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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第24章「国境へ」

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第114話「筋肉と東国境警備局長」

## 第114話「筋肉と東国境警備局長」


### 【あらすじ】


 国王から“五日”の猶予をもらったユージたち。


 東のアスレイド聖統国との国境を警備する東国境警備局への転移門をくぐると、そのさきに待っていたのは――


### 【本文】


「な、なにごとっすか!?」


 眩い光に包まれた我々。そんな叫び声が消えたかと思うと、光が徐々に和らいでくる。この感覚は魔術による転移のお決まりだ。


「お、おぉ上手くいったみたい……だな?」


「ここが“東国境警備局”?意外と古い建物ね」


「歴史を感じます……!」


「ルノア、ここすき」


「む、無視しないでくださいっす!」


 そ、そういえば転移中に誰か知らない人の声が聞こえたような……。


 辺りを見回すと、そこにいたのは、騎士団の制服を着た……これは、獣人さんか?


「す、すみません無視するつもりは――」


「この転移門をくぐって来たってことは、王国の関係者っすね?転移門の試運転とかっすか?」


 あぁ、そうか。この世界は通信技術が発達してないから、王都で起こったことがまだ伝わってないのか。


◇◇◇◇◇◇


「せ、戦争っすか!?」


 我々は落ち着いて、その騎士団の獣人さんに王都で起こったことと、我々がここに来た理由を伝えた。


 それを聞いた獣人さんは、それはもうびっくらこいてしまった。キュートな尻尾の毛は逆立ち、ピンと張っている。


 これは……犬の獣人さんってことだよな。さしずめ“犬のおまわりさん”って感じか。


「ご主人様、みすぎ」


「ぐえ」


 まじまじとみていたらルノアに怒られてしまった。獣人同士の対抗意識……?


「も、もうしわけないっす。取り乱したっす」


 フウと息を吐き落ち着いた獣人さんは、その後丁寧に挨拶をしてくれた。


「ウチは東国境警備局、局長のティナっす。まさか王都で有名な特務戦力、“筋肉の賢者”様ご一行とは、失礼したっす」


 きょ、局長さんか!それって割と重要な役職なんじゃないか?それこそ“西壁”ガドルと同じくらいの――


「いえいえ、お気になさらずに。突然押しかけたのはこっちですから」


「まさか、急ごしらえで作った転移門がこうも早く役に立つとは思わなかったっす」


 ティナは呼び出した騎士団員にお茶を入れて来るようにお願いした。


 ……ホントにここのトップなんだな。なんというか――正直なところ、かなり若く見えるしその軽めのノリから若干の違和感を感じる。


「考えてること、わかるっすよ」


「え!?あ……何ですか!?」


「ウチ、一応第四隊隊長っすからね」


「な、何も言ってませんが……」


「あんた、わかりやすすぎるのよ」


 リネアに小突かれた。そ、そんなに顔に出てただろうか……。


「あんまり女性の顔をまじまじ見ちゃダメですよ」


 ノ、ノエラにまで言われてしまった。これは改めなきゃな――


「冗談っすよ!それで、聖統国の話っすよね」


 ティナは運ばれて来たお茶を全員に配る。


「騎士団限定フレーバーのベリー味っすよ」


 プロテインだった……東の端までしっかり広まってるんだな。


「あ、ああ!なるべく早く、それにできたら気づかれずに聖統国に入りたいんですが……」


「無茶っすね〜」


 ティナは笑いながら言う。


「でも、ウチも戦争には反対っす。協力するっすよ」


 そうして、ティナによる聖統国入りのブリーフィングが始まった。


◇◇◇◇◇◇


 このティナという犬獣人の女性が、この年齢で騎士団第四隊隊長にまで上り詰めた理由はすぐにわかった。


 聞いたばかりの出来事、今話したばかりのこちらの目的を理解し、提示してきた“方法”は見事に整理されていた。


「王国と聖統国の国交は、独立以来一度も開かれたことがないっす。物流もなし。国交は断絶状態っす」


 我々はティナの話を黙って聞く。


「でもそれは――表向きの話っす」


「実際は、非公式な取引が日夜行われてるっすね」


「それって、騎士団的にはどうなの?」


 リネアが聞く。


「もちろん関知してるっすよ。人気なのは奴隷売買っす」


 なるほど、事情がつかめてきた。


「パンデム商会っすね。王国は多額の追加税を払わせる代わりに、聖統国との売買を黙認してるっす。聖統国は聖統国で奴隷売買を表向きは禁止してる割に奴隷を欲しがる貴族が多いっすから……こっちも黙認状態っすね」


「……じゃあ、今回はそれに偽装して?」


「その線が良いと思うっす。ただ――」


「ただ?」


「この“特例”を受けられるのはあくまでパンデム商会だけっす。国境をくぐる時、そのチェックだけは避けられないっすね」


「あ、それなら……」


 私は荷物からパンデム商会の紋章を取り出す。いつぞや、リネアの母親の情報と共に送られて来たものだ。


「そ、それ本物っすか!?」


「ああ。商会長からもらったやつなので、疑われることは無いと思いますが――」


「…………」


 ティナは絶句した様子でこちらを見る。驚きというより、恐怖を感じているのか……?


「あ、あのおっかない商会長と、お知り合いなんすね、ハハ……」


 どうやら、私が思う以上にあの男は恐れられているらしい。


◇◇◇◇◇◇


「とりあえず、さっき説明した通りの作戦で行くのが良いっすね。“檻”はこっちで用意するっすから、賢者様たちは街で服を調達して来るっす。そんな冒険者丸出しの服じゃ偽装以前の問題っすからね」


 ティナのアドバイス通り、我々は東国境警備局の外に出る。


 この施設はエストラーデという街の中にあるらしい。そこまで栄えているわけではないが、活気のある市場が印象的な街だ。ティナの勧めでアーケード状になっている商店街へ向かうことになった。


「……ユージ。本当にいいの?あの作戦、ルノアを――」


「わかってる。そこはなんとかしよう。檻を布で覆うなりして、中が空なのを隠せば――」


 ティナの作戦では、我々がパンデム商会の人間に変装し、誰かが商品である奴隷の役をしなくてはならない。


 現状、奴隷の紋があるのはルノアだけ。


 ティナもそれが心苦しい選択であることは承知だったが、他に方法があるなら、私はルノアに……たとえ嘘であってもそんな役割をさせたくはない。


「わたしもそれは賛成。賛成だけど――」


 リネアが危惧しているのはこの作戦が失敗すること。


 それはすなわち、戦争の始まりということなのだ。


 選択をしなくてはならない。元気にノエラと店を見て回っているルノアは、楽しそうだ。


 奴隷役をしてもらうか、リスクを承知で空の檻を用意するか。


 今回ばっかりは、二者択一の視野狭窄に陥っていることに気づけなかった。

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