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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第7章「模擬戦」

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第30話「ユージvsマルティナ」

## 第30話「ユージvsマルティナ」


### 【あらすじ】


 ルノアVSハンクはまさかの展開。


 ルノアの暗殺術スキルを使う“闇の盗賊団”の師匠だと語るハンクと激闘を繰り広げるルノア。


 その様子を見て、そもそも彼女たちに自分の助けがいるかどうか懐疑的になるユージ。


 結果的にルノアがハンクを下したが、それはハンクが作り出した幻影だった……。


### 【本文】


 二勝一敗。残ったのはマルティナと私。


 勝てば我々は騎士団のお墨付きをもらってここを去る。


 負ければ同点だが……いや、負けた時の事を考えるのはよそう。


「ついにこの時が来ましたね」


 マルティナは私と対峙してなおその表情が読めないままだ。


「お、お手柔らかにお願いします」


「ご冗談を、我々は後がないのですから」


 時折見せるその刃のような圧にギョッとする。


「それでは……始め!」


 リディアが宣言した瞬間、空間が無機質な壁のようなものに覆われていく。



「これは……!?」



 壁はみるみるうちにドーム状に我々を囲って行き、ついに完全に覆ってしまった。


「ふぅ……これで心置きなくお話しできますね」


 マルティナはそういうと、ゆっくりと近づいてくる。


 危機察知が発動しない。


 少なくとも攻撃の意思はないのだろう。“今の所”は、だが。


「立ち話も何ですからこちらにどうぞ」


 いつの間にか、我々がいた空間に豪華な椅子と机が置かれている。


「不思議ですか?このスキルは私の結界魔術ですよ」


 マルティナはそう言うと、彼女の側の椅子を引いて腰掛ける。


「どうぞお掛けになってください」


 そう促されるままに私も座る。


「そんなに警戒していただかなくても大丈夫です。私、あなたには勝てないと思いますので」


 そう言われても、彼女の結界に完全に取り込まれている状況では安心することもできない。


「さて、こうして卓を囲んだところでお聞きします」


 マルティナは私の方に身を乗り出しながら言う。



「あなたはいったい何者ですか?」



「……そう聞かれましても」


「聞き方を変えましょう。どうして団長に接近したのですか?何が狙いですか?」


 彼女の迫力がどんどん増していく。危機察知スキルが警告を発し始めた。


「こちらから接近したつもりはありません。そもそも、私たちをここに呼んだのは騎士団のはずですが」


「もし団長を害するつもりがあるのなら、私はここであなたを殺します。たとえ、あなたに殺されても」


 そういう彼女の様子を見るに、冗談ではないようだ。


「……恐れているのですか?あなたほどの力がある人間が何を恐れる必要があるのでしょう?」


「何か誤解されているようです」


「誤解?何が誤解だと言うのですか?賢者の名を冠して団長に接近しどうしたかったのですか?そのくせして団長の誘いを断るとは一体何事ですか!?」


 危機察知スキルが過去類を見ないほど警告を発しているのがわかる。何とかして彼女を落ち着かせねば。


「――マルティナさんは、団長を守るために私を警戒しているのですか?」


 興奮した様子のマルティナはそう言われると少々落ち着きを取り戻したようで、乗り出した体を引き戻した。


「……団長は偉大な人です。私とほとんど歳も変わらないのに、この国の未来のために様々な期待を背負って。」


 そう言うとマルティナは急に大きなため息をついた。


「あなたにこのような話をするのは無意味ですか」


 ゆっくりと立ち上がり、背を向けるマルティナ。


「団長のためにここに残る気は本当にありませんか」


「……はい。私は仲間とここを去ります」


「お仲間はきっとあなたがいなくてもうまくやって行きますよ」


「まだ彼女たちの意思を聞いていません」


「彼女たちがあなたと行きたいと言うと?」


 私が感じている絆や繋がりのような感情は私の勝手な妄想かもしれない。


 それでも信じたいと思っている自分の気持ちに嘘をつくことはできない。


「モノは試しですよ」


「妙な言い方をしますね。全く団長はどうしてこんな男を好きに――」


 そう言うとマルティナは「これは失言でしたね」と言いながら口元を押さえた。


 い、今のは“そういうこと”なのか?いや、マルティナという女性の今までの言動を考えるとこちらを揺さぶるためのブラフということも――


「では、始めましょうか。私があなたに勝てるはずはありませんが――」


 彼女はそういうと、どこからともなく杖を取り出した。



「死なば諸共。団長の障害となるなら取り除かなければ」



 マルティナが杖を振りかぶると、無数の光の矢が放たれる。


「いや、コレ避けられるのか……?」


 私の心配とは裏腹に、緊急回避のおかげでなんとか直撃は避けることができている。


「チッ……やはり私の魔術ではあの回避スキルを突破できませんか」


 マルティナは私の緊急回避スキルを知っているようだ。


 それなら、仕掛けてくる前に何かしらの対策を立てていてもおかしくないが――


「うおっ……!?」


 回避を連続する私の体がどんどんマルティナの方に引き寄せられていく。


 これは……。


(リネアとの訓練で感じたのと同じ。回避する方向を自分の意思で操作できないから相手に誘導されてしまう現象だ)


