第21話「筋肉と騎士団長」
## 第21話「筋肉と騎士団長」
### 【あらすじ】
模擬戦に向けての訓練が始まった。
ユージの戦闘ポテンシャルは言わずもがな、リネア、ルノア、ノエラの連携攻撃は尋常じゃないものがある。
このままいけば勝利も夢ではないかもしれないが……。
### 【本文】
訓練1日目の夜。
私は十分な栄養を摂ったのち、改めて訓練場を訪れていた。
やはり戦闘だけでは筋肉への追い込みが足りず、筋トレをするためだ。
しばらくワークアウトに勤しんでいると。
「あの激闘の後にまた鍛錬か。精が出るな」
通りがかりのリディアに声をかけられた。
「どうやら私は君を……いや、君たちをみくびっていたようだ」
彼女は剣の訓練に来たらしい。
訓練用の剣を手に取りながらこちらの様子を見ている。
「寮は君たちの話題で持ちきりだったようだ。私も少々見させてもらったが、あの戦闘は並のものでは無い」
「そ、それはどうも」
「うむ、それでだ。」リディアは持っている訓練用の剣をこちらに向ける。
「どうだ?私と一戦」
もしやとは思ったが、やはり彼女はこちらの戦力を計りに来たようだ。
普通に考えればこちらの情報収集にもなるので受けてもよさそなものだが、問題は別にある。
(これ、リディアを不用意に強化してしまわないか?)
「どうした?まさか怖気付いたということもなかろう」
リディアはこちらを煽るような口調で言う。
恐らく……彼女も持っているだろう剣術のスキル。
彼女の地位を考えるとそのスキルがマスタークラスであることは言うまでもないだろう。
リネアの話ではそれが最大レベルで限界を超えて上がることはないようだ。
(それなら……)
「――ぜひお手合わせください」
「そう来なくては」
リディアは嬉しそうに構える。
「私も剣を使っても?」
「ほう?君は素手で戦っていたと記憶しているが――」
この機会を少しでも活かすには、“マッスルメモリー”のスキルを考慮して低いスキルレベルの技術を使うべきだろう。
逆に、相手は上がりきっているであろうスキルを使うと言うことになれば、こちらが一方的に成長できる。
「まあ、ちょっとしたお楽しみということで」
私は煽り返すような口調で言う。
「……失望させてくれるなよ?」
私は傍にあった模擬戦闘用の剣を拾い、構える。初めてリネアと出会った時のようにそれはしっかりと手に馴染む感覚があった。
恐らく剣術スキルがあるおかげだろう。
「ふむ、まるっきりの素人というわけではないようだな」
リディアは言う。しかし顔には余裕の表情。
「では行くぞ!」
その直後、私は仰向けになって地面に倒れていた。
「――は?」
一体何が起こったのかわからない。
起き上がると、どうやら私はリディアの剣をもろに受け後方にぶっ飛ばされてしまったらしい。
(緊急回避が発動しない――?)
