第27話「リネアvsリディア」
## 第27話「リネアvsリディア」
### 【あらすじ】
訓練最終日、リネアはついにユージの緊急回避スキルを突破してみせた。
ルノアも謎の組織“闇の盗賊団”で修行したといい、かなり強くなったようだ。
いよいよ模擬戦本番。パーティーの未来をかけた戦いが始まる……。
### 【本文】
運命の日がやってきた。
相手は王国騎士団精鋭の面々と思っていたが、少々クセのある相手のようだ。
「もはや挨拶も不要と思うが騎士道精神に則って名乗らせてもらう。我が名は王国騎士団が団長。リディア・エルンフォードである!」
そう名乗る彼女の姿は実に様になっている。
彼女の剣術を超えた“剣聖”スキルへの対応はできるだろうか。考えただけでも身震いがする。
「じゃあ、次は俺だな」
そう言って前に出たのは屈強そうなリディアと同じ歳ほどの男だ。
「副団長のカイルってんだ。お嬢さん方には悪いが本気でいかせてもらうぜ?」
カイルと名乗った男は随分と軽いノリで挨拶を終える。
その後作法がなっていないと団長に怒られている姿を見て、リネアと私もあのように映っているのか?と思う。
「残りの二人は私から紹介しよう」
そういうとリディアは残りの対戦相手を紹介する。
「こちらの老人はハンクといってこの施設の用務員だ」
そう紹介されると老人は頭を下げる。
ど、どうして用務員がこの模擬戦に……?と疑問が湧いたが彼女が用意した人材に変わりはなくスルーせざるを得ない。
しかしあの風貌。それに服越しでもわかるその肉体はただの老人とはとても思えない。恐らく相当の猛者なのだろう。
「最後に彼女は私の側仕えのメイド、マルティナだ」
そう紹介され丁寧なお辞儀をした彼女が最後のメンバーのようだ。
丈の長いきちっとしたメイド服を着ており、なんというか、前世の感覚でいう“芋っぽい優等生学級委員長“のような見た目である。
かなり度の高いメガネをかけているからか、その表情は読めない。
「では早速始めようか」
リディアがそういうと、
「私からいくわ」
そう言ってリネアが前に出る。
戦う順番は説明されていなかったので特に考えていなかったが、様子を見るという意味では彼女が適任かもしれない
「よし。頼むぞ」
そう言って彼女を送り出す。
「さあ、さっさとケリをつけちゃいましょ」
リネアがそう言うが、一体なんのことだろうか?そう疑問に思ったのも束の間、リディアが前に出てくる。
「そうだな。今ここで決着を着けようじゃないか」
「ちょ、ちょっと待った!」
予想外の組み合わせになろうとしていたところで思わず止めに入る。
「どうした?」「どうしたのよ?」
二人は邪魔をするなと言わんばかりの様子だ。
「い、いや……てっきりあなたとは私が戦うとばかり……」
「おや、嬉しいじゃないか。二人からラブコールとは」
リディアは依然として余裕そうな様子で言う。
「ハハハ!こりゃ面白い!」
カイルは嬉しそうだ。
「ここは私にやらせてちょうだい」
そういうリネアの表情は真剣だ。どうやら本気でリディアと戦うつもりらしい。
夜の訓練場でリディアとやり合った経験上、リネアの剣が彼女に届く可能性は低いだろう。
だが、覚悟を決めた戦士を可能性などという理由で止めるわけにはいかない。
ベンチプレスも、マックス重量を更新しようとしている人間にかけるべきは、「危ないからやめろ」ではなく「補助するから頑張れ」だ。
それに、彼女自身も母親を探す旅に出る目的のために動いているのだ。
妙なプライドや適当な理由で行動するはずがない。
ここは彼女を信用しよう。
「わかった。頼むぞ」
そう言って彼女を送り出した。
◇◇◇◇◇◇
「どうあれ、恨みっこなしだぞ。」
リディアは言う。
「いいからさっさとかかってきなさいよ」
リネアも負けじと返す。
