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科学者は強し

過去作品より技術が進歩してるのでそれを活かせる旅にしたいですね、カロンは気が向いた時だけ人助けします

店の前には、バイクとガーディアン90が並んで停まっていた。


まだ日が落ちきる前の時間。少し早めの夕食。

店内は落ち着いた灯りに包まれ、木の温もりと静かな空気が漂っている。


四人はボックス席に腰を下ろしていた。

リバティーナが周囲を見回しながら、静かに口を開く。

「……いい雰囲気の店ですね」

レオンも短く頷いた。

「そうだな」


その向かいで、スタオンヌの視線はずっとカロンに向けられていた。

「カロン様……♡作法が……綺麗……♡」

頬を染めながら、うっとりと呟く。

カロンの動きには無駄がない。

ナイフとフォークの扱い。皿に触れる角度。口へ運ぶ所作。


すべてが自然で、流れるように洗練されている。

音を立てない。姿勢も崩れない。


それでいて気取った様子はなく、“当たり前”のようにこなしている。


リバティーナが眉をひそめる。

「……なんでそんなに慣れてるんですか……?」

カロンは口元を軽く拭きながら、あっさりと答えた。

「親の教育かな、あと普通にこんぐらい出来なきゃカッコ悪いから」


リバティーナは一瞬言葉を失い、小さくため息をつく。

「……意外と育ち良いんですね…ギャングなのに…」

その横で、スタオンヌは変わらず幸せそうに微笑んでいた。

「カロン様……本当に素敵です……♡」

カロンは軽く笑う。

その何気ない仕草すら、妙に様になっていた。


その時だった。

店内の静かな空気をぶち壊すように、乱暴な笑い声が響いた。

入口付近。

数人の男たちが、酒を片手に騒ぎ立てている。

明らかに場違いな連中だった。

「おいおい!こんな上品ぶった店でこの程度かよ!」

「酒も料理もぬるいなぁ!もっとマシなもん出せや!」

テーブルを叩き、椅子を蹴る。

周囲の客が一斉に視線を向けるが、男たちは気にも留めない。


店員が恐る恐る近づく。

「お客様……他のお客様のご迷惑になりますので……」

だが――

「はぁ?」

男の一人が立ち上がる。

「客に指図してんじゃねぇよ」

肩を押し返され店員がよろける


「金払ってんのはこっちだぞ?」

「気に入らねぇなら店ごと潰してやってもいいんだぞ?」

さらに声が大きくなる。

グラスが乱暴に置かれ、皿が揺れる。

空気が一気に張り詰めた。

周囲の客たちは視線を逸らし、誰も関わろうとしない。

その様子を――

カロンたちは、席から静かに見ていた。


店内の空気が張り詰める。

騒ぎは収まるどころか、むしろエスカレートしていく。

――その時。

カロンが、ゆっくりと立ち上がった。

椅子が静かに引かれる音だけが響く。

チンピラの一人が気づき、睨みつける。

「……あ!?なんだ!?」


カロンは何も言わない。

ただ、懐から取り出したそれを――無造作に突きつけた。

バチバチバチバチ

青白い火花を散らすスタンガン。

男の顔が一瞬で強張る。

「……おい、それ――」

言い終わる前に。


カロンが一歩踏み込んだ。

電流が走る。

