第112話「筋肉と決意表明」
## 第112話「筋肉と決意表明」
### 【あらすじ】
リネアの尽力もあり、「王国特務戦力」が聖統国の思惑を探りにいくという名目で開戦の先送りを決めさせたユージたち。
“西壁”ガドルとともに、国王陛下に作戦を伝え了承を得るべく王城に向かうユージだったが……
### 【本文】
「これは……本気だな」
騎士団本部に続き王城周辺も、鎧を身に纏った兵士たちが忙しなく往来していた。
門に着くと、仰々しく迎え入れられ、国王の待つ謁見の間へ向かう。
「独立戦争以来、国同士の争いはなかった。その分、兵士たちは息巻いているというわけだ」
ガドルは言う。
「だが……俺も今この場ですぐに戦争をふっかけんのは反対だな」
「……“女神”ですか?」
「あぁ。独立戦争の初期は文字通り“勝利の女神”だったが、奴が相手となりゃ慎重にもなる」
「“転生勇者”を召喚させたのが女神だって、知ってたんですか?」
「いや、王都のモンスター事件でザハリエル卿から話を聞くまで王国も半信半疑だった。だが、結果的に王国は女神の掌の上だったということになる」
「なら、今回の“教皇暗殺”も……って考えるのは自然よね」
「うう……難しくて何が何やら……」
「???」
リネアは状況をうまく把握してくれている。ノエラはすこし苦労してるようで、ルノアは完全に頭の上に?マークが出ている。
「勇者様は若いのに大したもんだ。ウチの大将にも見習って欲しいくらいだな」
ガドルは笑う。
「女神は王国が独立のために産んだとも言える。聖統国が何を考えてるかは知らんが、しっかり頼むぞ」
もう何度目かわからない、謁見の間で国王とのご対面の時が来た。
◇◇◇◇◇◇
「待っておったぞ、筋肉の賢者」
国王レグラディスは今朝がたのやや憔悴した様子が嘘のように興奮していた。
「それに、ガドル・ヴァルグレイ。貴殿もな」
ガドルは丁寧に跪拝している。
「――壮観だな。Sランクモンスターを物ともせぬ豪傑たちがこうも揃い踏みになるとは」
国王はおそらく今すぐにでも聖統国へ宣戦布告したいのだろう。なるほどこの男が独立戦争を起こし国土を勝ち取ったという話も納得できる。
「国王陛下、恐れながら――この“西壁”ガドル、騎士団本部にて一計を案じてまいりました」
ガドルが話題を切り出す。
「ほう……おもしろい。貴殿が一計とは」
「評議会数名とノクスヴェルト公爵様もご同席いただいて承認をいただいております。無論、勇者リネア様も」
な、なかなかすごい現場に居合わせたんだな、リネア……。
『ちなみに、銀髪だった?その公爵家の人……』
私は小さな声でリネアに聞く。
『え……?あぁ、いたかも。銀髪の貴族、多分三十代くらいの……』
もしかしたら王都モンスター事件で教皇を引っ張り出すための演説を聞いてた人かもな……そんなに偉い人だったのか?
「評議会はこの際どうでも良いが、ノクスヴェルトが賛同するとは妙案のようだ。聞かせてみろ」
「――王国特務戦力、筋肉の賢者一行がまず、先んじて聖統国に向かいます」
国王は「なるほど」と呟き少し考える。
「その言い振り、“先制攻撃”というわけではないな」
「は。この一件、女神が関わっております。それゆえ、まずは相手の思惑を探るのが良いかと、勇者リネアによる進言からの発案にございます」
この場、ガドルがいてくれて良かったと心底思った。
“西壁”の名は伊達ではない。国王を前にしてこのプレゼン能力……前世の世界だったとしてもこの男は随分と出世しただろうな……。
「陛下も、転生勇者の出自については――」
「聞いた。全く腹立たしい。独立に一役買ったとわざわざ国教にまで据えてやったというのに、恩を仇で返すとはまさにこのことだな」
「教皇が殺されました。我々は誘い出されていると考えるのは自然かと」
「――そうだとして」
国王の圧が増す。威光すら感じるその言葉には明確な決意が滲んでいた。
「そうだとして、何だというのだ?」
「陛下、それは……」
「英雄の名を冠した騎士団長、そして貴殿ら賢者一行……騎士団員やそれに準ずる兵士たちも信じがたい速度で練度を上げていると聞いている」
き、来た……!最も恐れていた「相手を策の上からでも潰せる」という論調……!
