第22話、【四月バカ記念】教えて! 軍艦擬人化☆魔法少女、『鹿島先生』♡(その1)
「──さあ、皆さん、これが私たちの『敵』です。遠慮せずに、『廃棄処分』を行ってください」
その時、至極当然のようにして、『先生』はおっしゃった。
地味な色合いのタイトミニのスーツに包み込まれた、華奢なれど女性らしい凹凸も豊かな肢体に、艶やかなセミロングの黒髪に縁取られた、端整で色白な小顔。
いかにも清楚ながらも健康な色気も兼ね備えている、美人新任女教師といった出で立ちであったものの、
満面の笑顔の中で、二つの瞳だけが、真冬の氷雪のごとき冷気を、密かに放っていたのである。
大日本帝国海軍練習巡洋艦、香取型2番艦の、軍艦擬人化少女『鹿島』。
私こと、大日本帝国海軍一等駆逐艦、暁型1番艦の、軍艦擬人化少女『暁』をリーダーとする、第一艦隊第一水雷戦隊第六駆逐隊の、新米軍艦擬人化少女たちを指揮してくださっている、指導官ならぬ指導『艦』であった。
ここは江田島に所在する、私たち軍艦擬人化少女たちのための訓練施設の地下最深部に設けられている、広大なる『特別教練場』であり、今この場にいるのは、鹿島先生を始めとして、私たち通称『六駆』の暁型駆逐艦四姉妹である、暁と響と雷と電と、
──加えて、もう『一体』、
『練習素材』として、異形の化け物が存在していた。
頑丈な鎖に繋がれた手錠や首輪や足枷等の拘束具によって、一応は自由を奪われているものの、もはや身体を隠す役目なぞ果たしていないボロボロの布地に包み込まれた、三メートルほどもある巨体は、見る者にえも言われぬ威圧感を覚えさせた。
なぜなら、四つほどある瞳の眼光は、いまだ闘争心を失うこと無く、三つの唇からは鋭い牙を覗かせながら、世界中のすべてを呪うかのような、うめき声を漏らしていたのだ。
──『海底の魔女』。
私たち軍艦擬人化少女──ひいては、人類全体にとっての、『敵』なる存在。
髪の毛を始めとして、多数の腕や脚が生えている厳つい岩石のごとき体躯に至るまでのすべてが、血の気の抜けきった青白さでありながら、やはり尋常ならざる数を誇る瞳と唇だけが、あたかも鮮血のごとき深紅に染まっていた。
まさしく、『死』と『憎悪』と『災厄』とを、全身で体現しているかのように。
「──さあ、何をやっているのです、暁に響に雷に電! 早く止めを刺しなさい!」
いわゆる訓練用の『標的艦』のあまりの異様さに、すでに自分の身の回りの空間に展開していた武装を使うことさえも忘れ果てて、四人揃って棒立ちになっていたところ、鹿島先生の叱咤の声が突きつけられた。
そうなのである。
私たちのようなひよっこの駆逐艦に与えられる、『標的艦』の海底の魔女は、すでに十分に傷つき虫の息となっている者と決まっており、こちらがグズグズしている分だけ、苦しみを長引かせるばかりであったのだ。
──そして、たとえ『虫の息』であろうと、けして油断できないのが、『海底の魔女』の恐ろしさなのであった。
「きゃあああああああああ⁉」
教練場に響き渡る、幼い少女の悲鳴。
「い、電⁉」
クレーンほどもある大きな手のひらに握りしめられて、宙吊りとなる、私たち四姉妹の末っ子の、駆逐艦『娘』。
何と満身創痍のはずの海底の魔女が、自由を奪われている六本の腕以外に、新たにやけに長く大きな腕を生やして、いつまでたっても攻撃するのを躊躇していた私たちの隙を突くようにして、突如反撃してきたのだ。
「いやっ、やめてっ、放してちょうだい!」
電を掴んだままの腕を、一番大きな腹部に開いた口へと近づけていく、純白の怪物。
「や、やめろ!」
「電を放せ!」
「このっ、食らえ!」
姉妹の危機に、ようやく攻撃を開始する私たちであったが、戦艦タイプの強大なる海底の魔女の皮膚は頑丈極まりなく、四人が的確に連携をとることなく、ただやみくもに砲撃を繰り返すだけでは、ほとんどダメージを与えることはできなかった。
「……仕方ありませんね」
そんなつぶやきが聞こえてきたかと思った、その瞬間。
「──ぐぎゃああああああああああああああああああ!!!」
広大な教練場中に絶叫を轟かせながら、盛大なる血しぶきをほとばしらせて、その巨体を爆発四散させる、海底の魔女。
引きちぎられた腕とともに、床へと放り投げられる、電の小柄な身体。
「──ぎゃうん⁉」
何度か床をバウンドした挙げ句、教練場の壁際に倒れ込む末っ子。
「雷⁉」
「無事か⁉」
「返事をしてちょうだい!」
三人揃って慌てて駆け寄れば、顔を歪めながらも、どうにか口を開いてくれた。
「──痛っ。し、心配しないで、あたしは、大丈夫だよ」
それを見て、ホッと安堵のため息を漏らす、私たち三姉妹──であったが、
「……まったく、何をやっているのです? せっかくの『教材』が、無駄になってしまったではありませんか?」
唐突に放たれる、いかにもこちらのことをあきれ果てているかのような、溜息まじりの声。
振り向けば鹿島先生が、麗しのご尊顔の眉根を寄せながら、腕組みをしてたたずんでいた。
──その周囲の空間に、いまだ砲煙を上げ続けている、50口径141ミリ連装砲 を始めとする、帝国海軍巡洋艦としての武装を展開しながら。
「あのような質の良い『教材』が、いつでも手に入るとは限らないのですよ? ──忘れたのですか、今回の海底の魔女を手に入れるのと引き換えに、我が軍の主力戦艦たる長門さんの、貴重なる犠牲があったことを」
「「「「──っ」」」」
……そうだ、そうだった。
あの日の実戦訓練において、指導『艦』であられた長門さんは、私たちひよっこの駆逐艦のピンチを救うために、自ら身を呈して魔女たちの砲撃を受けて、轟沈してしまわれたのだ!
「あなたたちがそんな体たらくでは、長門さんも浮かぶ瀬がないと言うもの。少しでも彼女への恩義を感じているのなら、更に精進を重ねなさい!」
「「「「はい、承知いたしました!!!」」」」
その時私は、他の姉妹たち同様、心の底からそう答えた。
──少なくとも、その時だけは。




