街歩き
今回短めです
草原。
どこまでも続く緑の絨毯と穏やかな風
村を出てしばらく進んだ先で、四人は足を止めていた。
レジャーシートが広げられその上にドゥラメリア姉妹が並んで座っている。
スタオンヌはスケッチブックを膝に乗せ、静かに鉛筆を走らせていた。
さらさらと迷いのない線
風に揺れる草、遠くの丘、空のグラデーション
優しく、繊細な風景が紙の上に広がっていく
その隣で、リバティーナがそっと腰を下ろした。
(よかった……やっぱり趣味は……姉さんらしい)
少しだけ安心したように目を細める。
スタオンヌは顔を上げずに、ふわりと微笑んだ。
「旅っていいわね……」
静かな声
その一言には、どこか満たされた響きがあった。
完成しかけた絵。
そこには今この瞬間の穏やかな景色がそのまま閉じ込められていた。
草原の少し離れた場所。
風の音に紛れるようにカロンとレオンは距離を取っていた。
スタオンヌ達には聞こえない位置。
レオンはしゃがみ込み、ガーディアンの側で携行缶を開ける。
中身を傾け残量を確認する
「マズイな……クレイン王国を出たら、こんなにガソリンが貴重だとは……」
低く呟く。
カロンは肩をすくめた。
「車が日常的に走ってるなんて、ウチか日ノ本くらいだしな」
現実的な問題だった
文明の差がそのまま制約になる
レオンは次に装備へと手を伸ばす
マガジンを抜き、弾数を確認する。
「……9㎜弾が残り僅か、7.62㎜弾が120発程度か……」
数字にすると、余裕はない。
カロンは軽く舌打ちした。
「金はあっても、中々売ってないもんな」
弾薬はあって当たり前の物ではない。
ここではむしろ“手に入らないもの”だった。
レオンはマガジンを戻し、立ち上がる。
「補給が必要だな」
短く結論を出す。
カロンは空を見上げた。
「……だな」
軽い調子のまま
だが、その目は――状況を正確に捉えていた。
草原の風が、ゆるやかに吹き抜ける
緊張感のあるやり取りとは裏腹に――
カロンは、まるで気にした様子もなかった。
「ま、大丈夫だって!」
軽く言い切る。
レオンは眉をひそめる。
「何を根拠に……」
カロンはニヤリと笑った。
「公式チートだ!」
そして――
空を見上げ、大声で叫ぶ。
「メグ姉ぇーーーー!!」
一瞬の静寂に風の音だけが響く
次の瞬間
どこからともなく、軽い声が降ってきた。
『どしたん?カロンきゅん?』
レオンの動きが止まる。
「………………」
完全に理解が追いついていない。
カロンは普通に会話を続ける。
「物資切れそうだから送ってくれ」
『りょ!』
即答。
さらに続く。
『あとさ、管理大変でしょ?マネージャーとして応援送るねぇ』
軽いノリだがやっている事はとんでもない
カロンは満足そうに頷く。
「助かる」
通信機も何もない
ただ空に向かって叫んだだけ、それで会話が成立している。
レオンはゆっくりと顔を上げた。
「……メグ様……恐ろしい人だ……」
心の底からの実感だった。
無線も通信も存在しない時代において――
これはもはや、“チート”という言葉ですら生ぬるい。
草原には、何事もなかったかのように風が流れていた。
一通りのやり取りを終えレオンは軽く息を吐いた。
「……とにかく、今日はどうする?」
現実的な問い。
カロンは少しだけ考えるように空を見上げ――すぐに答えた。
「次の町まで行こう。そこで補給と、応援を待つ」
迷いのない判断。
レオンも頷く。
「ああ、それがいい」
二人はそのまま振り返り、少し離れた場所にいる姉妹へと声をかけた。
「おーい、行くぞ」
スタオンヌが顔を上げる
スケッチブックを閉じ、立ち上がる。
「はい♡」
リバティーナも小さく息をつきながら続いた。
四人は再び、移動を開始する。
――しばらくして。
視界が開けた。
青い海が広がる。
その手前に、白い建物が並ぶ町。
石畳の道と、潮の香り。
どこかのどかで、それでいて少し洒落た雰囲気を持つ港町だった。
スタオンヌが思わず足を止める。
「綺麗……♡」
目を輝かせる。
波の音と、遠くの船の影。
旅の疲れを忘れさせるような、穏やかな光景だった。
カロンはその様子を横目で見て、軽く笑う。
「気に入ったか?」
スタオンヌは頷く。
「はい……とても……♡」
その声には、純粋な喜びが滲んでいた。
だが――
