、この教皇という男は自身の宗教に益となる存在にはとことん友好的だが、そうでないものに対してはこんな感じなのか……。


「まあ気にするでない。遅かれ早かれ騎士団長の重責からも解放されるであろう女よ」


「えっ……」


 私が驚いたような反応を示すと、エドガルドが何かを教皇に耳打ちする。


「ゴホン。失言であったな。今のは忘れてくれぃ」


 い、いや全くもって聞き捨てならない発言だったが――


「ともかくである。先日の提案、如何様に考えておるのだ?」


 教皇は割り込む隙は与えんと言わんばかりに話題を変えてきた。ここで追求するのはいくら賢者の身分でも控えるべきか……。


「は、はい。前向きに検討しています」


「そうか。それは良かった。ぜひ良い返事を聞かせてくれい」


 その後は特に話に進捗はなく、そのまま朝食の場はお開きとなった。


 さっきのリディアの話は、なんとか後でどういうことか確認しないとだな……。


◇◇◇◇◇◇


 私は今、大勢に囲まれて腕立て伏せを披露している。


 それも、岩石を満載した鞄を背負った状態での腕立て。


 どうしてこんな状況になっているかというと――


「大聖堂の裏庭の石……?ああ、大きいのがいくつか転がっていますね。ご自由にどうぞ」


 食事の後、エドガルドを呼び止め、裏庭にあった石を使っていいか尋ねた。


 快諾をもらうと、植え込みや花壇の肥料などを入れておく大きな袋を使って簡単な鞄を作りそれを背負って腕立てを始めた。


「おお……!これは見事!これが噂に聞く“筋肉の賢者”様か!」


 恐らく朝の説教帰りの人だろうか。


 通りすがりに筋トレ中の私を見るや、そう言って見物し始めた。


 その様子を見た別の信者たちも続々と集まって来て、何やら一つの催しのようになってしまったのだ。


「そうですね。腰は落とさずに――そう!その体勢のまま胸を地面に近づけていく感覚で……そう!そのままプッシュ!良いですね!」


 私がインターバルをとっている間は筋トレに興味がありそうな信者にも体験してもらうことで、さらに多くの人たちが集まる。


「ふぅ……!こいつはきついなぁ!賢者様はこれをあんなに重いもんを背負ってやってるのか……」


「皆さんもコツコツトレーニングすれば似たようなことができるようになりますよ。時間はかかりますが」


「なるほど……まさに今朝のシスター・クラリスの説教の通り!賢者様は新たな側面から女神様の教えを実行されているというのですね!」


 ど、どういうことかはわからないが、ともかくこのように運動に興味を持ってもらうのは良いことだ。


「まさに。賢者様は女神様の教えをこうして実践することで奇跡の力を授かったのです」


 気持ちよく汗を流していると、説教を終えたらしいクラリスがこちらにやって来ていた。


「皆さん。賢者様の実践は自由にご覧いただけますが、女神様への感謝はお忘れなきよう――」


 クラリスがそういうと、集まっていた信者の面々は祈るような仕草を見せる。


 なるほど、こうして見るとしっかり宗教だな。


 前世では日本という国で生まれ育った関係であまり密接に関わってこなかったが、こうして体験してみるとなかなか新鮮だ。


 しかし、この荷重方法だとできることが限られる。


 腕立ては手幅を工夫することで胸、腕をカバーできるが、やはり懸垂で背中にも負荷を入れたいところだ。


「……すまないシスター・クラリス。」


 信者の前ではこのように呼ばなくてはならないらしい。


 少々慣れるのに手こずっており呼び方がぎこちなくなってしまう。


「あの蔦が生い茂った構造物――あれは何だね?」


「パーゴラでございますか?信者の皆様に木陰で休んでいただくために作られたものですが……」


「私がぶら下がっても大丈夫だろうか」


「えっ……?ど、どうでしょうか?あくまで植物が前提となっておりますので」


 まあそりゃそうか。しかしああいった構造物がないと懸垂は難しい。


 どうしたものか――


「あ。そうだ」


◇◇◇◇◇◇


「ユージさん、筋トレのことになると時々頭が悪くなりますよね」


 ノエラを呼んできた。


 彼女の強化魔術があれば、この構造物も私の体重に耐えられるはずだ。


「……じゃあ行きますよ。それ!」


 ノエラは何だか釈然としない様子だったが、渋々手伝ってくれた。


「よし、やるぞ!」


 ベルト状に腰に巻いた紐に先ほどの鞄を垂らしている。


 中にはもちろん錘となる石を数個。そのまま跳躍し頭上の棒を掴む。


 懸垂のフォーム、特に背中に入れたい場合はコツがある。


 まず胸をやや上に向け肩甲骨を閉じるような動きで胸を張る。


 そのまま、胸を上空に近づけるようにして挙上する――!



