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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第25章「聖統国決戦」前編

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第119話「筋肉と癒しの女神」

## 第119話「筋肉と癒しの女神」


### 【あらすじ】


 聖統国のある村で情報収集に成功したユージたち。

 

 聖統国は戦争のために、辺境の村や街を見限っているようだ。そんな孤立無援の人々からの願いも背負い、一行は進む……。


### 【本文】


「ユージさん、そろそろ替わりますよ?」


 村を出てからさらに半日の移動で夜になった。


 野営をしたいところだが時間が惜しい。リネアは荷台でお休み中。ルノアも私の膝でぐっすり寝ている。


「ルノアを起こしちゃ悪いし、ノエラももう少し休憩しててくれ」


「……優しいですね。相変わらず」


「いや、これは普通だろ?」


「フフ……そうですね」


 ノエラは王都のモンスター事件以降、かなり自信をつけたようだ。こういったコミュニケーションでも、その心境の変化が読み取れる。


「ユージさん……一つ聞いてもいいですか?」


「あ、ああ。なんだ?」


 そんなことを考えていたら、ノエラは改まった様子で聞いてきた。


 な、なんだか嫌な予感が――


「リネアさんと……何か、ありましたよね」


「…………何のことだか」


「やっぱり!リネアさん最近――というか、出発の朝からユージさんに対してだけおかしいですもん!」


 じ、自信をつけたのは結構だが、察しの良さがマルティナに寄ってないか……?


「ほ、本当に何でもないぞ!ただ少し親密度が上がっただけだ!」


「ふ〜ん、親密度、ですか――」


 ノエラがジト目でこちらを見る。


「怪しいですね……出発前の夜、リネアさんと何をしたんですか?」


 あ、ああ……!何と言うことだ!マルティナの察しの良さとノエラの無垢さがコラボレーションしてとんでもないピンチを生み出している!


「い、いや!別に特段変なことはしてないぞ!普通に――」


 そこまで言って、言葉に詰まってしまった。


 あの夜のリネアのことを思い出すと――


「普通に、何ですか?」


 ノエラがずいっとこちらに乗り出す。


「え、え〜と……それは、だな……」


 どう逃れればいいか必死に考えていると――


「ん〜ねごこちわるくなった」


 膝で寝ていたルノアが目を覚ました。


 ――この状況はマズい!

 

「すまん!やっぱり替わってくれノエラ!」


 私はそう叫んで馬車を止めた。


「あっ!逃げないでくださいよ〜!」


 ノエラは不服そうに言ったが、渋々御者の席につく。


「ご主人様、へんなの」


 ルノアは何が何だかと言った様子。安眠を妨げてスマン……。


◇◇◇◇◇◇


 私が荷台に移動してしばらく経った。


 ノエラの操縦で馬車は着実に聖座宮のある聖都へと向かっている。


 周囲の警戒はルノアが。目の前では偽装用の商品に紛れ込ませたシーツとクッションで眠っているリネア。


(さっき色々思い出しちゃったから気まずいな……)


 そんなことを思いながらもリネアをじっと見てしまう。


 お互い初めての経験を共有し合った夜。


 一番のパートナーとして、彼女を守ろうと誓った夜。


 自分の覚悟を再確認しながらこれまでのことを思い出していたら――


 いつの間にか眠ってしまっていた。


◇◇◇◇◇◇


「アンタ、いつまで寝てるのよ?」


 リネアの声がする。


 気がつくと、日が昇っていた。


「あ、朝か……?」


「朝っていうかもうほとんどお昼です。ユージさん、私のこと言えないじゃないですか」


 ノエラが座席から荷台を覗く。


「ご主人様、おねぼう」


「す、すまん!緊張が解けて――」


「いいわよ、私たちが起こさなかったんだから」


 リネアは存外怒っていないようだった。


「あ!やっぱり!リネアさんいつもだったらユージさんのこと怒ってますよね?」


「え?あ……いや、その――」


 珍しくノエラにたじたじなリネア。


「リネア、ご主人様にやさしくなった」


「ルノアまで……!」


 リネアはその後しばらく二人にいじられ続けた。なんか、だいぶ砕けた間柄になってきたな……!いいことだ……。


「アンタも黙ってないでなんか言いなさいよ!」


「お、いつものリネアに戻った」


「うっさい!」


 リネアが調子を取り戻したところで、ノエラがあることを知らせる。


「そうだ……ユージさん。リネアさんに起こしてもらったのは相談があったからでした」


「ん?何だ……?」


「外、見てください」


 そういえば、馬車が止まっている。何があったのだろうか――


「な、何だあれ!?」


 高台に停めた馬車の外を見る。


 目に飛び込んできたのは大量の……本当に何だあれ!よく見てもわからん!だだっ広い平原に、巨大な……豚型の人間?オークの群れって感じか……?


