第38話「筋肉と教会と騎士団と」
## 第38話「筋肉と教会と騎士団と」
### 【あらすじ】
シスター・クラリスに大聖堂へと案内されたユージたち。
そこで教皇は一行に破格の条件を提示する。
一考の余地ありと考えるが“転生勇者”という聞き捨てならない言葉が引っかかる。
さらにリディアにも勇者の素質があるということを知り事態はさらに混乱を極める。
教皇の厚意で一晩泊まらせてもらえることにはなったが……。
### 【本文】
リネアとノエラ、私とルノアの二部屋に分かれる形で泊まることとなった我々。
ベッドは二つずつあるがすっかり定位置となった私の懐に収まるルノアは早々に寝てしまった。
ともかく模擬戦に始まり、怒涛の1日であった。
私も早く休みたいところではあるが、今後のことを整理しておかなくては。
◇◇◇◇◇◇
まずは騎士団との関係。
リディアをはじめとした騎士団の面々は我々が意図的に盗賊団を招き入れたわけではないと理解してくれている。だが依然として追っ手はかかっていた。
施設の壁を破壊した罪を問おうとしているのだろうが、教皇の働きかけがあればひとまず安心といったところだろう。
次に教会との関係。
女神から赦しがでたと言うことで“筋肉の賢者”の一件で教会からの目を気にする必要はなくなったと考えていいだろう。教皇からのお墨付きも出ている。
逆に、転生勇者と敵対するという使命を新たに背負うということを代償に破格の条件を提示されている。
目下はこの提案を飲むか否かが争点だ。
ザハリエルという男も教皇の意向に反して襲ってくることもないはず。
そもそもあの時、なぜあの男が襲ってきたかはわからないままだが……。
しかし、こう考えてみると、もし仮に教会の提案を受け入れるとしたら、リディアからすればとんだNTR展開だ。
その辺も筋が通せればよいのだが――とそんなことを考えていたらあることを思い出した。
「筋トレ……してないな」
◇◇◇◇◇◇
「うん。良い朝だ」
ともかくワークアウトができる場所を探すため、早起きをして大聖堂の外の様子を伺う。
朝の説教を聞きに多くの人が出入りしている。
今日の説教はちょうどクラリスが担当しているようだ。時間があれば後で顔を出してみよう。
「ルノア、眠かったら戻ってまだ寝てても良いんだぞ?」
「ん……ルノア、ご主人様といっしょ」
出かける際にルノアも起こしてしまったようで、彼女も付いてきている。
ただまだ眠いらしく、抱き抱えられた状態でうとうとしている。
「とりあえず王都の広場にでも行くか」
教皇の働きかけの効果もあってか、騎士団の姿は見えない。
自由に行動するなら今がチャンスだと思ったのだが――
「おい貴様、今大聖堂から出てきたように見えたが」
聞き覚えのある声。そう思い振り返ると……
「リ、リディア!?……さん?」
そこにいたのは信じられないといった表情のリディア。
「……違うんだこれは。なんと説明したらいいか――」
「君は私からの要請を突き返しあろうことか施設の壁をぶち破り、私とマルティナを奴隷にした上逃走。そしておめでたく教会の重役に登用されたわけか」
気のせいかリディアの目に怒りよりも涙が浮かんでいるように見える。そ、そんなに私が教会施設から出てくることが――
「あ。」
脳天からスッと血の気が引くような感覚。
そうだ。思い出すべきは筋トレをしていないことではない。
二人の奴隷契約、そのままだ――
「貴様、まさか我々との奴隷契約を忘れていたなどとは言うまいな」
「ご主人様、ひとでなし」
「ル、ルノアさん……!?」
ひとまず、落ち着けるところを探そう……。
◇◇◇◇◇◇
「……それで?私に何か言うことがあるはずだが」
我々は王都の広場にあるちょっとしたスペースに座っている。
往来が増えてきたが、私とルノア、そして大怪我から復帰したばかりのリディアは一般的な服装で変に目立つことはないだろう。
「と、というかだな!あの後一体どうなったんだ?」
「あの後、というのは?」