「なんだ、剣術に関しては期待外れだな」
リディアは残念そうに言いながら近づいてくる。
(まずい……このままいけばリディアと戦うのは私。彼女の攻撃が私に対して有効だと言うのは予想外だ――)
「フンっ!」
踏ん張り、彼女に対し距離を詰める。
「甘いな」リディアは私の突進を簡単にいなす。
◇◇◇◇◇◇
「はぁ……はぁ……」
しばらくの間、一方的な展開が続いた。
こちらの攻撃は全く通らず。
逆にリディアの剣は面白いように当たる。
――リネアたちもこんな気持ちだったのだろうか。
「どうした?もう限界か」
リディアはこちらを嘲るように言う。
「限界……だと?」
まただ。今日の訓練中にも体験した異常なまでの高揚感。
自分自身の抑えが聞かなくなるような感覚に襲われる。
「……そう来なくてはな!」
リディアは嬉しそうだ。
「うぉぉぉぉ!!!!」
そこから先のことはよく覚えていない。
――ただひたすらに、打ち込む。
打ち込むたび、何倍にもなって帰ってくる衝撃に耐える。
耐えて、また打ち込む。
その繰り返し。
この戦いに終わりはあるのだろうか。そう考える。
終わるとすれば、文字通り体が動かなくなった時だろう。
打ち込む。
また返される。
そしてまた――
◇◇◇◇◇◇
「……アンタどうしたよそれ」
翌日。
私はボロボロの状態で訓練場に姿を表すこととなった。
「か、回復魔術かけますね」
ノエラは簡単な回復魔術も使えるようだ。
「うーん、これ、回復してますかね?」
「……わからん」
「コイツ体力バカだから。普通の回復魔術じゃダメなんじゃない?」
ひどい言われようである。
「それで?なんだってアンタがそんなボロ雑巾みたいになるわけ?」
私は昨晩の出来事を話す。
「……体力バカって言ったのは間違いだったわね」
リネアは残念そうに言う。
「ただのバカだわ。」
「そ、それって団長さんも私たちみたいにユージさんの能力で成長しちゃてますよね!?」
ノエラは慌てている。
「ま、待て!その辺は流石にちゃんと考えたぞ!マスターレベルのスキルはそれ以上上がらないんだよな?それなら――」
そこまで言ったところでリネアが割って入る。
「団長の能力は上がらないとでも?」
リネアは想像以上に怒っているようだ。
「ち……違うのか?」
「考え方はあってるけど、前提が違うわ」
「……前提?」
「そもそも、私も剣術マスターレベルなのよ?団長がアンタに攻撃を当てられるってことは――」
そこまで言われて気づく。
「あ――」
「全く……アンタの世間知らずもここまでくると羨ましいくらいよ」
確かにリネアとの戦闘を考えればリディアが剣術とは別のスキルを持っていることは容易に想像がつく。
「団長は“剣聖”って呼ばれてるのよ。マスターレベルのスキルを究極まで使い込んだ時に起こる上位スキルへの進化を成し遂げている数少ない人なんだから」
「それってスキルレベルは……?」
「1からね。進化スキルをマスターレベルにしたなんて話は聞いたことないから……アンタのおかげで団長が一番乗りになるかもね」
なんと言うことだろうか。こちらは使いもしない剣術を一晩中使い倒して、向こうは大本命のスキルをモリモリ成長させていたようだ。
「まあ悪いことばかりじゃないわ」
落ち込む私を見てリネアは言う。
「剣聖になればアンタをボコボコにできるってわかったから」
これはリネアなりの励ましなのだろうか。
「それに、団長と戦うのはアンタでしょ?しっかり自分で落とし前つけなさいよね。さ、今日もやるわよ」
この辺のドライさはリネアの良いところだなぁと思う。
「そういえばルノアの姿が見えなくないか?」
団長のご好意で施設内の古い建物を宿舎として使用さえてもらっているが、今回はしっかり二部屋用意してもらった都合で訓練後の三人がどうしていたかは知らない。
「あ、それなら――」
ノエラが手を挙げる。
「昨日宿舎に帰った後、『ルノア、ご主人様、たおす』って言ってどこかに行ったきり姿を見ていないです」
ノエラはご丁寧にルノアのモノマネを交えながら説明する。
「流石に施設の敷地外には出てないよな?」
「どうでしょうか……?」「どうだかね」
二人はあまり心配していないようだ。
「心配する気持ちはわかるけど、あの子、アンタが思ってるよりずっと強いわよ?」
リネアは言う。
「教会の襲撃を受けた時もあの子が一番に気配を察知していたし、対等にやりあえるのもこの騎士団にだってそんなにいないんじゃない?」
リネアにここまで言わせるとは、いつの間にかルノアも随分成長していたようだ。
「人の心配する前に、アンタは自分のことに集中しなさい」
リネアにそう言われ、気合を入れ直す。
「よ、よし!やるぞ!」
そうして、今日も訓練に臨むのだった……。
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