狩猟の町
今回はスタオンヌとリバティーナが主役
ある意味レジャー回です。
歓楽街での数日間。
カロン達はグルメを味わい、笑い合い、それぞれが忘れられない思い出を胸に刻んだ
そして、旅立ちの日。
屋敷の前には狐鞠が立ちいつものように扇子で口元を隠しながら微笑んでいた
「わちきも楽しませてもらったのお……また来た時は、歓迎するえ……♡」
カロンは軽く手を上げる。
「ありがとな、次はもう少しゆっくり飲もうぜ」
狐鞠はくすりと笑う
「その時は……今度こそ、おぬしを酔わせてみせるかのう♡」
「無理無理、俺は落ちねぇから」
「……ふふっ、本当にブレぬ男じゃ…♡」
三台のエンジンが唸りを上げる。
ガーディアン90
ククリRPV
そしてカロンのバイク
砂煙を巻き上げながら、一行は歓楽街を後にした
移動中――
バイクを走らせるカロンの横を、ガーディアン90が並走する
スタオンヌの嬉しそうな声が聞こえた。
「楽しかったですね、カロン様♡……
リバティーも……可愛過ぎます♡」
カロンは思わず笑う
「ああ、レオンも初カノがリバティーナで良かったよ」
そう言って、ちらりとガーディアン90を見る。
運転席のレオン
助手席のリバティーナ
二人の様子を見て、自然と頬が緩んだ
一方、ガーディアン90の車内
レオンは前を向いたまま眉をひそめる。
「……何笑ってんだ、アイツら」
隣ではリバティーナが何も言えず、耳まで真っ赤になって俯いていた。
「…………♡」
その様子を見たレオンは、なんとなく全てを察した。
「……しかし…バレたな…」
「…………はい♡」
ククリRPVの車内。
沙耶はシートへぐったりともたれ掛かる。
「あの街だけで……何軒食べ歩いたか覚えてないでござる……」
リリーナも苦笑した
「言っていい?ちょっと運動不足かも……」
エマはハンドルを握りながら考え込む。
「なんか、皆で出来るスポーツとか無いですかねぇ」
その何気ない一言。
それがこのあと、一行が"ある競技"に挑むきっかけになるとはまだ誰も知らなかった
歓楽街を後にして数時間。
都会の景色はいつしか緑へと変わり車窓にはのどかな田園風景が広がっていた
風に揺れるまだ緑の稲
澄んだ川のせせらぎ
山々から聞こえる鳥のさえずり
歓楽街の喧騒とは正反対の穏やかな時間が流れている
やがて三台は一つの山間の町へ到着した
木造の家々が立ち並びあちこちには農具や荷車
ここは農産物で有名な町だった
カロンはバイクを降り、背伸びをした。
「よし市場でも寄るか」
「いいですね♡」
スタオンヌも嬉しそうに頷く
「野菜でも買って行きましょうか」
エマも市場へ目を向ける。
一同は市場へ足を踏み入れた。
しかし……
リリーナが首を傾げる。
「なんか、棚スカスカじゃない?」
本来なら山積みになっているはずの野菜や果物
米俵もほとんど残っていない
沙耶が辺りを見回す
「収穫時期を外したのでござろうか……?」
レオンは静かに周囲を観察する
町人達は皆うつむき加減
笑顔がない、市場の賑わいもどこか弱々しく、
活気というものが感じられなかった
子供達でさえ外で遊んでおらず、家々の戸は固く閉ざされている
スタオンヌも不安そうに呟く。
「……なんだか、町全体が元気ありませんね」
その時だった
市場の奥から、大きな物音が響く
ガシャーン!
