第37話「筋肉と教皇」
## 第37話「筋肉と教皇」
### 【あらすじ】
王都は奴隷契約を残したまま立ち去ったユージを探す騎士団員でごった返している。
肝心のユージは奴隷契約の解除をすっかり忘れ、いよいよ逃走も難しくなってきたその時、一行の前に姿を現したのは女神教のシスター・クラリス。
彼女が告げる“女神の予言”で一行は彼女についていくことに……。
### 【本文】
王城を中央に、そして騎士団本部と双対をなすようにして建立された女神教総本山。
『大聖堂』と呼ばれるこの施設はこのグラシオン王国で最も影響力のある団体の一つ、女神教の最重要施設。
夜闇に薄明かりの灯る大聖堂は実に幻想的だ。
「ご足労いただき感謝申し上げます。教皇様がお待ちでございます。こちらへ」
なんと、我々は再びあの教皇の前に立たされるらしい。
リネアが勇者になるという宣言から逃げ出した我々を女神は“赦した”と言う。教皇は一体そんな我々に何を言うのだろうか……。
◇◇◇◇◇◇
「おお〜!待っておったぞ勇者リネアよ!」
随分と豪華な部屋に通された我々は、相変わらずドカンと踏ん反り返るようにして座る教皇と相対した。
「ど、どうも……」
リネアはどうもこの教皇相手には調子が出ないらしい。随分と控えめな挨拶だ。
「そしてお主らもな。さ、座れ座れぃ」
促されるまま用意された席に着く。
ものすごく巨大で豪勢な長机のいわゆる“お誕生日席”に座る教皇。その横にはおそらく初めましての男が立っている。
「さぁて!まずは何の話からしようかのぅ」
教皇はワクワクした様子で言う。
「まずは正式に勇者を指名するところから始められるのが宜しいかと」
隣に立っていた男がそう言う。
「ん?おおそうだな!それが良い。ところで――」
教皇は私に視線を向ける。
「お主、何故あの場から逃走したのだ?」
で、出た!今一番聞かれたくない質問……!
ここにくるまでの間色々と言い訳を考えていたが、全くいい案が思い浮かばずにここまできてしまった。
クラリスがいる手前、リネアとも相談できなかったし……。
「理由は言えぬか……だがまぁ、こうして戻ってきたのだ。これ以上の詮索はするまい。」
あ、あれ?なんか許されそうだぞ?女神の赦しが出たって話は本当らしいな。
「しかし、聞くところによれば騎士団から追われとるそうではないか。まあ、あれだけのことがあれば無理もないが」
「はい……盗賊団の件は我々のせいではないと理解してもらえてるようなんですが、いかんせん壁を壊してしまったので……」
「なんじゃそんなことか。では教会から修繕費用に色をつけて払っとくから安心せい。この件に関しても手出し無用とな」
「い、良いんですか!?」
「良いも何も無いであろう?吾輩はお主らを改めてスカウトするためにここに呼んでいるでな」
願ってもいないことだが……スカウトとはなんのことだろうか。
「吾輩が本当に聞きたいのはリネアが勇者として活動する意思があるかどうかというところなのだ。実際のところを聞かせぃ」
「……」
リネアは珍しく助けを乞うようにこちらに目線を送る。ここは彼女の期待に応えねば。
「教皇様、謹みながら申し上げます。我々は騎士団からの誘いを断り、これからこの国を巡る人探しの旅へと向かう途中なのです」
私は立ち上がり、なるべく失礼のないよう頭を下げながら言う。
「な、何!?今なんと?」
教皇がものすごい食いつきを見せる。
「教皇様、彼らは騎士団からのスカウトを受けていたようでございます。特にあの男性は団長より第三隊隊長のポストを打診されていたとか」
「いやはや!これは愉快痛快!」
教皇はさらにご機嫌な様子になる。
「お主、噂に伝え聞く“筋肉の賢者”であろう?騎士団の、しかも隊長の席を蹴ってきたと言うのか!」
「え!?あ、はい……」
き、気づいていたのか!?
それならどうして訓練施設の模擬戦の時に触れなかったんだ……?
