第23話、【入学式即休校記念】教えて! 軍艦擬人化☆魔法少女、『鹿島先生』♡(その2)
「──ただ今から、臨時訓練を始めます。皆さん、この『特殊防具』を、装着してください」
江田島に密かに設けられている、軍艦擬人化少女たちのための訓練施設の地下最深部の、広大なる『特別教練場』にて響き渡る、練習巡洋艦香取型2番艦の、軍艦擬人化少女鹿島先生の、涼やかな声音。
そして、私たちひよっこ訓練生である、一等駆逐艦暁型四姉妹のほうへと放り投げられる、少し黄ばんだ色合いの布製のマスク。
「……え、何です、これ」
「これが、防具って」
「ただのマスクでは、ありませんか?」
「それもなぜか、一人につき、二枚ずつ?」
思わぬものを与えられて、怪訝な表情となる、私こと長女である一番艦の暁と、二番艦以降の妹たちである、響と雷と電の、通称『六駆』の四姉妹。
しかし、『見かけは天使、中身は鬼』の教官殿は、我々に躊躇する暇すらも与えなかった。
「口を閉じなさい、抜き打ちの臨時訓練においては、いかなる質問も許しません。その代わり、今日は好きなだけマスクを使っていいですよ? 二枚目も有効に活用しなさい」
「「「「え?」」」」
いやちょっと待って、それって確か、「おかわりもOK」な、例の『死亡フラグ』では⁉
「──では、これより、対ウィルス戦訓練を開始する! 『大陸風ウィルス』、散布開始!」
「「「「やっぱりいいいいいいいい!!!!」」」」
くっ、すっかり油断していた!
これがオリジナルで無く、単なるパロディ的二次創作なら、鹿島先生も宇宙服みたいな防護服を着込んでいて、訓練開始の号令とともに、ガスマスクを装着するところであろうが、
──そもそも、我々軍艦擬人化少女には、そんなものは必要ないのだ。
「いや、だったら、普通のマスクも必要ないでしょうが⁉」
「第一、小学校の給食係が使っているような、一般的な布マスクが、本格的な対ウィルス戦訓練に、役に立つわけが無いのでは?」
「それにどうして、二枚なのよ⁉」
「こんな微妙な情勢下において、下手な風刺を持ち込むなよ!」
「──だまらっしゃい! 今この時『二枚組のマスク』を批判することは、我々の直属の上司であられる提督どころか、中央政府を批判するも同然ですよ! それよりも、ちゃんと喰わないと、やっかい極まるウィルスに、感染してしまいますよ?」
「「「「──っ」」」」
先生の、(今一つ納得は行かないものの)的確な指示に応じて、自分の周囲に少々大きめの炎──海の人魂である『不知火』を灯す、一応は『幽霊船』の類いでもある四姉妹。
辺り一帯が、完全にウィルスに覆い尽くされた中にあっても、同様に周囲に不知火を展開しながら、相も変わらず涼しい表情で腕組みをして、我々のほうを見守り続ける鹿島先生。
それに比べて、いまだ不知火をうまく使いこなせない私たちは、少なからずウィルスと接触し始めて、徐々にその身を蝕まれていく。
「ほらほら、どうしたの? 特に電さん、あなた随分と顔色が悪くなっているけど、ちゃんとウィルスを喰らい尽くさないと、駄目じゃないの? 確かにあなたは軍艦の力を持っているとはいえ、素体はただの女の子なんだから、物理的衝撃にはある程度耐えられても、『生体部分』をウィルス等で汚染されたら、活動停止に追い込まれてしまうわよ?」
その御指摘通り、末っ子で何かと要領の悪い電が、不知火をすり抜けてきたウィルスに、どんどんと感染されていき、ついには胸元を押さえつつ、その場にしゃがみ込んでしまった。
「「「──電あー!!!」」」
「はい、残りの皆さんも、他人を心配する余裕はありませんよ? 不知火はけして、本物の炎ではありませんし、もちろんウィルス自体も焼却しているわけではございません。──ちゃんと漏れなく『同化』させないと、姉妹もろとも全滅してしまうますよ?」
