自由のド真ん中へ
今回も中々やり過ぎ上等な話です。なんだかんだ言って自分が好きなのってミリタリー系なんだなと
魔王軍序列第二位
龍王ヴェルゴーニャ率いる過激派軍団
その壊滅という衝撃は一夜にして世界中を駆け巡った
クレイン王国
日ノ本
各国の新聞はこぞって一面を飾る
『魔王軍過激派壊滅』
『龍王ヴェルゴーニャ討死』
『歴史的大勝利』
戦力の大幅な喪失
そして過激派壊滅によって増加していた魔族による襲撃事件も激減
各地では商隊が再び街道を行き交い、
子供達が安心して外を走り回れる日々が戻りつつあった
世界は歓喜に包まれていた
――その立役者達はというと…
ガーディアン90。
レオンの運転する軍用車は今日ものんびりと街道を走っていた
助手席で新聞を広げるリバティーナが感心したように呟く。
「凄いニュースになってますよ……どの新聞も一面です」
レオンは前を見たまま苦笑する
「まあ、世間が応援してくれてるなら、それでいいんじゃないかな…俺達はいつも通り旅を続けるだけだし」
少し後方にククリRPV
軽快なエンジン音を響かせながら、エマが上機嫌でハンドルを握っていた。
「ふふふ♡今回の件で各国が大騒ぎですよ」
助手席のリリーナが興味深そうに聞く。
「へぇ?」
エマは満面の笑みで答えた。
「クレイン王国製の武器を関税二十倍でも欲しいって国ばかりなんですって、注文が止まりません♡」
リリーナは思わず吹き出した。
「それは凄いわね」
窓の外を眺めながら微笑む
「ウチの会社の貿易部門もウハウハだわ♡」
その後ろでは。
沙耶が窓の外を眺めながら静かに呟いた。
「殿も……アクア様も…紫苑様も……」
少し誇らしそうに笑う。
「皆、大活躍だったでござるな……」
その表情には、憧れと尊敬が滲んでいた
さらにその先頭
旅の先導を務める一台のバイク
カロンがアクセルを吹かす
後ろではスタオンヌが自然にカロンへ身体を預けていた
長い黒髪が風になびく
「カロン様……風が心地よいですね……♡」
カロンはニヤリと笑う
「そうだな」
次の瞬間、アクセルを一気に開けた。
「飛ばすぜ!」
ブォォォォォォン!!
バイクは街道を一気に駆け抜ける
「きゃっ♡」
驚きながらも、スタオンヌは楽しそうにカロンの腰へしがみつく。
「もう、カロン様ったら……♡」
青空と心地よい風と笑い声
つい前日、魔王軍No.2率いる過激派を一夜にして壊滅させた一行とはとても思えないほど穏やかな時間だった。
彼らの旅は、まだ終わらない
その進む先には――
魔王の本拠地とは別に、新たな火種が待ち受けていることを、この時の彼らはまだ知らなかった。
数日後
カロン達が辿り着いたのは一つの港町だった。
ベルガード港湾自治区
人口約8000人
一つの自治政府によって治められる自治領
北には深い森林地帯
その先には隣国との国境線が続く
東には本国との間を隔てる巨大な山脈
そして南には、大陸有数の天然港が広がっていた
町の規模は決して大きくない
しかし、その価値は計り知れない
地下からは石油をはじめとする化石燃料
さらにレアメタル鉱床まで確認されており、
大陸でも屈指の資源地帯として知られている
そのため、古くから各国が喉から手が出るほど欲しがる土地でもあった
ガーディアン90とククリRPV、そしてカロンのバイクはゆっくりと町へ入っていく
道路は綺麗に舗装され石造りの建物も手入れが行き届いている。
商業地区も広く、港には大型貨物船が停泊できる設備まで整っていた。
クレイン王国や日ノ本ほどではない。
それでも、小さな自治領とは思えないほど豊かな町だった
……だが
「……あれ?」
スタオンヌが辺りを見回す。
「なんか……お店、どこも閉まってますね……」
酒場
雑貨屋
食堂
露店
営業している店はほとんど見当たらない。
