表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

主人公補正無くても強い

現代兵器の最大の弱点て補給が止まるとアウトな所ですよね、次回には補給体制が完成する予定

宿の食堂。

夜の賑わいも落ち着き、穏やかな空気が流れていた。

スタオンヌは頬を緩め、うっとりと息をつく。

「カロン様……楽しい一日でした……♡」


その隣で、カロンも軽く笑う。

「俺もだ。…………スタオンヌ、今夜……」

言葉を濁す。


だが、意味は十分に伝わる。

スタオンヌは迷いなく頷いた。

「………!、…はい♡」


自然な流れ。

二人はそのまま席を立つ。

カロンは振り返り、軽く手を上げた。

「じゃあまた明日」

軽いノリのまま、食堂を後にしていく。


残された二人。

静かな間。

レオンは深くため息をついた。

「……まったく、アイツは」

呆れ半分。


だが慣れている様子でもある。

リバティーナは少しだけ眉をひそめた。

「……あの……一応、魔族討伐隊じゃないんですか?」

どこか納得いかない様子。

レオンは肩をすくめる。

「そのはずなんだがな、まあ……ああいうやつだ」

諦めたような言い方。


リバティーナは小さく息をつく。

「……信じられません……」

そう言いながらも――

ほんの少しだけ、口元が緩んでいた。


翌朝。

宿の食堂には、柔らかな朝の光が差し込んでいた。

簡素な朝食を囲みながら、四人はそれぞれの席についている。

カロンがパンをかじりながら、軽い調子で口を開いた。

「ガソリンや弾が届くのが明日らしいな。今日もこの街に留まるしかない」

状況の確認。


リバティーナは少し考えるようにしてから、率直に言った。

「とは言いますけど……カロンさん、こんなのんびりしててお金が続くんですか?」

当然の疑問。


カロンはその言葉に、ふっと笑う。

「心配するな義妹」

さらっと言い切る。

リバティーナの眉がピクリと動いた。

「貴方に義妹と呼ばれる筋合いはありま――」

言い終える前に。


カロンが無造作に鞄を開ける。

ドサドサッ

中から溢れ出る札束。

一瞬でテーブルの上が埋まる。

リバティーナの思考が止まる。

「……!?」

声にならない驚き。


スタオンヌは隣で、嬉しそうに微笑んだ。

「あら♡」


まるで日常の光景のような反応。

カロンは軽く肩をすくめる。

「ほんの一部だが……10億あれば足りるだろ」

平然と言ってのける。


「まあ、明日マネージャーとやらが来るまでやりたい放題だ」

完全に感覚が狂っている。


レオンはその光景を見ながら、心の中で呟いた。

(ねえそれ国家予算……)