両者は随分と距離を取っているように見える。
「こりゃあ、初っ端からとんでもねえやり合いになりそうだな」
いつの間にかカイルが横に座っている。
「ど、どうも」
「なんだよ!そんな堅っ苦しくすることないだろ?」
リディアとは対象的な態度に驚いたが、その様子から悪意があるわけではなさそうだ。
「あ、ああ。わかった。それで――」
「あれはな、牽制しあってるんだ。あんな団長初めて見たぜ」
「け、牽制?」
どう見てもお互いに剣が届くような距離ではないように見えるが――
「あんたも団長とやり合ったことあんだろ?」
「あ、ああ。なるほど……」
「そう。団長の間合いは異次元だ。」
以前あり得ないほどコテンパンにされた時には気づかなかったが、リディアの意識の外から飛んでくるような剣はその間合いの広さも特徴のようだ。
「それで、リディアさんが仕掛けないのは――」
「わからねえか?あの嬢ちゃんも“同じ”だ」
大方の予想に反して、立ち合いで両者は互角。ということのようだ。
しばらく睨み合いが続いた後、先に仕掛けたのはリネアだった。
「お、動いたぞ!」
目にも止まらぬ斬撃。
リディアはそれをいなし、反転。強力なカウンターを叩き込む。
しかしリネアもそれを見事に受け切る。
「チッ……やっぱり簡単にはいかないわね」
リネアの表情にはまだ余裕が伺える。
「うむ。やはり見事だな。この短期間でここまで仕上げるとは見事なものだ」
逆にリディアは今まで見たことのない高揚感のようなものを覗かせている。
「おいおい……こりゃやべえかもしれねえぜ」
その様子を見たカイルが言う。
「ありゃガチの団長だ」
「それってそんなにまずいのか?」
「まずいなんてもんじゃない。団長がどうしてあの歳でここまでの地位にいるか知らねえのか?」
確かに。騎士団には屈強そうな猛者たちがたくさんいた。もちろんこの男も。
「その様子だと知らねえみたいだな。いいか……」
カイルは私に耳打ちする。
「模擬戦で全員ぶっ飛ばしちまったんだよ」
「そ、それはどう言う――」
そう聞き返した瞬間、我々の方向にものすごい勢いで剣が飛んできて後方の壁に突き刺さった。
「…………」
リディアが爽やかに微笑みながらカイルの方を見ている。
彼はこの後、先ほどまでの軽口が嘘のように静かになった。
「すまない。手が滑った」
「今のはあいつが悪いわね」
我々がしゃべっている間もものすごい攻防を繰り広げていた両者はここで一度互いの間合いをリセットする。
カイルの解説がないと剣術に疎い私はほとんど何が起こっているのかわからないが――
「「ハァッ!!!」」
次は両者同時に仕掛ける。
(は、速すぎる!)
先ほどより目に見えて過激さが増す両者の打ち合い。
危機察知などの認識能力が向上するスキルは自身が対象にならないと発動しないため、全く二人の姿を捉えることができない。
「ものすごい戦いですね。団長がここまで本気になっている姿は久しぶりに見ました」
そう言いながら近づいていたのはリディアのメイドだというマルティナだった。
「よろしければこちらを」
そう言うと彼女は加工された魔水晶のようなものを渡してきた。
「これは?」
「模擬戦闘用のエリアは私の結界魔術で覆われています。この水晶の保持者は結界内の動きをより明瞭に認識できるようになるという魔術具です。」
「べ、便利なアイテムですね……」
「レベルの高い戦闘をより正確に分析、理解するための自作の魔術具ですが、今回は観戦用に用いましょう」
彼女に促されるように水晶を受け取ると、確かに戦闘の様子が手に取るようにわかるようになった。
◇◇◇◇◇◇
(正直まともな撃ち合いなるとは思っていなかった。この少女はすでに“剣聖“の領域に辿りついている。)
こ、これは……リディアが考えていることか?
