↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/42

立ちはだかる正義

カロンが情緒不安定です

高原リゾートを後にしたカロン達

三台の車両は、山肌を縫うように続く長い下り坂をゆっくりと走っていた


朝霧は次第に晴れ、眼下には広大な平野が姿を現す

避暑地の涼しい風も、少しずつ夏らしい暖かな空気へ変わっていく


ガーディアン90の車内。

窓の外を眺めながら、ラヴィアは静かに微笑んだ。

「……あっという間でした、でも……生涯、忘れられない思い出です。」


レオンもバックミラー越しにラヴィアを見て笑う。

「夏の思い出だな、ああいう所は、何度行っても飽きない」


隣のリバティーナも小さく頷いた。

「……本来の目的を忘れてしまいそうですね…ラヴィアさんを送り届ける為なのに」


ラヴィアは少し申し訳なさそうに俯く

「ごめんなさい……私のせいで寄り道ばかり……」


レオンは首を横に振った。

「いや、カロンは元々こういう奴だ、目的地まで真っ直ぐ向かう方が珍しい」


その言葉にリバティーナも思わず笑ってしまう

「確かに……今まで旅というより、観光旅行でしたね。」


レオンも苦笑した。

「歓楽街で遊んで、制服着て、狩りして、高原で遊んで……本当に何しに旅してるんだか。」


その頃、先頭を走るバイクでは――

「ハックション!」

突然くしゃみをしたカロンに、

後ろへ乗るスタオンヌがくすりと笑う

「誰か噂してますね♡」

「レオンだな、絶対。」

カロンはそう言って笑い飛ばし、再びアクセルを開けた


三台の車両は、穏やかな景色の中をゆっくりと山麓へ向かって走り続ける

しかし――誰もまだ知らなかった。


この山を下りた先で、

「勇者」と「勇者の孫」が、初めて相まみえることになるとは。


高原を下りたカロン達は、再び暑い夏の平野へと戻ってきた


青く澄んだ空と照り付ける太陽

蝉の鳴き声が街道へ響き渡る

先程までの涼しさが嘘のように、夏の日差しが旅人達を包み込んでいた。

それでも一行の表情は明るい

海で笑い、高原で遊び

また一つ、忘れられない夏の思い出が増えた

この先も、どんな景色と出会えるだろう

どんな料理を食べ

どんな人と出会い

どんな思い出を作るのだろう

そんな少年少女のような期待を胸に、一行は街道を進んでいた


――しかし

いつまでも楽しいことばかりではない


先頭を走るカロンが、不意に目を細めた

「……!?」

ゆっくりとブレーキを掛ける

「皆、ストップ」

その声に後続の二台も減速した


レオンも前方へ目を向ける。

「前方……倒木だ」

ガーディアン90が停止する


続いてククリRPVも静かに停まった。

全員が車両を降りる


街道の中央には、大木が根元から倒れ、まるで巨大なバリケードのように道を塞いでいた

自然に倒れたにしては、不自然な位置


地形的にも左右へ回り込むこともできない

カロンは周囲を見渡しながら頭を掻く

「参ったな……完全に道塞がれてるじゃねぇか」


その時だった

「――待っていたぞ!」

頭上から、よく通る声が響く

「カロン・クレイン!」

一同が一斉に視線を向ける

街道脇の法面

その上に、四つの人影が立っていた


次の瞬間

四人は軽やかに斜面を飛び降り、街道へ降り立つ。

男が二人、女が二人

誰もが手入れの行き届いた装備を身に纏い、

剣

槍

そして杖

それぞれ異なる武器を携えている

その立ち姿には隙がなく、まるで長年訓練を積んできた精鋭のような威圧感があった


レオンは小さく目を細める

「……軍のエリートみたいな奴らだな」 


エマも腕を組みながら頷く

「うん儀仗隊みたい」


四人は無言のまま街道へ横一列に並ぶ

逃げ道はない

