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可愛いは正義

カロンが遊ぶ以外でチートを使うのは何気に初

魔王軍本城

重厚な玉座の間

魔王グラン・ネフェルは、戦況報告へ静かに目を通していた


その時。

慌ただしい足音が廊下へ響く

「失礼いたします!」

側近の魔族が息を切らしながら玉座の前へ跪いた

「グラン・ネフェル様……!!」


グランはゆっくり顔を上げる

「何事だ」

側近は震える声で報告する

「申し上げます……ラヴィア嬢が……」

一瞬、言葉に詰まる

「巡礼の旅の最中……行方不明となりました……!」

玉座の間が静まり返る


グランの表情が初めて揺らいだ。

「……何?」

その一言だけで、場の空気が張り詰める。

側近は頭を下げたまま続ける。

「現在も消息は掴めておりません……!」


グランは即座に立ち上がった。

「……すぐに救難隊を出せ、周辺一帯を徹底的に捜索しろ……必ず見つけ出せ」


「はっ!!」

側近達は慌ただしく玉座の間を後にする

一人残されたグランは、小さく拳を握り締めた。

「……ラヴィア」

その名を呟く声には、

魔王としてではなく、一人の友を案じるような感情が滲んでいた。


一方その頃。

魔族達の緊張など露ほども知らず――

カロン達は街道脇の広い平原で、のんびりと八つ時の休憩を取っていた。

「よし、こんなもんか」


カロンは小さな鍋を弱火へ掛け、木べらでゆっくりとかき混ぜる。

卵黄

砂糖

薄力粉

牛乳

旅でも簡単に手に入る材料ばかり

それを冷やして最後にアーモンドパウダーをふわりと振れば、甘く香ばしい匂いが風に乗って広がった。

「完成!超簡単カスタードケーキ!」


スタオンヌが目を輝かせる

「わぁ……♡美味しそうです、カロン様♡」


カロンは笑いながら切り分ける

「これも昔よく学校で食材パクって作ったな」


エマは懐かしそうに笑った

「懐かしい……放課後、家庭科室でよく食べたね」


レオンも思い出して苦笑する

「お前、昔はやたらケーキばっかり作ってたよな」


カロンは胸を張る

「男は甘い物食ってナンボだ!」


「意味分かんねぇよ」

一同から笑いが起こる

スタオンヌは一口食べると、幸せそうに目を細めた。

「美味しい……♡優しい甘さですね♡」


リバティーナも小さく頷く。

「アーモンドが香ばしくて……こんなに簡単に作れるなんて驚きです」


沙耶は夢中で頬張る。

「殿!これ、日ノ本でも流行るでござる!」


リリーナはフォークを持ったまま感心する。

「これお店で出せるレベルじゃない?しかも材料安いし!」


カロンは得意げに笑う。

「だろ?料理は手間掛けりゃいいってもんじゃないんだよ」


青空の下。

仲間達は甘いケーキを囲みながら笑い合う


その頃――

魔王軍は総出で一人の少女を探しているなど

この場の誰一人知る由もなかった


八つ時の甘い時間を終えた一行は、

再び街道を走り始めた。

青い空、どこまでも続く草原

風に揺れる木々

急ぐ理由など無い

そんな穏やかな旅路だった


バイクを走らせるカロンが笑う

