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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第22章「迫り来る予感」

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第104話「筋肉と奴隷商会2」

## 第104話「筋肉と奴隷商会2」


### 【あらすじ】


 仲間の家族の情報を求め単身パンデム商会の本部を訪れたユージ。待ち受けていたのは商会長“マスター”による元奴隷のリネアとルノアに対する尋問だった。


 パンデム商会と無関係に奴隷商を営んでいたグラートを売れば今後彼らの干渉をなくすことができるが、どちらが味方でどちらが敵か、はたまたその両方か……判断ができないユージはあることに気づく……


### 【本文】


「マスターさん、あなたはどうしてその情報を知りたいんですか?」


 パンデム商会本部、客間。私はついに反撃するべくそう口にした。


「申しました通り、当商会では“在庫管理”を重視しておりますので」


「――理由をお伺いしても……?」


「無論、商会の繁栄のため」


「……利益を重視していると捉えても良いですか?」


「そういう言い方もできますね」


 来た……!妙なプライドや見栄じゃなく、“実益”にこだわっているなら、閃いた私のアイデアは通る可能性ありだ……!


「では……行方不明になった奴隷を回収するより遥かに利益が出る情報をお渡しできるとしたら……どうでしょう」


「……ふむ」


 く、食いついた……?


「聞きましょう」


 男は片肘を机につく。明らかに態度が変わった。


「こちらからは“ある商品”の作り方を提供します」


「“ある商品”ですか……」


 男は少し考えたあと、嘲るような態度で続ける。


「あなたは奴隷というものの値段を理解されていないようだ」


「……どうでしょうか」


「我々の取引先は王国の貴族やAランクSランク冒険者の方々……奴隷売買が認められていない諸外国の皆様とも密な取引がございます。そんな“人気商品”である奴隷を上回る利益を出せる商品をあなたがご存知だと……?」


「……自信はあります」


 そう言うと、男は珍しく参った様子で考え込み始めた。


◇◇◇◇◇◇


(な、長いな……)


