第121話「隣国アスレイド聖統国4」
## 第121話「隣国アスレイド聖統国4」
### 【あらすじ】
王国からの亡命者であり、女神教を王国から聖統国のものにしようとしているセラフィア。
教皇の暗殺に始まり、ユージたちを聖座宮に誘き出そうとしている彼女と、それに同調するユウマたち転生勇者。
ついにその姿を聖統国に捉え……。
### 【本文】
「国境の警備から情報があがりました。『明け方、特別通用関所、大男、商品は猫獣人』と」
ここは聖座宮。聖統国で最も重要な場所。
“三神の間”、その最奥、中央の玉座に座るのは転生勇者のユウマ。
その両脇には同じく転生勇者のコウキとレイナが座る。
「……本当に来たね」
ユウマはその空間の中央で跪拝する女性、王国からの亡命者であり、女神教宣教師のセラフィアに言う。
「勇者と魔術師の少女の情報が足りておりませんが……おそらく同行していると思われます」
「……で?どうすんだ?俺が行ってとっとと殺してくれば良いのか?」
コウキは言う。まるで敵ではないと言った様子だ。
「いいえ……恐れながら、ここ聖座宮まで誘き出すのが得策かと」
「……理由を聞こうか」
「無礼を承知で申し上げます。あの男は――異常なのです」
「……SSランクを殺ったって話だったよね」
「はい。ですから、なるべく懐に潜り込ませてこちらに有利な状況で戦うべきです」
「なるほど、筋は通ってるね。彼らは……確か戦争を止めるためにここに向かってるんだよね?」
「その通りでございます」
「ふーん、交渉でもするつもりかな」
「おそらくは……もとより好戦的な男ではないと聞いております」
「じゃぁ、ここまで引っ張り出して――交渉に応じるふりをして殺すのがいいか」
「ご慧眼かと。それに――」
ユウマの言葉に同調するセラフィアは、突然顔を上げ、レイナを見る。
「先に対処するべき“問題”もございます」
一瞬の静寂。
その場にいる誰もがセラフィアの発言の意図を理解できない。
「“問題”って?」
静寂を破ったのはユウマ。
「この作戦は、“三神”である皆様の結束は不可欠……わたくし、昨晩はリグネリアという街におりました」
セラフィアは不敵な笑みを浮かべる。
「なっ……!」
その言葉に驚いたのは傍に控える国営補佐官の男。
「へえ、勝手にここを出たんだ。監視は何をしてたのかな?」
「そんな……監視は常につけておりました!何も異常は――」
「そこで、運悪くオークの大群の襲撃に遭ったのです」
セラフィアの続ける言葉に、国営補佐官の男も黙ってしまった。
「……オークの大群?それで?」
「オークたちはなんとか退けられたようですが、多くの怪我人が出ました。わたくしとて聖職者の端くれ、治療するべく戦った勇敢な国民のもとに向かおうとしたのですが――」
レイナは息を呑んだ。
(どうして……?その場にいたなら加勢した“筋肉の賢者”たちに気づいているはず……!どうしてそのことを言わないの?)
「わたくしの加勢は不要でした」
セラフィアはその不敵な笑みをレイナに向ける。
「“癒しの女神”、レイナ様がいらっしゃったのですから」
“三神の間”に緊張が走る。
誰もが思索する。
このセラフィアの発言は――ただ事では済まない。
「お、おい!なんだよ、別に良いじゃねえか。国民を救った。そうだろ?ユウマ」
「…………」
ユウマは黙ったままその表情を曇らせる。
「その高貴な身分をお隠しになって、国民のために尽力なされる姿は大変お美しくございました。話では国中を回って病気や怪我の治療、時には飢餓に対処するべく食料の施しまで――」
「やめて!!!!」
セラフィアの言葉をレイナが遮る。
「その話、本当?」
ユウマが言う。その言葉には、明確な懐疑が宿る。
「違う……違うのユウマ」
「否定しないんだね」
「おいおい、どうしたんだよ!別に大したことじゃないだろ――」
「お前は黙っていろ!!!」
ユウマが激昂する。
「僕、言ったよね?“救わない選択”をするって」
ユウマは立ち上がる。そのまま“三神の間”を歩き回るようにして続ける。
「おかしいなとは感じてたよ?王国がやばいとわかってから辺境へ“救済”を与えるのをやめていたのに――」
「飢餓、病気、土地だって立ち所に痩せていったはずだ。死人も出ただろう。それなのに――」
ユウマはレイナの前で立ち止まる。
「増えなかったんだ。“魂”が」
レイナは怯えた様子で顔を伏せている。
「レイナのせいだったんだね。“三神”である君が“救う選択”をしてしまったら“魂”は獲得できない」
「それは……」
「なんだ!?聞こうじゃないか」
