第107話「隣国アスレイド聖統国2」
## 第107話「隣国アスレイド聖統国2」
### 【あらすじ】
グラシオン王国、王都モンスター襲撃事件の報告を受けて、その動向に注目する聖統国。
そんな折、密偵からの信じがたい情報が飛び込んできて――
### 【本文】
アスレイド聖統国、その国が崇める神である転生勇者が暮らす“聖座宮”。
なんでもないいつものディナータイムに、信じがたい情報が飛び込んで来る。それを告げたのは、食事の席に飛び込んで来た一人の男。
「その話、本当?」
食べる手を止め、そう聞いたのはユウマ。実質的なこの聖統国のトップの転生勇者だ。
「は、はい……!間違いありません!」
「おいおい!オメーこの前はグラシオン王国の王都にAランクモンスターがたくさん出たって……!」
「それに、Sランク、SSランクまで出たって言ってたわよね?」
ユウマの反対側に座るのは同じく転生勇者のコウキ。ユウマの隣に座るのはレイナだ。
「その情報も間違いないはずなのですが……どうやら王都はその脅威を退け、大量の魔水晶獲得、国力を増強させたと――」
――ガシャン!!!
ユウマが机を叩き食器が鳴る。溢れた飲み物を周囲にいたメイドたちが掃除する。
「おかしいだろ」
ユウマは言う。
「おかしい!いくら王国とはいえ、そんな力を持っているはずない!」
「……ま、まぁ落ち着けよユウマ、王国が潰れなかっただけ有難いと思おうぜ?俺たちが帰るために必要な魂の数を考えりゃ敵は減らないほうが……」
(Aランクが大量に、Sランクも複数。SSランクも発生した。その状況を切り抜けたというのか……?しかも、“国力を増強”と言ったか?まるで王都は無傷かのような言い方じゃないか――)
「王都の損傷はどのくらいだ……?」
「それが……密偵の報告では『いくつか建物が破壊された程度で重篤なダメージはなし』と……」
「ふざけるなよ」
ユウマはつぶやく。
「おいユウマ!やめろ――」
「お前は黙っていろ!!!その報告をしたものを連れてこい!!僕が直接聞く!」
「ユウマ様――」
情報を伝えにきた男は跪拝しながら言う。
「恐れながら、この信じがたい状況を『すべて説明できる』という“グラシオン王国からの亡命者”が来ているのですが……」
「亡命者……?」
ユウマは怒りのままに聞く。
「女神教の関係者のようです。なんでも、王国は今、女神教が弾圧されているとのことで、女神によってこの世界に転生なされた三神の皆様の庇護を求めていると……」
「……通せ」
「はっ……!」
跪拝していた男は、急いでこの場を立ち去った。
◇◇◇◇◇◇
「三神の皆様……ご慈悲に感謝いたします」
程なくしてユウマたちの元に現れたのは、20代ほどの若い金髪の女性。話によればこの女性が“王国からの亡命者”だ。
「御託はいいから。王国で何が起こっているのか話してくれる?」
「……はい」
女性はユウマの許可を得ると、覚悟を決めた様子で話し始めた。
「王国は……このアスレイド聖統国に戦争を仕掛けるつもりです」
沈黙。
誰しもが“信じられない”といった様子で固唾を飲む。
「ねぇ君、その話嘘だったら――」
「断じて、そのような事はございません!」
女性はさらに深く頭を下げた。
「……どう思う?」
ユウマが聞いたのは傍に控えていた男。
ユウマたち転生勇者。その力はチートスキルによって絶大なものがあるが、政治や軍事の面ではただの一般人。
こういう時に役に立つのがこの男をはじめとした聖統国の貴族で構成された“国営補佐官”だ。
「はっ……この女の話、虚言と断じるには早計かと……」
「……まじかよ」
コウキが呟く。
「我々の情報と照らし合わせれば、王国が手にした魔水晶は少なめに見積もってグラシオン一家が独立戦争で費やしたのと同量……あるいはそれを上回ると推測できます」
国営補佐官の言葉を、この空間にいるすべての存在がただ聞くしかない状況。
「あのグラシオン一家のことです。そんな物資を手に入れれば、戦争を企てるのは自然かと……」
「ど、どうにかしないと――」
青ざめながら言うのはレイナ。
「そんな状況をものともしないなんて、いくらなんでも異常よ!私たちでも相手になるかどうか――」
「ご心配には及びません」
取り乱すレイナの言葉を遮ったのは亡命者の女性。
「王都を救ったのはたった一人の賢者とその仲間たちです」
「……は?」
「筆頭は“筋肉の賢者”ユージ・タカハラ。そしてその伴侶である“勇者”リネア――」
――ガシャァン!!
亡命者の女性がそう言った瞬間、控えていた一人のメイドが持っていた銀製のお盆を取り落とした。
「も、申し訳ございません……!」
その美しい赤髪のベテランらしいメイドの女性は、慌てた様子で落としたお盆を拾う。
一瞬不穏な空気が漂ったが、ユウマの「続けて」という言葉でお咎めなしとなった。
続いて亡命者の女性からルノア、ノエラの情報が話される。
「この者たちを消せば、聖統国が王国に遅れをとることはないかと」
「……信じられない。そんな少人数でそれほどのモンスターを――」
「可能なのです」
「……どうして亡命者ごときがそんなことを言えるんだい?」
「――私は王国の女神教で少々重要な立場でしたので。女神教が弾圧されるきっかけを作ったその賢者には復讐をする理由があります」
「君が女神教の人間だっていう証拠は?」
「“女神の予言”で見たのです……救いは聖統国にあると」
「……なるほど、便利だね。その“予言”って。でもこの国じゃそれは証拠にはならない」
「……では、その賢者たちを聖統国に誘き出すお手伝いをいたしましょう」
「ますます怪しいね。どうして君にそんなことができるのかな?」
殺伐とした空気が広がる。
「まずは亡命の手土産に素敵なイベントをご用意いたしましたので、そちらを見てからご判断いただければと……」
その後、国営補佐官の助言もあり、“手土産”の確認が済むまで亡命の受け入れは保留となった。
◇◇◇◇◇◇
その翌朝、グラシオン王国に送り込んでいた密偵から、『女神教の教皇が暗殺された』という情報が入った。
戦争が、迫っている。
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