誰かが荷車を倒した音
「またか……」
「もう勘弁してくれ……」
そんな町人達の沈んだ声が聞こえてくる
カロンはゆっくりと視線を向けた
先ほどまでの笑顔は消え、真剣な表情になる
「……何かあるな」
のどかな山間の町
その静けさの裏には、旅人達がまだ知らない問題が静かに潜んでいた
物音のした方へ駆け寄るカロン達
市場の片隅
一台の荷車が横倒しになり、積まれていた野菜や果物は無惨にも食い散らかされていた
踏み荒らされた足跡
齧られた大根
潰された南瓜
異様な光景だった。
騒ぎを聞きつけた町民達も集まって来る。
しかし、誰一人驚かない
皆、肩を落とし、諦めたような表情で荒らされた荷車を見つめるだけだった
カロンはしゃがみ込み、野菜の断面を確認する。
「なんだこれ……魔物か?」
一人の年配の町民が、力なく首を横に振った
「違うよ……獣だ」
「今年は山の熊や猪が異様に増えちまってな……」
町民は噛み千切られた野菜を拾い上げる
「せっかく育てた畑も何度荒らされたか分からねぇ……」
「柵を作っても壊される」
「夜通し見張っても別の畑をやられる」
その声には怒りよりも、疲労が滲んでいた。
スタオンヌも胸を痛める。
「そんな……」
町民は苦笑する
「魔族なら勇者様や兵隊さんが来てくれる…」
「でも相手は獣だ…生きるために降りて来てるだけだしな……」
別の町民も会話に加わる。
「今年の収穫祭は中止かもしれねぇな……」
毎年、この町で最も賑わう祭り
その言葉に、周囲の空気はさらに重くなる
「町の収入源が無くなっちまう……」
「若い連中も町を出るしかねぇかもしれん……」
「このままじゃ農家を続けられねぇよ……」
誰も声を荒げない
誰かを責めるわけでもない、人々は自然から住処を借りているからだ、動物に罪は無い
ただ、積み重ねてきた一年が、その自然によって少しずつ削られて行く…
そんな現実だけが、そこにはあった
レオンは静かに辺りを見回した
「……だから市場も品薄だったのか」
エマも神妙な顔で頷く
「深刻ですね……」
カロンは齧られた野菜をそっと荷車へ戻す。
そして山の方角へ目を向けた。
「……なるほどな」
その瞳には、何かを決めたような光が宿り始めていた。
カロンは荒らされた野菜を見つめ、ふっと笑った。
「じいちゃんばあちゃんの田舎も、たまにあったな……似たような事」
誰かを責めるでもなく、山を見上げながら肩を回す
「よし!運動不足だったし、俺らで狩って来よう!」
町民達が一斉に顔を上げる。
「ほ、本当ですか!?」
「助かる……!」
「猟友会だけじゃ手が足りなくて……!」
しかし、リバティーナが首を傾げた。
「カロンさん……狩猟なんて出来るんですか?
ギャング同士の抗争とは全然違いますよ?」
エマもふと思った
「猫とか動物好きだったよね?」
カロンはあっけらかんと笑う。
「昔じいちゃんと行ってたよ、まあ……犬や猫は無理だけど猿や熊は生意気だからな!遠慮なくぶっ殺してやる!」
その何ともカロンらしい基準に、一同は思わず苦笑する
スタオンヌはくすりと笑い、カロンの隣へ並んだ。
「ふふっ……♡私も、お手伝いします♡」
そして隣の妹へ微笑む。
「……久しぶりね、リバティー」
リバティーナも小さく頷いた。
「……そうですね…まだ腕が鈍っていないと良いのですが」
レオンが眉をひそめる。
「久しぶりって……何がだ?」
二人は顔を見合わせると、それぞれポケットへ手を入れた。
取り出したのは一冊の革張りの手帳
そして銀色に輝く記章
スタオンヌはそれをカロン達へ見せる
「私達……」
「王国第一種狩猟資格、持ってるんです♡」
「「「「えぇーーーっ!?」」」」
沙耶が目を丸くする
「しゅ、狩猟資格でござるか!?」
リバティーナは静かに説明する。
「猟銃の取り扱い、罠の設置、大型獣の解体、一通り習得しています」
エマは驚きを隠せない、なんとも意外過ぎる
「スタオンヌさん達、そんな資格持ってたんですか!?」
スタオンヌは少し照れながら笑う。
「地元では熊や猪は、昔から身近な存在でした」
レオンは思わず額に手を当てる。
「……科学者に弁護士、その上に猟師か姉妹揃って何者なんだよ……」
カロンは嬉しそうにニヤリと笑う。
「決まりだな…一狩り行こうぜ!」
その一言に、仲間達も笑顔で頷く。
こうして始まるのは戦争でも魔王討伐でもない。
自然と向き合い、町を救うための――
"狩猟"という名のスポーツだった。
その日の午後。
町の集会所では、早速害獣駆除の準備が始まっていた。
リリーナは腕を組みながら笑う。
「害獣駆除ね!ちゃっちゃと50口径で終わらせましょ!」
しかし、カロンは首を横に振った
「ダメだ、獲物に無用な苦痛を与えちゃならない、それに町の近く、跳弾や流れ弾も危ない…規定通りの猟銃を使うぞ」
リバティーナも静かに頷く。
「その通りです、狩猟は命を扱う行為です、だからこそ法律も道具も守らなければいけません」
そう言うと、一枚の買い物リストを広げた。
「という訳でエマさん、リリーナさん、買い出しへ行きましょう」