「さて!次はどこ行こうか!」


後ろに乗るスタオンヌも嬉しそうに微笑む。

「この先……自然が豊かみたいですから……♡また皆で、のんびりできる所に行きたいですね♡」


「いいな!」

カロンは並走するガーディアン90へ向かって大声で叫んだ。

「レオーン!!宿着いたら、この辺の観光地調べようぜー!!」


ガーディアン90の窓がゆっくり開く

「……まったく」

レオンは呆れたようにため息を吐く

「お前は本当に遊ぶ事しか考えてないな」


すると隣のリバティーナが小さく笑う

「でも……旅は、楽しい方がいいですよね♡」


レオンは少し照れながら頷いた。

「……リバティーがそう言うなら…まあ、そうだな」


その後ろを走るククリRPV。

リリーナが首を傾げる。

「そういえばさー八つ時って十五時なのに、なんで"八つ"なの?」


沙耶がすぐ答える。

「昔は"未の刻"を"八つ"と呼んでいたのでござる、昼八つとも言ったはずでござるよ」


「へぇ〜!勉強になるわ!」


エマはハンドルを握りながら笑う

「また一つ雑学が増えましたね」


そんな他愛もない会話を続けながら、一行は街道を進んでいく。



――その時だった。

スタオンヌがふと前方を見つめる。

「……?…カロン様」


「どうした?」


「何か……あそこに見えませんか……?」


遥か前方

街道脇の草原に、小さな黒い影が一つ

カロンは少し目を細めた。

「……人か?」


平原の先

草木の向こうに見えた人影

近付くにつれ、その異様な光景がはっきりとしていく。

白銀の長い髪

澄み切った青い瞳

人間よりも長い耳

そして頭部には小さな角


一目で分かった

――人間ではない


魔族だった

しかし

カロン達の視線は、少女ではなくその周囲へ向く

数名ほどの武装した集団

鎧や杖、剣、どう見ても人間の冒険者だった

彼らは半円を描くように少女を取り囲み、武器を向けている


少女は、その場に膝をついていた。

傍らには血を流し、既に力尽きた護衛と思しき魔族が横たわっている


少女はその身体へ寄り添い、震える声で懇願した。

「……止めて下さい…私は……戦えません……」

その声に、一人の剣士が一歩前へ出る


「どうあれ魔族は人類の害だ!観念しろ!」


後ろでは魔法使いの少女が杖を構え小さく目を伏せる。

「悪く思わないでね……これが私達の仕事なの、

魔を倒すことが、冒険者だから」


張り詰めた空気、逃げ場は無い

白銀の少女は護衛の亡骸を抱き締めるように身を縮めた


街道からカロン達は走りながら見つめている

しかしある程度の距離でカロンの視線が止まる


距離、およそ四百メートル

白銀の髪

透き通るような青い瞳

長い耳

そして小さな角

カロンは思った

(…………可愛い!)


美女が絡むと、なぜか視力だけは異様に良くなる

そして

「助ける」その判断に迷いは無かった


ここまで――約〇・五秒。

後ろのスタオンヌが首を傾げる。

「カロン様……?」


カロンは前を向いたまま答える。

「スタオンヌ、ちょっとじっとしてて」


そして、何の躊躇もなく呟いた“チートコード”

