第34話「筋肉、賢者となれ」
## 第34話「筋肉、賢者となれ」
### 【あらすじ】
金策にはギルドのクエストをこなすのが一番。
冒険者ギルド未登録のノエラが状況の偵察に向かう。
そこで鉢合わせた騎士団副団長カイルに変装がバレるとなんやかんやあってユージたちと再会することに。
団長リディアとそのメイドマルティナが負傷しているということを知ったユージはカイルの依頼で二人の救護に向かうことに……。
### 【本文】
騎士団の追っ手は負傷したリディアとマルティナを救うためのものだった。
私はカイルと再び騎士団の施設に向かっている。
王都はすっかり陽が落ちて夜。
騎士団内では我々を襲撃の首謀者と疑う声もあるとのことで、目立つのを避けリネアたち三人は待機することとなった。
病室に着くと、二人がベッドに横たわっていた。数名の団員が、懸命に回復魔術をかけている。
「みんなありがとう。一旦外してくれ」
カイルがそう言うと、部屋はすぐに私とカイル、リディアとマルティナの四人だけになった。
「……ユージか」
リディアは意識があるようで、私を見るとすぐにそう言った。
その手には痛々しく包帯が巻かれている。
「……時間がない。まず彼女を救ってやってくれないか」
リディアはマルティナの方を見る。
「厄介な毒のようだ。私はまだ回りが浅いが彼女は急を要する。“筋肉の賢者”の名は飾りではないのだろう?」
「……はい」
私は少し考えてから続ける。
「ですが……回復させるスキルを発動するにはお二人となんらかの契約を結ぶ必要があります。リネアと私、ルノアと私の間にもそれぞれ契約が」
「なるほど、それでか」
リディアはリネアと私の契約については知っていたが、その理由までは知らなかった。だがこれで納得がいったはず。
「ですが、回復したらすぐに解除すれば問題ないことは確認済みです。そこは心配しないでください」
「では、彼女と奴隷契約を結ぶといい。カイル、道具を」
「あ、ああ!」
カイルは足早に部屋を後にする。
「……どうして戻ってきたんだ」
リディアは言う。
心なしかどんどんその声色に元気がなくなっていっているような気がする。
「……責任を取るため、でしょうか……あの時考えなしに壁を壊さなければもしかしたらこんなことには――」
「君に行けと指示したのは私だ」
「それでも……無関係とは言えません」
「そうか……なぁ」
リディアはこちらを気力が薄れつつある目で見る。
「そのまるで他人みたいな話し方はやめてくれ。今際の際かもしれないんだ。少しでも親しい間柄になろうじゃないか」
リディアの表情は穏やかだが、訴えかけるような目は彼女の切実さを感じる。
「……縁起でもないこと言わないでくれよ」
「フフッ……君は私にもそんなふうに喋るんだな」
「いや、あなたがそうしろと……」
「からかっただけだ」
なんとも言えない空気の中、カイルはすぐに道具を持って戻ってきた。
「おい!持ってきたぞ!それじゃあ、おれは外で待ってるからうまくやれよ!やり方はこの魔導書に書いてあるからな!ページは印をつけてある!」
「お、おい!なんでわざわざ外に――」
そう言うとカイルは出ていってしまった。
「何なんだ……?」
ともかく、急を要する。すぐに取り掛かろう。
ん、なんだ?グラートの奴隷商店で行った方法と随分と違うようだ。
詳細を見ている余裕はないが、まあ色々な方法があるものなのだろう。
ええっと、まずは……?対象の背中にこの筆でこの絵通りの紋章を描くのか――
「肌に、直にか……!?」
そ、それをするには当然――!
いや、待て!ここで躊躇するのは人命救助にとってあってはならないこと。
前世では何だか色々後になって怖いかもしれないシチュエーションだが、どうあれ人命最優先の今はどうこう言ってられない。
「リディア、一応許可を――」
そう思って彼女の方を見ると、先ほどまで起き上がって話をしていた彼女は苦しそうに横たわってしまっている。
(マズイ――!!)