男の身体が痙攣し、その場に崩れ落ちる。

一切の躊躇なし。


その横で、レオンも立ち上がっていた。

「迷惑だ」

短く言い切る。

次の瞬間、近くにいた男の胸ぐらを掴み――

そのまま片手で持ち上げる。

「なっ――」

言葉にならない声。

そして――

店の外へと放り投げた。

ガシャッ、と鈍い音。

扉の向こうに転がる気配。


残ったチンピラ達が一斉に怒鳴る。

「テメェらーー!!」

だが、その声は途中で止まった。

「……!?」

力が抜け膝から崩れる

一人、また一人と――床に倒れ込んでいく。

何が起きたのか分からないまま。


その様子を見て、スタオンヌが口元に手を当てる。

「あら?」

わざとらしく、小首を傾げる。

「ここにあった筋弛緩薬が……誰か飲んでないですかぁ?」

にこり、と微笑む。

完全に確信犯だった。

静まり返る店内。


誰も声を出せない。

リバティーナが額を押さえ、深くため息をつく。

「……良い雰囲気が……最悪……」

ぼそりと呟くその声だけが、妙に現実的だった。


深夜。

宿の一室。

静まり返った空気の中――

リバティーナは布団の中で、うなされていた。

「うう……姉が……人様に毒を……」

小さく震える声。

額に汗が滲む。


※夢の中

ぼんやりとした空間。

その中に、見慣れた姿が立っていた。

「姉さん……?」

スタオンヌだった。

だが――どこか様子が違う。

「見て、リバティー」

柔らかく微笑む。


そして、くるりと背を向けた。

「私も入れてみたの♡」

背中に刻まれていたのは――

蛇を身に纏い胸の前で腕を交差させる

異形の印相、軍荼利印

幾重にも絡み合う線と、圧のある造形。

それはどこか、カロンの三界の勝利者のそれを連想させるものだった。

「カロン様とお揃い♡」

嬉しそうに語る声。


※現実

「うゔああああああァァァ!!!???」

リバティーナは勢いよく飛び起きた。

荒い呼吸で周囲を見回す

静かな部屋、何も変わっていない。

「……夢か……」

額を押さえながら深く息を吐く。


しばらくして――

ぽつりと呟いた。

「……最悪の夢を見た……」

布団に倒れ込みながら、天井を見上げる。

(姉さん……絶対変な影響受けてる……)

確信に近い疑念。

そのまま目を閉じるが――

もう、すぐには眠れそうになかった。


静まり返った廊下。

リバティーナはそっと部屋の扉を閉めた。

(……少し、身体を冷やしますか……)

寝つけないまま、歩みを進めると

わずかな足音だけが響く。


やがて廊下の窓際で足を止めた。

外は闇に沈んでいる。

村は静まり返り、灯りもほとんど見えない。

リバティーナは窓に手をつき外を眺める…

その時だった。

「……?」


遠くに違和感を感じた

暗闇の中で何かが蠢いた。

形ははっきりしない。

だが、確実に“何か”がいる。

リバティーナは目を凝らす。

そして――“それ”と、目が合った気がした。

次の瞬間、一直線にこちらへ。

「……っ!?」

理解が追いつかない。

ただ本能が告げる。

来る。


「い……いや……」


後ずさろうとするが足が動かない。

恐怖で、身体が固まる。

その瞬間――

パンッ!!