人通りも少なく、すれ違う住民達は皆うつむきながら足早に歩いていく
子供達の笑い声すら聞こえなかった。
カロンも周囲を見渡す。
「魔王の本拠地も近いからか?」
レオンは首を横に振る。
「いや……魔族を恐れてるだけなら、ここまで町全体が沈んだ雰囲気にはならない」
エマも港の方角へ目を向ける。
「船もあまり動いてませんね……物流まで止まり始めてる……?」
通行許可を得るため案内された先は、
ベルガード自治政府庁舎
応接室へ通されたカロン達を待っていたのは、
一人の初老の男だった。
ベルガード港湾自治区首相
その顔には深い疲労が刻まれている。
首相は立ち上がり、深々と頭を下げた。
「王族の一行が…このような時に来ていただき、本来なら歓迎すべきなのですが……」
苦しそうに目を伏せる
「申し訳ありません…今は領内の通り抜けは認められません……」
カロンは椅子へ腰を下ろしながら尋ねる。
「何があった?」
首相は一枚の地図を机へ広げた
ベルガード自治区
北側には広大な森林、さらにその先には国境
東には巨大な山脈、南には港
そして自治区北西部には、赤く印が付けられた鉱山地帯。
首相は重々しく口を開いた。
「隣国が…この鉱脈地帯を要求しております。」
レオンが眉をひそめる。
「理由は?」
首相は苦笑する。
「理由など、資源以外ありません。」
地図の森林地帯を指差す。
「代わりに、自国側の森林地帯を譲渡すると提案してきました…土地の交換です。」
リバティーナが思わず身を乗り出す。
「そんな……!鉱山と未開拓の森を交換しろって言うんですか!?」
首相は静かに頷く。
「もちろん拒否しました…すると……」
その先の言葉は、誰もが予想できた。
「武力侵攻を示唆してきました」
部屋が静まり返る
首相は震える手で書簡を差し出す。
「回答期限は本日の時点で残り三十日、応じなければ軍を進めると」
沙耶は拳を握り締めた。
「脅迫ではござらぬか……。」
首相は悲しそうに微笑む。
「ええ…ですが、我々にはこの土地を捨てることはできません」
窓の外を見る。
「あの鉱山だけではありません…この町には、何代にもわたり暮らしてきた先祖の墓があります。」
「家があります…港があります…子供達の未来があります、我々は…先住民なのです」
その言葉には、静かな覚悟が込められていた
リバティーナは唇を噛む
「酷い……人間同士で争っている場合じゃないのに……」
レオンは現実的な疑問を口にする。
「本国からの援助は?」
首相は首を横へ振る。
「東の山脈が障害になっています…補給路が限られ、人員を送るので精一杯です、重装備を運び込む余裕はありません」
リリーナは腕を組み、静かに呟く。
「やっぱり……人間の敵は、人間ね……」
誰も反論しなかった
魔族という共通の脅威が存在していてもなお、
欲望は止まらない
資源。
領土。
利権。
それらを巡って、人は今も争い続けている
カロンは地図を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……なるほど…今回は魔王じゃなくて」
ゆっくりと首相へ視線を向ける。
「欲張りな隣人が相手って訳か。」
応接室に沈黙が流れる。
誰も口を開かなかった。
地図を見つめるカロンだけが、何かを考え続けている。
北の森林。
東の山脈。
南の港。
本国からの援軍。
魔王グラン・ネフェル
そして――魔族の隠れ里
一分にも満たない思考、カロンは突然小さく笑った
「ふっ」
レオンはその笑みを見て察する。
(……あ、何か思い付いた)
カロンは首相へ視線を向けた。
「領民で、戦う気がある奴は何人?」
首相は少し驚きながら答える。
「二百……いえ、二百数十人ほどかと」
カロンは頷く
「じゃあ、本国から来られる援軍は?
