第20話、ネットメディア規制は、Web小説に対する死の宣告である!(中編)
「……軍艦擬人化少女だからこそ、今話題騒然の『大陸風ウィルス』を、まったく寄せつけないでいられるって、一体どういうことだよ?」
「……はあ〜、少しは感謝してくださいよ、そのお陰で提督も助かっておられるんですからね? つまりですねえ、今申しましたばかりの、『ショゴスの量子の形態情報の書き換え能力』の応用なんですよ。私たちに接近するウィルスや細菌の類いは、全部無害な大気の分子等になるように、集合的無意識を介して情報を書き換えているのです」
──はあ?
「何その、完全無敵の『自動防御システム』は⁉ 接近してくるウィルスや細菌の毒性をすべて『殺して』しまうだと? 一体どこの『即死チート』だよ?」
「『殺して』いるのではありません、あくまでも別の存在に、『変換して』いるのです」
「同じようなものだろう? 自分に害をなそうとするものは、ナノレベルの対象すらも滅しようとするなんて。そのうち『引力』とか『距離』とかの、『事象や概念』すらも殺せるとか言い出すんじゃないだろうな⁉」
「──逆です、私が全次元において最強であり得るのは、提督のおっしゃるような某『即死チート』そのままに、『全次元において、おまえの存在を消し去ってやる!』と言った、文字通りの反則技能力によっても、『事象や概念としてけして消滅することは無い』からこそなのですよ」
「へ? 全次元において、けして消滅することは無い、って……」
何それ?
それはそれで、いわゆる『不老不死』というか『完全不滅』というか的に、最強じゃん。
「私が軍艦擬人化少女と言うことは、当然その基となった、『歴史上の軍艦』が存在していると言うことですよね?」
「ああ、うん、そりゃそうだよな」
「それは当然、私の生まれ故郷である、この現代日本における、『史実』であるわけですよね?」
「うんうん」
「──ということで、いくら文字通りの反則技能力を用いて、私を全次元から消滅させようとしても、少なくともこの世界における『史実上の軍艦』を消し去ることは絶対に不可能なのだから、そもそもの『全次元から対象を消去する』という力そのものが、無効化されてしまうんですよ」
…………………………………………………………………………え〜と。
「え、え、それって、どういうこと? 全次元から存在を消し去ることのできるチートスキルなのに、どうして例外が生じるの⁉」
「えっ、今の説明をお聞きになって、おわかりにならなかったのですか? 至極当然のことを申しただけなのですけど? ……仕方ありません、折良くそこに通りかかった男性に伺ってみましょう。──すみません、ちょっと質問があるのですが?」
「──うん、何だい、随分と可愛いロリっ子だな? 何でもおじさんに聞いてご覧♡」
……やべっ、ある意味相当の『危険人物』じゃないのか、こいつ?
「あのですね、どこかの剣と魔法のファンタジーワールドに、『全次元的に対象を消し去る』ことのできる、チートスキルを持った人がいたとしての話なんですけど」
「ふん、いわゆる『なろう系』ってやつか? それがどうしたんだい?」
「その力によって、この日本から、かつての帝国海軍の戦艦『大和』が、その存在そのものを抹消されたりすると思いますか?」
「……馬鹿馬鹿しい、何で『なろう系』作品の中で、馬鹿げたチートスキルを使っただけで、現実の存在が抹消されなきゃならないんだ。うむうむ、やはりすべてのネット上のメディアを、子供たちから取り上げようとしている、我がうどん県の方針は、正しかったのだな! わはははははは!」
何だか不穏なことを言い放つや、高笑いだけを残して立ち去っていく、いかにも『上級国民』らしき、身なりのいい男性。
……おかしい、あのようなハイクラスの市民が、『なろう系』なんかのことを知っているなんて。(偏見)
どこかの『娘コン』オヤジ議長みたいに、ゲームに熱中している娘に邪険にされた腹いせに、某県議会において『うどん県ネットメディア根絶条例』をでっち上げるという、馬鹿げた八つ当たりのためだけに、『ゲーム脳』について研究し尽くして、要らぬ『オタク知識』を身に着けたんじゃないだろうな?
