第12話、『民主』主義国家なんだから、あなた自身が立ち上がらないと、大切な人を守れないよ?(後編)
「……遙か未来においてこの国が滅亡した後、わずかに残った人たちが、復活の期待を込めて造り出した、おまえら軍艦擬人化少女がこうして実際に存在しているということは、ニッポンはこれから先、『滅びの運命』を免れないと言うことなのか?」
悲観的な情報ばかり散々聞かされた後で、あくまでも最終確認として、もはや言うまでもないことを尋ねたつもりであったが、
──自分のすぐ目の前にたたずんでいるの少女が返してきたのは、あまりにも予想外な台詞であった。
「いいえ、必ずしもそうなるとは、決まってはおりませんが?」
……………………………………は?
「──いやいやいや、だったらどうして軍艦擬人化少女である、おまえが造られることになったんだよ⁉」
「……あのですね、私が今ここにいる理由が、異世界転生であろうがタイムトラベルであろうが、この世界の『未来をたった一つに決定する』ことにはならないのですよ? ──なぜなら、あくまでもこの世界のこの時点こそが、今ここに存在しているすべての者にとっての、唯一の『現実』なのですから」
「え? 今現在こそが、唯一の『現実』って……」
「つまり、いくら別の世界に転生しようが、別の時代にタイムトラベルしようが、新しい世界や時代に存在するようになった瞬間に、そこは別に『異世界』でも『過去や未来』でも無く、その人物にとっての唯一絶対の、『現実』かつ『現在』になるってことなんですよ」
「──ちょっ、何言ってくれっちゃってるの⁉ それって、すべての異世界系Web小説やラノベやSF小説の、全否定じゃないか!」
「……そんな、どうでもいい作り話のことなんかを言われても、困るのですが? そもそも『異世界転生』や『タイムトラベル』なんぞが本当に行われたなどと言い張るよりも、今目の前にある世界こそが唯一の現実で、我々はただ単純に、『別の世界や別の時代の夢を見ていただけなのだ』と考え直すほうが、よほど現実的ではありませんか? ──しかもよりによって、『異世界転生を実現した、軍艦擬人化少女』ですって? アホくさ、どこの『ミリオタゲーム脳のヒキオタ』の妄想ですか?」
「おおいっ、今度は『自己否定』かよ⁉」
しかも暗に、軍艦擬人化美少女愛好家の皆様まで、ディスり始めているし。
「いいええ、これはあくまでも、当たり前のことを言っているだけなのです。──『未来というものには常に、無限の可能性があり得るのだ』と。それともこの国の人たちは、『これは某国の陰謀だ!』とか『すべては政府の対応が悪いんだ!』とか、どうしようもないことを言い続けて、何もしないままに自滅するつもりなのでしょうか?」
──‼
「『俺が行きたかったイベントやライブを潰したくせに、通勤電車が運行し続けているのはおかしい!』ですって? 何甘えたことを言っているの? この国は、『民主主義国家』なのよ? ──すなわち、『国民一人一人が、国家の主』なのであって、別にどこかに独裁者がいて、国民を全員奴隷にしているわけではなく、自分の命や財産を守るためには、最後の最後にはお役所なんかを頼ろうとはせず、自分自身の判断によるべきでしょうが? そんなに行きたかったら、イベントにでもライブにでも行けよ? そしてウィルスに感染して苦しみ続けて、周囲の人たちから自分自身を『病原菌』扱いされろよ? 通勤電車に乗りたくなかったら、会社を辞めろよ? 別に『奴隷』じゃ無いんだから、そもそもあんな『囚人護送列車』に、乗る必要なんかは無いじゃない? そりゃあ、『政府が悪い!』とごね続ければ、楽でしょうね? だったらどこかの全体主義国家にでも行って、野生動物を生のままで食べて、パンデミックの元凶になって、封鎖都市の中で野垂れ死んだらどうよ? 誰も止めやしないわよ? だってこの国は、自由の国なんだから、国外逃亡しようが、別の国の奴隷になろうが、本人の勝手なんだし、ご存分にどうぞ、今すぐ転売屋の外国人どもと一緒に、この国を出て行け! 少なくとも、政府や行政や医療関係者たちは、この絶望的状況の中で、現在の医療体制を維持させつつ、国民の生命や健康を守ろうと、必死で努力し続けているわよ! この時点に至っても、『イベントが〜、コンサートが〜、満員電車が〜、政府が〜』などと、脳天気なことばかりほざいて、何もしようとしない輩が、自分の権利ばかり主張するんじゃないわよ!」
普段の常に冷静沈着な姿をかなぐり捨てて、小さな体躯のか細い肩を激しく上下させながら言い終える、この国の歴史の生き証人の少女。
その超弩級の剣幕に、マスクもせずに咳き込みながらぎゃいぎゃいさわいでいた、外国人の親子連れが、いかにもばつが悪そうにそそくさと席を立ち、車両を移動していった。
──確かに、彼女の言うことは、もっともだよな。
軍艦擬人化少女という特殊な存在である故に、現在過去未来にわたるこの国の行く末を──すなわち、第二次世界大戦における、祖国の命運を賭けた軍隊同士の激戦や、無辜の民たちの多大なる犠牲に始まり、今回のようなパンデミックや、その結果、絶滅の危機に瀕してしまった人類の末路を、その目で見てきたのだ。
事ここに至ってもなお、楽観主義かつ利己主義なことばかり言っている者たちの姿を目の当たりにして、我慢できるほうがよほど無理な話あろう。
──だから僕は、そんな彼女の肩を優しく抱き寄せて、務めて明るくささやきかけたのである。
「大丈夫さ、何も心配はいらないよ! この国の人間だって、馬鹿ばかりじゃ無いさ。事態は確かに深刻だけど、けして手遅れというわけでも無い。今からでも国民の全員が、政府や自治体や医療機関の指導に従いつつ、自分自身や家族のことは、自らの力でこそ守っていこうと決意して、真の民主主義国家の一員にふさわしく、心を入れ替えれば、きっとこの国難を乗り越えることができるよ。──だって、現代物理学の中核をなす量子論に則れば、未来には無限の可能性があるんだろう? だったら、人の自主的な意志や行動によって、いくらでも変えることができるさ!」
「……提督」
僕の柄にも無い励ましの言葉が通じたのか、いまだ幾分涙ぐみながらも、ようやく笑顔を見せてくれる、最愛の僕の女の子。
そうだ、この国の未来は、運命とか独裁者とかでは無く、国民一人一人の意志と行動とにかかっているんだ。
今こそ、すべての国民が立ち上がり、『自分の身は、自分で守る』という、至極当たり前のことを、実践していくだけでいいんだ。
そうさ、いつまでも人任せにして、文句ばかり言っていても、何も始まらないぜ?
──それともあなたは、世界そのものが滅び去った後でも、そのワンルームや実家の子供部屋の中で、まさしく現在のように、パソコンの画面をただ無為に眺めながら、自分だけが生き続けられるとでも、思っているのですか?