「確か…百人弱です……」
「なるほど」
カロンは腕を組み、数秒考える。
そしてニヤリと笑った
「分かった」
あまりにも軽い返事だった。
「クレイン王国が協力する」
首相は目を見開く
「ほ、本当ですか!?」
「その代わり」
カロンは人差し指を一本立てる。
「もし守り切ったら俺の頼み、一つ聞いてくんない?」
首相はきょとんとした。
「……頼み?何でしょう?」
カロンは笑うだけだった。
「それは勝ってから話す、悪い話じゃねぇよ」
首相は戸惑いながらも、ゆっくり頷く
「……分かりました…ベルガードを救っていただけるのであれば、約束しましょう」
その様子を見ていたレオンは額へ手を当てた。
「……まーたロクでもないこと考えたな」
深いため息
リバティーナも苦笑する。
「そうですね……絶対、普通のお願いじゃありません。」
スタオンヌは嬉しそうに微笑んでいた。
「でも……」
カロンを真っ直ぐ見つめる。
「カロン様がそう仰るなら、この自治領はもう無事ですね♡」
レオンは苦笑しながら即答した。
「ああ、それは間違いない、確定演出だ」
エマも吹き出す。
「ロンくんが笑った時点で、敵さん終わりましたね♡」
沙耶は首を傾げる。
「しかし殿、何を思い付かれたのでござる?」
カロンは椅子から立ち上がり、窓の外に広がる港町を眺める。
その口元には、いつもの悪そうな笑みが浮かんでいた。
「まあ、まずは阿修羅の顔を見てからだ」
その一言に、仲間たちは思わず顔を見合わせる。
「じゃあちょっと行ってくる!」
軍荼利印を結び、どこかへ転移する
場面は変わり
某日、クレイン王国
王城前広場、国内外の報道機関が詰めかける中、
一人の女性が壇上へ姿を現した
白の外套
王冠
凛とした立ち姿
女王としての気品を漂わせると同時に、
阿修羅の威圧感が宿っている
クレイン王国女王 ディアドラ・クレイン
壇上へ立ったディアドラは静かにマイクを見据え、ゆっくりと口を開いた。
「クレイン王国政府は、本日をもってベルガード自治領への支援を正式に表明します」
「武力を背景に自治を放棄させようとする要求は、国際秩序と人々の自由を脅かす行為です」
「人の欲によって故郷を奪われる――そのような事態を、私達は決して容認しません」
「ベルガード自治領の人々には、自らの未来を選ぶ権利があります」
「我が国は、その権利を守るため、必要な物資、技術、そして人道的支援を惜しみません」
「クレイン王国は、日ノ本と共にベルガード自治領を支援することを、ここに宣言します。」
その声は穏やかだった。
だが次の瞬間。
空気が変わる。
ディアドラの眼差しが鋭くなる。
「故郷を守ろうと立ち上がる者に、私達は手を差し伸べます」
会場全体が息を呑む。
「しかし、その故郷を欲望で踏みにじる者には――クレイン王国は決して屈しません」
静かな一言だった。
だが、その一言には戦場で幾多の敵を退けてきた女王の威厳が宿っていた。
さらにディアドラは言葉を重ねる。
「それでもなお武力を選ぶのであれば――」
ほんのわずかに口元を引き締める
「その責任は、武力を選んだ側が負うことになります」
沈黙…誰一人として声を発しない
最後にディアドラは力強く宣言した。
「ベルガード自治領は、一人ではありません、
クレイン王国と民主主義は彼らと共にあります」
演説が終わると同時に、会場は大きなどよめきに包まれた
この日、クレイン王国は世界に向けて明確な意思を示した。
侵略には屈しない
その女王の宣言は、国境を越え、ベルガード自治領にも、そして侵攻を企む隣国にも瞬く間に伝わっていくのだった
数日後
ベルガード自治領・南港
朝から港は異様な熱気に包まれていた。
沖合には、一隻、また一隻と巨大な輸送船が姿を現す。
船体に描かれた紋章、クレイン王国海軍
埠頭へ接岸すると、兵士達が次々とコンテナを降ろし始めた
領民達は息を呑む
「……お、おい。」
「クレイン王国だ……!」
「支援物資が来たぞ!」
「す、凄い量だ……!」
木箱が次々と並べられていく。
その一つを開けたレオンは、思わず目を見開いた。
「…カロン…お前これ!」
箱の中に収められていたのは、見慣れた軍用ライフルではない
C4A16D