「「「くっ」」」
まさにおっしゃる通りに、このままでは、一挙に全員、『戦力外通告』待ったなしであろう。
──ええい、長女である私が、そんな弱気になって、どうするのよ⁉
「響に雷! 私と一緒に、電の周囲に等間隔に展開! 電も辛いと思うけど、不知火を全力で灯し続けて!」
「「らじゃ‼」」
「……りょ、了解っ」
私の号令一下、電を中心にして、背を向けるようにして配置して、不知火の『同化能力』を、マックスレベルへと引き上げる。
次第にウィルスの濃度が、薄まりつつあることを、感じ始めた。
「──電、頑張って、もう少しの辛抱よ!」
「……う、うん、みんな、ありがとう」
どうにか態勢を立て直した私たちを見て、ここに来て初めて、心からの笑みを浮かべる、『鬼教官』殿。
「──いいわね、理想通りよ。そうなの、未熟なあなたたちは、一人一人の力はダメダメなんだから、常に連係プレイを心掛けなさい。暁さん、少々甘いけど、今回は辛うじて合格よ。電さんを至急、医務室に連れて行ってあげなさい」
そのように、事実上の訓練終了の通告をするや、一瞬だけ先生の周囲の不知火が燃え上がるとともに、教練場中のウィルスが一掃された。
──ただし、別に本当にウィルスが除去されたわけでも、先生や我々の不知火によって、燃やし尽くされたわけでも無かった。
実は不知火とは、私たち軍艦擬人化少女がそれぞれのレベルに応じて与えられている、『集合的無意識とのアクセス権』を活用することによって、大気を始めとする周囲の物質を構成する物理量の最小単位である、量子の形態情報を、変幻自在な『重ね合わせ』状態にすることによって創り出される、擬似的な不定形暗黒生物『ショゴス』のことなのであり、この『変形自在型不知火』に触れた物質は、ウィルスさえも含む森羅万象の如何を問わず、それらを構成する量子の形態情報が書き換えられることによって、ショゴス──すなわち不知火と同じ状態となり、無害化されて取り込まれることになるといった次第であった。
……ただし、私たち駆逐艦はそもそも、肝心の『集合的無意識とのアクセス権』のレベル自体が低く、しかもいまだ完璧に情報の書き換えを行えずにいるので、ウィルスをすべて不知火に同化することを為し得ず、少なからず感染することを免れないのだ。
──まあ、その場合も、訓練の後で、医務室の香取先生のお力で、私たちの肉体そのものの量子情報を書き換えてもらって、あっさりと回復することができるんだけどね。
そう、実は私たち軍艦擬人化少女こそが、劣悪な状況下における『ウィルス戦』を念頭に開発された、『人造ショゴス兵』とも呼び得る存在だったのだ。
かつて、世界中に『大陸風ウィルス』が蔓延した際には、各国の軍隊の兵士すらも大勢感染してしまい、しかもそのような絶望的な状況で起こった大規模戦争によって、あわや人類が滅亡の危機に瀕してしまったのであった。
その苦々しき『教訓』に基づいて、死に至る可能性の高い、凶悪なるウィルスをも完全に無効化できる、私たちのような不定形暗黒生物ショゴスによって構成された、軍艦擬人化少女が、この大日本第三帝国において『建造』されたのである。
……まあ、そうは言っても、私たちは日常生活においては、普通の女の子とほとんど変わらず、自分がクトゥルフ神話の暗黒生物によって構成されていることなんて、まったく自覚していないんだけどね。
そのように様々なことを、胸中で考え巡らせながら、みんなと力を合わせて、電を医務室へと運ぼうとしていた、私であったが。
──自分が本当は、基本的に『決まった形を持たない』という事実を、もっと真剣に考えるべきであったことを、この後すぐに、痛切なる後悔とともに、思い知ることになるのであった。