「それに魔水晶の備蓄も異常なほどある。今攻めずしていつ攻めるというのだ?」
「……国王陛下、恐れながら申し上げます」
どうするかと思っていた矢先、リネアが意を決したように口を開く。
「申せ」
「女神は、この王国の状況を知った上で仕掛けてきている可能性も十分考えられます。その場合、この教皇暗殺は“我々を誘い出す罠”です」
「聖統国に今の我々を返り討ちにする力があると?」
「定かではありません」
「ならば――」
「だからこそ、我々が行くのです」
リネアの毅然とした言葉。
――驚いた。
初めてこの場所に来た時からそんなに経ってはいない。
でも、今のリネアから感じる確かな“成長”。
剣やスキルもそうだが、人間としても大きく成長しているんだな……。
そんなリネアの姿に目が離せなくなる。
「……なるほど、確かに――性急だったかもしれぬな」
その言葉を聞いて再度リネアは跪拝した。
「顔を上げろ、貴殿らの提案、条件付きで採用する」
我々は国王の言葉を待つ。
「期限を設ける。五日だ」
ガドルは一瞬何かを言いかけたが黙った。リネアは特に反応しない。
「五日で結論を出せ。開戦か、否か」
五日……なるほど、それまでに私たちはリネアの母親を探し出して救出、レイナという転生勇者と接触して何とか“呪い”の治療に協力してもらえるようにすると……。
でも……あれ?それだと、結局戦争にはなっちゃうよな――
「五日で……全て決着させても、かまいませんか?」
私は聞く。
「……決着?」
王は怪訝な表情。
「聖統国に話をつけ、教皇暗殺の代償を払わせれば……戦争はしなくて良いはずですよね」
リネアの顔色が変わった。先ほどまでのかっこいい様子が消え、みるみる青くなっていく――
「…………ハハ」
お、王が笑った?なんかデジャブかも。
「ハハハハ!!貴殿、本気で申しているのか!」
ガドルも何が何やらといった様子で王と私を交互に見ている。
「そうかそうか。貴殿は戦争には反対か……まあそれも良い、実に“賢者”らしい考えだ」
王は玉座に座り直す。
「五日という期限は変えぬ。だが、その間に聖統国に代償を払わせれば無論、戦争は不要だな?」
「“代償”って、例えばどのくらいなんでしょうか」
「……同じく国家の要人レベルを差し出させるか……国土の割譲、またはその両方でも良い」
ん?“国家の要人”……?それなら、聖統国のトップ、“三神”の一人、転生勇者のレイナを連れてこれればクリアか?
「わかりました」
「ほう!これはおもしろくなりそうだ」
国王は満足そうに言う。
「良い報告を期待しているぞ。期限は明日の朝から五日、報告がなければその時は宣戦布告を行う。当然、貴殿らの暗躍が聖統国に知れたらその段階でも宣戦布告を行う。良いな?」
「……はい」
さ、最後にとんでもない話を追加してきたな……こちらからも追加の条件を言った手前断れない……やはりこの王、王たりえる器の持ち主だな……。
「ガドル、彼らを国境までの転移門へ案内してやれ。せっかく拵えたのだ、使用を許可する」
「はっ」
◇◇◇◇◇◇
「あぁ……肝を冷やしたな!まさかあの国王陛下を前に反戦を高々と宣言するとは」
転移門までの移動中、ガドルが言う。
「すみません……やっぱりまずかったですか?」
「いや、良いんじゃない?あれはアンタにしかできないわよ」
「ルノアも、せんそうはんたい」
「私も……止められるなら止めたいです!」
「ハハ……!随分と頼もしいな」
王城の地下、転移門が設置された一室へと到着する。
「まさかこんなに早く役に立つ時が来るとはな……王命で先日完成したばかりの代物なんだが――」
その部屋の中央には巨大な魔法陣が設置されている。
「こいつは王城から東の国境警備局につながる転移門だ。この距離の転移、作るのにも維持にも膨大な魔水晶が必要だが、幸い魔水晶は腐るほど手に入ったからな」
なるほど、便利な転移も距離に依存してコストが上がっていくのか。
「明日の朝から期限は五日、わかっているな?」
「あ、あれ?ガドルさんは同行しないんですか?」
「バカ言うな、俺だって西側の仕事部下に任せてきてんだ。こっちが落ち着いたらすぐ帰んなきゃなんねえ」
そ、そうなのか……ガドルがいればかなり心強かったんだが……
「なに弱気になってんのよ」
リネアに背中をバシッと叩かれる。
「ルノア、がんばる、だからだいじょうぶ」
「わ、私も……新しく色々魔術覚えましたから!」
――みんなの言う通りだ。
この四人で、成し遂げよう。
リネアの母親を救出して、何としてでも転生勇者レイナを連れて帰るぞ!
◇◇◇◇◇◇
「行ったか……」
転移門が作動し、部屋が強い光に包まれ、それが消えた頃にはもう、四人の姿はなかった。
「勇敢だな……だが、まだ若い」
ガドルは呟く。
「――SSランクを屠るその実力を持ってしても、今回の任務はわけが違う。人間は……モンスターとは違うぞ」
彼はそう言うと、ゆっくりと部屋を後にした。
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