 マルティナは粛々と魔術の矢を放ち続ける。


 その攻撃に隙はない。無限に撃ち続けられる訳ではないだろうが、回避しているうちにすぐマルティナのそばまで接近してしまう。


(こ、この距離はまずい――)


 そう思った瞬間。私の足元に巨大な魔法陣が展開される。


 危機察知スキルがものすごい反応を示す。


 恐らくこの魔法陣内に致命的な攻撃を与える魔術――。



 だがコレはダメだ!



「何やってんだバカッ……!?」


 直後、マルティナに飛び掛かる。


 すでに放たれていた光の矢が数本直撃する。

 だがそれどころではない。彼女が展開した魔法陣は彼女をも巻き込んでいる。


 このままでは――


__________


_______


____


「う……う〜ん……」


 どれくらい経っただろうか。


 恐らく記憶が飛んでいる。


 私は確か……マルティナの自らを巻き込んだ自爆上等の攻撃を防ぐために――


 思い出していると、大きなガラスの割れるような音がこだまし、我々を覆っていた結界が壊れた。


 うつ伏せに倒れた胸元に違和感を感じ、起き上がろうとする。


「……あ。」


 思い出した。私はマルティナを庇うために飛びかかった。


 その拍子で彼女に覆い被さるような形になってしまったようだ。


 彼女のメガネも吹き飛ばしてしまったようで、初めてちゃんと見る彼女の肉眼と目が合う。


 うむ、予想に反してなかなか可愛らしい目をしていると思った。


「ッ……」


 そんな事を考えていると、マルティナは顔を真っ赤にして目を逸らしてしまう。


 ……しばしの静寂。女性陣の刺さるような目線に晒されながら体を起こす。


「お熱いところ申し訳ないんだが、一体何がどうなってこんなことになってんだ?」


 カイルが寄ってくる。


「そ、外からはどう見えてたか教えてもらっても……?」


 私は恐る恐る聞いてみる。


「どうって……メイドちゃんが結界を展開してしばらくしたらそのメイドちゃんを押し倒してるアンタが出てきたんだよ!」


 やはり結界の外から中は見えていなかったらしい。


 さて、この状況をどう説明したものか――


「状況を見るに、ユージの勝ちよね」


 次に寄ってきたのはリネアだ。心なしか怒っているように見える。


「いや待て。マルティナ、状況を説明してはくれないか」


 そう言いながらリディアも近づいて来る。


 マルティナは押し倒された体勢のまま動かなくなってしまった。


「すごいな。彼女がこんなになってしまうのは私と出会った時以来じゃないか?」


 そう言いながらマルティナを抱き上げるリディア。


「ほら、そんなになってるんだからユージの勝ちよ」


 やはり怒っている様子のリネア。


「……私としてもぜひ勝敗を明らかにしたいところだが、どうやらそれどころではなくなってしまったようだ」


 リディアの目線は訓練場の入り口の方に注がれている。


 入口から大勢の兵士が入ってくる。


 その鎧の種類を見るに騎士団の人間ではなさそうだ。


 兵士たちは二列に並び道を作ると、一人の男を迎え入れた。


 大柄……というよりもかなり太ったその男は随分と豪華な装いだ。

 

