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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第25章「聖統国決戦」前編

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第117話「筋肉と旅立ち」

## 第117話「筋肉と旅立ち」


### 【あらすじ】


 ついに作戦に必要なものが揃った一行。


 そんな中、ユージはティナに「覚悟」を問われる。仲間を守るためにはどんなこともする。そんな歪みすら感じる覚悟を胸に、聖統国入りを目指す……。


### 【本文】


「それじゃ、覚悟はいいっすね」


 ティナの案内で、聖統国へと繋がる関所へと案内された我々。


「正面から行くって訳じゃないのね」


 そこは関所の正面口からやや離れた小さめの門。


「当たり前じゃないっすか。パンデム商会の馬車は特例中の特例。正面は通らないっすよ」


 ティナは続ける。


「いいっすか?ここを通ったらもうウチらは全く手が出せないっす。あくまで“何も通らなかった”ってことになるっすから」


「……黙認って話でしたもんね」


「皆さんが偽物だとバレれば、それは――」


「すなわち、戦争の始まりね」


「そうならない事を祈ってるっす」


 ティナはそう言うと、未だ少し不安げな様子で業務に戻る。見送りなどはなく、ただ“いつものこと”のように、その分厚い扉を開ける。


◇◇◇◇◇◇


「おい、“特別通用関所”が開いたぞ」


 聖統国側、国境警備の詰所にいた二人の兵士のうち一人が言う。


「あぁ……? そんな予定あったか」


「いつものことだろ……お貴族様がまた気まぐれで奴隷をお買い求めなんだ。お前が行ってこいよ?」


「ちっ……俺が負けた時に限って面倒ごとが起こりやがるな」


 兵士たちがいる詰め所の机には絵柄の書かれたカードが散乱している。おそらく賭け事か何か。その結果で仕事をする者を決めているのだろう。


 ――数分後


「おい、来てくれ」


 検問に行ったはずの兵士はすぐに戻ってきた。


「何だ、問題か」


「いや――問題はない。だが……」


「だが、どうした?」


「デカいんだ」


「は?」


「ものすげー大男なんだよ! それにバカでかい大剣を背負ってやがる。ありゃとんでもない用心棒だ!」


「バカ言ってないで仕事に戻れよ。パンデム商会の紋章は確認できたのか?」


「ああ。商会長直属を示す意匠も付いてやがったぜ」


「何ともそりゃ大事だな。商品は?」


「服のサイズを間違えた猫獣人の子どもが一人」


「一人ぃ?そりゃ怪しくないか――」


「いいや、ありゃ超高級品だぜ。馬車を引いてる馬もとんでもねえ」


「……そんなにか」


「ああ!ひと目見た瞬間わかるぜ!」


「お前の目利きじゃ信用ならんな」


「ならアンタが見に行けよ!」


「賭けに負けたのはアンタだろ? それに、商会への詮索はタブーだ。紋章が本物なら……とりわけ商会長直属なら通せ。あまり待たせるな」


「わーったよ。相変わらずつれねぇな」


 兵士は文句を言いながら詰め所を後にする。


「相変わらず鬱陶しい奴だな……まぁ報告してくれるのは良いことだが……」


 兵士はそう言いながら机の端にあった紙に汚い文字で書き殴る。


『明け方、特別通用関所、大男、商品は猫獣人』


「全く……何でったって“通った者を全て記録しろ”なんて指示が飛んだんだ?」


「そう言うなよ! 今更仕事の一つ二つ増えたくらいで」


 検問から戻った兵士は言う。


「まぁそうなんだが……“三神”サマは何を調べてるんだろうな?」


「まさか今通った大男のことを探してたりしてな!」


「こ、怖いこと言うなよ……それに、そんな目立つ特徴あるんだったら俺たちに知らせてるだろ」


「それもそうだな……じゃ、続きやろうぜ」


 そうして兵士の二人は机に向かう。


 彼らのこの緩さが、人知れず一つの戦争を回避する一助となったことは、神のみぞ知る事実である。


◇◇◇◇◇◇


 明け方


「な、何とか通れたな」


 我々は馬車に揺られ、聖統国の平原を移動中。


「アンタ、嫌に注目されてたけど」


 眠そうなノエラに代わり、私が馬車を操り、隣にリネアが座っている。


「そうだな……肝を冷やした」


「ま、何事もなく通れたならそれに越したことはないわね」


 正直、かなりリスクのある作戦だったと思う。


 御者役のノエラにはコートのフードを深く被ってもらい、リネアは荷台の雑多な荷物の中に隠れてもらった。


「パンデム商会の馬車は“詮索不可”ってのは本当だったな」


「……アンタとルノアがいれば騒がれる前に無力化することはできたと思うけど」


「さ、さすがに初日の朝に暴力沙汰はまずくないか?」


「冗談よ、冗談。とりあえず、何事もなく聖統国に入れたことを喜びましょう。それで次は……」


 リネアはティナからもらった地図を広げる。


「この地図、ほとんど地形のことしか書いてないのよね。『ただでさえ国境封鎖してるのに、詳細な地図なんてあるわけないっす!』ってティナさんは言ってたけど……」


 リネアはティナの真似をしながら言う。とても可愛いなぁ。


「まぁそれに関してはしょうがないだろ。目的地は聖座宮。方角はわかっているんだ」


「そうね……」


 リネアは何か引っ掛かっているような様子で言う。


「な、何か気になるなら早めに言ってくれよ」


 私がそう言うと、リネアは荷台に身を乗り出し中を確認する。


「よし……寝てるわね」


 リネアは小声でそう言った。どうやらルノアとノエラは荷台で寝ているらしい。でもなんでわざわざ確認を……?


「……昨日の夜のこと――」


 あ、そういうことか。確かに子供に聞かせる話じゃないなって――なんだか子持ちの夫婦みたいだな。


「あ、ああ。なんだ?」


「もし……上手くできてなかったら――言ってほしい……かも」


 リネアは伏せ目がちにいう。


「……え!?いやいや!どうしてそんな――」


「だって……今朝ティナさんとあんな……」


「いや違うぞ! あれはティナが勝手に」


 私は必死で否定するが、リネアは「納得いかない」という表情でこちらを見る。


(ず、ずいぶんストレートに感情を見せてくるようになったなぁ……)


 嬉しい反面、こういう場面ではどうすれば良いんだ……?


「じゃ、じゃあリネアもいいぞ」


 私は膝の上を叩く。


「は……?」


 ――どうやら違ったらしい。


「ん、じゃあルノアがすわる」


「「うわっ!?」」


 その瞬間、いつの間にか起きていたルノアが私の膝にシュバっと入り込んできた。


「い、いつの間に……っていうかもしかして聞いてた?」


「リネアはご主人様をまんぞくさせたい」


「いやそれ意味わかって言ってる?」


「うん」


 ルノアは自信満々に言うが、多分わかっていないと思う。そ、そうだよな……?ルノア……!


◇◇◇◇◇◇


 ――こうして、我々は聖座宮を目指す。


 明け方の空。朝日が上る方角から進むべき道を選ぶ。


 もう後戻りはできない。


 タイムリミットは、今日を含めあと五日だ。

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