その穏やかな町にも、どこか“違和感”が混じっていることを、まだ誰も知らなかった。
海沿いの町。
潮風がやわらかく吹き抜ける中、四人はそれぞれの時間を過ごすことになった。
スタオンヌがくるりと振り返る。
「じゃあリバティー、行ってくるわ♡」
そのまま自然にカロンの腕へと寄り添う。
カロンも軽く手を上げる。
「今日は自由行動だ!」
言うなり、二人はそのまま人混みの中へと消えていった。
あまりにも自然な距離感。
残されたのはレオンとリバティーナ。
リバティーナはその背中を見送りながら、小さくため息をつく。
「……はあ……姉さん、完全にあの人に良いようにされてる……」
呆れたようなそれでいて少し寂しげな表情。
レオンは横目でそれを見て、少しだけ視線を逸らした。
一瞬、間を置いてから口を開く。
「……リバティーナ」
「はい?」
呼ばれて振り向く。
レオンは少し言葉を選ぶようにしてから、ぽつりと続けた
「せっかくだし……その……俺の暇つぶしに付き合ってくれないか」
どこかぎこちない言い方だが、気遣いは伝わる
リバティーナは一瞬きょとんとした後、少しだけ視線を下げた。
「……え……あ、はい……」
小さく頷く。
「まあ……一人でいるのも、あまり気が進みませんし……」
少しだけ間を置く。
「……こないだの件も、ありますから……」
頬がほんのり赤くなる
言い終えてから自分で照れてしまったように視線を逸らす
レオンはそれ以上何も言わず、軽く頷いた。
「じゃあ、行くか」
短く言って歩き出す。
リバティーナも、その後ろを少しだけ距離を保ちながらついていく。
並んでいるようで、まだ少しだけ離れている距離。
だが――
その歩幅は、自然と揃っていた。
石畳を踏みしめる足音と、遠くで響く波の音が重なる。
どこを目指すでもなく、二人は並んで歩いていた。
店先には色とりどりの品が並び、人の行き交う声が穏やかに混ざる。
その中で――
リバティーナが、少しだけ視線を上げた。
「……レオンさん……」
レオンは前を見たまま答える。
「どうした?」
リバティーナは少し迷うように言葉を選び、それから口にした。
「カロンさんと違って……レオンさんは、まだ常識ある方だと思ってはいます……」
一拍。
「……なんで、あんなギャングと仲良くしてるんですか……?」
率直な疑問。
だが責めるような響きではなく、純粋な“気になる”という色が強い。
レオンは特に考え込む様子もなくあっさりと答えた
「アイツには昔、恩があってな」
それだけ言って、少しだけ間を置く
視線は変わらず前。
「……でも、恩よりもだ」
声は静かだが、迷いはない。
「ギャングである前に、アイツは俺の友達だ」
それがすべてだと言わんばかりの言い方だった。
リバティーナはその言葉を、少し驚いたように聞いていた。
(……友達……)
ゆっくりと、その意味を噛みしめる。
やがて小さく息を吐いた。
「……そういうもの、なんですね……」
完全に理解したわけではない。
だが軽く否定できるものでもないと感じていた。
レオンはそれ以上は何も言わない。
ただ歩く。
リバティーナも、隣で同じ歩幅を保ちながら進む。
言葉は少ない。
けれど――
さっきより、ほんの少しだけ距離が近づいていた。
海風が少し強くなる。
通りを抜け、少し人通りの少ない道へと出た二人。
レオンは前を向いたまま、ふと思い出したように口を開いた。
「リバティーナは……ずっとスタオンヌのこと気に掛けてるよな?」
何気ない問い。
だが核心を突いていた。
リバティーナは少しだけ目を伏せる。
「まあ……唯一、身近にいる家族ですから……」
小さく息をつく。
その言葉に、レオンがわずかに視線を向ける。
「え……?」
思っていたよりも、重い答えだった。
リバティーナは淡々と続ける。
「父は何年も前に亡くなって……兄さんは元気みたいですが、まだ軍務で……帰って来れません……」
少しだけ間を置く
「……だから、姉さんとは助け合って生きてきたんです」
強い言い方ではない。
だが、その言葉には確かな重みがあった。
レオンは少しだけ黙り込む。
そして、短く言った。
「……そうか。悪かった」
余計なことを聞いたとすぐに理解した。
リバティーナは首を横に振る。
「いえ……気にしてません」
ほんの少しだけ、柔らかく笑う。