突っ込みどころしかなかった。


その日の午前。

海風に乗って、潮の香りが町を包んでいる。

四人は特に急ぐでもなく、通りをぶらぶらと歩いていた。


補給が届くまでの、束の間の余裕。

――その時。

少し騒がしい声が耳に入る。

交番の前で中年の男が必死の形相で訴えていた。

「お願いします!!仲間や家族達と立ち上げた、大事な会社なんです……!」


警官がなだめるように手を上げる。

「落ち着いてください!しかし、その規模では軍の到着を待つ必要が……!」


焦りと苛立ちが混ざったやり取り。

カロンが足を止める。

「……なんだ?」

興味を持ったように視線を向ける。


男は四人に気づくとすがるように説明を始めた。

海岸近くにある自分の会社が突然現れた魔族に襲撃され、のまま占拠されたこと。

従業員は逃げられたものの、設備はすべて中に残されたまま。


何より、長年かけて築いた“会社そのもの”が奪われたこと。

だが――

「今の時代、すぐに動ける人員なんて……!」

男は悔しそうに拳を握る。

各国は正規軍を整備し始めている。


その影響でかつてのような即応型の冒険者ギルドは衰退。

結果としてこうした“魔物絡みの事件”にはすぐ対応できない。


完全に時代の歪みだった。

レオンは静かに腕を組む。

リバティーナも表情を曇らせる。

スタオンヌは少しだけ胸に手を当てた。


その中で――

カロンだけが、軽く笑った。

「……なるほどな」

一歩前に出る。


「そういう事なら、俺達が奪還してきてやるよ」

あまりにもあっさりとした言い方。

男は一瞬、言葉を失い――

「……本当ですか!?」

思わず声を上げる。

カロンは肩をすくめる。

「ちょうど暇だしな」

軽い理由。

だが、その目は――

すでに“仕事を受けた側”のものに変わっていた。


奪われた建物の内部。

窓は割られ、海水がわずかに流れ込み、床を濡らしている。


外から聞こえるはずの波音はここではどこか重く、異様に響いていた。

その中心に――

異形の影が集っている。


人の形を残しながらも皮膚は濡れたように光り、瞳は深海のように鈍く光る。

海洋獣型の魔族たち。

そして、その最前に立つ一体。

魔族軍幹部――海流のネレウス。

静かに、しかし揺るぎない威圧感を放っていた。

ネレウスはゆっくりと周囲を見渡す

その動き一つで場が引き締まる、人類にも負けず劣らずの規律が感じられた

「……今こそ」

低く、よく通る声。


「魔王様の新たな一歩を踏み出す時」

魔族たちがわずかにざわめく。

ネレウスの視線が、海の方角へと向けられる。

「そして――世界を汚す人類に、鉄槌を下す」

その言葉には明確な嫌悪が込められていた。

だが感情に任せたものではない

あくまで理としての断罪。

ネレウスは足元に流れ込む海水を踏みしめる。

「この地は、ただの拠点ではない」

視線が鋭くなる。

「我らが海洋進出の、足掛かりとなる」

静かな宣言、だがその意味は重い

地球の七割は海。


そこを支配すれば――

戦いの構図そのものが変わる

ネレウスはゆっくりと槍のような腕を持ち上げた。

「潮は、すでに動き出している」

その一言で魔族たちは応じるように唸りを上げる


静かに、確実に

世界の均衡を崩す一手がここから始まろうとしていた。


その時だった。

――完璧に思えた布陣。

海を背に、拠点を押さえ、静かに侵食を始めるはずだった計画。

だが――

「ネレウス隊長!良いスタートが切れましたな!」

指揮官が笑みを浮かべる。

「しかし魔族復権の為、さらなる支配が必要です」

兵もそれに応じる


空気は緩み始めていた。

その瞬間――

「……それにしても……」

一人の魔族兵が、ふと呟く。

「緊張が解けたせいか……なんか、眠く……」

バタンッ!

その場に崩れ落ちる。

「な――」

さらに一人。

また一人。

ドサッ、ドサッ――

魔族たちが次々と倒れていく。

ネレウスの目が鋭くなる。

「……なんだ!?」

異変に気付く、だが遅かった

空気が重い、わずかに漂う異臭

指揮官が目を見開く。

「これは……!」

喉を押さえ、息を詰まらせる

「ネ……ネレウス様!一旦外へ……!」


だが、その声も最後まで届かない。

足元が揺らぎ膝をつく

すでに大半が昏倒していた

ネレウスはようやく理解する

「……空気か」


建物の外、見えない位置から――

煙が流し込まれている。

換気口、窓の隙間、あらゆる場所から


視界の端で最後の兵が崩れ落ちる

ネレウスは一歩、後退した。

だが――その動きもわずかに鈍い

「……人間め」

その目に、初めてわずかな苛立ちが宿る

「これが……貴様らのやり方か」

その頃、建物の外

少し離れた位置でカロンが煙の様子を眺めていた

近くには火のついた練炭

その周囲にはいくつも同じものが配置されている


レオンが呆れたように呟く

「……お前な」

カロンは肩をすくめた

「正面からやる必要ねぇだろ」


だがやっていることは、完全に戦術。

スタオンヌは口元に手を当てて微笑む。

「流石です、カロン様♡」


リバティーナは顔をしかめた。

「最低です……」

その評価は、真っ当だった。

カロンは気にした様子もなく煙の流れを見ながら言う

「さて……どこまで残ってるかね」

その目はすでに、“狩りの次の段階”を見据えていた。


建物の中は、ほとんどが沈黙していた。

魔族たちは床に倒れ伏しわずかに意識のある者も動けない。

その中で――

「……逃げたか」

カロンが舌打ちする…

その時だった


二階の窓から外を見ていたリバティーナが声を上げる。

「……なんか……一人、海に飛び込みました」

指差す先波間に、小さく揺れる影

指揮官ネレウスだった


カロンはすぐに理解する。

「取り逃したか……」

一瞬だけ考え――すぐに次の手を打つ

「スタオンヌ、あれ頼む!」

迷いのない指示


スタオンヌは微笑みながら小さな容器を差し出した

「どうぞ♡」


レオンが眉をひそめる。

「……それはなんだ?」


スタオンヌは、いつもの調子で答えた。

「ボツリヌストキシンです♡」


その場の空気が一瞬で凍る…

「は?」

リバティーナも目を見開く


それは――世界最強の神経毒

極微量で呼吸器と神経を麻痺させ死に至らしめる。

カロンはそれを受け取り、迷いなく海へ向けて腕を振りかぶる


「よし、これで終わりだな!」

その瞬間…

ガシッ!


