第102話「筋肉と再会」
## 第102話「筋肉と再会」
### 【あらすじ】
ギルデスの勧めで“グラヴィス・ブレイド”という重力操作の機能がついている大剣をお試ししたユージ。
その感触は良かったが、成り行きでさらなるギルデスの失言を招き、リネアとユージの二人はギルデスの正体について興味を深めるが……。
### 【本文】
「……もう言い逃れはできねえか」
ギルデスの案内で工房に戻ると、工房には『本日終了』の看板が掲げられた。
――それだけ他人に聞かれたくない話なのだろうか。
工房の真ん中に簡単な椅子が三つ。ギルデス、リネア、そして私の三人が座る。
「……で、どこまで知ってんだ」
「ギルデスさん、ガルデンさん、セリオさん、グラートさん。この四人が元伝説の勇者パーティーってことですね」
「そうか。その話、どこまで広がってる?」
「いえ、今の今まで確信がなかったので……知っているのは私とリネアだけです」
「そうか……そいつはありがたい」
――騎士団や教会、王国にすら知られるとまずい情報なのだろうか。
いつもの“巻き込まれ展開”の予感がする。
だが逃げるわけにはいかない。またこの予感からどんな事件に発展するかわからないのだ。今は情報収集が優先。
「さっきは『いずれその時が来たら話す』って言っていましたがそれは……」
「今はまだ話せないことが多い。だが、兄ちゃんたちの状況に詳しかったのは理由がある」
「…………」
リネアは黙ってギルデスの話を聞いている。
「調べてたんだ。色々とな」
「し、調べてた……?」
「理由は……すまん。教えられねえ。だが悪いようにするつもりもない」
……トレヴィルの町では随分とよくしてもらったギルデスやその他の面々。ガルデンやセリオもそうだが、怪しかったグラートですら悪人というわけではなさそうだった。
この話は、信じてもいいのだろうか……。
「まあ疑いたくなる気持ちも分かるが……」
ギルデスはバツの悪そうな表情で言う。
「ここで話せるのはそれだけだ」
立ち上がり、先ほどの大剣“グラヴィス・ブレイド”を持つギルデス。
「口止め料ってわけじゃねぇが……この剣、もらってくれ」
「え……」
私は考える。
確かにこの剣があれば私は今まで以上に戦えるようになるはずだ。それは願ってもいないこと。
リネアを見ると、何やら複雑な様子で顔を伏せている。彼女にとっての第二の故郷、そこの人たちに裏があるのだとしたら、彼女にとってはよくないニュースだろう。
ここは、言うとおり剣を受け取ってここを立ち去るべきか……。
◇◇◇◇◇◇
ギルデスから“グラヴィス・ブレイド”を受け取り、簡単な使い方を教わると、最後に――
「なあ兄ちゃん、こっちからも聞いていいか?」
ギルデスは意を決した様子で聞いてきた。
「……はい。答えられることなら」
「どうして――伝説の勇者パーティーとトレヴィルで出会った俺たちが同一人物だと思ったんだ?」
ドキりと心臓が打つ感覚が襲う。
そうだ、それは私が感じていた違和感。
リネアですら、その簡単な連想に蓋をされていたようだった。
なぜ私がすんなりその連想に辿り着いたかは、まだ分からないままだった。
「わかりません……ギルデスさんは、何か思い当たるんですか?」
そう聞き返すと、ギルデスは「なるほどな」と言った様子で頷いた。
「予想はできる。だがそれを話していいか分からん」
「分からんって……」
「手に余るって言ってんだ。こっから先は頭脳派に任せる」
頭脳派……?それって――
「こっから王城方向に行けば王都の冒険者ギルドがある」
「えっ……?」
い、いつの間に……王都に冒険者ギルドはなかったはずだが。
「この前の王都モンスター襲撃事件で王都の自衛力の低さが問題視されたんだと。それで騎士団主導で有事の際に動ける冒険者を王都にも招こうってな。急ピッチで建てたらしい」
なるほど……ここ最近までリディアたちが忙しそうにしていたのはこのせいか……。
「……で、それが――」
「そこのギルド長はガルデンだ」
「「……えっ?」」
ここまで何か考え事をするように話を聞いていたリネアもさすがに驚いたようだった。
「副ギルド長はセリオだな」
「「ええっ!?」」
「こっから先は奴らに聞いてくれ。これ以上失言したら立場がなくなっちまうわ!」
ギルデスは調子を取り戻した様子で豪快に笑って見せた。
◇◇◇◇◇◇