特殊部隊が求めた、究極の信頼性、 高い命中精度と優れた拡張性を兼ね備えたクレイン王国第四世代アサルトライフル。あらゆる戦場で兵士を支える、クレイン王国軍の新たな主力火器
さらに別の箱
C4A17フォースバリアント
C4A16の大口径・長銃身モデル、一発の精度と、二発目の速さ。 選抜射手のために開発された7.62mmセミオート・バトルライフル。中長距離戦闘において圧倒的な制圧力を発揮する。
さらに奥には、世界最高峰の狙撃銃
C3PS1
狙撃銃の常識を覆した世界最高峰の精密射撃性能。 妥協なき精度を追求したセミオート・スナイパーライフル、対テロ部隊のみが運用を許される伝説の一挺
そして、一際大きな専用ケース
レオンがゆっくり蓋を開ける
「うわ…これも持って来たのか…」
そこに収められていたのは、巨大な対物ライフルだった
ドラゴンハントM82。
巨竜を狩る、その名に偽りなし、遠距離から敵装甲車両すら貫く12.7mm対物ライフル。
通称"女王の拳銃"
そう呼ばれる、ディアドラ愛用の大型対物ライフル
その存在感だけで周囲が静まり返る
「こっちは……!」
別の兵士が歓声を上げる
アーマーレスファウスト3 ロケットランチャー
装甲はただの的になる。 強力な成形炸薬弾で敵装甲を撃ち砕く最新携行対戦車兵器。一人の兵士が戦況を覆す一撃を放つ。
さらに。
.50口径重機関銃
その射線に前進という選択肢はない。 圧倒的な制圧力で戦場を支配する重機関銃。車載・陣地防衛の双方で絶大な戦果を発揮する。
そして武器だけでは終わらない。
光学照準器、フォアグリップ、戦術ライト、
サプレッサー、グレネードランチャーまで
ご丁寧な事にライフル用アクセサリーがフルセットで梱包されていた。
まさに、「届いた瞬間から実戦投入できる」
そんな内容だった
カロンは木箱の山を見渡し、思わず笑う。
「ははっ!流石はディア姉だ!!」
リバティーナは一本のライフルを見比べながら尋ねる。
「レオンさんの銃とは違うんですか?」
レオンは苦笑しながら頷いた。
「俺が使ってるのはC3SG1、軍の標準装備のカスタムだ」
C4A16Dを持ち上げる
「でもこれは違う、特殊部隊向けの最新鋭モデルだよ……」
感心したように銃を眺める。
「こんなのを丸ごと支援に回すなんて……。」
エマは納品書を見て満面の笑みを浮かべた。
「ちなみに全部で――1500億ダストですって♡」
一同が固まる
「…………」
沙耶が思わず呟く
「せ、1500億……」
リリーナも苦笑した
「国家って、本気を出すと桁が違うわね……」
その光景を見つめる領民たちの表情には、数日ぶりに希望の色が戻り始めていた。
「俺たちは……」
「見捨てられてなかった……。」
港に積み上がる大量の装備は、単なる武器ではない。
『ベルガードは一人ではない』
ディアドラが世界へ向けて宣言した言葉を、そのまま形にした支援物資だった
港では住民達が忙しそうに資材を運び、武器を受け取り、防衛陣地の準備を進めている
その様子を少し離れた場所から眺めながら、カロンは心の中で呟いた。
『また人間同士で戦争だよ…どう思うよ、狐鞠?』
しばらくして、頭の中に聞き慣れた声が響く
狐鞠はくすりと笑った。
『隣国も終わったのぉ…上がナメた態度の馬鹿な国は、下の民が苦労するものじゃ』
カロンは肩をすくめる。
『傾国の狐が言いうか』
『……むぅ』
少しだけ不満そうな声。
『わちきとて……妲己の頃は、流石にやり過ぎたとは思うんじゃ』
珍しく反省したような口調だった
カロンは思わず吹き出す
『自覚あったんだな』
『あるわい!』
少し頬を膨らませたような声が返ってくる。
『あの頃は若かったんじゃ…今思えば、もう少し加減というものを知るべきじゃった……』
カロンは笑いを堪えながら空を見上げた。
『何千年前の話してんだよ』
『わちきにとっては数年程度の事じゃ!』
狐鞠も照れくさそうに小さく笑う。
『……じゃが…クレオパトラの頃は、わちきなりに国を守ろうと頑張ったのじゃぞ?』
その声には、昔を懐かしむような優しさが滲んでいた。
カロンも静かに頷く。
『……ははは、そうだな』
狐鞠は少し嬉しそうに笑う。
『ふふっおぬしは、ちゃんと分かってくれるのう』
カロンは港で働く人々へ目を向ける。
『色々あったんだな、千年も生きてりゃ誰だって失敗くらいするか』