鋭い銃声が廊下に響いた。

リバティーナのすぐ横、レオンがピストルを構えていた。

硝煙の匂い。

窓の外の“それ”は一瞬だけ動きを止め、すぐに闇の中へと消えていく。


リバティーナはその場に立ち尽くしたまま、震えていた。

レオンは銃を下ろし、短く息を吐く。

「……逃げられたか」

低い声。


翌朝。

宿の一階。

まだ人もまばらな食堂に、重たい空気が残っている。


その中へ――

階段を降りてくる二つの影。

寝不足気味のカロンとスタオンヌだった。

カロンは欠伸を噛み殺しながら、気だるそうに声をかける。

「レオン……夜中に銃ぶっ放して何してんだ?そんなに激しかったのか?」


わざとらしい言い方。

その横で、スタオンヌがくすりと笑う。

「フフ……リバティーも隅に置けないわね……♡」

完全に勘違いしている。


当のリバティーナは顔を真っ赤にして立ち上がった。

「な、なに言ってるんですか!違います!!」

レオンは額を押さえ、ため息をつく。

「違う!」

はっきりと言い切る。

「魔物が出たぞ」


その一言で、空気が変わった。

カロンの目が、わずかに細くなる。

スタオンヌも表情を引き締める。

リバティーナはまだ少し震えている。

レオンは続けた。

「夜中、廊下で遭遇した。あれは……普通じゃない」


静かだが、確信のある声。

「村の連中が言ってた“原因不明”ってやつだろうな」


カロンは軽く首を鳴らす。

「へぇ……面白くなってきたじゃねぇか」

その口元には――

わずかな笑みが浮かんでいた。


宿の食堂。

重い空気のまま、話は奥へと進んでいた。

カロンたちは、宿屋の主人と――呼び出された村長を前にしている。


主人は、どこか観念したように口を開いた。

「……見られてしまいましたか……」

隠しきれない疲労がその声に滲んでいる。

村長もまた深く息を吐いた。

「今年に入ってからです……」


ゆっくりと言葉を選びながら続ける。

「あの獣のような異形が……村人を……更には……事情を知らない外部の方まで襲うようになったのです……」

静まり返る室内。


その言葉の重さが、そのまま場に沈む。

リバティーナは眉をひそめた。

「……通報や、軍への連絡は?」

当然の問い。

だが――

宿屋の主人は、苦く笑った。

「出来ません……」

村長も首を振る。


「ただでさえ貧しく、人口も減っている村です……」

握りしめた手に、力が入る。


「ここに“魔物の危険がある”などと知れれば……人は離れ、村は終わります……」

それは、恐怖だけの問題ではなかった。

“存続”の問題。


レオンは腕を組み、静かに聞いている。

スタオンヌは少しだけ胸元に手を当て、表情を曇らせた。

リバティーナも言葉を失う。

カロンだけが、椅子に深く腰掛けたまま、天井を見上げていた。

「……なるほどな」


誰もすぐには言葉を返せなかった。

この村は――

逃げることも、助けを求めることも出来ず、

ただ静かに“狩られている”状態だった。


カロンは椅子に深く腰掛けたまま、ふっと笑った。

そして、急に表情を切り替える。

どこか胡散臭く、しかし妙に説得力のある声音。

「心配御無用!実は我々は魔族の調査で旅をしてる者でしてね!一宿一飯の恩義です!」


胸に手を当て、大げさに言い切る。

「この件、我々にお任せを」

宿屋の主人の目が見開かれる。

「おお……!それはありがたい……!」

村長も、わずかに表情を明るくした。

「本当ですか……!」


その横でレオンは静かに額を押さえていた。

(始まったよ……今度は何する気だ……?)

明らかに“何か企んでいる顔”。

長年の付き合いが、それを告げている。


リバティーナも小さく眉をひそめる。

(絶対まともな方法じゃない……)

