第108話「筋肉と聖なる父の最期」
## 第108話「筋肉と聖なる父の最期」
### 【あらすじ】
リネアとの絆を再確認したユージ。
セリオたち元伝説勇者パーティーが王都に集結していることを知るが、依然としてその目的は不明なまま。
パンデム商会とは悪くない関係を築くことができているが、何かが起こっている不穏な空気が漂う。
武器を新調したユージは、何か起こった時のために警戒する。そんな時、パンデム商会からリネア母の居場所に関する手紙を受け取り……。
### 【本文】
翌朝。
「……それ、本当?」
朝食の前、少し早起きしてリネアにパンデム商会からの手紙の内容を伝えた。
一晩考え、まずはリネアだけに伝えることにした。彼女がどうしたいか、まずは聞きたい。
「かなり信憑性が高い情報だ」
「……どこから聞いたの?」
「――パンデム商会の商会長だ」
「アンタ――プロテインのためだけに商会と関わってたわけじゃないのね」
「そ、そりゃそうだろ!」
無闇に不安を煽るだけだし、リネアとルノアが捜索対象だったことは伏せておこう。
「……聖統国、しかも聖座宮って――」
「知ってるのか?」
「王国の王城みたいなもんよ」
「メイドとして買われたってことか?」
「……それならいいけど」
それ以上は何も言えなかった。
奴隷である以上、その目的について考えられることは多い。それこそ――考えるだけでも悍ましいような……。
「こうしてる時間も惜しいわ。どうにかして聖統国に行かないと」
リネアの表情に浮かぶ焦りと不安。
これも一晩かけて考えたが、これまで、リネアやルノアの家族が王都の外にいることは想定していたが“国外”にいるというのは完全に想定外だった。
聖統国に行くための金はある。だが――“理由”が必要になってしまった。王国の特務戦力たる私が理由もなく聖統国に渡れば、それこそ戦争の火種になりかねない。
「……どうにかしよう。すぐにでも、聖統国に行けるように」
リネアはキュッと両手を握りしめて、何か言いたげにこちらを見た。
「……そうね」
そう絞り出したリネア。
彼女としては、今すぐにでも出発したいところだろう。だが、今の我々の立場と状況を理解できない彼女でもない。
こんな時は――私が持っている最大のコネクションを生かすべきだろう。
朝食の席には、クラリスとリディア、マルティナの姿が見えなかった。
何も言わずにこの場にいないのは初めてのことだ。
少し、胸騒ぎがする。
◇◇◇◇◇◇
王城、玉座の間。
王城に着くと、門番に要件を伝えた。アポは取っていなかったが「ちょうど呼び出そうとしていた」と言われあっさり玉座の間に通された。嫌な予感はするがありがたい。
王は少し憔悴した様子で私を出迎えた。
「い、一体何があったんですか?私を呼び出そうとしていたと――」
そう言った私の言葉を待たずに、王は衝撃の出来事を伝えた。
「教皇が死んだ」
「…………え?」
耳を疑う。
教皇……?が、死んだ?
「昨晩遅くのことだ。大聖堂で彼の死体が発見された」
リディアたちが朝いなかったのはそういうことか――
「……犯人は」
「闇の盗賊団による暗殺だ。彼は“暗殺術”スキルで殺されていた」
“闇の盗賊団”……?
騎士団を襲った連中か……それにルノアのスキルにも関係してる……。
「一体なんのために……?王都じゃ教会の勢力は弱まってたはずじゃ――」
「現場にこれが」
王は一枚の紙を渡す。
『女神の怒り』
その紙にはそう記されていた。
……どういうことだよ。
“女神の怒り”がどうして教皇を殺すことになるんだよ!?
「女神は王国を見限ったと考えるのが自然だろう」
王は淡々と言う。
「魔術派は終わりだ」
……今はそんなことはどうでも良い。
「私をどうして呼び出そうと?」
「貴殿はなぜここに来た?それを先に話せ」
私は固まる。
今、誰が味方で、誰にどこまで話すべきなんだ?
王は、信用していいんだよな?
「恐れることはない。おそらくお互い、するべきことは一つ」
「……リネアの母親が聖統国にいることがわかりました」
「ほう。そうきたか。勇者の母親が聖統国に――」
王は興味深そうに頷く。
「貴殿、導かれているな」
“導かれている”……?
「下手人はご丁寧に“三神”の紋章を現場に落としていったようだ。騎士団が押収したと聞いている」
“三神”。聖統国の転生勇者たちか。
「王国としては、重要人物を殺されている。報復が必要だな?」
なんだ……?何が起こっている……?