狐鞠は照れ隠しのように鼻を鳴らした。
『当然じゃ、わちきも少しは丸くなったということじゃな♡』
カロンは苦笑する。
『てか、やっぱり前より可愛くなったんじゃねぇか?』
一瞬、頭の中が静まり返る。
『なっ……!?』
いつもの妖艶な笑い声は聞こえない。
代わりに、少し慌てたような声だけが返ってきた。
『ぬ、おぬしは……そういうことを、さらりと言うでない…………調子が狂うではないか』
その反応に、カロンは思わず笑みを浮かべる。
『ははっ』
世界を惑わせた傾国の狐も、今ではそんな反応を見せるほど変わっていた
港には変わらず慌ただしい空気が流れている。
しかしカロンは、不思議とそのやり取りに少しだけ心が軽くなるのを感じていた。
三十日後
夜明けと共に、その時は訪れた
ベルガード自治区北部、国境を隔てる森林地帯
地鳴りのような足音が森へ響く
侵攻軍、総勢約3200名
歩兵約2500名
車両部隊150名
そして――
戦車30両
鈍重な鉄の塊が木々を揺らしながら進軍を開始する
その後方には補給部隊が続き、森へ長い隊列を形成していた
丘の上、2人が様子を見に来ていた
双眼鏡を覗くカロンが小さく笑う
「……ショッボい戦車だな」
隣で同じく観測するレオンが苦笑した
「いや、あれが普通だから、クレイン王国と日ノ本がおかしいってことを忘れるな?」
「なるほど」
カロンは双眼鏡を下ろし、森へ視線を向けた。
「じゃあ始まるな」
一方
森林地帯最前線
防衛に就く義勇軍は、わずか三十名
普通なら絶望的な戦力差だった
しかし、彼らの表情に恐怖はない
隊長が静かに手を上げる
全員が木々へ身を隠すした
侵攻軍は気付かない、ベルガードの人々にとって
故郷の森が庭同然であることを、
どこが湿地か、どこなら戦車が動けないか、どこに獣道があるか、全て知り尽くしていた。
そして何より、彼らの手に握られているのは――
クレイン王国製最新鋭アサルトライフル、C4A16D
マークスマンライフル、C4A17フォースバリアント
そして森のさらに奥
迷彩に身を包んだ狙撃兵が静かに照準を合わせる
世界最高峰のセミオート狙撃銃、C3PS1
対する侵攻軍の主力小銃は、この時代では一般的なボルトアクションライフル
一発撃つたびに遊底を操作しなければならない。
連射速度、命中精度、有効射程
その全てで、大きな差があった
侵攻軍は何も知らず進軍を続ける。
隊長は小さく呟いた。
「全員、自由射撃」
ダダダダダダダッ!!
森中から一斉に銃声が轟く
侵攻軍は何が起きたのか理解できない
「敵襲!!」
「どこだ!?」
「見えない!」
連射されるC4A16D。
的確に指揮官を撃ち抜くC4A17。
さらに遠距離からはC3PS1が一発ごとに重要目標を倒していく。
「隊長が撃たれた!」
「衛生兵!」
「狙撃だ!」
「伏せろ!」
しかし伏せても意味はない、相手は森を知り尽くしている。
撃っては移動、撃っては移動
木々が天然の遮蔽物となり、義勇軍は姿を見せない
侵攻軍の兵士は焦り始める
「敵は何人いるんだ!?」
その連射力を前に答えを知る者は、まだ誰もいなかった
侵攻軍司令官は苛立ったように拳を振り上げた。
「歩兵は下がれ!戦車部隊、前へ出ろ!」
鈍いエンジン音を響かせながら、三十両の戦車がゆっくりと前進する。
鉄の履帯が木の根を踏み潰し、森を切り開く。
兵士達は安堵した
「よし……!これで突破できる!」
「歩兵じゃ無理でも戦車なら――」
丘の上
その様子を双眼鏡で眺めるカロンは、小さく鼻で笑った。
「……無駄だな。」
レオンも冷静に頷く
「ああ、普通ならここからは対戦車兵器の仕事だが、でも今回は違う」
森の奥
倒木を遮蔽物にした選抜射手達が静かに照準を合わせる。
手にしているのは、C4A17フォースバリアント
7.62ミリ大口径弾を使用するマークスマンライフル
本来は人員への精密射撃を目的とした銃
しかしこの時代の初期型戦車は、装甲がまだ十分に発達していない、せいぜい厚さ10ミリ程度
隊長が静かに囁く
「……撃て」
乾いた銃声が森へ響く。
放たれた弾丸は正確に戦車の側面を捉えた。
火花が散る、続いて二発、三発
燃料タンクへ吸い込まれるように命中した。
次の瞬間
ドォォォォン!!
