第33話「筋肉と計画」
## 第33話「筋肉と計画」
### 【あらすじ】
騎士団施設から逃走したユージたち。
しかし思ったよりも騎士団の追跡は激しくないようだ。
闇の盗賊団はユージたちを監視していたようだが、特に騒ぎにはならずことなきを得る。
今のうちに逃走用の資金を確保できないか模索するが……。
### 【本文】
王都を脱出するにしても、先立つものがなければ飢え死にコースまっしぐらだ。
我々が払った王都行きの乗合馬車の料金は、すでにノエラの故郷に送っている。
王都で少しでも旅銀を稼がなくては逃走生活は始められない。
我々が仕事をするのなら冒険者ギルドに行くのが手っ取り早いが、冒険者ギルドには王国が管理している戸籍のようなシステムがある。
当然、過去に登録した事のある私、リネア、ルノアの三人の情報はあるはずだ。
すでに捜索がかかっていると仮定した場合、この三人がギルドに顔を出すのはまずい。
そこで、まだ冒険者登録をしていないノエラに協力してもらい、現在の状況を把握することにした。
「ほ、ほんとに大丈夫ですよね……?」
幸いこの世界には監視カメラのようなものはないので、顔を見られただけですぐにお縄というわけはないだろうが、念の為ノエラには変装をしてもらった。
「うん。我ながら良いデキね」
リネアが見繕った服は見事にノエラを“少年”っぽく見せている。
「これ、声で不審がられないか?」
「別に?そのくらいなら大丈夫でしょ」
「ノエラ、かっこいい」
二人は呑気なものだ。我々は酒場に残り、ノエラに王都の冒険者ギルドへ行ってもらう。
騎士団や教会の追跡が入っているのなら、冒険者ギルドにその手のものが来ているはずだ。
幸い彼らはわかりやすい服装をしているのでノエラも判断には困らないだろう。
「それじゃあ、よろしく頼むぞ!」
「は、はいぃ……!」
◇◇◇◇◇◇
た、大変なことになってしまいました……私たちは王都中のお尋ね者になってしまったかもしれません。
故郷の両親が知ったら悲しむでしょうか……。
い、いや今はそんなことを考えている暇はありません!マルティナさんが教えてくれた「堂々とやるべきことをやる」ということを思い出して、頑張らないと――!
「こ、ここが冒険者ギルド……」
冒険者ギルドは初めてです。
強そうな冒険者の方々がいっぱいいますが、騎士団や教会の人はいないようです。
掲示板にはたくさんのクエスト依頼が張り出されています。
「こ、これならユージさん達も依頼受けれるかな……」
そう思った瞬間、冒険者の皆さんの視線が一気に入り口へと注がれていることに気づきました。
「あっ……」
血の気が引くような感覚。夕暮れの日差しの中、冒険者ギルドに入ってきたのは――
(カイルさんだ……!)
急いで広間の端に移動しないと……なるべく目立たないように、壁の張り紙を見るふりをして背を向けました。
チラリと見てみると、誰かを探しているように広間を見渡すカイルさんの姿。
探してるのはもちろん――私たち。
(あっ――!?)
一瞬目があったような気がして慌てて目を逸らす。大丈夫。距離は離れてたからバレてはないはず。
(……えっ?)
ち、近づいてくる!?どうして?あの一瞬でバレちゃった?どうしよう!?
「なぁ、少年。騎士団に興味あんのか?」
(は、話しかけてきた――!?)