「そして貴殿も聖統国に行くことを望んでいる」
また、私のおよび知らないところで、人が死んだ。
女神を動かしたのは私だ。間違いなく。
ザハリエルに続いて……教皇まで――
「行くのであれば、手筈は整える。なるべく早く準備しろ」
私はふらつく足取りで、王城を後にした。
◇◇◇◇◇◇
「おや……思ったより早い再会ですね」
私は王都のグラートの店に来ていた。
「……おい」
「随分なご挨拶ですね」
軽口を叩くグラートを無視してカウンターに詰め寄る。
「何が起こっているんだ」
「……まるで私が全て知っているかのような口ぶりですね」
「知ってることを話せ」
私は背負った“グラヴィス・ブレイド”に手をかける。
「おやおや……随分と物騒になりましたね、教皇暗殺に我々は関係してませんよ?」
「嘘をつくな。お前たちが王都に来たタイミングでこの事態だ。どう考えても――」
「逆ですよ。我々から仕掛けようとしていたのに、向こうが先に動いたんです」
「……転生勇者への復讐か」
「ノーコメントです。これだけは言うなと」
グラートの言葉はほぼ答えを示していると思った。
元伝説勇者パーティーの面々は、仲間であった勇者の仇討ちをしようとしているのだ。
「近々戦争になりますよ」
グラートは言う。
「どうなると思いますか?グラシオン王国VSアスレイド聖統国。こちらにはあなたによって日々強化された騎士団と、冒険者たちの軍勢が」
「な、なんだよ、俺が強化したって?」
「まさか無自覚なんですか?あなたのスキル。よく思い出してください」
「……そんなつもりは」
「あなたがどう思おうが勝手ですが、事実はこうです。あなたは、王国を強化したのです。聖統国と真正面から戦っても勝てると確信するくらいに」
「それに――」
「聖統国はその短期間の超強化、極めつけには“我々”がまだ生きていることを知りません」
「王国の勝利は確実」
「転生勇者を殺せる」
全てが……最悪の方向に噛み合い始めている。
「聖統国は火の海になるでしょう」
「……は?」
「王都モンスター事件で魔水晶の物資も潤沢。いかなる魔導兵器も贅沢に運用可能ですからね。首都を火の海にするくらいなんでもないでしょう」
「……聖統国にはリネアの母親がいるんだぞ」
そう言うと、グラートがここにき始めて動揺したような様子を見せる。
「その情報はどこから?」
「パンデム商会だ」
「……なるほど」
グラートは明らかに動揺を強めている。
「……計画の変更は不可能です」
「お前……本当は――」
「私は計画のためにリネアさんに嘘をつき続け、トレヴィルに幽閉したのです。今更……何を取り乱すことが……」
「自分たちの計画のためにリネアの最後の家族が死んでも構わないって言うんだな」
グラートは黙る。
「その沈黙、こっちで勝手に解釈するぞ」
静寂が広がる。
「わかった。俺の邪魔をするようなら容赦はしない」
目的は決まった。
全ての思惑を阻止し、戦争を回避する。
そして――リネアの母親を見つけだす。
◇◇◇◇◇◇
グラートの店を去ったのち、拠点への帰り道。
「あら、すごい顔してるわね」
通り道に通りかかった“隠鱗亭”の店先にいたレヴィンさんに声をかけられた。
「……気にしないでください。こっちの事情ですから」
「あらそう……?ところで、この前一緒に来た子たちは元気かしら?」
この前来た……?孤児院の子供達か――
「…………!」
「ひどい人ね。そんな大事なこと忘れてるなんて」
そうだ――教皇がいなくなってしまった今、あの孤児院の子供たちの“呪い”は誰が抑えるんだ?
「わ、忘れてたわけじゃ――」
「そうよね。あなたは優しい人だもの」
「ど、どうしたら……クラリスはまだ“悟り”が使えるようになっていないし……」
「じゃあ、いいこと教えてあげるわね」
「え……?」
「解決策は、聖統国にあるわ」
「ど、どうしてレヴィンさんがそんなことを……」
「女の勘よ」
「勘って……」
「聖統国にいる転生勇者三人、覚えてる?」
「は、はい」
「どんなスキルを持っていたかしら?」
ど、どういうことだ……?ユウマっていうやつは魂を回収して願いを叶えるチートスキルで、コウキが生命力を消費して剣を強化できて――
「あ……!」
「気付いたかしら。せいぜい急ぐことね」
そう言うとレンヴィンさんはひらひらと手を振りながら私を見送った。
転生勇者のレイナ。そのチートスキルは“回復”。
もう一つ、聖統国に行かないと行けない理由が増えた。
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