第20話「この筋肉、凶暴につき」
## 第20話「この筋肉、凶暴につき」
### 【あらすじ】
模擬戦にむけて各々のスキルを鑑定することになったユージたち。
グラートの持っていた水晶で鑑定した時より圧倒的に多くなっているスキルに驚くも、リネア、ルノアのスキルも強力そうだ。
ノエラにも謎のレジェンダリースキルがあり……。
### 【本文】
模擬戦まであと三日。
訓練は引き続き騎士団施設を使わせてもらえる事になった。
「とりあえず、各々自分のスキルが分かったところで、それを使ってみるところから始めるか」
私はともかく、リネア、ルノアの二人は自分のスキルを自覚した状態で使いこなすのがまずを持っての目標という事になった。
「じゃ、じゃあいくわよ……?」
模擬戦闘用のひらけたエリアに移動し、リネアは訓練用の剣を構える。
“緊急回避”がある私になら、彼女のマスターレベルである剣術を思う存分使うことができるだろう。
「っ……!」
思ったよりも数段早い!
ガルデンの攻撃を彷彿とさせるような勢いのある突進からキレのある斬撃。
やはりすんでのところで躱すことはできるが、何度体験してもヒヤヒヤする。
「やっぱり慣れないわねコレ……」
リネアは自身の感覚と実際の動きのギャップに苦戦しているようだ。
いわゆる、体の性能に頭がついていっていない状態。
「悪いけどしばらく付き合ってもらうわよ!」
そういうとリネアは怒涛の連続攻撃を繰り出す。
まだぎこちなさはあるが、回数を重ねるにつれてどんどん良くなっている感がある。
「ッ!?うおっ!」
その時、一瞬足がもつれて転びそうになる。
今まで緊急回避中にこんなことはなかったのだが――
「調子乗ってんじゃないわよ!」
リネアはその隙を見逃さず攻撃を続ける。
「ヤベェっ……!」
リネアの薙ぎ払うような斬撃は、私の眼前ギリギリを通り過ぎる。
私は“グラサンの男がアイススケートの大技のような動きで銃弾を避けるアレ”のような体勢になっている。
「チッ……これでも避けるのね」
そういうリネアは完全に殺る目になっている
「な、なんだ今のは?」
思わずリネアに聞く。
「あんたの“ソレ”って認識さえできていればその攻撃を避けられるってスキルよね?」
「あ、ああ。自覚はないがそんな感じだ」
「なら、“避け方”までは自分でコントロールできてないんじゃない?」
――図星だ。
このスキルは避けることはできるがその過程までは意識できない。
「その様子だとあってるみたいね。」
リネアは満足げだ。
「だからさっきみたいに攻撃の重ね方で物理的に回避しづらい体勢に持ってくことができるんじゃないかって」
「そ、それって意図的にできるもんなのか?」
「さあ?」
「さあ?ってなぁ……」
「それはお互い様でしょ。私だってここまで動けるなんて思ってなかったんだから。でも結果的に成功。それでも避けられたのは癪に触るけど」
リネアは自身のスキルでどこまでできるか探るためにその後もどんどんと攻撃を繰り出していった。
とうとう私にその剣がとどくことはなかったが、その見事な剣撃の連続に騎士団員の野次馬はどんどんと増えていっていた。
◇◇◇◇◇◇
「はぁ……今日はこのへんにしておこうかしら」
しばらく攻防を繰り返して、リネアが剣を納める。
「お、おう。お疲れ様」
これだけの激闘をしたにも関わらず、終わってみればお互いケロッとしている。
これもスキルの効果なのだろうか。
◇◇◇◇◇◇
「つぎ、ルノアのばん」
「頼むから怪我しないようにな――」
そういった次の瞬間。視界からルノアが消える。
「え――」
そうだ。ルノアは“暗殺術”を取得している。そのスキルを考えれば……。
「危なッ!?」
気づくとものすごい体勢でずっこけていた。
「ご主人様、おそい」
ルノアの声がしたと思うと、また自身の意図に関わらず体がぶっ飛んでいってしまう。
(何が起こってるんだ?このままだとやばいぞ――)
そう思ううちに、だんだんと状況が掴めてくる。
ルノアは恐らくスキルで気配を消し、こちらの死角を狙っているのだ。
だが攻撃の直前で気配が戻るため、物理的にギリギリの状態で緊急回避が発動。
強制的に避ける事で体が飛んでいってしまうのだ。
(ルノアもここまで動けるとは――)
危機察知スキルによるものだろうが、仕組みがわかれば冷静に対応できる。
緊急回避による体の急激な動きに対して受け身を取ってやれば、次に備えることができる。
ルノアに次の一手がなければ問題なく避けることができるはずだ。
◇◇◇◇◇◇
「むー、ご主人様、ずるい」
何度が攻撃と回避をやりとりした後、最終的にルノアが拗ねてしまって模擬戦闘は終了となった。
◇◇◇◇◇◇
いつのまにか、我々の模擬戦闘を多くの騎士団員が囲むようにして見学していた。
中には、団長の精鋭部隊との模擬戦闘を楽しみにしているような声も聞こえる。
「……それで、これは一体?」
私と対峙するように位置取るリネアとルノア。そしてノエラの姿もある。
「このまま一発も入らないまま終わりってのも癪だから、3vs1でやるわよ」
リネアが言うと、騎士団の野次馬たちも待ってましたと言わんばかりに盛り上がる。
「……受けてたとう」
個人的にこういったチャレンジ精神は好きだ。
野次馬たちの熱気に当てられている部分もあるだろうが、個人的にもこのまま終わるのは不完全燃焼だ。
向こうとしてはルノアの攻撃でこちらの体勢を崩してからのリネアの剣撃。
それらにノエラの魔術でバフをかけることでさらに速く、強くするといったところだろうか。
みるみる自分の中の闘争本能が湧き上がるのを感じる。
筋トレ中にハイになった時にしか味わったことのない感覚だが、久しぶりのそれに興奮する。
「ご主人様、かくご」
ルノアが視界から消える――
「フンっ!」
もう慣れたものだ。
緊急回避の動きに合わせて受け身を取る。
「リネアさん!」
ノエラの声が響くと、予想よりも遥かに早いタイミングでリネアの攻撃が繰り出される。
――ノエラの強化魔法の効果か!
