第14話、【番外編】『ナ○スは嫌いなのです!』(中編)
「……何だと? 鬼人族である君が、白オーク族のブリテン連合王国の首相チャッチルの、化粧師をしているって?」
現在の世界情勢からしたら、とても信じられないことを聞かされて、思わず問い返す、スワスチカ第三帝国の、中央エイジア産油国亜蘭駐在武官。
──しかし、ほんの目の前で下卑た笑みを浮かべている青年が、続け様に発した台詞は、更にとんでもないものであった。
「別に驚くことでもないだろう? 何せ我が旭光帝国は、ブリトンやシロクマと同盟を結んで、スワスチカに宣戦布告をする予定なんだからな」
「「「……………………………………は?」」」
思わず気の抜けた声を出すとともに、揃って間抜け面を晒す、スワスチカの武官と亜蘭の民兵たち。
「「「いやいやいや、そんな馬鹿な⁉ 旭光がブリテンとシロクマと同盟して、第三帝国と開戦するなんて、そのような無駄に奇をてらい過ぎた、『世界線』も『仮想戦記』もあるものか⁉」」」
動揺のあまり、何だかメタっぽいことを言い出す、武官たち。
……とはいえ、これまで数えきれないまでに乱発された、『何でもアリ』な仮想戦記だったら、もしかしたらそういった話も、すでに存在していたりして?
「で、でも、現在旭光の上層部の意見は、シロクマと戦う『北進派』と、ブリトンやエスカルゴやオレンジ──場合によっては、アメリゴ合衆国と戦う『南進派』との、大きく二つに分かれていたのではないのか⁉」
「うん、お利口さんの大臣や元帥たちが、そんなことを話し合っていたから、僕ちんが意見してあげたのさあ」
「……君が? 一体何と?」
「シロクマと戦おうがブリトンと戦おうが、どっちにしろ旭光は負けるんだから、この場合、どちらの陣営とも『戦わない』が、正解だって」
「なっ、戦わないが、正解って⁉ そんな! そもそも旭光って、エイジア最強の軍事国家で、主戦派しかいなかったんじゃないのか⁉」
「だって、ブリトンやエスカルゴを敵に回せば、当然アメリゴが出張ってくるから、国力的に絶対勝ち目はないし、だったらシロクマをあんたたちスワスチカと挟み撃ちにすればいいかと言うと、シロクマとは先に『ノーモンダイ事変』でやり合った際に、あっちの猛将獣一物に完全に警戒されてしまっているから、一筋縄でいかないし。しかも長期的に見れば、スワスチカの敵となったシロクマは、ブリテンやアメリゴにとっては『敵の敵は味方』理論から、相互扶助関係になるものと思われ、結局僕ちんたち旭光も、ブリテンやアメリゴと事を構えなくなるので、勝ち目はまったく無くなるじゃん?」
「………………………………あれ? 言われてみれば、その通りではないか。ということは、つまり?」
「だから言っているじゃないの? 『戦わないのが、正解』って。僕ちんたち旭光やあんたたちスワスチカには、最初から勝ち目なんて無かったんだよ」
「うおおおおっ、何かちゃんとした理由を聞いた後だと、いかにも馬鹿げた言葉が、すっげえ深い意味を持つように聞こえてきたではないか⁉ ──いや、まだだ! まだ不十分だ! たとえ旭光側に戦意が無かろうとも、東エイジアに進出し、『グレート・イースト・エイジア共栄圏』の確立を目指している限りは、懲戒石総統が率いる熊猫民国を支持している、ブリトンやアメリゴとの衝突は、避けられないのでは?」
「……おっさんよお、おつむは大丈夫か? さっき言ったじゃん、『敵の敵は、味方』って。──なあ、チャッチルさん?」
「ええ、ええ、そうでございますとも。スワスチカと敵対する国は、どんな思想や政治形態を取られていようが、我がブリトンの同志にございます」
「右に同じクマ」
「そ、そんな馬鹿な⁉ さっきまでブリトンは、『人種差別』バリバリだったはずなのに、どうしていきなり旭光と同盟を組むわけなのだ⁉」
「なあに、言っているんだよ? 『人種差別』と言えば、おまえらスワスチカのお家芸だろうが?」
「──ッ」
突然、これまでのいかにも不真面目なにやけた表情を消し去り、姿勢もきちんとただして、あたかも別人そのままにどことなく威風すら感じさせながら、無=虚=偽などと、いかにも偽名じみた名前を名乗った男は言った。
「そ、それは、一体、どういう意味だ?」
「う〜ん? それよりも先に、『突っ込む』ことがあるんじゃないのかあ?」
「──そうだ、クマーリン書記長の『右に同じクマ』とかふざけた台詞も大概だが、どうしてチャッチル首相が、自分の化粧師に対して、あんな丁寧な敬語でしゃべっているんだ⁉」
「そりゃあ、よその国の方とは言え、自分よりも『目上の方』に対して、敬語を使うのは、当然ではないか?」
「目上って………………………………ブリトン連合王国の首相よりも、目上だと? ──はっ、ちょっと待て、君……いや、あなた、先程から『一人称』を、何とおっしゃっていましたか⁉」
「え、うん、僕ちん、って、言ってたけど?」
「『ちん』てまさか、旭光の…………………………………………『皇族』?」
「にひひ、やはり僕ちんの高貴さは、隠せないってか? そうそう、僕ちんいわゆる、『皇弟』と呼ばれるやつで、今の皇帝陛下の、五番目の弟に当たるんだよ」
「こ、これは、皇弟殿下とも知らずに、大変失礼をばいたしました!」
そう言うや、慌てふためいてその場に跪き、頭を深く下げる、スワスチカの武官。
それに対して、ある意味『身分不相応な』気安い笑みをたたえながら、その『皇子様』はあっけなく、
──本日最大級の、爆弾発言を投下した。
「そんなに畏まるこたあねえぜ、何せ僕ちんは『庶民派』だからなあ? そもそもすでに、皇籍を離れて、一介の軍人をやっているくらいだし」