スタオンヌだけが、嬉しそうにカロンを見ていた。

「カロン様……素敵です……♡」

完全に信じている。


カロンはそんな視線を受けながらにやりと笑う。

その目は――

すでに“狩る側”のものに変わっていた。


宿の外。

まだ日が高いうちに、四人は村の片隅へと移動していた。

人目を避けるように、カロンが壁にもたれながら口を開く。

「で……どうするんだ?相手の手掛かりも無いのに」

レオンが腕を組んで問いかける。

カロンはあっさりと答えた。

「簡単だって、お前らが見た感じ狼みたいな魔物だろ?」


リバティーナが頷く。

「ええ……少なくとも、そう見えました」


カロンはニヤリと笑う。

「なら話は早ぇ」

そう言って紙を取り出し、さらさらと何かを書き始める。

迷いのない綺麗な文字。

書き終えると、それをレオンに投げ渡した。

「よし!レオンとリバティーナは買い物行って来てくれ!」


レオンが紙を広げる。

そこに書かれていたのは――

肉、野菜、香辛料。

どう見ても、普通の食材リストだった。


リバティーナが眉をひそめる。

「……これ、ただの買い出しでは?」

カロンは肩をすくめる。

「そうだよ?」

軽い返事。

レオンがため息をつく。

「お前な……」

だが、それ以上は言わない。

「……行くぞ」

リバティーナに目配せし、そのまま歩き出す。

リバティーナも納得はしていない様子ながら、後に続いた。


残されたのは二人。

スタオンヌが小首を傾げる。

「私はどうしましょう?」

カロンは少しだけ振り返り、口元を歪めた。

「スタオンヌは――昨日のアレ、用意してくれ」

一瞬の沈黙。

だが、スタオンヌはすぐに理解した。

ふわりと微笑む。

「……はい♡」


その目は、わずかに楽しげに細められている。

「どれくらい効かせますか?♡」

カロンは軽く笑った。


「気付かれない程度に、じわじわとな」

その言葉に、スタオンヌは嬉しそうに頷いた。

「任せてください♡」

静かな村の中で――

“準備”は、着々と進み始めていた。


ガーディアン90は、村道を抜けて小さな市場へと向かっていた。

重いエンジン音が響く。

しばらく無言が続いたあと――

助手席のリバティーナが、少しだけ視線を落とした。


「レオンさん……」

レオンは前を見たまま、短く返す。

「なに?」

一瞬、間。

「……あの……昨日は、ありがとうございました……」

小さな声。


だが、はっきりとした言葉だった。

レオンは少しだけ目を細める。

「別に礼を言われることじゃない」


軽くハンドルを切りながら続ける。

「目の前にいたから撃っただけだ」

いつもの調子。


だがリバティーナは小さく首を振った。

「それでも……です」

視線を外に向けたまま、続ける。

「正直……怖くて、動けませんでしたから……」


その言葉にレオンは一瞬だけ黙る。

やがてぽつりと返した。

「……ああいう時は、動かない方がいい」

短い助言。

「下手に動くと、余計に危ない」

リバティーナは少しだけ驚いたように目を瞬かせる。

「……そうなんですね」

レオンは小さく頷いた。

「判断は間違ってない」

その一言。


リバティーナの表情が、ほんの少しだけ柔らぐ。

「……ありがとうございます」

今度は、さっきよりも自然な声だった。

レオンはそれに対して、特に何も言わない。

ただ――

わずかにアクセルを緩めた。

ガーディアンは、静かに市場へと滑り込んでいく。


村の広場。

テーブルが並び、焚き火の灯りがゆらゆらと揺れている。


先ほどまでの重苦しい空気は嘘のように――

今は、賑やかな声があちこちから上がっていた。

「久しぶりの宴会だ!」

「こんなご馳走、いつ以来だ……!」

「都会じゃこんな美味い物食べているのか!?」

並べられた料理の数々。

香ばしく焼かれた魚。

丁寧に火を通された肉。

彩りよく盛り付けられた野菜。

どれも素朴ながら、確かな腕を感じさせる仕上がりだった。


その中心にいるのは――

カロン。

火加減を見ながら手際よく次の料理を仕上げていく。

スタオンヌはその様子を見て嬉しそうに微笑んだ。

「皆さん、活気が戻ってきましたね♡」

その言葉通りだった。


沈んでいた村に、確かに“熱”が戻っている。

レオンは腕を組みながら、小さく呟く。

「アイツ……なんだかんだ趣味は料理なんだよな……」


リバティーナは呆れたようにため息をつく。

「ギャングなんてしてないで、真面目に働けばいいのに……」


その言葉に、カロンが振り返る。

「趣味を仕事にはしたくないタイプなんだよ!」

軽く言い返しながら、皿を差し出す。

その横では、酒も並んでいた。

瓶が開き、杯が交わされる。


そんな中――

カロンが村長に目を向ける。

「ほーら!村長さん飲んでないじゃん!」

グラスを掲げて、にやりと笑う。

村長は困ったように苦笑した。

「酒だけは……どうしても苦手でして……!」

周囲から笑いが起きる。

その光景は、まるで――

何事も起きていないかのように、穏やかだった。


その日の夜。

宴の熱はすでに消え、村は再び静寂に沈んでいた。

風の音すら、どこか重い。

――そして。

“ヤツ”が来た。

屋根の上影が音もなく這う。

狼のような輪郭だがその気配はただの獣ではない。

「……ゔぅぅ……余所者が……余計な事を……」

低く、濁った声。


明らかに様子がおかしい。

足取りがわずかに乱れ、呼吸も荒い。

「ゔっ……!気持ち悪い……」

喉を鳴らしながら屋根から滑るように降りる。


そのまま、闇に紛れて建物の陰へ。

狙いは――

カロンたちが泊まる宿屋。


わずかな隙間。

“ヤツ”は音もなく室内へと侵入する。

床に降り立ち鼻を鳴らす。

「……いるな……」

獣の嗅覚が獲物を捉える。

布団の膨らみ。


そこに向かって、ゆっくりと近づく。

(……貴様の肉で……腹を整えてやる……!)