エマが紙を覗き込む。
「えっと……スラグ弾、バードショット…応急処置用品、凄い細かいですね……」
リバティーナは真剣な表情のまま頷く
「狩猟に関しては妥協できません、一つ判断を誤れば人も獣も不幸になりますから」
エマも思わず背筋を伸ばした。
「了解です!」
リリーナは肩を竦めながら笑う。
「今日は先生の言うこと聞きまーす!」
三人はククリRPVへ乗り込み、市場へ向かって走り出した。
こうして、法律と狩猟のプロであるリバティーナの監修のもと、一行は本格的な害獣駆除の準備を進めていくのだった。
翌朝、まだ朝霧の残る早朝
カロン達は町の外れへ集まっていた
全員がハンティングベストを身に着け、
それぞれ猟銃を手にしている。
カロンは使い込まれたレバーアクション式散弾銃を肩へ担ぐ、
レオンは堅実なセミオート散弾銃
エマは取り回しの良い水平二連散弾銃
リリーナは力強いポンプアクション散弾銃
沙耶は古風な先込め式を大事そうに抱えていた
そして
スタオンヌとリバティーナ姉妹は、遠距離から確実に仕留める為のハンティングライフルを携えている
町民達は、その光景を固唾を呑んで見守っていた
スタオンヌは全員を見渡し、穏やかに微笑む
「では皆さん、行きましょう♡」
リバティーナはいつものクールな雰囲気とは違い、狩猟者として真剣な表情になる。
「確認します」
「日没前には必ず下山します」
「単独行動は禁止です」
「獲物よりも仲間の位置を優先して下さい」
「安全第一で行きましょう」
カロンも散弾銃の安全装置を確認しながら頷く。
「よし、一狩り行こうぜ」
その言葉に全員が笑みを浮かべる
しかし山へ一歩踏み入れる前
スタオンヌは静かに帽子を取り、胸元で手を組んだ
リバティーナもそれに続く
二人の姿を見て、カロン達も自然と帽子を脱ぐ
「山の恵みを頂く事への感謝を」
「そして、誰一人怪我なく帰れるように」
短い祈りを捧げる
静かな山風が木々を揺らした。
やがて一行は顔を上げる。
カロンが小さく笑った。
こうして一行は、朝靄に包まれた山へと足を踏み入れた。
足音を殺しながら、一行はゆっくりと獣道を進んでいた
鳥のさえずりだけが静かに響く
先頭を歩くリバティーナが、不意に右手を上げる。
「……静かに」
全員がその場で足を止めた
リバティーナはしゃがみ込み、湿った土を指差す。
「足跡がありますね……」
そこには、二つに割れた蹄の跡
まだ輪郭も崩れていない
「新しいです、遠くまでは行っていません」
町のハンター達も頷く
「間違いない……鹿だ」
スタオンヌは腰のポーチから一本の木製の笛を取り出した。
「では……やってみますね」
レオンが小声で尋ねる。
「それは?」
「鹿笛です、鹿の鳴き声を再現する道具ですよ」
スタオンヌは深く息を吸い、静かに笛を吹いた
山へ澄んだ鳴き声が溶け込んでいく
数十秒の沈黙…しかしその時だった
カロンが小さく呟く
「……来た」
草むらが揺れる
一頭の鹿が警戒しながら姿を現した
町のハンターが息を呑む
「あいつだ……畑を荒らしていた群れの一頭だ」
鹿の食欲は侮れない。野菜、穀物、果樹、茶葉
さらには植林したスギやヒノキの幼木まで食い荒らし、農業・林業などこの町に大きな被害を与えている
スタオンヌはゆっくりとライフルを構える。
深呼吸の後、照準を合わせる
指先が静かに引き金へ触れる
――パンッ!
乾いた銃声が山へ響いた
鹿は数歩よろめき、その場へ倒れる
無駄な苦しみを与える事ない急所への一撃だった
レオンは思わず目を見開く
「上手っ!?」
エマも感心したように頷く
「完璧に急所へ……」
沙耶も素直に驚く
「見事な腕前でござる……」
スタオンヌはライフルの下げ、穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます♡では、運搬をお願いします」
町のハンター達が駆け寄り、手際よく鹿を縛りあげる
「助かった……これだけでも畑の被害が減る」
一方、カロンは倒れた場所を見つめながら、どこか感心したように笑った。
「猟師のスタオンヌも、格好いいじゃん」
その一言に、スタオンヌは少し照れたように頬を染めた。
「えへへ……♡ありがとうございます、カロン様♡」
山道をさらに進む。
リバティーナは立ち止まり、耳を澄ませた。
「……ヒヨドリの声がしますね」
レオンも耳を傾ける
しかし、聞こえるのは鳥の鳴き声だけ。
「……声で分かるんだ」
「ええ」
リバティーナは微笑む。
「鳴き方や縄張りで、ある程度は種類が分かります」
スタオンヌも頷いた。
「父に山で教わりましたから♡」
姉妹の意外な才能に、一同は思わず感心する
町のハンターも補足した
「ヒヨドリも厄介なんだ」
「果樹園の実を食い荒らすし、畑の野菜もつつく」
「更には庭木や花壇まで駄目になる事もある」
するとリリーナが一歩前へ出た。
「やってみる!」
ポンプアクション散弾銃を肩へ当てる
木の枝へ止まったヒヨドリ
呼吸を整え
――パンッ!