「っ……」
レイナは絞り出すような声で続ける。
「それは……王国が壊滅しそうだから、そうしたって話で……王国が、大丈夫だってわかって、王国と戦争になれば……わざわざ国民から“魂”を回収する必要は――」
「それを判断するのはお前じゃない!!」
ユウマの叫びが“三神の間”に響く。
「……レイナ、どうしてだい?どうして僕に黙ってそんなことを――」
「…………」
「答えてよ」
静寂。ユウマの発する圧倒的な圧に、誰もが萎縮している。
「裏切ったんだね」
「そんな……!私そんなつもりじゃ――」
「最近、めっきり相手してくれなくなったもんね。夜に訪ねても不在、不在、不在……何をしてるのかと思ったら――」
「ユウマ様!恐れながら、“国営補佐官”として助言いたします」
口を開いたのは国営補佐官の男。
「レイナ様の行動はあながち間違いではないかと、国民は“癒しの女神”の施しを支持している可能性が高いです。それは万が一戦争になった時の士気に大きく影響を――」
直後。
「えっ……」
レイナが唖然とした様子で言う。
――ドサッ
糸を切ったかのように、国営補佐官の男が倒れた。
「嘘……」
ピクリとも動かなくなった男。
「なんで……どうして……?」
レイナは顔面蒼白で口を抑えながら言う。
「裏切り者の肩を持つやつなんかいらないよ。それに――」
ユウマはセラフィアを見る。
「ついこの前来たばっかりのこいつの方がよっぽど使える。戦争の火種を一瞬で作り、僕たちの勝利のお膳立て、そして――」
「裏切り者を見つけた」
「ユウマ、さすがにその辺にしとけよ」
「……なんだコウキ、君もああなりたいのかい?」
ユウマを止めようとしたコウキだったが、その言葉に黙るしかない様子だ。
「僕だってこんなこと言いたくないよ?でも、僕たち三人は元の世界に帰るためにこれまで頑張ってきたんじゃないか」
「それを邪魔するようなこと、“仲間”ならするはずないよね」
(どうしよう……このセラフィアって人、私を陥れてユウマに取り入ろうとしてる……私に代わって、“三神”のポジションに立とうとでもしてるの……?)
「恐れながら、ユウマ様」
「……何?」
「レイナ様は……確かに――ユウマ様に黙って勝手な行動をなさっていたかもしれませんが、その忠誠心をそれだけで断ずるのは早計かと」
「もったいぶらないで何か考えがあるなら言いなよ」
「……レイナ様、ユウマ様からの信頼、取り戻す術があるとしたら、その方法はすでに手中にあるはずです」
(……間違いない。この女、私を嵌めたのね)
「レイナ、チャンスをあげるよ。セラフィアの言う通り、僕の信頼を取り戻してくれたら、今回の件はなかったことにしよう」
「僕だって、君のことが大切なんだ。“失いたくはない”」
(……ユウマ、私のことも……本当に裏切ったら――)
「わかったわ」
レイナは意を決した。
それは、異世界にきて変わってしまった男。
人の死を“手段”として割り切ってしまった男。
そして――恋人“だった”男との決別。
それに同調しきれなかった己の意志との対面。
「私が――“筋肉の賢者”たちをここに連れてくる」
レイナはそう言って、“三神の間”を後にする。
「ユウマ……良いのかよ」
「何がだい」
「おいおい……俺たち、ずっと一緒にやってきたじゃねえか」
「そうだね。で?それがどうしたの」
「お前……やべえぞ。ちょっと休んだ方がいい」
「…………」
「泣くぐらいなら止めろよ」
ユウマは何も言わずそのまま“三神の間”を去る。
「チキショウ……なんでこんなことに」
コウキは言う。
「テメェ、俺たちを嵌めようってんなら容赦しないからな」
「滅相もございません」
セラフィアはさらに深々と跪拝する。
「チッ……気色悪りぃ女だな」
そう言いながらコウキも去って行った。
◇◇◇◇◇◇
(怖っわ〜!!!!)
その後、一人残されたセラフィア。
(まさか国営補佐官殺すとは思わなかったわ!やばすぎるでしょあいつ!今の状態なら私もミスったらぶっ殺されかねないわね……)
(これ、このままでいいのかしら?)
セラフィアは地面に突っ伏した男の亡骸をつつく。
(まぁ、いいか。相変わらずちょろいわねユウマくん)
(なんか欲求不満みたいだったし、精神状態も不安定っぽかったからね。今行けば案外コロッと落ちるかも)
(せっかく人間の体もゲットしたことだし、ちょっと楽しんじゃおっかな)
セラフィアは立ち上がり、ルンルン気分でユウマの部屋へと向かう。
(このままうまく行けば、女神教は聖統国で奇跡の復活!)
(偽物の女神には死、あるのみ……ね)