炎が戦車を包み込む
「なっ!?」
一両また一両さらにもう一両、
森の各所から放たれる精密射撃によって次々と黒煙を上げていく。
「ば、馬鹿な!」
「戦車が撃ち抜かれた!」
「そんなことが――!」
逃げ惑う歩兵の間を、燃え上がる戦車が塞いでいく
侵攻軍の兵士が青ざめた。
「お、おい……。」
「まだ一日目だぞ……。」
「なんで……なんでこんなことになる……。」
司令部も完全に混乱していた。
「し、司令官!!戦車部隊壊滅寸前です!前進できません!」
司令官は唇を震わせる
目の前で、自軍の切り札が為す術もなく炎上していく。
「た……退却!一時退却だ!!」
伝令が慌てて命令を飛ばす
「全軍後退!後退しろ!」
進軍開始からわずか数時間
侵攻軍は国境線へ向けて雪崩を打つように撤退を始めた
それを確認したベルガード義勇軍は無理に戦い続けることはしなかった
第一防衛線――森林地帯。
目的を果たすと同時に、計画通り後退する
侵攻軍は再び、慎重に前進を開始した
やがて国境付近を流れる一本の川へ辿り着く
そして、その光景に誰もが言葉を失った
「……なんだ、あれは。」
川の向こう岸
一直線に掘られた塹壕
土嚢と鉄筋コンクリートで築かれたトーチカ。
さらにその後方には
ドラゴンハントM82対物ライフル
アーマーレスファウスト対戦車ロケットランチャー
50口径重機関銃
対戦車部隊が静かに照準を合わせていた
侵攻軍の兵士が青ざめる
「な……なんだ、あれは……」
別の兵士も呆然と呟く
「この短期間で……。」
「どうやって、あれだけの陣地を造ったんだ……。」
答えは単純だった
ベルガードだけでは不可能。
だが日ノ本がいた
港から昼夜を問わず運び込まれた資材
そして
オオタケ製重機
パワーショベル
ブルドーザー
クレーン
人力なら何週間も掛かる工事を、数日で終わらせていた。
さらに
いづつ製トラック
セメント
鉄骨
土嚢
木材
資材は絶えることなく前線へ届けられた。
その積み重ねが、今目の前にある要塞だった。
侵攻軍司令官は歯を食いしばる。
「……構うな!」
「前進!」
号令と同時に歩兵が川岸へ殺到する
しかし、川は自然が生んだ最強の防衛線
塹壕から一斉射撃
C4A16Dが火を噴く
C4A17が指揮官を狙い撃ちにする
重機関銃が川岸一帯を制圧する
侵攻軍も必死に応戦するが、その火力差は歴然だった
「撃て……!……撃ち返せ!」
ボルトアクションライフルの乾いた銃声
一方でベルガード側は、連続する自動小銃の射撃が途切れない
侵攻軍の兵士が困惑する
「……いつになったら」
「弾が切れるんだ……」
別の兵士も震えた声で続ける
「あんなに撃って……。」
「補給が尽きないのか……?」
その疑問にも答えがあった
前線から少し離れた弾薬集積所
木箱を荷台へ積み込む有志の住民達
荷物を載せた日ノ本製軽トラックがエンジン音を響かせて走り出す
馬車なら三十分
しかし軽トラックなら――わずか五分
弾薬は次々と前線へ届く
撃ち続けても尽きることがない
さらに町では
何台ものTOYDA製ライトバンが住民を乗せ、
安全地帯との間を往復していた
老人も子どもも荷物を抱えた家族も、自慢の積載量と優れたサスペンションによる走破性、快適な運転性、何よりトルクフルなエンジンによる高速走行
徒歩では何時間も掛かる避難を、短時間で終えられる。
「次の方、急いでください!」
「全員乗れます!」
「慌てなくて大丈夫です!」
軍用車両じゃなくとも命を守れる
ベルガードの住民たちは、自分たちだけで戦っているのではない
クレイン王国の武器
日ノ本の車両と建設機械
そして、自分たちの故郷を守るという意志
その三つが合わさり、小さな自治領は侵攻軍の前に巨大な壁となって立ちはだかっていた。
侵攻開始から数日後…ベルガード自治区北部
森林地帯そして国境を流れる川