唾液が滴る。

次の瞬間――

布団を乱暴に捲り上げると同時に牙を突き立てた

ガブッ


肉を噛み裂く音

骨を砕く鈍い感触

バキッ、ゴリッ


貪る。

一切の躊躇なく喰らう

闇の中でその音だけが響いていた。


闇の中。

肉を貪る音だけが響いていた、その時――

「食ったな!」


不意に、低い声が割り込む。

「畜生なんてこんなもんか!」

狼の動きが止まる。

「!?」

振り向く。


そこに立っていたのは――カロン。

壁にもたれ、腕を組み、冷めた目で見下ろしている。

その足元。

月明かりが差し込む中で、ようやく“それ”の正体が見えた。


狼が喰らいついていたのは――

昨日、筋弛緩薬で無力化されていたチンピラの一人。

完全に動かないまま、餌にされていた。

狼は目を見開く。

「……貴様……!」

カロンは肩をすくめる。

「その様子じゃ、相当効いたみたいだな」

ゆっくりと一歩、近づく。

「腹のせいで、頭回って無いようだし」

狼の呼吸は荒い。

足元もわずかにふらついている。

明らかに異常だった。


カロンは軽く顎をしゃくる。

「宴会、楽しかっただろ?」

その一言に、狼の表情が歪む。

「……なに……?」

カロンは淡々と続ける。

「昨日の飯だよ」


あの宴で振る舞われた料理の数々。

マグロとアボカドのサラダ。

肉にかけられた濃厚なソース。

香り立つドレッシング。

その中に――

玉ねぎ、ニンニク、卵白。

さらにデザートには、葡萄などの果物。


どれも、人間にとっては何の問題もない。

だが――

カロンの口元が歪む。

「イヌには毒なんだよな、それ」

一瞬の沈黙。


理解が追いついた瞬間。

狼の顔が歪む。

「……き、貴様……!」

カロンは鼻で笑った。

「村の連中は食っても問題ねぇ」

視線を鋭くする。


「でも、お前は“違う”」

完全に見抜いていた。

最初から。


張り詰めた空気。

狼の荒い呼吸だけが、室内に響く。

その中で――

ふと、場違いなほど穏やかな声が差し込んだ。

「あのマグロの漬け、とても美味しかったです♡」

スタオンヌだった。

いつもと変わらない柔らかな笑み。

この状況とはあまりにも不釣り合いな一言。

カロンは肩をすくめる。

「ああ、昔日ノ本で食ったやつだ。あれ美味かったからな」


軽い調子で答える。

まるで今が食後の雑談であるかのように。

狼の瞳が揺れる。


状況が理解できない。

苦しみと、困惑と、怒りが混ざり合う。

その一方で――

二人の空気は、あまりにも自然だった。


狼の身体が揺れる

呼吸が乱れる

内側から蝕まれていく感覚

カロンは一歩踏み出す

その目は――完全に“狩る側”

「さて……ここからどうする?」


狼の身体が、大きく揺れる。

次の瞬間――

バキバキバキッ

骨が軋む音。

背が歪み、腕が裂け、毛が逆立つ。

「ぐぬぬ……!」


低く唸った声は、もう人のものではない。

その顔が、ゆっくりと崩れる。

牙が伸び、目が濁り、完全に“獣”へと変わる。

だが――

その奥に残っていたのは。

「……村長……?」


リバティーナが息を呑む。

カロンは、確信したように笑った。

「やっぱな。酒飲めないあたりから怪しかったんだよ」

一歩、近づく。


「酒も犬には毒だしな」

その言葉に、村長――いや、狼は牙を剥いた。


「おのれぇぇぇ!!!」

怒りの咆哮。

だが――

「……!?」

足がもつれる。

身体が崩れる。


力が抜け、その場に膝をつく。

呼吸が乱れ、視界が揺れる。

明らかに、限界が近い。


その様子を見て、スタオンヌがゆっくりと袋を取り出した。

さらり、と中身を指でつまむ。

「囮には……大量にキシリトールの粉末、仕込んでおきました♡」

無邪気な笑顔、完全に確信犯

カロンは思わず笑う。


「流石オンちゃん!最高じゃん!」

軽く手を叩く。


狼は地面に手をついたまま荒く息を吐く。

理解してしまった。

すべてが――

仕組まれていたことを。


翌朝。

昨夜の不気味な静けさは消え、村には久しぶりの“朝の音”が戻っていた。


戸を開ける音。

どこかぎこちないが、それでも確かに生きている気配


宿の前

村人たちが、カロンたちを取り囲んでいた。

宿屋の主人は、まだ信じられないように首を振る。

「まさか……村長になりすましていたなんて……」


その声には、安堵と動揺が混ざっている。

リバティーナが一歩前に出た。

表情は柔らかいが、言葉はしっかりとしている。

「残念ですが……本当の村長さんは、もう……」

一瞬、言葉を区切る。

「……いないでしょう」

場が静まる。


だがすぐに続けた。

「ですが……どうか気を落とさず。これ以上の被害は防げました」

視線を上げる。

「これから、この村は立て直せます」

その言葉に、村人たちはゆっくりと頷いた。



やがて――一人が口を開く。

「皆さん、本当にありがとうございます!」

「助かりました……!」

「昨日の料理も……すごく美味しかったです!」

空気が、少しだけ明るくなる。

カロンは軽く手を振った。

「気にすんなって」

そして、にやりと笑う。

「料理、真似していいぞ、店で出せば流行るかもよ」

軽い口調。


だが、その言葉に何人かの村人が顔を見合わせる。

「それ、いいかもしれないな……」

「確かに、あの味なら……」

小さな希望が、ぽつりと生まれる。

スタオンヌはその様子を見て、嬉しそうに微笑んだ。

「良かったですね♡」

レオンは腕を組みながら、静かに呟く。

「……なんだかんだ、やることはやるんだよな」

リバティーナも小さく息を吐く

「……やり方はともかく、ですが」

その言葉に、カロンは肩をすくめた。

村に少しずつ光が戻っていく

その中心にいるのは――

間違いなく、この四人だった。さ

宣伝用のスタオンヌとリバティーナ、前回のカロンが料理した時のイラストです

旅と美人姉妹 | 福島ナガト #pixiv https://www.pixiv.net/artworks/146070785

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