第11話、『民主』主義国家なんだから、あなた自身が立ち上がらないと、大切な人を守れないよ?(中編)
「……超経済大国の首都の中心部と言っても、別に高層ビルばかりが建ち並んでいるわけじゃ無いんだな」
すでに時刻はお昼近くとなり、あの掃いて捨てるほどいた通勤客もほとんど姿を消しガラガラとなった、『邪悪』の首都環状線『病め手線』の車内の座席に身を預け、窓越しに風景を眺めながら、実は異世界の召喚術士兼錬金術師である僕は、こっそりと独り言ちた。
……ふうん、『アキバ』から『シンジュク』方面を回って『イケブクロ』に至るまでの、いわゆる『ビジネス&オタク』向けの半周は、首都圏の中心部にふさわしい賑わいぶりだけど、それとは反対側の半周は、結構落ち着いたものなんだな。──まあそれも、『ウエノ』あたりに近づけば、また賑やかになってくるんだろうけど。
※【注意】前回に引き続いて、異世界から来た主人公とヒロインが、朝の通勤ラッシュからずっと環状線に乗り続けておりますけど、たとえ最終的に購入した切符で降車可能な駅で降りようが、法令上は『違法乗車』扱いとなってしまいます。
※それに対して、あくまでも彼らは、『都区内フリーパス』という、23区を中心とした一定の範囲内であれば一日中乗り降り自由な、いわゆる『トクトクきっぷ』を所有しているので、何ら問題はございません。
そのように心の中で、誰とも知れぬ相手に言い訳じみたことを行いながら、ぼんやりと車内に視線を巡らせていくうちにも、明らかに『ニッポン語』以外の言語が耳に飛び込んできた。
「……これだけ、『感染だ』『ウィルスだ』と騒いでいるくせに、まだ大陸方面からの入国を拒否していないのかよ?」
そうそれは、現在のニッポンなんかよりも、よほど感染状態が深刻極まっているはずの、国々から来られた方々であられたのだ。
そんなふうに僕が、半分あきれながら苦言を呈していると、すぐ隣に座っている目を疑うような超絶美幼女が、愛想もへったくれも無い声でつぶやいた。
「そりゃそうでしょう、あの方たちだって、死活問題なのですから」
「へ? 何でこんな世界中が大変な状況の中で、のんきに外国観光なんかしていることが、死活問題になるんだ?」
「観光? ふっ、まさか。この人たちは『転売屋』ですよ。ウィルス対策のマスクを始めとして、スーパーやコンビニやドラッグストアの、医薬品や日用雑貨や食料等を買い占めて、本国に送ったり、ネットに上げたりして、莫大な暴利をむさぼっているのです」
──なっ⁉
「僕たちが今回の旅行のための生活用品を買うために訪れた店が、どこもかしこも商品棚が空っぽだったのは、外国人に買い占められていたからなのかよ⁉」
しかも、自分で使うんでは無く、転売しているだと⁉
「すでに彼らの本国のほうでは、深刻な品不足になっていますからね。それでいて感染する可能性は、世界のどの国よりも高いんだから、たとえマスク一枚であろうとも、金に糸目をつけずに買い求めようとするでしょう。金に目ざとい『ごちうざマフィア』どもが、この商機を見逃すはずはありません。何せすぐ隣に、常にどの店にも商品が満ちあふれていながらも、この時節柄危機意識のまったく無い、完全に平和ボケしている国があるのですからね。転売屋としては、ぶんどり放題ですよ」
「そんな! この国の政府は、一体何をやっているんだ⁉」
「何をやっているって、何がやれると言うのですか?」
「そ、そりゃ、何と言っても一国の政府なんだから、いろいろと、その……」
「例えば、入国拒否とか、強制送還とか、逮捕監禁とか、商品没収とかですか?」
「そうそう、それだよ! 今からだって遅くない、少なくとも悪質な転売屋は、一刻も早く締め出さなければ!」
「何おっしゃっているんですか、それこそすべての元凶である『ごちうざ珍味共和国』でもあるまいし。この時代のニッポン国は、自由主義かつ民主主義かつ資本主義国家なのですよ? 明確に犯罪行為を犯していない外国人を、入国拒否したり強制送還したり逮捕監禁したり、できるはずがありませんよ」
──っ。
「……自由で民主的な国だから、外国人の横暴を、止め立てする手段が無いだと? それじゃ無法者どもの、為すがままじゃないか⁉」
「ええ、そうですよ? それこそが、この国の知識層や法曹界やマスコミ界等に蔓延る、自称『平和主義者w』たちが、何かにつけて喧伝している、全世界に誇る『平和国家w』である、現在のこの国の真の姿なのです。かつてのアヘン戦争前夜の某国がそうであったように、闘うための牙を持たない草食動物なんて、周囲の肉食動物の餌食となるしかないのですよ。──そしてその結果が、今回の新型ウィルス蔓延を原因とする、ニッポン国そのものの潰滅なのです」
──くっ、やはりこの国は、このまま滅び去るしかないのか⁉
「そしてその後で世界の復興のために、『新たなる人類』として生み出されたのが、おまえたち軍艦擬人化少女ってわけか」
「そうなのです、何せそのため私たちは当然のごとく、世界有数の軍事力を誇っていた、大ニッポン帝国海軍の軍艦としての記憶を有していますからね。現在と当時のニッポンにおける国内事情や対外関係等を、客観的に比較検討することが可能なのです」
「……ええと、現在のこの国って、昔と比べて、どうなんだ?」
「文字通り、『比べものにならない』の一言ですね。国としての基本中の基本である『民族自決権』すら、真の意味で持ち得ているのか疑問になるくらいです。──平和主義者を自称する輩は誤解しているようですが、たとえ『平和憲法』を掲げる国家でもあろうと、周囲の諸国による横暴な行為に十分対応できる『力』を有していないと、真に平和を守り続けることなんて、絶対に不可能なのですよ?」
──ううっ、あの絶望的な太平洋戦争を戦い抜いた、軍艦の化身ご本人のお言葉は、説得力抜群だな。
「……この国が滅亡した後、わずかに残った人たちが、復活の期待を込めて造り出した、おまえら軍艦擬人化少女がこうして実際に存在しているということは、ニッポンはこれから先、『滅びの運命』を免れないと言うことなのか?」
悲観的な情報ばかり散々聞かされた後で、あくまでも最終確認として、もはや言うまでもないことを尋ねたつもりであったが、
──その少女が返してきたのは、あまりにも予想外な台詞であった。
「いいえ、必ずしもそうなるとは、決まってはおりませんが?」
……………………………………は?