レオンが腕を掴む。

「バカか!?なんつうモン流そうとしてんだ!?」


さらにリバティーナも反対側から押さえ込む。

「どっちが魔王ですか!?」


必死の制止

だが――それでもカロンは笑っていた

「ふははは!知った事か!!」

完全に開き直っている

そのまま力任せに振りほどこうとする


そうはさせまいとレオンがさらに力を込める

「海ごと殺す気か!」


リバティーナも叫ぶ

「町ごと終わります!!」

一触即発


レオンとリバティーナの制止を、カロンは力任せに振り切った

「うるせぇな!」


そのまま――

バシャッ

容器が海へと投げ込まれる。

一瞬、静寂。

波の音だけが戻る。


レオンは頭を抱えた。

「あ〜あ……俺知らないぞ……」


リバティーナも顔を青ざめさせる。

「本当に……やってしまいましたよ、この人……」


スタオンヌだけが、楽しそうに海を見つめている。

「どうなるかしら……♡」


――数分後、海面がわずかに揺れる。

次の瞬間。


バシャァァッ!!

勢いよく水柱が上がる。

「ぐあぁぁぁぁ!!!」

ネレウスが浮上した。


全身を痙攣させ呼吸も乱れている。

明らかに異常な状態。


カロンはそれを見て、満足げに頷いた。

「やったぜ」

軽い一言


レオンは呆れたまま視線を逸らす。

「……やったじゃねぇよ……」

ネレウスは荒く息を吐きながらゆっくりと顔を上げる


その目には――明確な怒り。

「貴様が……先日……我らの同胞の拠点を壊滅させ、更には海を汚すか……」


歯を食いしばる。

「カロン・クレイン……!」

海水を滴らせながら、睨みつける。

「やはり……人間こそ……世界を汚す外道……!」

その言葉には、純粋な嫌悪と怒りが込められていた。


カロンは肩をすくめる。

「一応ディア姉からの命令なんで」

軽く答える、まるで悪びれていない


その態度にネレウスの表情がさらに歪む

怒りが、理性を焼き始める

その場の空気が変わる

先ほどまでの“誇りある騎士”ではない

明確に怒り狂った魔族だった。


荒れた海面

怒りに満ちたネレウスの気配が場を支配する

――はずだった。

だがその場の空気を変えたのは、まったく別の言葉だった。


スタオンヌが、わずかに震える声で呟く

「……カロン様……クレインって……」


リバティーナも、目を見開いたまま続ける

「しかも……ディア姉って……ディアドラ陛下……?」


二人の思考が追いつかない。

目の前の男と今の会話が結びつかない。


レオンが、ぽかんとした顔でカロンを見る

「……? まさかお前……まだ言ってなかったのか?」


カロンは一瞬だけ考え――

「あ、忘れてた」

軽い、あまりにも軽い


そしてそのまま、何でもないことのように言った。

「俺、クレインの人間なんだ。先代国王の息子」


その言葉に完全に時間が止まる。

ネレウスの怒気すら、ほんの一瞬霞むほどの衝撃

リバティーナが、かろうじて声を絞り出す

「じゃあ……ディアドラ陛下の……アズール元帥の……」


スタオンヌが続ける。

「大魔導士ハーデス様……救国の英雄……アクア様の……弟なんですか!?」


完全に混乱している

カロンは、変わらず軽く答えた

「アズ兄以外は腹違いだけどな」


その温度差が、余計に現実味を増す。

リバティーナは口を開けたまま固まり、

スタオンヌは目を輝かせる。

「カロン様……やっぱりすごい方だったんですね……♡」

尊敬の色が混じる。


一方で――

リバティーナは小さく震えながら呟いた。

「いや……問題はそこじゃないです……なんでそんな人が……あんな戦い方してるんですか……!?」

至極真っ当な疑問だった。


「性に合ってるからな」

まったくブレない。

――そのやり取りの最中。

海面が、再び大きく揺れた。

ネレウスの怒りは消えてなどいなかった。


