第24話「二人の剣士 リディア編」
## 第24話「二人の剣士 リディア編」
### 【本文】
ユージたちが模擬戦に向けての訓練を始めた初日の夜。
私が大浴場を訪れると脱衣場に見慣れない服があった。
(リネア嬢のものか……)
彼女はユージを騎士団に引き入れることを快く思っていない。
いや、むしろ私を略奪者とさえ思っているだろう。
なんとなく様子を確認すると、彼女はユージにへこまされたことを気にしているようだった。
「荒れているな。まあ、あれだけコテンパンにされれば無理もない」
私は彼女の隣に忍び寄り声をかける。
「い、いつの間に……」
「まあ良いじゃないか。女同士裸の付き合いといこう」
「あんた、ユージの優しさにつけ込むのもいい加減にしなさいよね」
“優しさ”か。確かに。彼の実力を考えれば我々を強行突破してここを去るという行動も取れそうなものだ。
「おや、随分と敵対視されてしまっているようだ。彼を騎士団に誘った時もそうだったが、君たちは一体どういう関係なんだ?」
「……仲間よ。」
少々言い淀んだところが気になるが嘘は言っていないようだ。
どうやら恋仲というわけではないらしい。
「仲間……か。彼は危険を冒してまで騎士団の庇護を外れて何を成そうとしているんだ?」
「あんたには関係ないでしょ。どのみちすぐ関係なくなるんだから」
「そうはいかない。彼の動向はもはや騎士団にとっても無視できないんだ」
「そう。そっちも負ける気はないってことね」
「無論だ」
「どのみちユージと私はどうなろうが何も変わらないわ」
随分強気な発言だ。仲間だという以外に何かあるのだろう。
「どうだろうな。彼が騎士団に残る場合、君が引き続き彼の隣にいられるかはわからんぞ」
彼女の敵対心を煽ることで情報を引き出せれば良いのだが。
「関係ないわよそんなの」
「ふむ、その根拠は?」
「私とユージは契約で結ばれてるのよ。どうなっても一蓮托生。わかった?」
彼女は首元の契約の証を見せてきた。
「……これは驚いたな」
“一蓮托生の契約”。永遠を誓い合った二人がその魂を共にし力を共有し合う契約――。
いや、待て。この程度で諦める私ではない。
一人一回までなどという制約はない。
私も彼とその契約を……。
「これはますます頑張らなくてはならないな」
そう言いながら立ち上がる。
「あんた、さっき入って来たばっかりじゃない」
「野暮用だ。気にするな」
そう言いながら大浴場を退出する。
これは思ったよりも骨の折れる状況だと気合を入れ直す。
そもそも、私は彼に勝てるのだろうか――。
そう考えると私の足は自然と訓練場に向かっていた。
◇◇◇◇◇◇
翌日の晩。
またもやリネア嬢と大浴場で鉢合わせた。
「……何か言いたいことがあるなら言ったら?」
「おおよその見当はついているだろう?皆まで言う必要もあるまい」
彼女は私がユージにしたことを知ったであろう。
そのことで文句があることなど承知の上だ。
「はあ……まあ、あんたが私より強いってのは認めるわ」
「おや、随分と簡単に負けを認めるのだな」
「負けってわけじゃないでしょ、模擬戦まではまだ時間あるんだし」
彼女の言いぶり。
もしや彼女は――
「……君は私と戦うつもりでいるのだな」
「どうだか。でもあんたもそのつもりなんじゃないの?」
「それについてはこちらもノーコメントだ」
昨日とは明らかに放っているオーラが違う。
人間とは一日でここまで強くなることができるものなのだろうか。
「まあその時が来たら覚悟しておくことね」
「楽しみにしているよ」
こうしてはいられない。彼女の強さの秘訣があるとすれば……。
彼との訓練は非常に身になる。
そもそも、私が全力で打ち込める。全力で打ち込まれる相手などこの王国中を探してもそうはいないのだ。
気合を入れ直し、訓練場へと向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
さらに翌日の晩。
今日私は目を疑う光景を見た。
リネア嬢の攻撃が彼に通ったのだ。
「今日は機嫌がよさそうで何よりだ」
「あんた、毎回私がくるのを待ってるわけ?私そっちの気はないけど」
言われて気づいたが、三日連続で大浴場で鉢合わせるとは私自身そう思われても仕方がないと思う。
「君もとても魅力的だが――彼には及ばないな」
「…………」
私の気持ちは彼女も勘付いているはず。
もはや戦いの構図は私と彼女の一騎打ち。彼女も重々承知だろう。
「とうとう彼に攻撃が通ったようで何よりだ」
「そうね。これであんたと同じ」
「同じなものか。少し小突いた程度で」
「いい加減その喧嘩買うわよ?」
「いいのか?」
どうしても嘲るような態度になってしまう自分に驚く。
これは……。
彼女を恐れている?
「……今日くらいはお互いゆっくりに湯に浸からない?」
私の心は意外な彼女の提案にまたも乱される。
彼女は私を恐れていないのだろうか。
「……それもそうだな」
それ以降、私たちの間に会話は無く、ただ時間だけが過ぎていった。
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