「こっちには目もくれず、さっきから大群で向こうに向かってるのよね」


「……人里に向かってるって可能性は――」


「可能性っていうより、確実にそうね。あの量はもしかしたらダンジョンから漏れ出てる可能性もあるわ」


「……行くしかないだろ」


「そうね。アンタならそう言うと思ってたわ」


「わ、私も賛成です!」


「ん、わかった」


 ルノアはそう言うと、短剣を抜く。


「な、何だそれ!?」


 そのルノアの短剣を見るや否や私はびっくらこいた。どす黒い光を放つ短剣。その黒は禍々しさを通り越して美しさすら感じて――


「とてもかっこいい。カイルにおそわった」


「え?うん……そうなのか」


 私が納得する暇も与えずにルノアは一瞬で姿を消した。その直後――


 ――ブッモォォォォ!!!


 オークのものらしき断末魔が聞こえる。


「マジで何だあれ!?」


 オーク一体は黒い炎に巻かれて消滅した。


 そしてもう一体、また一体と、真っ昼間の明るさに負けず“夜”を想起させる炎が舞う。


「私たちも行きましょう!」


 ノエラはそう言うと馬車を全力で走らせる。


「先に行くわねっ!」


 リネアはそう言いながら馬車を降り駆け出す。


「ハァァッ!!」


 凛々しい叫びと共に鋭い斬撃音が響くと、数体のオークがまとめて両断される。


「私たちは先に行きましょう!」


 リネアとルノアに気づいたオークたちは任せて大丈夫だろう。先に進んでいくオークたちを追い、この大群の目的地を突き止める。


◇◇◇◇◇◇


「何なんだよ!?なんでこんな量のオークが……!」


「あきらめないでください!ここが破られれば、街は――」


「ぐあぁぁぁ!!」


「マズい!一人やられた!」


「下がってください!私が回復すれば大丈夫です!」


「そうは言ってもよ!このままじゃ……」


 ここは信仰と商業の街“リグネリア”。


 “三神”への信仰と、近くにあるダンジョンの資源で栄える街だ。


 そんな街の入り口、大挙するオークの群れ。


 門番の兵士たちと滞在していた冒険者たちが応戦している。


 その戦場で一際存在感を放つのは、魔術師のローブを深く被った女性僧侶。


 彼女は傷ついた人を一瞬で治す。


 魔術のようであるが、杖も持たぬ彼女の“奇跡”にも似た治療。


 戦場にいる者たちは彼女を“癒しの女神”と呼ぶ。


 ――それは聖統国の生ける伝説。


 しかし、彼女の力を持ってしても戦況は最悪だった。


 無慈悲な斬撃音が響く。


 不快なドサっと低い音がする。


「だめっ……!」


 女性はその音のもとに駆け寄るが、オークの持つ斧の攻撃を“首”で受けてしまった軽装の冒険者は、もう助からない。


 “癒しの女神”の奇跡も、死者には届かない。


「あっ!おい……!前に出たら危な――」


「……あっ」


 気づいた時にはもう遅かった。


 オークが斧を振りかぶっている。


 狙いは――


 癒しの女神の脳天。


 見上げると、ちょうど一番高く昇った太陽と、オークの斧が重なり、彼女の顔に影を落とす。


「……いや――」


 その瞬間。


 物凄い衝撃。何かが高速で通り過ぎたかのような――


 直後、水しぶきを感じる。


 オークだ。いや、正確にはオーク“だったもの”から発された。


 オークの上半身が消し飛んでいる。


「……え?」


「ユージさん!行きますよ!」


「おうっ!」


 直後、聞こえた少女と男の声。


 ――ビュォォォォッ!!!


 再び何かが高速で飛来する音。


 ――バシィッ!


 腰が抜けて立てなくなった“癒しの女神”を飛び越しながらその飛来物をキャッチしたのは――


「ひ、人……!?」


 オークとは別の意味で巨大な男。


 スーツスタイルの見事なフィット感の衣装に身を包んだ大男。空中で掴んだのは中央に魔水晶が装着された巨大な大剣。


 まるで、その大男に向かって“落ちてきた”かのような挙動をする剣。中央に嵌め込まれた魔水晶は美しく紫色の、太陽に負けぬ輝きを放っている。


 男の反対側、村の入り口にはこちらもまるで社交会にでも行きそうな立派な衣装に身を包んだ少女の姿が。


 ――魔術師だ。その手には杖が握られている。


「軽くしてくれ!」


 男が叫ぶ。


「はいっ!」


 魔術師の少女はそれに応えるように、何かを唱える。


 ――そこから先は、まさに圧巻のショー。


 大剣を持った大男は、まるでこの世の仕組みを操るかのように……美しく舞い、オークを殲滅していく。


 それをサポートする魔術師の少女は、男と呼吸をピッタリ合わせ、男の大剣に魔術をかける。


 理屈はわからない。だが――


 そこにいるもの全てが、彼らの戦いの虜になっていた。


(あぁ……こんな形で出会ってしまうなんて)


 癒しの女神はかぶりを振った。


 彼女は知っている。この男たちが何者か。

 

 オークを殲滅し、皆から称賛を受けるこの男の正体を。


 その男をサポートし、見事な魔術を披露した少女が何者かを。


 その後、後続のオークを殲滅し合流した赤髪の女剣士と、猫獣人の少女の異名を。


 聖統国、女神教の思惑によって誘い出されたこの恩人たちは――


 殺されるために、ここに呼ばれたのだと。

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