「え?」
「いや、この張り紙を熱心に見てたからよ」
カイルさんが指さしたのは私が背を向けるために見ているふりをしていた張り紙。
(あ、コレ。騎士団員募集の――)
「ああ、はい……!そうなんですよぉ……」
ど、どうしてよりによってこの張り紙にしてしまったんでしょう……。
おかげでカイルさんの興味を引いてしまいました。
「そうか。剣は使えるのか?」
「い、いえ……剣というよりは魔術が得意で……」
「ん?そうなのか。珍しいな。」
「そ、そうですよね!変ですよねごめんなさい!」
「あ、いやすまん。別に騎士団にも魔術が得意な奴はいるからな。最近は鬱陶しいくらい――いや、なんでもねえ」
ユージさんとリネアさんが言っていた、王国の教会魔術派と剣術保守派の対立の話は本当みたいです。
「ところで、少年みたいな子が一人でどうしたんだ?騎士団としては事情を聞いとかねえとなんだが……」
「え、えーっと……」
「ま、親に黙って冒険者ギルドに登録でもしにきたってところか。騎士団に応募できる年齢にも見えねえしな」
「あ、まあ、そんなところです……」
「でもな?冒険者登録にも試験があんだ。ある一定の基準を満たさないと……ってアンタ……」
そう言うと、カイルさんはこちらをじっと見てきて――
「ユージんとこの魔術師の嬢ちゃんか!?」
お父さんお母さん、私はもうダメみたいです――!
◇◇◇◇◇◇
「いやあ、少年にしか見えなかったからびっくりしたぜ。」
カイルさんは冒険者ギルドの人に何やら話すと、一般の利用者がいない部屋に案内されました。
もうすっかり観念したので、言うことを聞いてついていくしかありません。
「まあ、何だ。大変だったな。色々と」
「えっ……?」
予想とは違って、カイルさんは私たちを探してはいたものの、捕まえようとしていたわけではなさそうです。
「俺がみたところじゃ盗賊団連中が襲撃してきたのは嬢ちゃんたちのせいじゃねぇ。そうだろ?」
「は、はい!私たちも何が何だか……」
「……それを聞けてとりあえず安心したぜ。こっちもてんやわんやだ。模擬戦を観戦してた連中はアンタらが襲撃の首謀者だって言ってる奴もいてな……まぁ、あの場面だけ見てたらそう見えるわな。無理もねぇ」
「団長不在の今指揮権は俺にある。ひとまず盗賊団だけ捜索させてはいるが、アンタらが首謀者じゃねえってんなら頼みが――」
「だ、団長不在って……何があったんですか!?」
「……そうか、嬢ちゃんたちは知らねえよな」
「あの盗賊連中、ハンクの爺さんと似たようなスキルを使いやがってな。模擬戦の時に言ってた話は本当らしい。そういう意味じゃ、襲撃の首謀者はハンクの爺さんかもな。」
「じゃあ……団長は盗賊団に?」
「ああ。その中でもとびきりヤベェのが居たみてぇでな。腹をいかれちまったマルティナを庇うために団長も――」
「マ、マルティナさんが!?」
「だからよ、さっきの頼みってのは――」
◇◇◇◇◇◇
十数分後。ノエラはとんでもない人物を引き連れて戻ってきた。
「な、何で!?」
ノエラが連れてきたのは騎士団の副団長カイルだ。
しかしその様子はカイルがノエラに案内されてきたという感じ。
「ばったり冒険者ギルドで嬢ちゃんに会ってな。正直助かった」
「ど、どう言うことだ?騎士団は俺たちも探してるんじゃ……?」
その後、ノエラとカイルから状況の説明を受ける
「それで、メイドちゃんは腹をザックリいかれて、団長は利き手がやられちまった」
「だ、大丈夫なのかよ!?」
「団長はご存知の通り超頑丈だからな。だがまぁ、心配なのはメイドちゃんの方だな」
「マルティナさん――」
ノエラは彼女に色々と手解きを受けたようで、彼女を慕っているようだった。
それに、杖も譲り受けた恩も感じているだろう。
「それでだ――アンタを“筋肉の賢者”と見込んで頼みがある」
そう言うカイルの表情はいつになく真剣だ。
「マルティナと団長を……救うことはできないか?」
恐らく、賢者の噂はある種一人歩きしている部分が大きい。
契約した対象を状態異常から回復させるという“悟り”のスキル。
リネアの奴隷契約を消すことができたところを見るとかなりその効果範囲は広いのだろうが、外傷そのものを消せるかどうかは確証がない。
だがしかし、今この後に及んで彼女たちを見捨てるなどと言うことはできない。
「もちろん協力させてくれ。それじゃあ、今騎士団は俺たちのことを捜索してるっぽかったのは……」
「むしろ助けを求めて探してたってくらいだ。よろしく頼むぜ。賢者様」
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