夏の熱気とは対照的に、その場の空気だけが静かに張り詰めていった


カロンは四人を見回し、眉をひそめた。

「誰だよ、アンタら?」

四人は街道を塞ぐように横一列に並ぶ

誰一人として武器を下ろさない


その中央へ、一人の青年が歩み出た

整った鎧を纏い、真っ直ぐな眼差しでカロンを見据える。

「私は――ユリウス・アークライト…

祖国より、魔王討伐の命を受けた者だ!」

力強い名乗りが街道へ響く


続いて、一歩後ろに立っていた緑髪の美女が静かに頭を下げる。

「私は……エリシア、ユリウス様と共に命を賭して旅をする賢者です」


その隣

寡黙そうな青年が短く口を開く。

「俺は聖騎士ラインハルト…カロン・クレイン…

お前達に用があって……無礼ながら待ち伏せをさせてもらった」


最後に、勝ち気な雰囲気の少女が杖を肩へ担ぎ、不敵に笑う。

「大魔導士、イリス!ユリウスを怒らせた事……後悔してもらうわ!」


四人から放たれる気迫、それは紛れもなく本物だった

突然現れた、どこかの国の精鋭部隊

その全員が、明確な敵意をカロン達へ向けている


レオンは小さく息を吐いた

「カロン……お前、何やったんだよ…どうする?……強そうだぞ?」


誰もが緊張する中

当のカロンだけはなぜか顔を引きつらせていた

「な……なんだ……と……!?」


レオンが首を傾げる。

「カロン……?」


カロンは信じられないものを見るように、エリシアを指差した。

「賢者なのに……!酒もショタも盗聴も覗きもしてない………!?そんな賢者が存在するのか…!?」


一同が静まり返る

エリシアは困惑しながら小さく瞬きを繰り返す

「……え?」


ユリウスも思わず眉をひそめた

「……何の話だ?」


レオンは無言で額を押さえた。

「……またメグ様か」


リバティーナはため息をつく。

「カロンさんの賢者像、本当にどうなってるんですか……」


スタオンヌは苦笑しながら頬を掻く。

「メグ様が基準ですからね……♡」


一触即発の空気だったはずが。

カロン一人の勘違いで、妙な沈黙が街道を包み込んだ。


エリシアがおずおずと一歩前へ出る。

「あの……」


「わぁっ!!」

カロンは反射的に後ろへ飛び退き、ホルスターからピストルを抜いた


銃口は真っ直ぐエリシアへ向けられる

「近づくな!!」

その剣幕に、エリシアは足を止めた


「え……。」


カロンは額に汗を浮かべながら叫ぶ。

「お前のような……!こんな朝っぱらから働いて!酒のニオイもしない賢者がいるか!!得体の知れない化け物め!!」


「……」

エリシアは呆然と立ち尽くす

何を言われているのか理解できない

ユリウスも一瞬だけ絶句したが、静かに手を上げた

「エリシア、一旦いい」


「……はい」

エリシアは小さく頷き、一歩下がり

ユリウスは改めてカロンを見据えた

「我々は、そこの魔族の令嬢を追っていた」

ラヴィアがびくりと肩を震わせる。

「あの日…まるで時間でも止まったかのように、忽然と姿を消した娘を」


カロンは黙って聞いている。

「不可解に思い、周囲を徹底的に調査し、そして、あの場を通過した車両を割り出した。」


レオンが目を見開く。

「お前……!あの時の奴らか!?」


ユリウスは静かに頷いた。

「さらに、君達の道中も調べさせてもらった、訪れた先々で暴行、傷害事件、騒動、ディアドラ陛下より賜った魔王討伐の任務を放棄し、遊び呆け」


「その上、魔族を匿い各地で問題ばかり起こしている」

ユリウスの声に怒りが混じる

「あの人の孫ともあろう男が……なんという外道だ」

しばらく沈黙が流れる


やがてカロンがぽりぽりと頬を掻いた。

「あの人って……じいちゃんか?てか……アンタ、勇者なのか?」


ユリウスは真っ直ぐ胸を張る。

「そうだ、世を憂い、誰もが魔族に怯えることのない世界のために戦う者、お前とは違ってな」