「むしろ……聞いてくれて、ありがとうございます」
その一言に、レオンは何も返さない。
ただ――
歩く速度を、ほんのわずかだけ緩めた。
それだけで、十分だった。
リバティーナはほんの少しだけ表情を緩めた
先ほどまでの硬さが少しだけほどける
そのまま二人はまた歩き出した。
潮風の通りを抜け気づけば小さな店の前で足が止まる。
木の扉に控えめな看板。
カジュアルだが、どこか落ち着いた雰囲気のある店だった。
レオンがちらりと中を見て言う。
「ここでいいか?」
リバティーナは少しだけ驚きつつ、頷く。
「……はい」
店内は静かで、外の喧騒が嘘のようだった。
二人は向かい合って席に座る。
少しだけぎこちない空気。
だが不思議と居心地は悪くない。
やがて料理が運ばれてくる。
「お待たせしました。鶏の赤ワイン煮、ベーコンオムレツになります」
香りが広がる。
湯気の立つ皿。
どちらも丁寧に作られた一品だった。
リバティーナは少し目を丸くする。
「……美味しそうですね」
レオンも小さく頷く。
「ああ」
短い返事だか、それでもどこか柔らかい
ナイフとフォークが静かに動く
無言の時間
その沈黙は気まずさではなく――
どこか落ち着いたものに変わっていた。
食事を終え席を立つ。
会計の前でレオンが自然に口を開く。
「俺払うよ」
それが当然のような言い方。
だが――
リバティーナはすぐに首を振った。
「いえ……こないだのお礼もありますから……!」
少し前のことを思い出しながらしっかりとした声で言う
レオンは一瞬だけ言葉に詰まりそして小さく息を吐いた。
「……じゃあ、半分でいい」
妥協案
リバティーナは少し考えてから、頷いた。
「……それなら」
お互いに無理をしない形
支払いを終え店の外へ出る
さっきよりも少しだけ、自然に並んで歩けていた。
特に目的があるわけでもなく、ただ流れに任せて
気づけば――空はすっかり暗くなり、足は自然と港の方へ向いていた。
波の音。
揺れる街灯。
水面に映る光が、静かに揺れている。
レオンは立ち止まり、少しだけ後ろを振り返った。
「……ゴメンな、連れ回しちゃって」
ぽつりとした一言。
だが――
リバティーナはいつもの落ち着いた表情のまま、ゆっくりと手を伸ばした。
そっと――レオンの手を握る。
「……少し……楽しかったです……」
小さな声
ほんのりと赤くなった頬
レオンは一瞬言葉を失った
距離が――少しだけ近い
視線が重なる
あと少しで、何かが変わりそうな空気。
その時だった
レオンが、わずかに視線を横へずらす
「……おい、覗くな」
リバティーナがはっとする。
物陰から、ひょこっと顔を出す影。
カロンがニヤニヤしながら手を振る。
「気にするな、続けろ」
その隣で、スタオンヌが両手を頬に当てている。
「リバティー……♡可愛すぎます……♡」
完全に観賞モード。
リバティーナの思考が一瞬止まる。
そして――
「~~~~っ!!?」
声にならない悲鳴。
一気に顔が真っ赤になる。
慌てて手を離し、距離を取る。
「な、ななななにしてるんですか二人とも!?」
完全にパニック。
レオンはため息をつく。
「……最悪のタイミングだな」
カロンは肩をすくめる。
「いいとこだったのによ」
スタオンヌはうっとりしたまま頷いた。
「本当に……あと少しでしたのに……♡」
リバティーナは顔を覆う。
「……もう無理です……」
消え入りそうな声。
せっかく縮まった距離は――
見事にリセットされていた。
その夜。
港の喧騒も次第に静まり町はゆっくりと眠りに落ちていく。
波の音だけが、規則正しく響いていた。
――だが、
町から少し離れた崖の上。
闇の中に、一つの影があった。
風が吹き抜ける。
その中で、何かが蠢く。
低く、重い呼吸。
「……来たか」
誰に向けた言葉でもない。
ただ確信しているような声。
その視線の先――港町の灯り
楽しげに過ごしていたはずの、あの場所を見下ろしている。
「面白い……」
歪んだ笑み。
次の瞬間、その影は闇の中へと溶けた。
何もなかったかのように。
――だが確実に。
“何か”が、動き出していた。
カロンはこの世界のバグをしっかり利用してます。
因みにカロンのモデルがGTA5の主人公3人を足して3で割ったようなイメージで、メグはチートそのものです