海面が大きく弾ける。

怒りに満ちた咆哮が、港に響き渡った。

「許さんぞ貴様らぁ!!!!」


ネレウスが一気に間合いを詰める。

その圧に、空気が震える。

レオンは即座に構えた。

トリガーを引く。


連続した銃声。

だが――ネレウスの周囲に瞬時に水が集まる。

まるで鎧のように弾丸が触れた瞬間、

軌道を逸らされる。


レオンの目が見開かれる。

「なに!?」


スタオンヌが冷静に分析する。

「水の密度は空気の約800倍……この距離では届きませんね……」

理屈としては理解できる。


だが、それを戦闘で成立させている時点で異常だった。

ネレウスが一歩踏み込む。

その動きだけで水が刃のように揺れる

「小細工など通じぬ!」

圧倒的な力による正面からの制圧。


カロンは一瞬だけその様子を見て――すぐに踵を返す

「しゃあーない!毒が回るまで逃げるぞ!」

あまりにもあっさりとした撤退宣言。


リバティーナが思わず声を上げる。

「はぁ!?」


スタオンヌは嬉しそうに頷いた。

「はい♡」


レオンはため息をつく。

「……そう来るか」


四人は一斉に走り出す。

背後で、ネレウスの怒号が追いかけてくる。

「逃がすかぁ!!!」


水が地面を削りながら迫る。

その威力は、先ほどまでとは明らかに別次元だった。


――正面から勝てる相手ではない。


しかしカロンは振り返りもせず、口元を歪める。

「いい感じにキレてんじゃねぇか」

余裕すらある声音。


ネレウスの全身が大きく震える。

「ぐ……毒が……!」

呼吸は乱れ、動きにもわずかな鈍りが見える。

だが――

その瞳の奥に宿る怒りは、まったく衰えていなかった。

「……なんの……これしき!!」

咆哮と同時に、周囲の海水が一気に持ち上がる。

次の瞬間――

水圧の弾丸が、無差別に周囲へと放たれる。

地面が抉れ、壁が砕け、建物の一部が吹き飛ぶ。

完全な制御を失った攻撃。

それでも威力は凄まじい。

カロンたちは咄嗟に身を翻す。

「こっちだ!」

ガーディアンの後ろに飛び込み、身を隠す。

ドンッ!ドンッ!!

水弾が車体に叩きつけられ、鈍い衝撃音が響く。

装甲が軋む。


カロンはその陰から顔を出し、ニヤリと笑った。

「自然を大事にするんじゃなかったのかよ!?」

完全に煽り。


レオンが即座に引き戻す。

「挑発するな!」

だがネレウスの攻撃は止まらない。

むしろ、さらに激しくなる。

リバティーナが歯を食いしばる。

「しかしこれ……マズイのでは……?」

冷静な判断。

このままでは――

巻き込まれる。

スタオンヌも少しだけ表情を曇らせる。

「どうしましょう……?カロン様……」


その問いにカロンは一瞬だけ黙る。

状況を見ている。

音、距離、攻撃の間隔。

そして――


小さく笑った。

「……いいぞ」

低く呟く。

「そろそろ頃合いだな」

背後で、水弾がさらに激しく地面を叩きつける。

だがカロンは動かない。

その目は――

すでに次の一手を見据えていた。


ガーディアンの陰で、レオンが声を荒げる。

「おい!笑ってる場合か!?どうするんだよカロン!!」


水弾が装甲を叩き、鈍い衝撃が響く。

だがカロンは、まったく焦っていない。

軽く肩をすくめる。

「……アクア呼ぼう」

一瞬、時間が止まる。


レオン「は?」

リバティーナ「え?」

スタオンヌ「……なんと?」


三者三様の反応。

だがカロンは、そのままガーディアンの陰から出た。

真正面。


ネレウスの視界へと、堂々と歩み出る。

ネレウスが低く唸る。

「……諦めたか」


その言葉を受けても、カロンは止まらない。

そして――

両手を適当に広げる、どこかふざけた仕草



「英雄再臨――《お兄ちゃん助けて!!》」



ネレウスの眉がわずかに動く。

「……なんて?」

その瞬間。

ゴロォォォン――ッ!!

