第17話、あたし、さまよえるオランダ駆逐艦『娘』、いまバタヴィアにいるの。(中編)
ここは、東南エイジアの巨大諸島連合国家、イーストターバンの首都『ヴァカミタ』。
西ガリアの白色種の列強諸国や極東エイジアの鬼人族の旭光帝国等の、経済先進国に比べれば取るに足らない、褐色種の人間族の劣等国に過ぎませんが、長年の旭光の経済支援や、最近とみに目立つ東エイジアの超大国チナ黄色オーク族共和国による、いわゆる『チナマネー』の大量投下によって、それなりに活況を呈しており、エイジアでも屈指の高層ビル街を形成していました。
道行く人々も皆笑顔で、街自体も賑わいと豊かさに満ちあふれており、とてもかの凶悪なる『武装チナ肺炎ウィルス』の、世界的大流行のまっただ中にあると思えないほどです。
──そんな中で、殊更異彩を放っていたのが、ビルの谷間にひっそりと点在している、見るも無惨にボロボロに破壊し尽くされた、企業の社屋に商店や飲食店の店舗の数々でした。
それらの共通点として看板等に、旭光独特の『ひらがな』や『カタカナ』からなる、『神聖帝国文字』が記されていたことです。
そのような異様な光景が少なからず目につくというのに、イーストターバン諸島連合の人々は誰一人気にする者はおらず、変わらぬ笑顔で、『誰かが与えてくれた』独立と平和と繁栄とを、極当たり前のようにして謳歌するばかりでした。
──いいえ、違います。
ほんの数名だけ、廃墟の建物の真ん前で足を止めて、見つめている者たちがいました。
驚いたことに『彼女』たちは皆、人間族にしては彫りが深く肌の色も真っ白な、十四、五歳ほどの目を疑うような美少女だったのです。
もしかしたら人間族では無く、ガリア大陸の白色種である魔族かも知れませんが、辺境国家イーストターバン諸島連合における首都ヴァカミタは、一応『国際都市』と言うことになっていますので、東スワスチカ共産主義国の魔族がいたとしても、それほど珍しいことではないでしょう。
ただし、その少女たちがすべて、同じ顔形をしていることを除けば。
『──すべての社屋及び店舗に、鬼人族の反応無し!』
『──全旭光人の、本国への撤退を、確認!』
『──これより、「作戦」を開始する!』
『──「全艦」、集合的無意識とのアクセスを、始めよ!』
『──こちら「バンケルト1」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト2」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト3」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト4」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト5」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト6」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト7」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト8」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト9」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト10」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト11」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト12」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
『──こちら「バンケルト13」、集合的無意識とのアクセスを開始!』
「きゃああああああああああああああっ⁉」
──突然、摩天楼に響き渡る、絹を引き裂くかのような女性の悲鳴。
それも、そのはずです。
何と例の魔族そのままな金髪碧眼の少女たちが、何やらつぶやくと同時に、彼女たちの周囲の空気の粒子が実体化して、巨大で禍々しい砲門へと、変化したのですから。
『『『──集合的無意識より、駆逐艦モードの兵装情報のインストール完了! ネーデルラント王国海軍所属、アドミラーレン級駆逐艦「バンケルト」、主砲発射用意!!!』』』
そして、人の心というものを忘れ果てて、退廃の限りを尽くしていた背徳の都市に対して、『神の怒りの裁き』が始まったのでした。
※あくまでもこの作品は、リヒャルト=ワグナーのオペラと、その題材となった『フライング・ダッチマン』伝承とに基づいた、完全なるフィクションであって、実在の人物や国家やその他諸々とは、まったく関係ございません。