「「「な、なんだこれは――!」」」



 見物している者たちから驚きの声が上がる。


 ダイナミックに映る懸垂は私のお気に入り種目の一つだ。


 先日“カタボリック”スキルを使ったせいか少々上がりが悪い気もするが、そうであればまた鍛えるのみ――


 しっかりとボリュームを確保して数セット。


 これは初心者には難しいので、信者の皆さんにはぶら下がって挙上前のセットを作る練習を教えた。


「……ハァ、ハァ」


 終わった後、私と同じくらい疲れているノエラに怒られてしまった。今後は何か方法を考えなくては。


◇◇◇◇◇◇


 さて、しっかりワークアウトができたところで、汗を流すために浴場を借りることにした。


 神父やシスターが使う浴場は質素な作りで、信者に見えない部分はとことん削っているところを見るにあの教皇は徹底しているなあと思う。


 その後、今後の身の振り方を考えるためにみんなに集まってもらった。


「ちょっとノエラ、大丈夫?」


「は、はいぃ……ちょっと魔力を使いすぎただけですので……」


「ノエラ、おつかれ」


 ノエラにも良いトレーニングになったようだ。彼女には休んでもらいながら、今後について話を進めよう。


「それで……教皇の誘いは受けるの?」


「心配事があるとすれば“転生勇者”の件だ。引き受ければいずれ戦って……もしかすれば」


「殺さないとってことよね」


「ん。ルノア、あんさつ、とくい」


 物騒な話だが、リディアの話を参考にする限り話し合いの通じる相手ではなさそうだ。


 とりわけ、緊張関係にある隣国アスレイド聖統国の指導者も勤めている相手だ。


 それはすなわち国家間のゴタゴタに巻き込まれるということを意味するだろう。


「この転生勇者って相手はもう少し調べる必要がありそうだな」


「じゃあ騎士団はどうする?話じゃもう私たちのことは追ってないみたいだし、アンタ次第でもう気にしなくても良いとは思うけど」


「あ、ああ。そうだな」


「ユージさん……やっぱりリディアさんが気になるんですか?」


「……気にならないと言ったら嘘になるな」


「ご主人様、モテモテ」


「変なこと言うんじゃないわよ」


「そうは言ってもなぁ」


「煮え切らないわね……ま、とりあえず王都を自由に歩き回れるようになったわけだし、私はこの王国の奴隷商売について情報収集でもするわ」


「ん。ルノアもいく」


「そうね。何でも良いから手がかりをみつけましょ。アンタは教皇からもう少し転生勇者について聞いてみたら?」


「わ、私は少し休みますぅ……」


 と言うことで、ノエラは大聖堂で休憩。


 リネアとルノアは王都で情報収集。私は教皇に転生勇者についての情報を聞きにいくことになった。


「あ、それと、私は別に構わないから、あの教皇にも奴隷商売について聞いてみなさいよ」


「い、いいのか?」


「別に今となっては人に知られたところで構わないもの。ルノアはどう?」


「ん。だいじょうぶ」


「そ、そうか。わかった」


 そうして、今日はそれぞれ別行動となった。


◇◇◇◇◇◇


「賢者様。よろしいでしょうか」


 リネアたちと別れ、教皇にどうにかして会おうと大聖堂内をうろうろしていると、クラリスに呼び止められた。


「先ほどの説教。大変見事でございました」


「説教って……あの筋トレのことですか?」


「もちろんでございます。あの後、大聖堂のスキル鑑定を行なった信者から“怪力”のスキルレベルが上がったと報告がありました」


「……あ」


 “合トレ”のスキルのことをすっかり忘れていた。あの場で私とトレーニングをした信者はもれなく何かしらの恩恵を受けているはずだ。


「女神様から認められた我々聖職者は信者へ説教を行うことで小さな加護を与えることはできますが、スキルを向上させるなどと言うのは前代未聞にございます」


「たまたまじゃないのか?」


「いいえ。その信者は『賢者様の説教のおかげだ』とおっしゃっておりましたので」