カロンは何とも言えない顔で頭を掻いた。

「勇者とか、もうえぇて…飽きたて……」


レオンは真顔で横を見る

「……なんで関西弁?」


スタオンヌも首を傾げる

「なんか今日のカロン様、情緒不安定ですね……♡」


張り詰めた空気の中。

勇者パーティだけがこの男は本当に伝説の勇者の孫なのかと、揃って困惑していた。



ユリウスは一度目を閉じ、小さく息を吐いた。

先程までのカロンの言動には戸惑った。

しかし。

今、自分が果たすべき役目は変わらない。

勇者は静かに剣の柄へ手を添える。

「……まあ、いい…我々の仕事は魔族の討伐だ」


真っ直ぐラヴィアを見据える。

「その場でその魔族の令嬢を引き渡せ、そして今後は、正しい導きの下で旅をするというのならそれで良し」

一拍置き、その瞳が鋭くなる。

「でなければ…我らは我らの職務を真っ当する!」


街道に緊張が走る。

しかし、カロンだけは首を傾げた。

「ちょっと何言ってるか分かんないですね、俺らはラヴィアを家まで送り届けるって約束しただけだし」

あっさりと言い切る


レオンは肩を竦めた

「……話しても無駄そうだな」


ユリウスも静かに頷く。

「そうか…ならば――」

剣を抜き放つ。

「総員、魔族の令嬢を確保しろ……!」

その号令と同時に、勇者パーティが一斉に動き出した。


エリシアは一歩前へ出て、静かに口を開く。

「ユリウス様……カロン氏は、私が」


ユリウスは短く頷く

「エリシア……分かった、気を付けてくれ。」


「はい。」

ラインハルトは大剣を肩へ担ぎ、低い声で告げる。

「……後悔するなよ。」


イリスは杖をくるりと回し、不敵に笑う。

「本当にバカね、魔族と約束するなんて」


ラヴィアは思わず一歩後ろへ下がる

スタオンヌ達もそれぞれ武器へ手を伸ばいた


――次の瞬間。


ユリウスは静かに戦闘態勢を取る

その構えはどこか異様だった

右手には一振りの剣

左手には長柄の槍


本来なら同時に扱うことすら困難な二つの武器を、まるで長年使い慣れたかのように自然に構える

近距離を制する剣

中距離を支配する槍

互いの欠点を同時に補い合う、独自の戦闘術


ユリウスは静かに口を開いた

「私は真の勇者となる……そして――

勇者ノーザン・クレインへの憧れを、現実のものとする……!」

その瞳に迷いはない

強く、気高く、誰かのために命を懸ける


伝説の勇者ノーザン・クレイン

ユリウスはその生き様を心の底から尊敬していた

だからこそ

誰よりも近付きたかった

誰よりも、その背中を追い続けてきた


レオンは警棒を伸ばし、低く構える

カシャンッ――

伸び切った超高強度警棒が陽光を反射する

「ノーザ様は、剣と刀の二刀流だぜ?」


ユリウスは小さく笑みを浮かべた。

「私に刀の才能は無かったのでね…だから私は槍を選んだ」

剣を僅かに持ち上げる

「私は…私の形で、あの人を超える!」


沙耶が一歩前へ出る

羽織っていたフロックコートを静かに脱ぎ捨てると腰の打刀へ手を掛けた

鯉口を切る

キン――

澄んだ音と共に刀身が姿を現す

「レオン殿!ひとまず剣は拙者が受け持つ!」


レオンもすぐに頷いた。

「わ、分かった!俺は何とか懐に入る!」


二人は左右へ散開する

剣士同士

そして接近戦の専門家


互いの役割は一瞬で決まっていた

対するユリウスは一歩も退かない

勇者としてこの信念だけは、決して譲るつもりはなかった。


ラインハルトは無言のままエマへ歩み寄る

大盾を前に構え、一歩、また一歩と着実に距離を詰めていく


エマは迷わずリボルバーを抜き放つ。

「――っ!」

パンッ!

パンッ!

パンッ!

三発の.45口径弾が一直線に飛ぶ


しかし

ガギィン!!