「ね、提督、これでおわかりになったでしょう?」
「いや、わからないよ! それはあくまでも、『この現代日本が現実世界だった場合』の話だろう? 量子論を始めとする物理法則に基づけば、現実世界と言うものは一つしか存在しないんだから、僕たちがいた剣と魔法のファンタジーワールドのほうが、唯一絶対の現実世界であり、この現代日本のほうが、実は虚構の存在かも知れないじゃないか?」
「おお、おっしゃる通りです、さすがは、我が主。いわゆる『唯一絶対の現実世界』とは、けしてこの現代日本であるとは決まっておらず、『それぞれの世界を観測している者』自身が、現に存在して観測している世界こそが、唯一の現実世界だと見なすべきなのです」
「だったら、『全次元から消し去ってやる!』スキルなんてものを行使できるのは、ファンタジーワールドに決まっているのだから、スキルを行使する時点においては、ファンタジーワールドこそが唯一の現実世界となり、現代日本のほうが虚構の世界となって、『大和』という軍艦が存在していたことも虚構でしかなくなり、軍艦擬人化少女であるおまえにも、『全次元から消し去ってやる!』スキルが有効になるわけじゃないのか?」
「──と言うことは、『唯一絶対の現実世界』というものは、実は何と『相対的』なものであるということですよね?」
「う、うん、そうなるかな…………あれ? 唯一『絶対』なのに、『相対』的だと?」
「それでいいんですよ、そもそもそのスキル自体が『全次元』なんて言う、物理原則を超越したものを対象にしているのだから、本来唯一絶対的な存在であるはずの現実世界が、ありとあらゆるタイプの世界が無数に存在することになる可能性が生じても、おかしくはないのです」
「……ああ、それって得意の、量子論のやつか」
「はい、いわゆる『多世界解釈量子論』です。これに基づけば、どのようなタイプの世界であろうとも、『可能性の上では』その存在は否定できなくなりますので、『私の基になった軍艦が歴史上存在している世界』が存在している可能性をけして否定できなくなり、その結果、私を『全次元において消滅させる』ことは、けしてできなくなるのです。──お疑いなら、今まさにパソコンを通して、この文章をお読みになっている、『読者の皆様』にお聞きになってみれば、よろしいかと思いますが?」
──っ。
「いやだから、そんなメタそのもののことを、いきなり言い出すんじゃないよ⁉」
「いいえ、メタなんかではありませんよ? 量子論に基づけば、あらゆるタイプの世界が存在している可能性があり得ると申したではありませんか? ──すなわち、まさに『この世界を小説として作成している現実世界』も、その存在可能性を否定することは、何人であろうと不可能なのです」
……ええー、量子論て、メタに対してさえも、論理的根拠を与えることができるのかよ?
すげえな、量子論さえマスターしていれば、Web小説においては、無敵じゃん。
確かに、『全次元からおまえを消し去ってくれる!』スキルなんか、目じゃないよな。
「どうやら、おわかりになったようですね? ──それでは、そろそろ参りましょうか」
そう言っておもむろに、周囲の大気の構成粒子の形態情報を書き換えて、見るからに禍々しい軍艦の艤装──つまりは、大砲や機銃からなる『武装』を顕現させる、自他共に認める『軍艦』擬人化少女。
「──いやいやいや、そんな物騒なものを呼び出して、どこに行こうというんだ⁉」
「えっ、もちろん、『うどん県庁及び県議会』ですけど?」
※ちなみに、ほとんどの自治体においては、県庁と県議会は、同じ敷地内に併設されております。
──じゃなくて!
「どうして軍艦擬人化少女のおまえが、県の中枢に用事なんかがあるんだよ? しかもそんな、完全武装状態になって!」
「むしろ軍艦擬人化少女だからこそ、彼らをすべて、根絶やしにしなければならないのですよ」
──‼




