第118話「筋肉と見捨てられた村」
## 第118話「筋肉と見捨てられた村」
### 【あらすじ】
様々な目的を胸に、ついに聖統国入りを果たしたユージたち。
目的地は聖統国で最も重要とされる“聖座宮”。
そこを目指す道中、彼らはとある村に通りかかり……
### 【本文】
ノエラと御者を交代してから数時間経った。
時おり積荷に紛れ込ませた食料やプロテインを補給して進む。ルノアは私の膝でまた眠り始めてしまった。時折頭を撫でてやりながら馬車を操る。
「ねぇ、あれ」
リネアが指差した方向を見ると、何やら家らしき建物が見え始める。建築というよりは木や土で固めて建てられたような、かなりお粗末な作りではあるが……。
「村、か……?」
馬車を止める。
目立つのを避けるには当然、こういった人里は避けるべきだろう。だが、このまま仮に聖座宮にたどり着いたとして、「はいどうぞ」と通してもらえるはずもない。
「どうする?私たちの作戦、ここから先はほとんど白紙よね」
リネアの言う通り。
五日というタイムリミットから聖統国へ“入るための作戦”を考えるので精一杯だった。
ここから先は完全にアドリブで行くしかない。
「……行こう」
私は意を決して馬車を進める。
「ひとまず、パンデム商会だってことにすれば騒ぎにはならないかしら」
「ど、どうだろうな……普段パンデム商会がどうやって商品を売り回っているかによるだろ」
「……またギャンブルね」
我々は踏み固められた平原の道を進み、村の入り口へと馬車をつけた。
◇◇◇◇◇◇
「……誰も来ないな」
入り口で待ってみること数分。
日は昇り始めているが誰も来ない。
というより……誰もいない。
「人、住んでるわよね?ここ……」
リネアが不安そうに言う。
「とりあえず入るか。門番とかもいないみたいだし……」
ゆっくりと馬車を進め、村の中に入る。
――ガラガラガラ……
家々の合間に馬車の音が虚しく響く。
作物を育てていたような痕跡はあるが、そのほとんどは枯れて朽ちてしまっている。
畑も干上がり、そもそもどうやってこの場所で作物を育てたのかわからないぐらいだ。
そんな村をしばらく進むと、村の集会所と思しき少し大きめの建物の前に来た。
「あ、あれ……」
リネアが見る先にいたのは――
「人……おばあさんだな」
集会所の前でのんびり散歩気分のおばあさんが。
第一村人発見だ。
「……むむ」
おばあさんはこちらに気づくと――
「しょ……」
「……しょ?」
「商会じゃ!!!」
「……えぇ!?」
「商会の馬車が来おったぞぉぉ!!!」
その見た目からは想像もつかない大ボリュームで我々の訪問を村中に伝えた。
◇◇◇◇◇◇
「ま、まさか商会がここまで大人気だとはな……」
状況を整理しよう。
我々が遭遇したおばあさんの一声で、村中から住人が集まってきた。
その数二十から三十人程度。高齢者が多く限界集落もいいところであるが、ともかく集まった。
「これは今朝取れた鶏の卵だ……!」
「はいはい。いくらですか?」
そして今、我々は彼らからいろいろなものを買っている。誰が着るんだかわからない服や謎のアクセサリー。そして鶏の卵。
「あ、ありがとうございます!!これで次の納税も乗り越えられます……」
住民が言うには、こうしてパンデム商会の馬車は通りがかりの村で商品の仕入れをしているらしい。
こんなことを言ってしまっては大変失礼だが、利益になりそうなものには見えない。一体どうやって採算をとっているのだろうか……。
「では……こちらに。いつもの通り大したおもてなしもできませんが、ここいらの情報を聞いていってください」
一通り住民たちとのやりとりを済ませると、一人の老婆がそう言って我々を集会所らしき建物に案内した。
ここも例に漏れず随分と歴史を感じる建物だったが、急いで用意されたお茶菓子から我々が少なくとも歓迎されていることは分かった。
「……なんかすみません突然来てしまって」
「何を仰いますか!パンデム商会は我々庶民の希望……! こうして立ち寄ってモノを買っていただけるのがどれほど貴重か――」
その老婆は頭を深く下げる。
「それで……いよいよ始まるのですね」
そのままの姿勢で、老婆は言う。
声のトーンが一段下がった。
正直なんの話かさっぱりわからないので黙っていると――
「前回、訪問された商会の方が申しておりました。『大剣を背負いし大男来る時、聖統国は変革を迎える』と……」
前回……ってことは本物のパンデム商会の馬車か……“大剣を背負った大男”は私のことだよな……。
「長きに渡り我々の嘆願を退けてきた聖統国に、もはや期待している者はこの村におりません」
「じゃあ……聖統国のこと、色々聞いてもいいかしら」
リネアが言う。
「はい。何なりと聞いてください」
これは……パンデム商会の根回し、だろうか。
私が商会で“マスター”と会ってからしばらく経っている。それに、リネアの母親が聖統国にいると言う情報も、向こうのタイミングで知らされた。
もし“マスター”がこの作戦の成功を望んでいるなら……我々が聖統国で動きやすいようにしてくれているなら……?
◇◇◇◇◇◇
「色々聞けたわね」
その後、リネアと老婆はしばらく情報交換をしたのち、お互いにお礼を言い合って村を出発した。
「ああ……パンデム商会はこうやって聖統国の情勢を仕入れてたんだな」
聖統国について分かったことは色々あるが、まず一番大事なのは「聖統国の財政は“聖都”に一極集中している」ということ。
聖座宮を囲うようにして繁栄する“聖都”。
痩せた土地の多い聖統国のリソースが一極集中しているその場所は、ここからあと一日ほど馬車で移動すれば辿り着けるという。
「……かなりギリギリで生活してるって感じだったな」
「……多分、意図的にそうしてるのかも」
住民たちの聖統国に対する印象ははっきり言って悪かった。
「“救済”が打ち切られたって言ってたよな」
「ええ。“三神”、転生勇者でこの国の頂点。ユウマって男が定期的に人里にもたらす“救済”ってのがあったそうよ。土地を豊かにしたり、天気を操ったりって話ね」
「それが止まったって……」
「もちろん、戦争の準備と関係あるはず」
「そうだよな……グラートの話じゃその“救済”もユウマのスキルで行われているはずだ。戦争に備えて“魂”の消費を抑えてるってわけか」
「……多分、あと数ヶ月も持たない……と思う。あの村。食べるものだってもうそんなに多くは――」
リネアの表情は村を出てからずっと暗いままだ。
「大丈夫だ。俺たちが五日でなんとかしよう」
「……助けてくれって頼まれちゃったものね」
「断れないだろ……さすがに」
「……そうね。アンタらしいわ」
リネアは笑う。
「私も、アンタのそういうところに助けられたんだもの。他の人にするな。なんて言えないわ」
「は、恥ずかしいこと言うなよ」
「……イヤ。だって本当だし」
今朝から本当にリネアの本音が聞けるようになった。嬉しい反面、かなり恥ずかしいな……!
いつの間にか起きていたノエラとルノアはそんな我々の初々しいやりとりを荷台で聞いていたらしい。
それに気づいたリネアは顔を真っ赤にして悶絶した。
いや別に、二人に聞かれるのはもういいんじゃないか……?
そんなリネアの様子を眺める。
日はすっかり昇り、先ほどの村の様子とは対照的な輝きを放つ。
情報は手に入った。
この作戦を成功させるための“ある予感”もある。
タイムリミットまで、あと四日と半日。