乾いた金属音が街道へ響いた。

弾丸は分厚い盾へ弾かれ、火花を散らしながら地面へ転がる


盾には傷一つ付いていない。

エマは目を細めた。

「……硬いですねぇ、それも魔法ですか?」

ラインハルトは歩みを止めない。

「銃弾程度…俺には無意味だ」


エマは銃をしまうより早く地面を蹴った。

一瞬で懐へ潜り込む


鋭い上段蹴りがラインハルトの側頭部を狙う。

だが――

ガシッ

ラインハルトは盾をわずかに傾けただけで、その蹴りを受け止めた

衝撃すらほとんど揺らがない

「その程度か……」


エマは軽く後ろへ飛び退き、距離を取る

「参りましたね……」

苦笑しながら肩をすくめる。

「ロンくんの喧嘩殺法も無理ですか……」


ラインハルトは盾を構え直す。

「力任せの喧嘩では…聖騎士は倒せない」

二人は再び静かに向かい合う

片や、どんな攻撃も受け止める鉄壁の守護者。

片や、機転と体術で突破口を探る商人。

勝負は、まだ始まったばかりだった。


一方

エリシアは静かにカロンへ歩み寄る

杖を構えるでもなく

威圧するでもなく

ただ静かに距離を詰めてくる

それだけで、カロンの額を一筋の汗が伝った。

(賢者相手に……適う訳がない…しかし……)

カロンはゆっくりと息を吐く

(やり合えるのも、俺しかいない……。)


視線だけを後ろへ向ける

そこにはリバティーナにリリーナ

そしてラヴィア、戦闘を得意としない三人の姿があった

(守りながら戦う余裕はない……!)

カロンは決断する

両腕を胸の前で交差させる

軍荼利印――


「転移魔法」


静かな詠唱と共に、その名を呼ぶ

「ルーナ!エルナ!ミラ!」


次の瞬間、光が弾ける

三人の美女が現れ、着地と同時に片膝をつき、

頭を垂れる、その動きには一切の乱れがない


ルーナが真っ先に声を上げる

「ご命令を!」


エルナも淡々と続けた

「直ちに遂行する」


ミラは柔らかな笑みを浮かべながら胸へ手を当てる。

「ご主人様、お任せくださいませ♡」


カロンは迷わず命じた

「リバティーナ達を守れ!」


三人は寸分違わず声を揃える

「「「了解」」」

返事と同時に動く

ルーナが前衛

エルナが左翼

ミラが右翼

三人は瞬く間にリバティーナ、リリーナ、ラヴィアを囲む陣形を完成させた

互いの死角を補い合い、誰か一人が突破されても

即座に援護へ移れる布陣

以前のような寄せ集めではない

動き、統制、練度。

そのすべてが、一段も二段も洗練されていた


その様子を見たユリウス達も、一瞬だけ表情を引き締める

目の前に現れた三人は、ただの増援ではない。

明らかに、戦場を知る者たちだった。


三人は無駄な動きを一切見せない。

一歩…半歩

互いの位置を常に把握し、死角を埋めながら陣形を維持する


熟練兵ですら舌を巻くほどの統制だった。

その横でレオンはユリウスの槍を警棒で受け流しながら、思わず叫ぶ。

「いや!練度!!ジークとの高低差!!」


一瞬だけ、その場の空気が止まる。

ルーナは振り返り、呆れたように笑った。

「やだなぁ、レオンさん」

肩をすくめる。

「アタシ達は呼ばれたから来たんじゃねぇ」

一拍置いて、満面の笑みを浮かべた

「カロンさんが呼んでくれたから来たんだよ!だから全力なんだ!!」


エルナも静かに頷く。

「あの男とは違う…命令されたからではない、カロン殿に相応しい戦士を目指した結果の賜物」


ミラも優雅に微笑む。

「ご主人様の為なら、どこへでも参ります♡」



その言葉に、リバティーナは思わず苦笑する

「……相変わらずですね」


スタオンヌも嬉しそうに微笑んだ。

「ふふっ……皆さん、本当にカロン様が大好きなんですね♡」


一方――。

勇者パーティは、そのやり取りを見て僅かに目を見開く

主従?それとも仲間?

目の前の三人を動かしているのは命令だけではない

信頼だった。


そして街道には、再び張り詰めた空気が戻る

勇者と、勇者の孫

互いの信念を懸けた戦いは――

次の瞬間、本格的な幕を開けようとしていた。


次回、戦いは激化

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。