この水晶で戦っている二人の心情までわかるのか?それはちょっとやりすぎな気もするが……。
「ッ……!アンタ、いつまでも舐め腐った戦い方してんじゃないわよッ!」
確かに、リディアはまだ本気を出していない様子だ。
「いいのか?ただではすまんぞ」
「臨むところだわ!」
その直後、リディアの動きのギアが上がる。
(思った通り速い――)
リネアはギリギリのところで捌いている。
(速いけど、受けきれなくはな――)
直後、ついにリディアの剣がリネアを捉えた。
「グッ……!」
後方に大きく吹き飛ばされたリネア。
「お、おい!大丈夫か!?」
思わず声をかける。
「……大丈夫に決まってんでしょ!アンタあれだけ私たちのことボコボコにしといてこんなんで心配するわけ!?」
リネアが怒る。
ま、まあ確かにそうだ。訓練ではこのようなシーンが何度もあった。
(とはいえ、これがこの女の本気――長引かせるのは得策じゃないわね)
体勢を整えたリネアが前傾し剣を構える。
(アイツに一撃入れた技……これで決める!)
訓練の時、リネアが最も得意としていた前方に大きく踏み込み一閃の突きを繰り出す技だろう。
初見では遅れをとったがそれ以降は防ぐことができた。
確かに強力な技だがリディアに通用するのだろうか――
「喰らえっ!!」
リネアはそう叫ぶと――
「き、消えた!?」
自分自身が狙われている時は気づかなかったが、第三者としてみるとここまで速いのか!
両者が交錯して鋭い剣錯音が響く。
砂埃が舞い上がり二人の姿が見えない。
「ど、どうなった!?」
速すぎて水晶の効果を持ってしても動きを追いきれなかった。
徐々に砂埃が晴れていくと――
「……やられたわね。完敗だわ」
リネアの剣は防がれ、反対にリディアの剣が彼女の首を寸前まで捉えていた。勝負ありだ。
◇◇◇◇◇◇
「……お疲れ様」
明らかに気落ちしているリネアに声をかける。
「慰める暇があったらこの後のこと考えなさいよ」
そう言いながらもショックを隠しきれていない様子のリネア。
「わかった」
彼女の性格を考えればここで無理に明るく振る舞う方が失礼だろう。
今は一人にしてあげるべきだ。
「いやあ!とんでもない戦いだったな!なあ?」
そう声を上げリディアの方を向くカイル。
「カイル。君には話がある」
そう言うとリディアはゆっくりとカイルに近寄る。
「お、おっと!次は俺の番だな!」
その様子を見たカイルは踵を返してこちらに向き直る。
「俺はそこの嬢ちゃんを指名するぜ」
カイルはそう言うと、ノエラを指差した。
「……えっ!?」
全く予想していなかった様子のノエラは目を丸くする。
「わ、私ですかぁ!?」
「そうだ。ぜひ一戦頼むよ」
そう言うカイル。
「す、すまんカイル。彼女は――」
そこまで言って言い淀む。
私は彼女をどうするつもりだったのだろう?
訓練中は我々に強化魔術や防御魔術を的確にかけることでその技術に磨きをかけていたが、依然として攻撃手段を全く持たない彼女は本番の模擬戦では戦うことができないのでは?
「わかってるさ。お嬢さんはエンチャンターだろ?それもとびきり味方を助けることに特化したな。」
カイルは私の言葉を遮ってそう言う。
「だから、お嬢さんには追加の勝利条件をつけよう」
カイルは自慢げに言う。
「そうだな……よし、三分だな。」
「俺からの攻撃に耐えきればお嬢さんの勝ち。防御を破れば俺の勝ちってことでどうだ?」
騎士団が言う騎士道というのはどうやらこの男にもあったようだ。
勝ち目がない戦いを強制しない彼の姿勢は大変ありがたい。
「ノエラ、どうだ?」
後はノエラ次第だ。この勝負を受けるかどうか……。
「わ、わかりました。頑張ってみます!」
驚いたことに、ノエラもここ数日の訓練で自分の力に自信をつけてきたようだ。
その表情には不安も見えるが、決して勝負の前から負けているような様子ではない。
そんなことを思いながら、前に出る彼女を送り出した。
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