 五分は経っただろうか。


 相当クリティカルな交渉だったのだろうか、マスターという男は悩みに悩んでいる。


「よ、良かったらどんな商品かお話ししましょうか」


 そんな様子に耐えかねてそんな提案をしてみた。


 私のその言葉を聞いて、マスターはガタっと椅子を鳴らしながら立ち上がった。


 ――どうやら興味があるようだ。勝機はある。


◇◇◇◇◇◇


 通されたのは、商会本部の奥にある大きな厨房だった。


 石造りの広い調理場には、巨大な鍋や調理器具が整然と並び、数人のメイドたちが無言で待機している。さすがは王国最大級の商会、その設備は一流だ。


 そして――


「まじか、こんなにタイミングいいことあるんだな」


 私は視線の先にある光景を見てそう呟いた。


 そこで行われていたのは、私の見立てが間違っていなければチーズ作り。


 布に包まれた白い塊。そして、その下に置かれた桶に溜まっている透明な液体。


「今は乳製品の加工中です。我が商会は奴隷以外も扱いますから。しかし……それが何か?」


 マスターが淡々と問う。


「その液体、どうするつもりですか?」


 私が欲しかったのはチーズ作りの際に出る“ホエイ”。この液体がそれだ。


「そうですね……家畜の餌に使う程度でしょうか。商品価値がないか検討はしましたが、加工の手間と保存の難しさの割に利益が取れず……ほとんどは廃棄しております」


 理想的な回答だ。


 私は小さく頷く。


「では――それ、少しお借りしてもいいですか?」


 マスターは一瞬だけ目を細めたあと、軽く顎で合図した。


「もちろんです。お好きになさってください」


 メイドが桶をこちらに運ぶ。


「これを使います」


「……ほう?」


「それを鍋に移して、火にかけてください」


 すぐに作業が始まる。


 液体が鍋に注がれ、ゆっくりと加熱されていく。


 厨房に静かな緊張が流れる。


「そのまま、水分を飛ばしていきます。焦がさないように注意して……」


 火加減を調整しながら、メイドが慎重にかき混ぜる。


 やがて――


「……これは、不思議なものですね」


 マスターが低く呟く。


 透明だった液体が徐々に濁り、小さな白い粒子が浮かび始めていた。


 さらに加熱を続けると、水分が減り、粘度が上がり、白い成分がまとまり始める。


「それを取り出して……乾燥させるんですが――この工程はかなり時間がかかるので今日はここまでということで――」


「……乾燥させれば良いのですね?」


「え……?ああ、はい」


 私がそう答えると、マスターはメイドに何やら指示を出した。


 指示を受けたメイドは、何やら魔術を使って作業を始める。


 布の上に広げられたそれは、ゆっくりと水分を失っていき……。


 そして――


 やがて細かく砕かれ、粉状へと変わった。


 厨房の空気が変わる。


「……これがその“商品”だと?」


 マスターが一歩前に出る。


「はい」


 私はその粉を見る。恐らく、うまくいったはずだ。


「“ホエイプロテインパウダー”です」


「プロテイン……?」


「貴重なタンパク質の補給に最適な……いわば筋肉の材料です」


 私は淡々と続ける。


「これを日常的に摂取することで、人体の回復効率と成長効率が向上します」


 マスターの視線が、粉から私へと移る。


「……つまり?」


「騎士、冒険者、一般市民に至るまで。あらゆる層に需要がある商品となります」


 厨房に沈黙が落ちる。


 メイドたちですら、その意味を理解したのか息を呑んでいる。


「さらに言えば――」


 私は桶に残った液体を指差す。


「これは元々“利用価値のなかったもの”です」


 マスターの目が、明確に変わった。


 獲物を狙う商人の目。


「原価はほぼゼロ。流通も容易。需要は無限に近い」


 私は静かに言う。


「行方不明になった奴隷を探すより、よほど“効率のいい商品”だと思いませんか?」


 数秒の沈黙。


 そして――


 マスターはゆっくりと笑った。


「……なるほど」


 その笑みは、先ほどまでの柔らかなものではなかった。


「“筋肉の賢者”として自ら需要を創出した商品を売り込まれるとは――」


 私は内心で小さく息を吐く。


 ――うまくいった。


「この商品、製法を知っているのはあなただけですね?」


「はい」


 厳密には転生勇者なる存在がいる以上彼らが知っている可能性はあるが、この場で問題になる可能性は極めて低いと考えて差し支えないだろう。


「素晴らしい」


 マスターはそういうと、プロテインを指につけて舐めた。


「味は悪いですね」


 うっ……それを言われると弱いな。


 だが――


「条件があります」


(……来た!!)


「この商品、我が商会の独占を認めていただきます」


「……問題ありません」


「その言葉、後で取り消せませんよ」


「はい」


「……結構です」


「先ほどお話しした奴隷の件は、これで手を引きましょう。この商品、こちらでアレンジしても構いませんね?」


「あっ……糖分をドバドバ入れたりするのはやめてくださいね?」


「おや、砂糖を入れれば美味しくなるかと思ったのですが……」


「それは勘弁してください……!」


「ハハハ……!面白い人だ。普通は独占契約ではなく利益分配をと頼む局面のように思いますがね?」


「あ、いや……ハハそうですね……」


「では、商品化まであなたに監修をお願いすることにしましょう」


「いいんですか?」


「良いも何も、この商品からは“金の匂い”がします」


「――とびきり濃厚なね」


◇◇◇◇◇◇


 交渉は成立した。


 リネアとルノアに関して、パンデム商会から今後の手出しはないと約束したマスター。そして、“こちらが知りたい情報”は裏をとったのち、改めて伝えさせるという。


 この場で聞けなかったことは少々不安だが、ひとまず誰も敵に回さずに済んだことを喜ぼう。


 どっしりとした疲れを感じながら、預けた大剣を受け取り商会本部を後にする。


「あ、プロテインもらってくれば良かったなぁ」


 そう呟くが、もう手遅れだった。


◇◇◇◇◇◇


 ユージが去った後、パンデム商会本部。


「見事な交渉でした。“筋肉の賢者”……」


 その建物の最上階から王都を見下ろすその男、通称“マスター”。本名を含め、商会長であるこの男の素性を知るものはほとんどいない。


「しかし……甘いですね。そこまでの材料を引き換えに出すということは、それだけ大きな情報を持っているとこちらに知らせるようなもの……」


「引き続き、探らせてもらいますよ……バレないよう、慎重に、ね」


◇◇◇◇◇◇


 ――この交渉によって生まれた「パンデム商会のプロテイン」は、王国を席巻する人気商品となった


 “筋肉の賢者”監修と銘打たれたその商品は、王都でますます流行している“筋肉派”のトレーニング信仰と強固な結びつきを見せ人気を爆発させた。


 さまざまなフレーバー展開とともに王国の名産品となり、騎士団のトレーニング飲料として正式採用されるまでに至るのだった。

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