「教会の者たちが騒ぎ立ててすまんのぉ!吾輩としてはこうして事情を聞くまで騒ぐべきではないと思っとったのだが、今の話を聞くに、お主敬虔な信者であるなぁ!」
「い、いや……そう言うわけでは」
「謙遜せんでも良い!お主の働きのおかげでますます女神教の信者が増えるであろう!」
教皇が言うには、奴隷や平民の家畜にも分け隔てなく施しを与える“筋肉の賢者”の逸話は、今までのお布施や階級によって施しを与えるという女神教のイメージを払拭するものだという。
さらに、騎士団の一隊長という地位をも受け取らない無欲さはさらに教会の格式を高めるそうだ。
「運営に金がいるとはいえ、少々搾取的な構造に固執しすぎたところがあってのぉ」
教皇はやれやれと言った様子で言う。
「結局のところ貴族たちの見栄の張り合いに利用されておるのだ」
な、なるほど……教会も苦労しているようだ。
「そこでお主のようなアウトローな存在がイメージ戦略を推し進めれば、三方良し。騎士団への牽制もできる」
またどんどんと勝手に話が進んでいっている。
「教皇様……我々は――」
「さらに!その賢者の嫁が新たなる勇者ときた!!これはまさに僥倖!女神教が覇権を握るときがきたと言うものだ!」
その教皇の発言に、リネアがピクリと反応した。が、特に何を言うわけでもない。
「それに連れ子のお主らも随分と可愛らしい。宣伝効果は抜群であろうなぁ」
つ、連れ子!?側から見たらそういうふうに見えているのか……?
「教皇様。少々独断専行がすぎるかと。」
興奮する様子の教皇を男が諌める。
「お、おお。すまんな興奮してしまったわい」
ふぅと息をついた教皇は、また改めて話し始める。
「それでだ……問題はお主らのその“旅”とやら。目的を話してはくれまいか。場合によっては手助けできるやもしれん」
そうきたか――正直ここまで聞いた感じ、交渉においては騎士団よりこの教皇の方が一枚上手……。
“女神の予言”で我々を議論のテーブルに強制的に座らせた分有利ではあるが、我々の目的へ協力する姿勢を見せてくるのは予想外だ。
「う〜む……やはりそう簡単に話してはくれぬか」
そんなことを考えていると、教皇が唸る。
「では、こちらから交渉材料を出そうではないか」
教皇は少し考えた後続けた。
「では……そうであるな。よぉし。正式に女神教の宣教師として活動するのであれば、このグラシオン王国が全ての教会を拠点として使用することを認めるぞ」
「……えっ?」
は、破格の条件だ!それに――
「てっきりこの王都で女神教のため働くものかと……」
「んん?そんなことは一言も言っとらんが??」
教皇は不思議そうに首を傾げる。
「お主らは自由に全国を回り、その先々でさまざまな階級・人畜を問わず施しを与えるのだ。そうして最後に一言。『筋肉の賢者が女神の奇跡を授けん』コレで決まりであろう!」
「流石でございます教皇様」
「う〜むわれながら名案と見える」
盛り上がる教皇と隣の男。
「まぁ、とは言ったものの、どこにでも考えなしに勝手に行って良いというわけでもなしに」
教皇は再度落ち着きを取り戻し言う。
「リネア、お主には勇者に課せられた使命を是非果たしてもらいたいのだ」
「使命……ですか」
「ん〜コレは長くなるので説明はエドガルド、頼む」
教皇の隣にいる男はエドガルドというらしい。一見するとパッとしない中年男性のようだが、そのポジションを見るにかなり偉い人なのだろう。
「承りました。では――」
エドガルドの話を要約するとこうだ。
女神教は女神の意思を第一に活動する。
女神から常に課されている命題は“信者を増やすこと”と“お布施を集めること”。
それとは別に、不定期に“神託”が下され、これを遂行することで信者たちは女神の祝福を享受するというのだ。
逆にこの“神託”の不履行は女神の怒りを買う行為であり、教会としてはあってはならないことだという。
そして、今最も切迫している神託が――
「グラシオン王国より新勇者を立て、隣国アスレイド聖統国の転生勇者たちを討て」
というものらしい。
“転生”勇者――?
「またそいつらが厄介な連中でのぉ。女神教信者であったのにも関わらず指導者が自らを“神”と名乗っているせいで女神の怒りを買っているのだ」
待て待て。私以外にもこの世界に転生してきている人間がいるのか?
「元はと言えば同じく勇者の素質があるリディアに討伐隊を組ませたかったのだが――まあこの話はよいか」
リ、リディアにも勇者の素質が?って新情報が多すぎて追いつかん!
「王国と聖統国とは長い間睨み合いが続いておるでな。こちらから仕掛けるにしても大義名分がいるだろうていろいろ工夫はしておるのだが……」
教皇はうんうんと唸っている。
「とまぁ色々申したが。いざという時に転生勇者討伐隊を率いてくれる約束だけはして欲しいとまあそういうことであるな」
「……」
しばしの沈黙。この話、メリットは大きいが安請け合いができる内容でもない。
転生勇者という存在がどのようなものかわからない以上、戦うことが将来確約されるこの話を飲むのは危険だろう。
「うむ。当然即決などできるはずもないであろう。今夜はもう遅い。部屋を用意しているでな。ゆっくりと休んでまた話そうではないか」
先ほどからこちらの状況を汲んでくれる、この教皇の姿勢は大変ありがたい。
お言葉に甘えて休ませてもらうことにした。
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