「メグ姉」


どこからともなく聞こえる、気の抜けた声

『はいよー、時間停止!!』

――世界が止まった


風が止む

鳥も羽ばたきを止める

草木の揺れも

冒険者達の動きも

全てが静止した


カロンは何事もないようにスタオンヌを抱き上げる

「よっと」

微動だにしないスタオンヌをガーディアン90の後部座席へ座らせる


続いてバイクを軽々と持ち上げ、ククリRPVの荷台へ載せた


そして一気に駆け出す。

四百メートル

停止した世界を全力疾走

少女の傍へ辿り着くと、

「悪いな」

石化したように動かない少女を抱き上げ、そのままガーディアン90へ飛び込んだ


『はい、時は動き出すよ〜』

世界が、再び色を取り戻す。



「振り切れ!!」


「!?」

スタオンヌが状況を理解できず目を丸くする


レオンもバックミラーを見て叫んだ。

「うわっ!?いつ乗ってきた!?あと誰だその子!?」


エマも思わず振り返る

「えぇ!?」


ククリRPVとガーディアン90は急加速

冒険者達の目の前を、二台の車両が土煙を巻き上げながら一瞬で横切っていく

「なっ!?」

「いつの間に!?」

「待て!!」

冒険者達の叫びを背に、一行は街道の彼方へ走り去っていった。


街道を二台の車両が土煙を巻き上げながら駆け抜ける

ガーディアン90とククリRPVは、速度を落とすことなく一気に平原を突き進む


ガーディアン90の車内

普段は先頭を走るカロンとスタオンヌが後部座席にいる

そして、その隣には――魔族の少女

突然見知らぬ場所へ移され、先程まで武器を向けられていた恐怖も消えず小さく身体を震わせていた。


レオンはバックミラーを何度も見ながら呆れたように言う。

「お前……今度は何したんだ?」


助手席のリバティーナも困惑した表情を浮かべる。

「今……どうやったんですか……?さっきまで誰もいなかったのに……」


スタオンヌも少女を気遣いながらカロンを見る。

「カロン様……そちらの方は……?」


カロンは窓の外を確認しながら短く答えた。

「時間停止使ったんだよ、詳しい話は……完全に逃げ切ってからだ」


レオンはため息をつきながらアクセルをさらに踏み込む。

「……了解」


一方、その後ろ、ククリRPVでは

エマが荷台の様子を見て首を傾げる。

「……あれ?急にリアが重くなった……」


リリーナが振り返る

「え?何か積んでる?」


沙耶も後ろを覗き込みながら不思議そうに呟く。

「殿は一体……何をしたのでござるか……?」


二台はそのまま速度を緩めることなく走り続ける。

遠く後方には、冒険者達の姿はもう見えなかった。


数時間後。

一行は本来宿泊する予定だった町を通り過ぎ、さらに隣町まで走り続けた

ようやく宿へ転がり込むと、全員が安堵の息を吐く


レオンは窓の外を確認し、小さく頷いた。

「……追っ手はいないな」


張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。

すると白銀の少女が立ち上がり、深く頭を下げた。

「……あのありがとうございました……」


カロンは照れくさそうに頭を掻く。

「気にしないで、そういや自己紹介まだだったな、俺はカロン・クレイン」


少女も胸へ手を添える。

「私……ラヴィア・メメントモリと申します……」

少し俯き、小さな声で尋ねる。

「……あの…なぜ……魔族の私を助けてくださったのですか……?」


カロンは迷うことなく答えた。

「君から悪意も戦意も何も感じなかった、直感で分かったんだよ」


ラヴィアは目を丸くする。

「……直感」


「うん、それだけ」

あまりにも真っ直ぐな答えだった。


リバティーナはラヴィアの前へ歩み寄り、優しく問い掛ける。

「ラヴィアさん……お気の毒でしたね、でもなぜあんな街道で囲まれていたんですか?」


ラヴィアは静かに語り始めた。

「私は……戦で倒れた魔王軍の戦士達へ祈りを捧げるため……巡礼の旅をしていました」


しかし段々と話しにくそうになっていく


「ですが道中事故に遭遇し、足止めされてしまって……近くを通り掛かった人間の方へ助けを求めたのですが……」


その先は、言葉にならなかった。

あの光景を思い出したのか、肩が小さく震える。

「……あのような事に」

部屋は静まり返る


ラヴィアはぎゅっと両手を握り締めた。

「私は……人類との争いを望んではいません…いつか……魔王様を止める道を見つけたいと……」


その言葉に、一同は思わず顔を見合わせた。

魔族でありながら

魔王との戦いではなく、「争いを終わらせる道」を探している

それは誰も予想していなかった答えだった。


ラヴィアは静かに俯いた。

「私の父は……魔王様の古い友人なのです…私も幼い頃から、魔王様には大変良くしていただきました」


その声には、嘘も憎しみもなかった

「魔王様は……過激派のような、無用な殺生や略奪を認めてはいません」


