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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第23章「戦いの始まり」

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第111話「勇者と英雄」

## 第111話「勇者と英雄」


### 【あらすじ】


 聖統国へ向かう前に、騎士団の様子を見にきたリネア。バタバタと慌ただしい騎士団本部では、まさに“戦争直前”の雰囲気が漂っていた――


### 【本文】


 騎士団本部。


 到着したリネアは息を呑んだ。


 記憶に新しいモンスター襲撃事件を思い出させる慌ただしさ。その時リネアは別の場所にいたが、当時はこんな様子だったのだろうかと思わせる。


「とにかく貯蔵された魔水晶を片っ端から数えろ!」


「し、しかし……前代未聞な量ですっ!どうやって数えれば――」


「ひたすら数えるしかないだろう!気合いだ!気合い!鍛えた筋肉もさすがに数は数えてくれないからな!?」


 怒号と指示が飛び交い、重い鎧の足音が石床を打ち鳴らす。すこし気になるやり取りもあったが、そんなことを気にしている暇はない。


 誰もが走り、誰もが余裕を失っている。


(……本当に、戦争しようとしてるのね)


 胸の奥が重くなる。


 壁際には武具と魔水晶が山のように積まれ、見慣れない大型の魔導兵装まで持ち込まれている。


 ――完全に、対国家戦仕様。


 開戦すれば、これが母のいる聖統国に――リネアは一瞬そう考えて、思考を振り払う。


 そんな中、廊下を横切ろうとした瞬間。


「……リネア様?」


 声がかかった。


 振り向くと、若い騎士が目を見開いてこちらを見ている。


「やはり……勇者リネア様……!」


「え……?」


 その声をきっかけに、周囲の数人がこちらを見る。


「王都防衛戦でのご活躍、聞き及んでおります!」


 次々と向けられる、真っ直ぐな視線。


 そこにあるのは、畏怖でも警戒でもない。


 ――敬意。


(……やめてよ、ほんとに)


 自分が今も勇者でいられるのはユージのおかげだと思っているリネア。自身に向けられたその羨望の眼差しに若干の後ろめたさを感じる。


「……今はそれどころじゃないでしょ」


 ぶっきらぼうに言うと、騎士たちはハッとしたように姿勢を正した。


「し、失礼しました!」


「作業に戻るぞ!」


 再び慌ただしさが戻る。


 だがその背中には、確かな信頼が宿っていた。


(準備してる所悪いけど、私たちは戦争、止める気だから)


 この人たちが、戦場に出るようなことがあってはならない。


 奥へ進むほど、空気はさらに張り詰めていく。


 扉が開け放たれた作戦室では、王国評議会と思しき要人たちと、貴族と思しき面々が激しく議論していた。“隠鱗亭”で同席した騎士団二番隊隊長、“西壁”ことガドルの姿もある。


「教皇暗殺は王国への宣戦布告に等しい行為!聖統国への抗議は既に――」


「抗議で済む段階ではない!すぐに報復せねば王国の威厳は地に落ちる!」


「独立戦争での屈辱を今こそ晴らすべきだ!」


「先に動けば全面戦争だぞ!」


「臨む所ではないか!筋肉の賢者擁する我々に敗北などあろうはずもない!」


 机を叩く音。


 感情を押し殺しきれない声。


 理性と怒りが、今にも決壊しそうな均衡で保たれていた。


 そんな時――


「皆さん、まずは一旦冷静になってはくれませんかな」


 ドスの効いた声が作戦室に広がる。


 奥に座っていたガドルがそう言うと、先ほどまでの威勢が嘘のように静まり返った。


「勝ち戦とは存じますがご覧の通り、戦場に焦りは禁物。この“西壁”、そうしてこれまで西方ヴァルグディアを牽制してきた次第にて」


 ガドルはアスレイド聖統国と反対側、ヴァルグディア帝国との国境警備を任されている豪傑。その彼の言葉はこの議論の場を制圧するに足るようだった。


「それに、彼女の意見も聞こう」


 ガドルは開け放たれた入り口にもたれかかって議論の様子を聞いていたリネアを見る。


「……私?」


 リネアは困惑した様子で言う。まさか自分に振られるとは微塵も思っていなかった彼女は恐る恐る作戦室に入る。


「ゆ、勇者リネア様か……?」


「あのバロメギアと対峙し単独でやり合ったという――」


「そうだ!我々には勇者も英雄もいるのだ!魔水晶なんぞ数えてる暇があったらすぐにでも――」


 評議会と数人の貴族は口々に言う。


「あ、あの!私は……いえ、“私たち”は――」


 全員の視線がリネアに集まる。


(……ここで“戦争を止める”と言うのは得策じゃないわね。この論調、反戦派はお呼びじゃないって感じ。なら――)


 リネアはガドルを見る。その視線は何かを期待しているような――


(なるほど……それで私に話を振ったのかしら。あのガドルって人、案外食わせ者ね)


 リネアは思考を整理してから口を開いた。


「私たちが……筋肉の賢者とそのパーティーが、先陣をきって聖統国に向かいます」


 リネアがそう言うと、これまでただ座るだけで一切発言をしていなかった、銀髪の男性貴族が満足げに頷いて拍手をした。


 ――それにつられてまず評議会が、続いてガドルも拍手を始める。


「素晴らしい」「これぞまさに“勇者”にふさわしき姿!」「伝説の再来だ!」


 立ち上がりリネアのその発言を讃える者まで出てきた。


(これで良かったのよね?ユージ……?)