事は一刻を争う。
マルティナをうつ伏せにすると、背中から衣服を破り、背中を露わにする。
集中して、魔導書に記された通りに紋を刻んでいく。幸い難しい記号ではなくなんとか書き進めることができそうだ。
「出来た――」
そう思うと、刻んだ紋が光り始める。すぐにマルティナの呼吸が安定していくのがわかる。
(よし!外傷にも効果があるみたいだ。次は――)
マルティナを仰向けに寝かせると、リディアの方も同じく儀式を行うためにベッドを移動する。
「……マルティナは」
もうリディアの声には全く力が入っていない。
「大丈夫だ。無事に儀式は終わった。」
「そうか……」
「すまんが急ぐぞ。うつ伏せにするからな」
「いや、そのくらい自分でできる」
「お、おいあまり動かない方が――」
リディアは起き上がり、緊急時であったが故に用意がこれしかなかったのであろう簡単な上着を脱いでいく。
全くもってそんな場合ではないのだが、その美しいプロポーションと綺麗な肌に見惚れそうになる。
「……これでいいか」
「あ、ああ。」
他人である男性に見せるはずもないような姿に狼狽しそうになるが、そのような状況ではない。
すぐにうつ伏せになるよう促し、儀式を始める。
「んっ……」
な、何だその声は――!?
リディアの背中に筆を走らせる度に、艶っぽい声が漏れるのが聞こえる。
おそらく意識が朦朧としているせいで全く押さえが効かないのだろう。
本人もベッドに顔を埋めてしまっている。
(すまんがこれは仕方ない。我慢してくれ……!)
こちらも心を無にしながら紋を刻み、何とか完成させることができた。
「よ、よし!終わったぞ!」
背中の紋が消え、その代わりに首に見覚えのあるマークがついていることを確認する。
「だ、大丈夫か?」
声をかけるが反応がない。
「お、おい!?マジで大丈夫なんだよな?」
これで治っていなかったらシャレにならない。確認のために斬られたという手を握る。
「ひゃっ!?」
素っ頓狂な叫び声が上がる。
「な、何をするんだ馬鹿者!」
そう言ってリディアは飛び起きると――
「あ……」
やはり、先ほどの行為は意識が朦朧としてのことだったのだろう。
再度その素晴らしいボディーが私の眼前にさらされると「み、見るなぁ!」と言って強烈な蹴りをお見舞いされてしまった。
やはり、彼女の攻撃の前には緊急回避のスキルも意味をなさないらしい。
見事に吹っ飛ばされて部屋の外に弾き飛ばされてしまった。
◇◇◇◇◇◇
ともあれ、二人の救助は成功だ。
“悟り”が外傷に効かなかった場合のことを考えれば上々の結果。これで多少の罪滅ぼしにはなっただろう。
「誰だそこにいるのは!ものすごい音がしたぞ!」
窓を突き破ってしまったので騒ぎを聞きつけた者たちが続々と集まってきている。しかし、もう二人は回復しているので捕まってもリディアたちに説明して貰えば問題ないだろう。
「……あれ?なんだこれ」
しかし弾き出された窓を見ると、見覚えのある結界のようなもので中が見えなくなっている。
「ちょ、ちょっと!あの、あれ?おかしいな」
あたふたしている間にも、どんどん騎士団員が集まってきている。結界は消える気配がない。
「待て待て!そいつは団長たちを助けに来たんだ!」
遅れてカイルの声が聞こえる。
「ふ、副団長!?一体何があったんです?それに……その男は――」
「わかったから落ち着けって!」
カイルは続々と集まる騎士団員を宥める。
そして……私の横に立ち、小さな声で聞いてくる。
「ちなみに今お前、金ある?壁をぶっ壊した件、ある程度金ねぇと厳しいぞ多分」
「……フンッ!」
私は再びスキル“カタボリック”を使って超スピードを獲得。
「あっおい!逃げんのかよ!」
どうしても格好がつかない。だが、救うべき二人を助けることはできた。これで、少しは落とし前をつけることができただろうか。
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