第36話「筋肉とシスター」
## 第36話「筋肉とシスター」
### 【あらすじ】
落とし前をつけるために再び騎士団訓練施設に戻ってきたユージ。
カイルの助けもあり、リディアとマルティナを回復させることに成功する。
しかしその方法もあって奴隷契約を解除する間も無く訓練所から逃走を余儀なくされ……。
### 【本文】
「リネア、状況は?」
「アンタいったい何したのよ……この周辺はもう騎士団の連中がうじゃうじゃいるわよ」
「ご主人様、おたずねもの」
「ユージさんだけじゃなくて私たちも追われてるんですよね?」
「どうかしら?私はともかくルノアとノエラは優先度低いと思うけど」
リディアとマルティナを救うことは無事成功した。
しかし依然として王都は盗賊団と我々の大捜索が行われている。
陽が落ちているおかげで完全に移動ができないわけではないが、油断できない状況だ。
「どうするつもり?こんな路地裏にいつまでも隠れてるわけにはいかないわよ?」
「それはそうなんだがな――」
それにしても、二人を救った後の方が騎士団の捜索が激化している。
まるで「筋肉を見かけたら必ず調べろ」とでも指示されているようだ。いや、もはやそういう指示が出ているとしか思えん。
ともかく、壁を破壊した件で追われているなら、まとまった金を手にするまでは捕まるわけにはいかない。
そんな事を考えていたら、どこからともなく声が聞こえてきた。
『迷える子羊よ、お困りのようですね』
「だ、誰だ……?」
声の主は何処からともなく姿を表す。
美しい銀のロングヘアーが夜闇に映えるその女性は教会のシスターのような格好をしているが、何だか妙に露出度が高いような……?
「私は女神教のシスター・クラリス……。迷える子羊たちに女神のお導きを与えにまいりました」
め、女神教――!?マズイな。
騎士団に続いて教会も我々を探し始めたか……。
「恐れる必要はありません。女神様は貴方がたをお赦しになりました」
赦した――?騎士団訓練施設で教皇が盗賊団に襲われた事を言っているのか?それとも、“筋肉の賢者”の件……?
「……なんか胡散臭いわね。とっとといきましょう」
リネアが急かす。
「お待ちになってください」
クラリスは懇願するように言う。
「このままお行きになってしまうと、女神様の予言では貴方がたは“悲惨な最期”を遂げると――」
背を向けたリネアの足が止まる。
どうしたのだろうか。予言などと言う方がよっぽど胡散臭いように思えるが……。
「……アンタ、今の話、嘘でしたじゃ済まないわよ」
リネアがクラリスを睨みつける。
「ど、どういうことだ?」
「話は後よ。残念なことに私たちはコイツについていくしかないみたいね」
クラリスはそう言うリネアを見て、にっこりと笑って見せた。
◇◇◇◇◇◇
「皆様、大変お似合いでございます」
「これ、わざわざ全員分用意したのか?」
王都を移動するためにとクラリスが渡してきたのは教会のシスターや神父のための修道服だった。
なんと、我々にあったサイズのものを用意してくれたらしい。
私は少々服を選ぶのに苦労する体型だが、見事にピッタリサイズだ。
「ルノア、このふくすき」
「すごいかわいいですね!」
ルノアの修道服はご丁寧に尻尾と耳の穴もしっかり開いていて、とても可愛い。
ノエラも王道のスタイルのシスターといった印象でとても似合っている。
「リネアは随分と時間がかかってるみたいだな」
着替えるということでさらに路地を奥に入った所で着替えた女性陣だったが、リネアの姿が見えない。
「私の結界魔術の中で着替えてもらったのでもう終わってるはずなんですが……」
「仕方ないな、それならちょっと見てくる」
「あっ……」
ノエラは何か言いたげだったが、ここもいつ騎士団に見つかるかわからない。教会に行くにしても早く移動するべきだろう。
「お〜い、どうだ?俺たちはサイズぴったりだったが――」
リネアが出てこなかった理由はすぐにわかった。
クラリスと同じく何故か露出度の高い修道服。
それに加え、彼女の健康的な生足を強調するようなサイズ感の丈。
何故か胸元もかなり攻めた開き方をしている。彼女の胸はリディアと比べると慎ましいが、適度に鍛えられたそれは、むしろ――
「何ジロジロ見てんのよ」
リネアは俯きながら言った。
「おっと、スマン。なんだ……その、似合ってると思うぞ」
「褒めてるのよね、それ」
「ああ。もちろんだ」
「そう」
今まで見たこともないくらいしおらしくなってしまったリネア。
「とっとと行くわよ」
そう言うとスタスタと歩き始める。
「おい、そっちじゃないぞ」
何故か逆方向に歩き始めた彼女を呼び止めると、クルリと踵を返す。
すれ違いざまに見えた彼女の顔は恥ずかしさからか真っ赤になっていた。
◇◇◇◇◇◇
「それで、さっきのはどういう意味なんだ?」
クラリスに教会へ案内してもらっている道すがら、先ほどのやりとりについて尋ねる。
リネアは“女神の予言”に随分と反応を示していたが……。
「まあ、アンタは知らなくても不思議じゃないけど、この国じゃ“女神の予言”なんて軽々しく口にはできないのよ」
「わ、私も聞いたことぐらいなら……」
ノエラほどの年齢の子でも知っていることらしい。
ルノアは頭の上に?マークが出ている様子なので私と同じだ。
「あの変態女みたいな教会の人間なら尚更ね」
リネアはクラリスを見る。自分の衣装について少々根に持っているみたいだ。
「“女神の予言”を騙って人に伝え聞かせるなんてことはありえないってこと」
「それってつまり……」
「ルノアたち、きゅうしにいっしょう」
「あのまま立ち去ってたらみんなまとめて死罪になってたなんてことも……」
想像するだけで恐ろしい。
リネアにここまで言わせるということは“女神の予言”はそれだけのものなのだろう。
◇◇◇◇◇◇
クラリスの案内もあって、幸い今のところ何事もなく王都を移動できている。
「……で?ちゃんとあの二人は助けられたのよね?」
「ああ。それはバッチリだ」
「じゃあなんで私たちこんなコソコソ移動しなきゃなんないわけ?襲撃に関しては私たちを疑う余地なんてもうほとんどないと思うけど」
「おそらく、壁をぶち抜いちゃった件だと思うんだよな。カイルも言ってたし。」
「それにしては捜索の規模が凄くない?どう考えても盗賊団より優先されてるわよ」
確かにそれもそうだ。
しかし……何か重要なことを忘れている気がする。だが、今はこの場を切り抜けて教会にたどり着くことが先決だ。
「まあいいわ。とっとと片付けてこの服着替えるわよ」
「……俺は本当に似合ってると思うんだけどな」
「……うっさい」
「ん、ご主人様、こっち」
「結界での索敵、マルティナさんに教えてもらっておいてよかったです……!」
クラリスの案内とルノア、ノエラによる索敵能力が功を奏し、なんとか移動ができている。
これなら、無事に目的地に辿り着けそうだ。
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