同日、王都冒険者ギルドの客間。
「ギルデス……あれほど接触には気をつけなさいと言ったのですが」
冒険者ギルドの客間でガルデン、セリオ、私、リネアの四人が卓を囲んでいる。
トレヴィルにいた時のことを思い出すな……。
「お久しぶりですね、ユージさん。ホブゴブリン討伐の時以来……ですかね?」
「は、はい。お久しぶりです」
「リネアさんも、お元気そうで何よりです」
「…………はい」
リネアは再会を喜ぶ様子はなさそうだ。
「それで?ギルデスのやつは何をやらかしやがったんだ?」
ガルデンは余裕そうな様子で言った。
どうやら我々がここに来たこと自体はそこまで深刻な事態ではないようで安心する。
「恐らく、我々の正体がバレてしまったのでは?」
私は静かに頷いた。
「それで……ギルデスの手に余るから我々のところに送り込んだと、そんなところでしょう」
さすがの読み……というか不気味なくらいこっちの動きがバレてるな……。
「ユージさんが知りたいのは『なぜ我々が生きながら伝説となっているか』ですね?」
「おい、セリオ。それは言っちゃまずいんじゃねえか?」
ガルデンが言う。
それを聞いてセリオが特大のため息をついた。
「ギルド長がそれを言わなければいくらでも当たり障りのない言い訳ができたんですがね……」
セリオがそうぼやくと、ガルデンは「おう、そうか」と言って頭を掻いた。
「え、え〜っと、じゃあ本当のことは話せないってことですかね?」
私は恐る恐る聞く。
「話せない理由だけお伝えしておきます」
セリオはピシャリとそう言った。
「ユージさんが、味方になるかどうか分からないので」
……そうきたか。と思った。
セリオの口ぶりから察するに、今の我々の状況はほとんど知られていると考えていいだろう。
王国の特務戦力となっている我々が、彼らの正体とその目的を知って中立であるかどうかが分からない。と言うことだろう。
「それで……その剣、ひょっとしてギルデスが?」
「え?あぁ……はい。なんでも口止め料とかなんとか――」
「そうですか。それは素晴らしいですね」
セリオはここに来てやっと表情を明るくした。
「その約束、ぜひお忘れなきよう」
これは、お願いではなく“警告”だと思った。
リネアに目をやると、相変わらず俯いたままで何を考えているか分からない――
ともあれ、ここに長居は無用だろう。
◇◇◇◇◇◇
見送りはなかった。
トレヴィルでの初対面から随分と印象が違った再会。
特にセリオからは威圧感すら感じられた。
「ごめん、ユージ。私――」
「いや、いいんだ」
おそらく、リネアは奴隷として辿り着いてからずっとお世話になっていた存在の変わりようにショックを受けたのだろう。
ギルデスやガルデンは特に変わった様子はなかったようだが、セリオのあの様子は明らかにこちらに隠して何かをしようとしている様子だった。
まさか王都を襲おうだなんてそんなことは考えていないと思いたいが……。
しかし、ガルデンとセリオは仕事でこっちに来たとしても、それに合わせてギルデスまで王都に店を出していることを加味すればこれは偶然じゃない。
あとはグラートがどうしているかも気になるが……。
「リネア」
「……うん」
今はリネアのケアを優先したい。
「大丈夫か?」
「ちょっとびっくりしただけ。セリオさんたちは、お母さんと離れてから頼れる数少ない人だったから……」
そうは言うが、リネアは明らかに気落ちしている。
そんな様子のリネアの手を握った。
「…………ありがと」
「俺は……絶対リネアを――」
「いい、言わないで」
リネアはぎゅっと手を握り返してくる。
「あんたの前で泣きたくない」
「……わかった」
そこから先は、お互い無言のまま拠点へと帰る。
しかし、このつながれた手から伝わるお互いの信頼関係が、“言葉は不要”であることを物語っていた。
◇◇◇◇◇◇
その晩。
「ご主人様、これ」
夕食を済ませ、各々が自由な時間を過ごしている時、ルノアが“何者かによって届けられた手紙”を渡してきた。
「ご主人様しかよんじゃだめって」
な、なるほど……?私に名指しの手紙ってことか……。
丁寧に封をされたその手紙の差出人は――
“パンデム商会”商会長。
この王国の奴隷商売を仕切る大店。そのトップからの手紙だった。
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