空が割れたような雷鳴。

一瞬で空気が変わる。


風が止まり、波が揺らぎ――

そこに、“いた”。


三叉槍を手にした青年


静かに自然に

まるで最初からそこに立っていたかのように

アクアはゆっくりと視線を上げる


「……無理は、してないみたいだね」

穏やかな声


だが、その一言で場の重さが変わる。

ネレウスの瞳が細くなる。

「……貴様……」

明らかに、先ほどとは違う警戒。


スタオンヌが、思わず息を呑む。

「あの御方が……カロン様の兄君……」


リバティーナも、小さく震える声で呟く。

「日ノ本救国の英雄……アクア殿下……」


レオンは頭を抱えた。

(殿下も……乗らなくていいから……)


海神の再臨に圧倒される中、ただ一人、

カロンだけがいつも通りだった。

「よ!アクア!」

軽く言い放つ。


アクアは少しだけ目を細める。

「元気そうだね、カロン」

短い返し、それだけで十分だった


ネレウスは水の刃を構える

その動きには、先ほどまでの怒りだけではない。

明確な“警戒”

「……面白い」

低く呟く。


「ようやく……まともな相手が現れたか」

海がざわめく。

だが――

アクアは動かない。

ただ、静かにトライデントを構えた。

その姿は。

戦う前から、すでに“勝っている側”だった。


空気が変わる。

ネレウスが構えたその瞬間――

先に動いたのは、アクアだった。

「……貫け、トライデント」

静かな一言。


だが次の瞬間、海そのものが応じる。

ネレウスの周囲を覆っていた水の鎧が、逆流する。

守るはずの水が、刃へと変わる。

「な――」

防御の意味が消えた。

そのまま――

ズドンッ!!


トライデントの穂先が、ネレウスの胴を紙の

ように貫いた。

「ぐあぁ!?」


ネレウスの身体が大きく揺れる。

確実に捉えた一撃。

だが、終わらない。


アクアは一歩も動かず続ける。

「……征け、ゲイボルグ」


槍が淡く光る。

トライデントの穂先から三十の光の矢尻が放たれる

それぞれが意思を持つかのように軌道を変え、

ネレウスへと襲いかかる

「……追尾……!?」

避けようとした瞬間にはもう遅い、

ゲイボルグの必中の矢尻は回避、防御、迎撃不可の三十の追尾弾となる


全ての矢尻が正確に突き刺さる

逃げ場はない

必中の概念

ネレウスの動きが鈍る。

それでも、なお立とうとする

「まだ……!」

その意志すらアクアは見据えていた。


アクアは静かに言葉を落とす。

「…産まれろ…大地、天逆鉾」


その瞬間。

海が揺れ、地が応じる

ゴゴゴゴゴ――ッ!!