「君達も私に習うといい」


 リディアはそう言うと膝を折り跪拝する。他の面々も続々と膝をついていく。


 リネアとノエラは彼女に倣って同じ姿勢を取る。


 ルノアを呼び、一緒にリディアと同じ姿勢になった。



「いやはや!見事であった!」



 その男は踏ん反り返るようにして用意された椅子に座る。


「教皇様。このような場所にまでお越しくださるとは」


 リディアが言う。


 教皇……?ってことは私が目をつけられている女神教のトップか!?コレはかなりマズイ状況なのでは――


「うむ、諸君ら頭を上げると良いぞ。騎士団長リディア、励んでいるようだな!」


「それも全て女神様の神託と祝福によるものに御座います」


「謙遜することはないぞ!それに、お主――」


 そう言うと教皇はリネアの方に身を乗り出す。


「我が国が誇る騎士団、その団長と互角に戦うとは見事見事!」


 教皇は興奮した様子で話し続ける。


「そこで!だ。吾輩は思ったのだ。この者こそ女神の神託を遂行せし者!」


 教皇がそう言うと、リディアがさらに頭を下げながら割り込む。


「教皇様。お言葉ですがそれは私の――」


「リディアよ。」


 教皇は先ほどの興奮が嘘のように冷酷な眼差しでリディアを見る。



「それでは貴様が行くのか?」



 教皇がそう言うとリディアは黙ってしまった。


 神託。それに騎士団と教会の関係……。

 魔術派と剣術保守派……。


 ダメだ。今ある情報だけでは全く状況がつかめない。

 こんな時はマルティナが頼りになりそうだが――。


 かろうじて跪拝はしているが顔は真っ赤なまま固まってしまっている。


「異論はないようであるな。吾輩はここに新勇者誕生を宣言する!お主、名を名乗れぃ」


 教皇はリネアを指差す。


「わ、私でしょうか……?」


 珍しくリネアが気圧されている。


 それほど女神教の教皇というのは位が高いと言うことだろう。


「私は……トレヴィルから来た冒険者リネアと申します。この度は教皇様のお顔を拝し――」


「ああ!よいよい!お主はもうそのような事をする必要はないぞ!女神教において勇者は教皇に次ぐ位が与えられるのだ!」


 とんとん拍子に大変なことになっている気がする。


 リネアが困った様子でこちらを見ているが、どうしたらいいだろうか。


「教皇様……こんなところにいらしたのですか」


 そう考えていると、何処かで見覚えのある男が現れた。


「おお、ザハリエルか。お主はいつも突然現れるなぁ」


 この男……王都で我々を襲撃した女神教の――


「お話は聞かせていただきました。新勇者を擁立されると」


「そうなのだ!この者は間違いなくその素質があるぞ!」


「左様で御座いますか。しかし困りました――」


 ザハリエルがこちらを見る。


 マズイ。この教皇はまだ私が“筋肉の賢者”であることに気づいていない。


 ここでそれが明るみに出ればさらに厄介なことになる。


 チラリとリディアの方を見ると、「行け」と言うように頷いている。



 ――こうなりゃヤケだ。



「うぉぉぉぉ!」


 そう叫びながら駆け出す。


「みんなついて来い!」


 そう言いながらノエラを担ぎ、訓練所の壁に向かって走る。


「ゆ、ユージさん!?何ですかぁ!?」


 ノエラは驚いた様子で言う。



 ――こんなことになるくらいなら元より騎士団の召喚になど応じなければよかった。



 そんな事を考えてももう遅い。


「アンタ何する気!?これ以上教会に楯突いたら私達――」


 そう言うリネアも空いたもう一方の腕で担ぎ上げる


「きゃっ!?ちょ、何すんのよ!」


 リネアは抵抗するが、ここは申し訳ないが我慢してもらうしかない。


「ずるい、ルノアも」


 そう言うルノアは余裕でついて来れそうだ。


 使うならここしかない。


 スキル“カタボリック”を使い速度と耐久、パワーを強化――!


 ドゴォン!と轟音を鳴らし壁を破壊する。


「な、何をボーッと突っ立っておるのだ!追え!追わんか!!」


 教皇が叫ぶのが聞こえる。



「壁が崩れたぞ!!者どもかかれェ!!!」



 今度はなんだ!?


 壁の向こう側には謎の黒ずくめの男たちが待ち構えていた。


 見た限り騎士団員ではなくむしろ“盗賊”のような見た目だが……ん?盗賊?


「あ、ししょー」


 ルノアがそのうちの一人を指差して言う。


 こ、こいつがルノアのスキルを強化した“暗殺キング”!?なんでこんなところに!?


「姫!やはりここに来ていたか!」


 すれ違いざまにそう言う暗殺キング。


 ノエラは頭上に?マークが出ているところを見るに、全く状況がわかっていないようだが……。


「おい貴様、しっかりと姫を安全なところに連れていけよ」


 その男は私に向かってそう告げる。


 ひ、姫だって!?コイツ、ルノアのことを姫って呼んでるのか?なんで?


 振り返ると、遠巻きにその様子を見ているリディア。違うぞ!こいつらと私たちは無関係だ!!


 リディアに釈明したい気持ちは山々だが、捕まってしまっては元も子もない。ここはなんとしても逃げ切るのが先決だ。



 そしてこの日から、晴れて我々はお尋ね者となった。

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