「そ、そもそもあれを“説教”と言って良いものなんですか?」


「それは解釈次第でございます。信者たちがそうと認めた以上、そうなのでございます」


「……そういうことなら、まあ」


「納得いただけて何よりです。では、こちらを」


 そう言ってクラリスはどっしりと重たい袋を渡してきた。


「こ、これは……?」


「この教会では説教を行った聖職者には報酬が支払われます。賢者様の説教は大変好評だったようで、あの後多くのお布施が集まりました。これはその中から賢者様が受け取る報酬です」


 な、なんてダイレクトな宗教なんだ――!


 先立つものが不安視されていた我々にとっては願ってもいない臨時収入だが……。


「それで、この件について教皇様からお話があるそうで……」


 おお。それは願ってもないタイミングだ。


「わかりました。すぐに行きます」


◇◇◇◇◇◇


「端的に言おう。お主のその説教、教会主導で取り扱っても良いかの?」


「……え?」


「娘から聞いたぞ。お主が信者に見せたと言う説教。随分と好評だったようではないか」


「い、いやそんなつもりでは……って今娘って言いました?」


「んん?言っておらんかったか?クラリスは吾輩の愛娘であるぞ」


 い、いや、この男は自分の娘にあんな際どい衣装を着せているのか――!?


「まあ、そのことは良いではないか。問題はお主の説教じゃ。信者に運動という体験を共有させることでより密接な繋がりを感じさせる……。いやはや!これは素晴らしい!」


 う〜ん……私としてもフィットネスがブームになるのは悪いとは思わない。別に断る理由はないか……?


「はい。ご迷惑にならない範囲で良きようにしていただければと」


「素晴らしい!ではさっそく必要なものを手配しようではないか。毎回裏庭でぶら下がられたらたまらんからな」


「す、すみません……」


「これが好評なら王国での全国展開もアリであるなぁ」


 ま、マジか!?それならとうとう懸垂に関しては何の心配もしなくて済むようになるのでは?


「す、素晴らしいですね!ぜひ協力させてください!」


「な、何だ急にやる気になりおって……転生勇者の件もかように快諾してくれれば助かるんだがのう」


「あ、その件なのですが……転生勇者についてもう少し情報が欲しくてですね――」


「そうか?では、エドガルドを呼ぶとしよう。この手の話は奴に任せるのが一番だからの」


◇◇◇◇◇◇


 我らがグラシオン王国。


 独立したのは最近の話でございます。


 以前は“大帝国”という巨大国家が大陸を支配しておりました。


 現在のように西の「ヴァルグディア帝国」。


 東の「アスレイド聖統国」。


 そして大陸の中央に位置する我らが「グラシオン王国」の三国に分離したのは、レグラディス王による独立宣言から始まった「大帝国内乱」によるものでございます。


 そしてグラシオン家率いる軍を最後まで苦しめたのが大帝国の敗走貴族たちで結成された「転生勇者軍」。


 彼らは女神教を崇拝しながらもその奇跡を持って“転生勇者”たちを召喚したのちは彼らを新たな“神”として崇め、あろうことか我らに剣を向けたのです。


 グラシオン家は彼らを退けたものの、東の領土は新たに「アスレイド聖統国」として独立。


 現在に至るまで“転生勇者”たちが指導者として聖統国を統治しているのです。


◇◇◇◇◇◇


 ……間違いない。エドガルドの話を聞いて確信に変わった。


 この世界には私と同じ異世界からの転生者がいるのだ。


 しかも複数人。さらには隣国の指導者。すなわち、国のトップだ。


 彼らは私の存在を知っているのだろうか。


 騎士団や教会の問題は片付きつつあるが、ここに来て新たな懸念が発生したように思う。


 筋トレと仲間の使命のため、無用なトラブルに巻き込まれることは今度こそ避けたいのだが……。

毎日20:00更新中!ブックマーク・評価いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