そこは戦いの爪痕を色濃く残していた。
焼け焦げた戦車
破壊された橋
砲弾で抉れた大地
侵攻軍は大きな損害を受け、国境の彼方へと完全に撤退していった
ベルガード自治領は――守り抜かれた。
数日後。
ベルガード自治政府庁舎
首相は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます……なんと御礼を申し上げれば良いか……」
カロンは照れ臭そうに頭を掻く。
「あー……それなんだけどさ」
首相が顔を上げる
「はい?」
その横でエマが営業スマイルを浮かべた。
「支援のお返しって訳じゃないんですが♡…今度は私達と交換しませんか?」
「交換……ですか?」
首相は首を傾げる。
カロンは椅子にもたれながら答えた。
「バーター貿易だ、金だけじゃなくてお互い必要な物を交換する、その方が長続きだろ?」
首相は目を見開く
それは一方的な援助でも
見返りの搾取でもない
対等な取引
一つの国家として認められた提案だった
その後
クレイン王国とベルガード自治領は、新たな貿易協定を締結した
クレイン王国は
兵器、弾薬、医療機器、軍需・医療技術を輸出する
代わりにベルガードからは、
鉄鉱石、金鉱石、そしてタングステン、コバルト、ニッケルをはじめとするレアメタルを輸入
軍事産業と工業基盤をさらに強化することになる。
一方
日ノ本も独自に協定を結ぶ
輸出するのは、
車両、建設重機、船舶、食料品
そしてベルガードからは、
原油、天然ガス、石炭
豊富なエネルギー資源が日ノ本へ安定して供給されるようになった
沙耶は嬉しそうに頷く。
「日ノ本は資源小国でござる…これは本当に助かるでござるな!」
リリーナも感心したように微笑む。
「戦争で終わらせず、商売に繋げたのね」
エマはにっこり笑う。
「一度きりの支援より、何十年も続く取引の方がお互い幸せですから♡」
カロンは立ち上がると、首相へもう一度振り返った。
「あ、あとさ…もう一つ頼みがあるんだけど…」
首相は迷うことなく頷く。
「はい、何なりとお申し付けください」
カロンはベルガードの地図を指差した。
「ここ、居住地以外はまだ未開拓の土地が結構あるよな?」
「ええ、開発はこれからです。」
カロンはニヤリと笑った。
「ちょっと俺の友達を移住させてくれない?」
首相は一瞬驚いたものの、その意味を察する。
「……魔族の方々、ですか」
「そう、戦争したい奴らじゃねぇ、故郷を失って、静かに暮らしたいだけの連中だ」
首相はしばらく考え、やがて穏やかに微笑んだ。
「カロンさんのご友人であるなら、魔族であっても歓迎します、私達のルールは、人種ではなくその人自身を見ることです」
カロンも満足そうに笑う。
「助かる」
そして、少しだけ真剣な表情になる。
「あと、この自治領や魔族に手を出すってことは、クレイン王国に喧嘩を売るってことだ、安心しな」
首相は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
それから更に一か月後、ベルガード自治領
新たに整備された開拓地区では多くの魔族たちが新しい生活を始めていた
家を建てる者、畑を耕す者、港で働く者
工房で技術を生かす者
子どもたちの笑い声が響くその光景は、かつて隠れ里で怯えながら暮らしていた日々とはまるで違っていた
ラヴィアは新しい町並みを見渡し、小さく涙を浮かべる。
「カロンさん……本当にありがとうございます……」
カロンは照れくさそうに頭を掻いた
「礼ならベルガードに言いな」
「ここの住民たちも魔族を守ってくれるさ、
働き先だってみんな平等に紹介してくれる」
ラヴィアは何度も頷く
その隣では、首相も穏やかな笑みを浮かべていた
「ベルガードは多くの人々に助けられました、今度は私達が、誰かを助ける番です」