「喰らいなさいッ!」
だがこの攻撃もすんでのところで回避。
しかし追撃は終わらない。死角からのルノアの攻撃はタイミングが掴みづらい。
「うおっ!?」
予想外のタイミングで入ってきたルノアにバランスを崩される。
「リネアさん今です!」
ノエラがリネアにさらなる強化魔術をかける。
「わかってるわよ!」
この体勢では回避行動を取ることはまず不可能だろう。それなら――
「ッ――!?」
リネアの剣撃を“パンチ”で迎撃する。
もちろん手加減はしたつもりだが、少し熱が入ってしまったようでリネアを吹っ飛ばしてしまった。
野次馬たちのどよめきが聞こえる。
「リネアさん、大丈夫ですか!?」
「あ、アイツふざけんじゃないわよ!」
リネアが叫ぶ。
「なんだ?まさか俺が黙って攻撃を受けてくれるとでも思っていたのか?」
私は立ち上がり、リネアを挑発する。
そういった認識の甘さは今後の戦闘にも不用だろう。
三日しかないのだ。ここはしっかりと闘争本能の呼び覚まし方を教えるのが良い。
「ッ――!上等よ……!」
リネアも覚悟を決めたようだ。
「ノエラ、一番強力なやつをお願い」
「え、ええっ!?でも……」
「見たでしょ?アイツにはそのくらいやってやんないとダメなのよ。当たったってなんてことないわ。多分」
「うう……わかりました……」
「ルノア、殺す気で行きなさい」
「ん、わかった」
向こうのやる気も十分。それでいい。
「来い!」
お互い限界への挑戦だ――!
◇◇◇◇◇◇
数分後――。
我々は天を仰ぎ、訓練場に倒れていた。
稀代の名勝負に興奮冷めやらぬ騎士団の野次馬たちは、浮き足だって各々の訓練に戻っていく。
「……アレ?」
我に帰ると、今のは大丈夫だったのだろうか?と不安になった。
訓練とはいえ、流石にお互いマジにやりすぎたのでは?
「あーもう!完敗よ全く!」
起き上がると、泥だらけになったリネアが悪態をついている。
「仕方ないですよ……ユージさんの動き、ちょっとおかしいです……」
ノエラもずいぶん頑張ったようで、息が上がった様子でリネアの側にいる。
「ご主人様、つよい」
ルノアは私のすぐ横にいた。相変わらずケロッとしているが、その汚れた姿から戦いがいかに壮絶だったかわかる。
「あー……みんな、大丈夫か?」
「『大丈夫か』ですってぇ!?」
リネアはかなり怒っているようだ。
「アンタが変なスイッチ入れるからこっちも引き下がれなくなったじゃない!なんなのよ全く!」
「す、スマン!俺もそんなつもりじゃ――」
筋トレの時も、気分が乗ると我を忘れて追い込みすぎてしまう性分だったが、異世界にきてこんな形でそれが発動してしまうとは――
これも妙なスキルになったりしてないよな?
「こっちの攻撃は全ッ然当たらないし!そのくせしてガンガン殴ってくるし!見なさいよこの剣!」
リネアが使っていた模擬戦用の剣は柄の部分からポッキリと折れてしまっている。
「し、正直私の防御魔術と強化魔術がなければ、一撃で折れてたと思います。それ……」
「何それ……怖……」
「と、とにかく!皆お疲れ様!ってことで……」
そう言うと、リネアが大きなため息をついてから言う。
「まあ……そうね!めちゃくちゃ腹立つけど、良い訓練になったわ」
「ルノア、つよくなった」
「わ、私も色々試せたのでよかったです……怖かったですけど」
我々は想像以上のポテンシャルを持っているかもしれない。
あと二日、これを極めていけばあるいは、と思わせる訓練だった。
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