第122話「筋肉と女神の使者たち」
## 第122話「筋肉と女神の使者たち」
### 【あらすじ】
リグネリアの街で“癒しの女神”に遭遇したユージたち。
その正体を転生勇者“レイナ”と踏んだ一行は、調査を行う。
そんな中でユージは“女神”としての名声を得ているレイナに危うさを覚える。彼女の無事はこの作戦の外せない目標の一つ。すぐにでもリグネリアを出ようとするが……。
### 【本文】
「もう行っちまうのか?」
作戦三日目の朝。
リグネリアから聖座宮のある聖都へ出発しようと街の出口へ向かうと、冒険者らしき男に呼び止められた。
「はい。商売ですから」
「そうか……もったいねえな。あんな強いのに商人なんか――いや、なんでもねえ。忘れてくれ」
我々はすっかりリグネリアの救世主として有名になっていた。“筋肉の賢者”関係なしでここまで有名になるのはなんだか変な感じだ。
話しかけてきた冒険者の男を含め、数人の見送りを受けリグネリアを発つ。
◇◇◇◇◇◇
街を出発してからしばらくして……。
「ユージさん、前に人が――」
運転席から荷台に顔を覗かせたノエラの知らせを受ける。
「……こっちに用がありそうな感じか」
「用があるのは……こっちかもしれません」
ノエラはゆっくりと馬車を減速させる。
「ユージ、あのローブ……」
「きのうのひと、もどってきた」
減速する馬車から飛び降り前方に出ると、そこにいたのは――
「癒しの女神……さん?」
「馬車、止めないで」
「えっ」
その女性はそう言うと、ノエラに馬車をそのまま低速で進めるように指示する。
「……どこで見られてるかわからないから」
その言葉の意味は、みなまで言わずともわかった。
――我々の予想は、最悪の形で当たっていたらしい。
◇◇◇◇◇◇
我々の馬車に、同乗者が加わった。
「今更だけど、自己紹介するわね。私はレイナ。転生勇者、三神、癒しの女神……そんな感じで呼ばれてる」
彼女はローブを脱ぎ、自分の正体をあっさりと語ってみせた。
彼女の見た目は、馴染みのあるセミロングの黒髪に黒目、現代日本人らしい姿だ。歳も、おそらく私より少し若い、20代後半くらいの年齢だろう。
「ご丁寧にどうも」
リネアはそんな彼女の挨拶にそっけなく返す。
ルノアも警戒状態だ。
ノエラの操る馬車はレイナの指示でどんどんと進んでいく。
「……警戒されるのも無理はないわね。あなたたちは……本当に戦争を止めるために来たの?」
「その言いぶりだと、私たちが聖統国に来ているのも知ってたみたいね」
「ええ……残念ながら。ユウマもコウキも、セラフィアって女もね」
知らない名前がでてきた。セラフィアというのは……誰だろうか。
「話だと、アンタは回復担当でしょ?なんで一人で来てんのよ」
聖統国に捕捉されている……しかし、騒ぎにはなっていない。それどころか、我々が接触したかったレイナが一人で来ている。この状況はどう捉えるべくだろうか……?
「いい……?よく聞いて。あなたたちは誘い込まれてるわ」
その後、レイナから語られたのは、聖統国の思惑。
戦争を起こし、魂を回収して現代日本に帰還せんとするユウマたち転生勇者。
女神教を聖統国に持ち込んだセラフィアという亡命者。
その女性の指示で教皇が殺されたということ。
――我々を、聖座宮で殺そうとしていること。
◇◇◇◇◇◇
「おおかたは予想通りだったわね」
レイナの話を聞いたリネアは、冷静にそう言った。
「ああ……俺たちに気づいていながら騒ぎにならないのはありがたいな」
「ルノアたち、おんみつとくい」
「あなたたち……本当に聖座宮に行く気なの?」
「ああ」
「知らないわけじゃないと思うけど、強いわよ。ユウマもコウキも」
「……別に戦いに行くわけじゃない」
「それは無理ね。あなたたちを殺すために誘い込んでるんだから」
「……一つ聞いていいか?」
「……何かしら」
「俺たちが聖座宮に向かう理由は戦争を止めるためだけじゃないんだ」
「…………」
レイナは黙ったままだ。
「聖座宮には……奴隷として買われた人たちがいると聞いた」
「いるわね。大半はメイドとして働いているわ」
「……その中に、赤髪の、そうだな……彼女に似た人は居ないか?」
私はリネアを見ながら言う。
レイナはリネアをじっと観察すると、口を開いた。
「……そういうこと」
リネアは固唾を飲んで彼女の言葉を待つ。
「いるわ。彼女にそっくり。うちのメイド長よ」
「「メイド長!?」」
リネアと私がハモりながら驚いた瞬間――
「ユージさん!!大変です!!」
ノエラの叫び声が聞こえる。
――ドゴォォォォォォン!!!
