冒険者としての仕事(スタンピード編)
「もうすぐスタンピードが発生するわ!」
お店に冒険者ギルドのラミリアさんが知らせに来てくれた。異世界の冒険者物には必ず付き物のスタンピードだけど、念のために説明はしておこう。
ダンジョンにはモンスターが絶えず発生している。なんらかの原因でモンスターが増えすぎるとダンジョンの外にでてくる。それも津波のように。
モンスターが襲ってくるのは人間の住む街。つまり、ボクのいるここだ。そしてある程度の冒険者には強制的にスタンピードへの対応がギルドから課される。
「スタンピードだってよ!」
「飯なんて食ってる場合じゃねぇ!!」
「逃げるぞ!!」
ランチバイキングに並んでいたお客様たちが逃げ出した。なんて最悪なタイミングだろう。
もちろんボクも強制参加になる。だからラミリアさんはわざわざ知らせに来てくれたんだね。
ぎゅっ
ラミリアさんが抱きつく。え、ここお店の前だよ。お客様もたくさんいるよ。バレたらマズイんじゃないの。
「逃げて。いますぐこの街から」
「ぇ」
「あなたはこの世界の人間じゃない」
「知ってたんだ」
「バレバレよ」
「黙っててごめんね」
「だからこの街を守る必要はないの」
「嫌だ」
「死ぬのよ」
「だってラミリアさん、残るでしょ」
「!!!」
「バカ!年上のいうことは聞きなさい!!」
「ボクの子を産んでくれる女性を守れなくて何が男だよ」
「バカバカバカ・・・」
ラミリアさんはそのまま泣いていた。女の人を泣かすなんてモンスター許すまじ。泣かしたのはボクなんだけど。
スタンピードが街にくれば店も人もすべて終わりだ。ボクの店も、ボクを信じて店を任せてくれた人たちの暮らしも。なによりも美味しい!と喜んでくれるお客様の顔を曇らせたくなかった。
逃げる。そんなのできるわけないじゃないか。
なによりも完全に営業妨害だ。スタンピードめ、叩き潰してやる。令和の日本人の底力を見せてやろう。
「チーム名はブルー・オーガです」
ここは冒険者ギルド。Aクラス冒険者のボクは五名のパーティーでスタンピードに対応することにした。
メンバーはリーダーのボク。ギルドからB級のラミリアさんを借りて副リーダーとする。C級のミコトとメイ姉妹。
五人目は意外な人が参戦してくれた。三号店のオーナー兼シェフのミリアさんだ。
「ただ者じゃないと思った」
「引退したけど元A級冒険者だからな。背中は任せな」
「助かります」
ミリアさんは背中に大マグロほどの刺身包丁を背負っていた。ゴブリンなら一刀両断できるだろう。
「来ました!スタンピードです!!」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
ボクら冒険者は街の入り口に立つ。森や山の方角から土煙が上がっている。
雑魚ゴブリンをはじめ、ゴブリンリーダー、オーク、ミノタウロスまでいる。こいつらを恐れてアルミラージは逃げてきたのか。
何百というモンスターがこちらに向かってきた。
「奥にデカいのがいるぞ!!」
「サイクロプスだ!」
一つ目の鬼。身長は五メートルもありそうなサイクロプスがいた。あれがボスか。
「ああ。あの大軍にメガスマッシャーとかボルテッカとかサテライトキャノンとか撃てたら気持ちいいだろうなぁ」
思わず男の夢を語ってしまう。
「ミコト、メイ」
「「はい旦那様」」
二人がボクの立つ地面にザクッと日本刀を突き刺す。その数、二本。何かあったときのためにあらかじめ作っておいたものだ。
すぅ~
息を吸う。そして独り言を口にする。
「行くぞ英雄王。武器の貯蔵は十分か」
叫ぶ。
「悪い子はいねがぁああああ!!!!!」