め、めずらしくリディアがとぼけた様子だ。
そもそもリディアが私を窓から蹴り飛ばさなければ、私が契約解除を忘れて王都を逃げ回り、大聖堂に行くこともなかったのだ。
「あ〜……えぇっと、つまり二人を回復させた後って事だ。えらい騒ぎになってたが」
「ああ。君がすっかり契約解除を忘れてくれたおかげで大捜索が始まってしまってな。止めるのに随分手こずった」
「い、一応止めてはくれたんだな」
「あぁ……あの時は取り乱していた。結果として現場に過剰な指示が飛んでしまった」
「……なんかスマン」
「いや、これに関してはこちらに落ち度がある。君と私たちの間に奴隷契約があることが知れる方が厄介だからな。今は闇の盗賊団だけを追わせている」
「施設の襲撃も失踪したハンクが首謀者として目下捜索中だ。君がぶち破った施設の壁の件は教会が間に入ったせいでうやむやになってはいるが……おおよそ君たちへの容疑は晴れたものと思ってくれ」
「よ、よかった……」
「で?まだ君が大聖堂から出てきた理由を聞いていないが?」
「あ、ああ。施設から逃げた後も騎士団に追い回されて、仲間と合流したところで教会のシスター・クラリスって人に会ったんだ」
「ほう。それで?」
「“女神の予言”で彼女から逃げたら悲惨な最期を遂げるって言われて大聖堂に匿われたってのが大まかなところだな」
「なるほど。ではもう逃げる必要も無くなった事だし、すぐにでも戻ってくるといい。模擬戦の決着もまだだ。何だったら君と私で決勝戦といこう」
リディアから焦りの気配がうかがえる。
彼女にとって私が教会側に付くということは教会魔術派と剣術保守派のバランスを大きく変える一大事。
騎士団に残るか、せめて中立のまま出ていってほしいといったところだろう。
「ご主人様、このひと、ご主人様といっしょがいいって。ルノアとおんなじ」
「な、なんだ!?妙な言い方をするな!」
「まあまあ。それなんだがな――」
「お、おい。ちょっと待て。」
教会側からの提案を説明しようとしたところ、リディアが何かに気づいたように言う。
「先ほどから気になっていたがその話し方はなんなんだ?妙に馴れ馴れしくなっているというか……いや、別に構わぬのだが――」
ん……?どういうことだ?“親しい間柄に”といったのはリディアのはずだが……もしや回復前後の記憶が曖昧になっているのか?
「いや、リディアがこう言うふうに話せっていったんじゃ?」
そう言うと、リディアは固まってしまった。
「……お、おい?お〜い!どうした?」
「団長は男性から名前で呼ばれた経験などほとんどありませんから」
「そ、そうなのかって……うおっ!?」
傍にいつの間にかマルティナがいることに驚く。
「全く、あなたは本当に最低な人たらしです」
「……いきなりなご挨拶ですね」
「あ、私にも敬語は不要ですよ。私は団長のメイドですから」
「そ、そうか?」
「はい。それにしてもその子、結界魔術で完全に気配を隠匿した私の接近にも気づいていましたね」
「ルノア、なんでもおみとおし」
「す、凄いな……」
「ハンク様の件はまだ片付いていませんのでその話はいずれ……」
な、なんかまた知らない事件に巻き込まれそうな予感がする。
「とにかく、まずは私たちの奴隷契約、解除してもらえますか?」
「あ、ああ!そうだった!」
主人と奴隷の両者が揃い条件は満たしたようで、契約の解除は簡単に行うことができた。
「……うむ、確かに。これで解除は完了だな」
フリーズしていたリディアも何とか調子を取り戻した。
さて、これで我々は騎士団、教会の両陣営から追われる身ではなくなった。
――だが、それは同時に。
この国の二大勢力が、私を巡って動き出したということでもある。
仁義なき教会VS騎士団の私をかけた争いが始まる……って言ってて恥ずかしいな。
私は穏やかに筋トレができればそれでいいんだが……。
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