馬車が猛烈な衝撃に襲われる。
「なんだ!?」
「ん、敵」
ルノアはそう言うと、馬車の外に飛び出る。
「前方に、武装した人たちがっ!」
「迂回して!戦ったらダメ!」
レイナが叫ぶ。
「今は従うしかないわノエラ!」
馬車は急旋回。進路を変え速度を上げる。
荷台から操縦席に飛び移り、外の様子を伺うと――
「魔術による攻撃です!」
ものすごい勢いで馬車を操るノエラが叫ぶ。
その間にも遠距離攻撃らしい魔術の雨が降り注いでいる。馬車に直撃するものだけをノエラは正確に防御結界で防いでいるようだ。
「大丈夫そうか!」
「はいっ!この程度の攻撃なら……!」
頼もしい限りだ。だが……見る限り、数十人の騎馬兵がこちらを追っている。
馬車を外れた攻撃は地面に落ち――
(なんだあの攻撃!地面が抉れて……こんな攻撃をノエラは馬車を運転しながら防いでいるのか!?)
「ユージ!この速度じゃ私、できることないわよ!」
荷台からリネアが叫ぶ。
「ノエラ、逃げきれそうか?」
「いけます!この子も『任せろ!騎士団の名に賭けて』って言ってます!」
さすが、動物と心を通わせる“神獣使い”。
「ルノア!一旦撤退だ!」
「ん、わかった」
「きゃっ!?いつの間に!?」
私が呼ぶと一瞬でレイナの横に戻ってきたルノア。我々には見慣れた光景だが、レイナにとっては驚きだったようだ。
「飛ばしますよ!!」
ノエラのその言葉を境に、馬車はとんでもない加速をはじめる。
「うぉぉぉ――!?」
おかげでなんとか逃げ切ることはできたが、追っ手を撒き、たどり着いた辺境の村に着いた頃には、私とリネアはすっかりグロッキーになっていた……。
◇◇◇◇◇◇
「うっぷ……気持ち悪い」
たどり着いた村は、以前訪れた場所と同様、かなり廃れた様子だった。
パンデム商会と“癒しの女神”の訪問ということで歓迎を受けた我々は、状況を整理するために情報を交換し合った。
「それで……あいつらは何なんだ?」
「あの騎馬隊、それにあの旗は……聖統国の精鋭ね――って大丈夫?」
「あ、あぁ……ちょっと馬車の揺れで――」
「もう……ユージさん情けないですね!」
「ご主人様、おつかれ」
「ノエラとルノアはいいとして……な、なんでアンタはなんともないのよ……」
「私のスキル、どうせ知ってるんでしょ?私に状態異常は無効よ、無効」
そういうと、レイナは我々にもスキルでの治療をおこなってくれた。
「……おお、すごいな。すっかり治った」
「さすが、“癒しの女神”ってことかしら」
「それで……レイナの立場を教えてくれないか? 勘違いじゃなければ、レイナごとやりにきている感じだった気がしたが……」
「……多分、勘違いじゃないわ」
レイナは、笑いながら言う。しかし、その心情は複雑そうだ。
「私、裏切っちゃったの」
我々が聖統国に来た理由の一つ、孤児院の子供たちの呪いに対抗し得るかもしれないスキルを持つレイナ。
彼女と接触できたのは幸いだったが、彼女が我々の前に現れた理由は、予想だにしないものだった。




