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4月14日 土曜日
体のだるさは、日常生活に支障をきたすようにもなってきた。
朝、起き上がることができない。
ちょうど今日は土曜日だから、大学に行かなくていい。
よかった。できるだけ休みたくなかったんだ。
寝返りもうてないほど、体がだるい。
ということで、朝からずっとベッドの上で動かずにぼんやりとしている。暇だ。昨日は結構早くに寝たし、また寝ることなんてできない。いつもだったら何時間でも寝れるのに。
あーだるい。動きたいのに動けない。寝返りうてないから背中が痛い。
大学もないし、やるべきことがないから頑張れない。
そんなこんなで三時間くらい動かなかったら、ミサイドが現れた。
「おーミサイド。いいところに来た。助けてくれ」
「……何してるんだ」
「見ての通り。動けない」
両腕をミサイドの方にむけて引っ張ってと頼む。
ミサイドは渋々といった様子で引っ張ってくれた。やっぱりなんだかんだ優しいね。さすが大天使様。
やっと背中から体重が離れて少し楽になった。
ミサイドに礼を言って、座った体勢から立ちあがろうとした。
しただけ。
足が動かなかった。
「……ミサイド、私おかしくなったかもしれない」
「足が動かないのか」
「うん。力が入んない」
ミサイドは私の足を見て少し考える。何か思い当たることでもあるのだろうか。
「……………………覚醒、か」
「ん?」
小さく何か言ってたけど、よく聞こえなかった。
もう一回、と訊き返しても、ミサイドははぐらかして言ってくれなかった。
「なーどうしたらいい? 動かないとなにもできないけど」
「私に言うな」
「ミサイドは天使だろ? なんとかできるはず」
「そうとも限らんだろう。私でもソフィーの体に何かすることは許されていない」
「なんだそれ」
「他の人間ならできるんだがな」
なんかひどいな。私だけ例外みたいだ。
あれか。神様が私に死ねと言っているのか。このまま寝たきりになって家族も居ない私に孤独死しろと言っているのか。
くそう、神なんて死ね。爆発しろや。
「……ソフィー、神に向かってそんなことを言うな」
「え、勝手に心読まないでよ」
「君の考えなんて筒抜けだ」
前にも言われたなーそんなこと。
それにしても、この座った体勢からどうしたらいいんだ。起きてからずっと何も食べてないからおなか空いたし。
「ミサイド、も一回手ぇ貸して」
そうして、また引っ張ってもらう。
足にかなりの力を入れて、立ってみる。
「……あー、やっぱり無理だ。力が入んない」
ミサイドに寄りかかるようにして立つことはできる。ミサイド力強いしね。身長高いし。
立てなくて、ふらふらする。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない」
すごいことになった。どうしよう。これじゃあミサイドが居ないと立てないし。
どうしようかなー。このまま動かないなら、病院に行ってリハビリか、車いすを考えなければならない。
幸いこのマンションも大学も、バリアフリーが充実しているからまだいいんだけどさ。エレベーターあるし。
けどなー。お金かかるしなー。今やってるアルバイトも何とかしないといけないし。
つか、病院に行ったとして、どうやって説明したらいいんだ。朝起きたら動けませんでした、なんて言えるわけないし。
ミサイドから離れて、ベッドに座りこむ。
だるいし歩けないしで私の気分は最悪だ。
「ミサイドー。ほんとにどうしたらいい?」
「少し、創造主に訊いてみるか」
「創造主? あの、世界の全存在の管理人?」
「そうだ」
「ミサイドって、そんな神様と話せるくらい偉いんだ」
「初代の創造主の次に早く存在が生まれたからな」
「ミサイドはそんなに早く生まれたのに神じゃないんだ」
「神だったさ。自由に動けるように、天使になった。それだけだ」
ミサイドの考えはよく分からん。
創造主の話は、ミサイドから訊いたことがある。何回かだけだけど。
この世界のすべての存在を生み出した神であり、初代創造主というのは、この世界を創った神様のことで、その神様がどっか行ったから、代わりに偉い神様が創造主として存在を管理しているらしい。
ミサイドも、一度創造主に選ばれかけたけど、初代創造主しか認めないからって辞退したらしい。よくわからん。
創造主がその存在を認識しなければ、認識されなかった存在は消えてしまう。
そこに、何もなかったかのように。
誰の記憶にも残らず。
ムナシイものだね。
それまで、そこにあったはずなのに。
というか、ミサイドは神だったんだ。
天使になるとか、階級おちてるじゃないか。
ミサイドの思考が分からん。
これから神様になる大天使様の考えを私のような人間如きが理解できるわけないけどね。
ミサイドは空中で何かをつかむ仕草をする。
そうしたら、ミサイドの手には黒い携帯電話が。
……………………。
携帯電話まで黒か!
違う。つっこむところはそこじゃない。
天使が携帯電話使うのか!
私が驚いているのをよそに、ミサイドは誰かと通話し始める。
なんて慣れた手つきなんだ。天使のくせに。
何か色々話してて、私の足の話をしてるから、多分相手は創造主だ。
神様も携帯電話もってるのか。
今までの私の神話のイメージがどんどん崩れていく。
なんでこんなに近代的なんだ。
ミサイドの服装からもそう思ったけど。
そんなこんな考えていたら、ミサイドと創造主の会話は終わった。
「一応なんとかできそうだ。今日は無理だが、明日くらいには。今日は耐えてくれ」
まあ、今日くらいならいいだろう。
土曜日だし。
「了解。大天使様が耐えろと言ったら耐えないといけないでしょ」
「すまないな」
大天使様に謝られた。
ミサイドが悪いわけじゃないのに。