ビリビリビリビリビリビリ。雑魚ゴブリンが殺気で足を止めて、後続のゴブリンリーダーやオークに踏み潰された。
シュラ
両手に日本刀をもつ。とにかく軽く作ってもらったから、恐らくそんなにはもたない。それでいい。武器は使い捨てだ。
ボクの叫びを合図に横並びした冒険者たちがスリングを構える。いわゆるパチンコだ。けれどこれはゴムも強力で、弾も鉄を使っている。
「薙ぎ払え!!」
雑魚ゴブリン程度なら一発で即死させる威力がある。敵の射程外から数を減らす。織田信長さんは偉大だね。
よし先頭の雑魚ゴブリンはほとんどいなくなった。大きめの獲物もダメージを受けている。
ダッ
ミコトとメイとスタンピードに突っ込む。ボクが狙うのは大物だけだ。ミコトとメイのナイフ(クナイ)が雑魚ゴブリンの額に突き刺さる。
まずはゴブリンリーダーの首をはねる。その背中を踏み台にして隣のオークの首もはねた。さらにオークの体を踏み台にして、ミノタウロスも屠る。
とあるロボットアニメで赤い彗星と呼ばれた天才が、敵の戦艦を踏み台にして次から次に撃沈した戦法を参考にさせてもらった。
三匹目のミノタウロスの首で右手の日本刀が抜けなくなる。隠し持っていたトンファーで頭を潰す。
「旦那様!!」
ミコトが収納庫から新たな日本刀を投げて渡してくれた。
「おらっ」
今度は左手の日本刀がオークの頭で折れる。
「旦那様!!」
メイが収納庫から新たな日本刀をくれる。戦闘開始からまだ十分ほど。すでに大型モンスターの半分以上をボクは倒した。
ミリアさんがボクの前に立つ。
「雑魚は任せな」
大マグロほどのデカくて長い刺身包丁を両手で構える。
「抜刀!!」
雑魚ゴブリン八体の首が宙に飛んだ。後ろのオークの足まで切断されてるぞ。おっかねー。
ここらでひと休みさせてもらおう。他の冒険者たちの援護射撃も続く。ミリアさんが前に立ち、ミコトとメイも左右を警戒してくれる。
背中を任せていたラミリアさんがポーションをバッグから取り出す。
「こよりくん。ポーションよ飲んで」
「ありがとう、ラミリアさん」
「むぐっ」
自分の口にポーションを含んだラミリアさんは口移しでボクに飲ませた。
ぷはっ。
「元気でた」
「ああ、もうビンビンだよ」
「職権乱用だぞ、受付嬢!!」
「それは反則だ!!」
ミコトとメイがキレる。ミリアさんは若い子っていいねぇとつぶやく。
他の冒険者たちも頑張ってくれたおかげで雑魚はほとんど片付いた。
大物のゴブリンリーダー、オーク、ミノタウロスさえスリング鉄球の前には体力を削られている。
後ろに控えるサイクロプスも、街に近づく前にバタバタと部下が倒れていくのをみて、驚いていた。
「さあラストだ」
「目を集中的に狙え!!」
目が弱点のサイクロプスにはたまらない。手で目を隠しながら後退をはじめた。ボクはサイクロプスの足に日本刀を突き刺す。
ギャアアアアア!!!
思わず痛みで目のガードを忘れるサイクロプス。そこに冒険者たちは集中砲火した。
ズズーン。
目玉が潰れ、脳にまで鉄球が届いたのだろう。後ろに倒れるサイクロプス。あとはやりたい放題だ。頭に鉄球を何百と撃ちこませる。
デカい図体とパワーがあるから油断して飛び込めば犠牲者がでかねない。あくまでも安全第一。
三十分後。完全に息の根をとめたサイクロプスを確認して、スタンピードは終息した。
ボクたちの勝ちだ。
「こよりくん!」
ラミリアさんが抱きついてくる。
「ラミリアさん。ひとつ教えて」
「危険日なら今日よ」
「サイクロプスって美味しいのかな」
はい異世界シニアです。
敵を倒すのに近接戦闘する必要はありませんよね。
雑魚にだってやられることもあるのですから。
次回、異世界バイキング。スタンピードの後始末。