 少しやり過ぎてしまったかと不安になるリネアだったが、聖統国に向かい、尚且つ開戦を先送りにするこの提案は悪くないはずだ。


「その作戦、“西壁”ガドル・ヴァルグレイも支持しよう」


 再び視線がガドルに集まる。


「では……勇者よ、聖統国に渡り、何を成す?」


「…………聖統国の思惑を探ります。こうして意図的に聖統国の襲撃であると知らしめている以上、罠であると考えることも可能ですから」


「王国の特務戦力である貴殿らが聖統国に渡ったと知れれば、転生勇者どもは黙っておらんだろう」


「その時は――“開戦の合図”とお知りください」


「……その意気やよし」


 そのほかの面々も、“異論なし”と言った様子で頷く。


「吉報を待つ」


 議論はガドルのその一言で終結となった。


「さて、では王に進言するとしよう。特務戦力がその力を見せるつもりだと」


 ガドルは立ち上がると、「準備する、しばし待て」と言って去って行った。


 評議会や貴族の面々も続々と部屋を後にする。


「……リネア嬢」


 そんな人の流れとは対照的に、リネアに接近してきたのは――


 騎士団長、リディアと、そばに控えるマルティナだった。


◇◇◇◇◇◇


「そういえば、なんであの場にアンタじゃなくてガドル……さん?がいたわけ?」


 場所を変えて騎士団本部の一室。リネア、リディア、マルティナが現状の確認のため顔を合わせている。


「それは私から。端的にいえば、団長はああいった“頭を使う場”に弱いからです」


「なっ……!マルティナ!もう少し言葉を選ばんか……!」


「否定しないのね……」


(そういえば、モンスターが王都に出た時も貴族をさばいてたのはマルティナだったわね)


「く、悔しいが、剣の実力が取り柄なんだ。私は」


「普段の案件なら私が代理として対応すれば良いのですが、さすがに今回は手に余りましたので、ガドル様に」


「っていうか、そもそもなんで西側国境警備担当が王都にいるわけ?」


「私が呼びました。もとより王都に冒険者ギルドを立ち上げる話が持ち上がった段階で必要な人材でしたので」


「あ……そうだ。その王都の新しい冒険者ギルドのギルド長とか……組閣は誰が決めたの?」


「国王陛下による指名です。なんでも彼らが以前担当していたトレヴィルは王国への納税額がトップだったようです。小さな町ですが、すごいですね」


(知らなかった……これも、私がトレヴィルにいた頃からこの時のために仕込んでたのかしら)


「それがどうかしたのですか?」


「いや、なんでもないわ。気にしないで」


 マルティナは少し怪訝な表情をしたが、妙な詮索はなかった。


「それで……大丈夫か、クラリス嬢は」


 リディアにとってクラリスは短い期間だが同じ拠点で暮らす仲間、モンスター事件ではともにこの騎士団本部を守るために戦った仲でもあり、気にしているようだ。


「それはユージに任せたわ」


 そう言うと、明らかに動揺した様子のリディア。


「それはなんと言うか……大胆だな」


「別に……?私はなんとも思わないけど?」


「なっ……!もしや、何か彼と……!?」


「どうかしらね〜?」


 ニヤリとリディアを見るリネア。


 つい最近、彼の最大の秘密を知り、リディアとユージだけで共有していた秘密も知ったリネア。『俺の人生のパートナーはリネアだ』という言葉ももらっていた彼女には“余裕”があった。


「く……これではいつまで経っても――」


「団長、その辺で……今は今後の方針を」


「ハッ……!そ、そうだな……!」


 リディアは我に帰った様子で言う。


「それで、ユージは何をするつもりなんだ?」


「詳しくは聞いてないわ。でも、戦争を止めるつもり」


「……君たちならやりかねないな」


「たった四人ですが……それでも出来てしまいそうなのがあなたたちの怖い所ですね」


 いつの間にかずいぶん信頼してもらえているのだな、とリネアは感じる。


「君たちが不在の間、王都は我々でなんとかする。だが、次に何か起これば開戦は免れん。くれぐれも行動には気をつけてくれ」


「わ、わかったわ……」


(正直、あいつが目立たないように行動できる気がしないわね……)


「勇者リネア様、ガドル隊長の準備が出来たようです。外で待っていると」


 扉の向こうから騎士団員の男の声が聞こえる。


「……では、幸運を祈るぞ」


「ええ」


 部屋を後にし、騎士団本部の外へ向かうリネア。


「…………団長も一緒に行きたかったですか?」


「そうも言ってられん。闇の盗賊団が聖統国に雇われているのなら、王国内の警備も重要だ」


「……そうですね。リネアさんとユージさん、帰ってくる頃にはラブラブになっているかもです」


「……茶化すな」


「割と本気なんですけど」


「いや……大丈夫だ。私を抱き枕にして寝てもなんとも思わんような男だぞ?いたいけな少女の恋心だけでは……あれ以上の進展はないだろう」


「あれ、なんか聞き捨てならないことが」


「――しまった」


 しばらくマルティナによるリディアへの尋問が続いたが、それはまた別の話だ。


◇◇◇◇◇◇


「で、何やってんのよアンタたちは……」


 騎士団本部の外に出たリネアが見たのは、以前見た“握手勝負”をするユージとガドル。それを見て不安そうにするノエラとユージを応援するルノアの姿。


「いだだだだだ!相変わらずすごい腕橈骨筋ですね!ガドルさん!」


「ぬおぉぉぉぉぉ!賢者殿こそ!見事な力……ぐぬぬぬぬぬ!!!」


「……さっさと行くわよ」


 そんな二人を置いていくかのように騎士団が用意した馬車に乗り込むリネア。


 二人の勝負は王城につくまで続いたらしい。


 勝敗は……スタミナで勝ったユージの勝利。


「最近よく走ってたからかな〜!」


 そんな様子で喜ぶユージを「うっさい」と一蹴するリネアだった。

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