「罪のない人々を傷付ける事も……決して望まれてはいません」


レオン達は静かに耳を傾ける

ラヴィアは小さく息を吸った

「ですが……人類と戦う事は、変わりません……

それが魔王様の選ばれた道です」

部屋に静寂が落ちる。


ラヴィアは両手を胸の前で握り締めた。

「私は……過激派のやり方も認められません…

ですが……魔王様と剣を交える事も望みません」


「私は……どちらにも付けないのです」

その言葉は、今まで胸の内へ押し込めてきた本音だった

魔族からは……

「『甘い』『裏切り者』と蔑まれ……」


人間からは……

「『魔族だから』という理由だけで命を狙われる」

ラヴィアは寂しそうに微笑んだ。


「私は……どこへ行っても異端なのです」


その笑顔は、笑っているようで泣いているようでもあった。


翌朝。

宿を出た一行は、旅に必要な物資を調達するため街へ繰り出した。

ラヴィアも安全のため、一行と共に歩く。

彼女は荷物の中から一つのキャスケットを取り出した。

「……あの…角だけでも、隠しますね」

帽子を被ろうとした、その時だった


「止めとけよ」

カロンの一言に、ラヴィアの手が止まる。

「……でも…私、魔族ですし……」


カロンは肩を竦めた。

「角が生えてるのが、本当のラヴィアだろ?わざわざ隠す必要なんかねぇよ」


ラヴィアは困ったように俯く。

「ですが……もし怖がられたら……」


カロンは笑った

「もし指差されたら言えよ、人間じゃない顔にしてやるよ!」


「……え?」


「俺がソイツらをな」

悪びれもせず笑うカロン


ラヴィアは思わず目を見開いた。

「……!」


沙耶は腕を組み、苦笑する

「殿らしいでござるな」


リリーナも笑いながら頷いた。

「気にするほどでもないわよ!アナタ、そのままで十分可愛いし」


スタオンヌも優しく微笑む。

「ありのままのラヴィアさんで、大丈夫ですよ♡」


ラヴィアは帽子を静かにしまった。

「……ありがとうございます」

こうして一行は街へ入る


すると…

「あれ……」

「あの子……角……?」

「魔族じゃない?」

通行人達が足を止める

一瞬だけ、不穏な空気が流れた



だが

「……でも」

「うん……」

「滅茶苦茶可愛い……♡」

「スタイル良っ……モデルさん?」

「角まで似合ってる……」


街の視線は、警戒よりも驚きへ変わっていく。

ラヴィア本人は、そんな反応に戸惑うばかりだった。

「え……?怖がられ……ない?」


その横でカロンがニヤリと笑う。

「ほらな可愛いは正義なんだよ」


ラヴィアは思わず吹き出した。

「……ふふっ」

その小さな笑顔はこの旅で初めて見せる、心からの笑顔だった


買い物を終えた一行は宿へ戻っていた。

夕暮れの柔らかな光が部屋を照らす。

荷物を整理しながら、ラヴィアは静かに口を開いた。

「……でも、カロンさん…なぜ……そこまで私に良くしてくださるのですか?」


彼女にとってカロンは今まで会った人間とはまったく違った


「私は旅先で……何度も、人々に避けられてきました…魔族というだけで……」

部屋が静まり返る


カロンは少しだけ考えたあと、肩を竦めた。

「……まあ、義理の母親が人魚だし…じいちゃんばあちゃんの古い友達には鳥人もいるしさ」


これは理由と言うにはあまりに生まれつき持っていたカロンの感覚

「別に種族の違いとか、気にした事ねぇな」

その答えは、あまりにも自然だった


エマも微笑む

「アイネス様も、ミネルさんも…本当に優しい方ですからね、私達にとっては、それが普通なんです」


ラヴィアは目を見開く。

「……!」

魔族でも

人魚でも

鳥人でも

そこに境界線は無かった。

彼らは本当に、"一人の人"として接してくれている

そんな当たり前のことが、ラヴィアには何より新鮮だった。


カロンは笑いながら立ち上がる。

「まあ、俺らに任せな」

そして仲間達を見回した

「これからラヴィアを家まで送り届ける……

皆、いいよな?」


返事は聞くまでもなかった


スタオンヌが真っ先に微笑む

「もちろんです♡異論ありません」


レオンは静かに頷く


「私は賛成です」

リバティーナも優しく微笑んだ


「面白そうじゃない!」

リリーナは拳を握る


「殿の行く所まで、お供するでござる!」

沙耶は力強く胸を張る


エマも小さく笑う

「ロンくんがそう決めたなら、私はついて行くだけです」


ラヴィアは胸の前で手を重ね、瞳を潤ませた

「皆さん……ありがとうございます……」

その笑顔は、まだ少しぎこちない

けれど確かに、旅の仲間へ向けられたものだった

こうして一行は、新たな目的地を定める


魔族の里へ――。

ラヴィア・メメントモリを、その帰るべき場所へ送り届けるために。


次回はラヴィアの見た目投稿予定

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