海中から、巨大な岩が突き上がる。

逃げ場などない。

そのまま――ネレウスの身体を貫いた。

「なんだ……これは……?」


理解が追いつかない。

水でもない、矢尻でもない

これは――神が地上を生み出した御業


ネレウスの膝が、崩れる。

その様子を見て――

スタオンヌが思わず息を呑む。

「……凄い……」


リバティーナも、目を離せない。

「これが……海神の力……」


圧倒的すぎた、あまりにも次元が違う

その中でカロンだけが、いつも通りだった。

「サンキュー!アクア!」


軽く手を上げる。

まるで、ちょっとした手伝いでも頼んだかのように。


アクアは振り返らない。

ただ静かに、ネレウスを見下ろしていた。


ネレウスを貫いた力の余韻が、まだ空気に残っている。

その中、アクアは何事もなかったかのように槍を下ろした。


「……じゃあ俺は帰るね。カロン達も気をつけて」


穏やかな声。

まるで散歩の帰り際のような軽さ。

カロンは軽く手を振る。

「おう」

――と、思い出したように声を上げた。

「そうだ!アクア!」


アクアが振り返る。

「……?」

カロンは悪びれもなく続けた。

「ちょっと毒撒いたから、この辺の海域浄化してくれ!」

一瞬の沈黙。


アクアの表情が、わずかに引きつる。

「……また!?」

思わず出た本音。


リバティーナが首を傾げる。

「またってなんですか!?」

その疑問はもっともだった。


アクアは小さくため息をつく。

「……はぁ……」

何も言わずトライデントを海面にそっと触れさせる。


すると――

海が、静かに応じる。

波が渦を巻き先ほど撒かれた毒がまるで

意思を持つかのように吸い上げられていく

濁りが消え何事もなかったかのように、

透明な水が戻る


アクアは槍を持ち上げる

「……終わり」

そして、カロンを見て釘を刺す。

「もうするなよ!」


カロンは肩をすくめる。

「ありがとう!」

全く信用できない返答。

アクアはそれ以上何も言わず、空を見上げた。

次の瞬間――


雷鳴が轟き光が弾ける

そして、そこにはもう――誰もいなかった。

再び静けさが戻る。

だがその場には確かに、“神話級の存在”が通り過ぎた痕跡だけが残っていた。


波が、ようやく静けさを取り戻す。

砕けた地面と、抉れた海面。

ついさっきまでの激戦が嘘のように、港には穏やかな風が戻っていた。


レオンはライフルを下ろし、深く息を吐く。

「……しかし、アクア殿下……以前お会いした時より、更に強くなっていたな……」

実感のこもった声。


あれはもはや“戦闘”ではなかった。

リバティーナも、呆然としたまま呟く。

「というか……あの方を“兄”って……どういう家系なんですか……」

理解が追いつかない、落ち着いたとしても

実際クレイン王家の家系は複雑だ


その隣で――

スタオンヌは、まったく別の方向で満たされていた。

「カロン様♡私……王族の方に愛されてたんですね……♡」

頬を染め、そっと距離を詰める。

そのまま、唇を寄せようとする。


カロンは自然にその肩を抱き寄せた。

「よせよ」

軽く笑う。

「俺は王室には入ってねえ」

あくまで“外側”の人間


だが――

その言葉に、スタオンヌは嬉しそうに微笑む。

「でも……カロン様はカロン様ですもの♡」

まっすぐな肯定。


カロンは少しだけ目を細める。

レオンはその様子を横目で見ながら、小さく肩をすくめた。

「……相変わらずだな」


リバティーナも、やれやれとため息をつく。

「もう……なんなんですか、この人たち……」


呆れながらも――

どこかほんの少しだけ安心したような表情だった

戦いは終わった。

だがこの先もきっと――

波乱は尽きない。




夜――

日ノ本、會桜。東山の屋敷。

柔らかな灯りが、静かな室内を照らしている。

その中でアクアは、腕の中にいる長男を見つめていた。


すやすやと眠る我が子。

その頭を、優しく撫でる。

「……今日は大変だった……」

ぽつりと漏れる本音。

その時、襖が静かに開く。


紫苑が入ってくる。

その腕の中にも、まだ幼い第二子となる女の子が眠っていた。

「お疲れ様です、殿」

穏やかな声。


アクアは顔を上げ、小さく頷く。

「紫苑……ありがとう」

短い言葉。


だが、そこには信頼が込められている。

紫苑は少しだけ視線を落とし静かに続けた。

「ですが……毎度、今日のように助けに行かれては……」

紫苑は今となっては完全に妻としての顔であり、母としての気持ちだった

「女の子も産まれたばかり、この子もまだ幼く……殿の身に万が一のことがあっては……」

心配からの言葉

責めているわけではない

ただ、守りたいだけ

かつての忠義以上に夫と我が子を思う為、



アクアは少しだけ考える

そして――

「……そうだね」

静かに答える。

「じゃあ……護衛をつけようか」

顔を上げる。

「俺達が一番信頼できる人を」

紫苑はすぐに理解する。

「……そうですね……あの娘なら」

二人の間で、名前は共有されている。


アクアは軽く視線を向けた。

「沙耶、いるかい?」

音もなく気配が現れる


静かに歩み出てきたのは、小柄だが凛とした少女

背筋は真っ直ぐ、無駄のない所作

「……はい、ここに」


その声もまた、揺るがない。

アクアはその姿を見て、ゆっくりと告げる。

「俺の弟が、魔を討つ旅をしている」

一拍

「弟を守ってほしい」

命令ではない信頼に基づいた依頼


沙耶は一歩前に出る、その目に迷いはない。

「御意」

静かに頭を下げる

「誠を尽くします」

その言葉は夜の静けさの中に確かに響いた。

序盤ボス倒す為に呼ばれる前作主人公でした。

次回は新キャラ登場の予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