その言葉を聞いたラヴィアの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「……ありがとうございます」
堪えていた感情があふれ出す
「カロンさん……!」
ラヴィアは思わず駆け出した
勢いよくカロンへ抱きつく
「おっと……」
気品ある令嬢ではない
一人の少女として、ただ想いのままに
そのままラヴィアは少し背伸びをすると、人目も憚らずカロンへ唇を重ねた。
ほんの数秒の静かな口づけ
周囲は思わず息を呑む。
グスタフは目を丸くした。
「……!」
隣のオリヴィアは口元に手を添え、優しく微笑む。
「あらあら♡」
グスタフも苦笑しながら娘を見つめた。
「……幸せそうだ。」
唇を離したラヴィアは真っ赤になりながらも、今度はしっかりとカロンの手を握る。
「ありがとうございます……私、ここで頑張って生きていきます」
カロンは照れ隠しに笑った。
「おう、ちゃんと飯食って、ちゃんと笑え、それがお前らの仕事だ」
旅立ちの時間が来る。
エンジンがかかり、ガーディアン90とククリRPVがゆっくり動き出す
バイクにまたがったカロンへ、ラヴィアは最後に声を掛けた
「カロンさん!」
カロンは振り返る。
ラヴィアは胸の前で両手を重ね、真っ直ぐ見つめた
「グラン様のこと……どうか、お願いします」
カロンは静かに頷く
「ああ、任せな」
その返事は短かった
だが、迷いは一切ない
おまけ
~久しぶりのドライブ~
場面は変わる
日ノ本 會桜 東山の屋敷。
早朝、玄関先では小さな男の子が飛び跳ねていた。
「お父さん!まだー!?」
四歳になったアクアと紫苑の息子
その隣では、紫苑がまだ幼い娘を優しく抱いている。
「ふふっ♡もう少しですよ」
庭先には一台のセダン。
TOYDA カムリア、アクアの愛車だった
今回のベルガード支援では自動車メーカーとも交渉続き、ようやく一段落し今日は久しぶりの家族サービスである
玄関からアクアが姿を現した
帽子を被り、車のキーを手に持っている。
「よし!行こうか」
息子は嬉しそうに駆け寄る
「やったー!」
アクアは息子の手を握り、運転席へ
紫苑は娘を抱いたまま助手席へ乗り込んだ
シートベルトを締め終えたところで、紫苑が少し心配そうな表情を浮かべる。
「殿……大丈夫ですか……?」
アクアはぎこちなく笑った。
「だ、大丈夫……大丈夫……行ける!」
キーを握る手が少し震える
さらに自分へ言い聞かせるように呟く。
(ペーパードライバー歴二年)
紫苑は少しだけ苦笑した
「無理でしたら、今日は私が……」
「いや!」
アクアは首を横へ振る
「今日は俺が運転する!」
息子は目を輝かせる。
「お父さん頑張れー!」
娘は何も分からず、
「きゃっ♪」
と楽しそうに笑った
エンジンが静かに始動、
アクアは慎重にアクセルを踏み込んだ
カムリアはゆっくりと屋敷を後にする
屋敷の門を無事に出たところで、アクアはホッと息をついた。
「よし……!第一関門突破!」
紫苑は思わず吹き出す。
「まだ門を出ただけですよ、殿♡」
「そ、そうだった……」
照れ笑いするアクア
それでも気を取り直し、ハンドルを握り直す。
「さて!今日はどこ行こうか? 紫苑」
紫苑は優しく微笑み、アクアの横顔を見つめた。
「殿と一緒なら……どこでも♡」
娘を抱き寄せながら、小さく頷く。
「……ありがとう」
アクアも自然と笑みを浮かべる
街へ向かう坂道をを、一台のカムリアがゆっくりと走っていく
その穏やかな時間は戦いとは無縁のかけがえのない家族の一日だった
次回、いよいよ最終回です。1年くらい続けてきたこのクレインの物語ですがカロンで一応の終了の予定です。
アクアの子供を次期主人公とか考えたんですが物語的に冒険ものは難しいのと時代的にノーザやニーナが生きてるか怪しい為など理由は色々です。