銃声が山へ響く
ヒヨドリは羽を散らし、そのまま地面へ落ちた
町のハンターが目を丸くする
「当てた……!」
エマも思わず拍手した
「社長、凄いですね!」
リリーナは散弾銃を肩へ担ぎ、少し照れ笑いを浮かべる
「クレー射撃やってたから!なんか出来た!」
沙耶は苦笑しながら頷く。
「相変わらず恋愛以外は強いでござるな……」
「ちょっと!"恋愛以外は"って何よ!」
山の中へ、また笑い声が響いた。
その後、朝から山を歩き続けた一行は、少し早めの昼食を取ることにした
山間の小さな沢、そこの木陰に腰を下ろし一息つく
町のハンター達は手際よく鹿の解体を始める
その前に、
カロンは地面へしゃがみ込み、小さな木の実を一つ取り、そして、静かに鹿の口へ含ませる。
スタオンヌが優しく微笑む
「カロン様……」
レオンが尋ねる
「それは?」
カロンは鹿を見つめたまま答えた。
「こうすれば、あの世で食べ物に困らないんだ…
じいちゃんに教わった」
その言葉に、一同は自然と帽子を脱ぐ。
誰からともなく手を合わせた。
「……いただきます」
静かな風が山を吹き抜ける
やがて解体された鹿肉が焚き火の上へ並べられた
カロンはフライパンを温めながら肉を焼いていく
香ばしい音とともに、脂が弾けた
スタオンヌが興味津々に覗き込む。
「味付けはどうしますか?」
カロンは焼き上がった一切れを口へ運ぶ
数回噛み締めると、満足そうに頷いた
「結構淡白…これはニンニクとバターだな」
リリーナは拳を握る
「絶対美味しいやつ!」
ほどなくしてニンニクバターの香りが立ち込める鹿肉のソテーが完成した
湯気の向こうで、一同が顔を見合わせる。
「いただきます!」
一斉に口へ運ぶ
「美味い!」
レオンが思わず声を上げる。
「全然臭みが無い!」
エマも驚く
「柔らかい……!鹿肉ってもっと固いのかと…」
沙耶は夢中で頬張る
「山で食べるから、なお美味いでござる!」
スタオンヌも幸せそうに微笑んだ。
「命を頂いた分……最後まで、美味しく頂きましょう♡」
山の中へ、皆の笑い声が響く
午前の狩猟を終えた一行は、美味しい昼食とともに英気を養い、午後の狩猟へ向けて静かに力を蓄えるのだった。
昼食を終え、一行は再び山の奥へと歩き出した。
午前中とは違い、皆の表情にも少し余裕が見える。
「午後も頑張りましょう♡」
スタオンヌの一声に一同が頷いた
しばらく歩いた、その時
カロンが拳を上げ、全員を制止する
「止まれ」
草むらの向こう
黒い影が地面を掘り返している
牙を持つ、大きなイノシシだった
カロンは小声で説明する
「アイツだ…イノシシは穴掘りが上手いからな……
畑はもちろん、田んぼや法面まで荒らしちまう」
町のハンター達も真剣な表情で頷く。
「あの辺りの畑も、何度やられた事か……」
すると沙耶が一歩前へ出た
「拙者がやってみるでござる……!」
先込め式銃をゆっくり構える
剣とは勝手が違う
呼吸を整え。
狙いを定める。
「……!」
――パンッ!!
乾いた銃声が山へ響く
イノシシは数歩よろめき、その場へ倒れ込んだ。
「やった!」
沙耶は思わず拳を握る
カロンが笑顔で親指を立てる。
「やったな、沙耶!初めてにしちゃ上出来だ!」
沙耶も嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます、殿!」
町のハンターも感心する。
「初めてであの腕前か……」
「大したもんだ」
カロンは倒れたイノシシを見ながら、もう夕飯の事を考えていた。
「コイツはやっぱり鍋だな」
沙耶の目が輝く。
「牡丹鍋でござる!」
「寒い日に食べると最高なんだよな」
「味噌仕立ても捨て難いでござる!」
「いや、醤油もいいぞ」
気付けば狩りの話より、夕飯の話で盛り上がる一同
レオンは呆れながら苦笑する。
「……お前ら、本当に食う事しか考えてないな」
カロンは胸を張った。
「命をいただくなら、美味しく食う!それが礼儀だろ?」
山には再び、賑やかな笑い声が響き渡った。
カロン達は山道をさらに進んだ。
そして遂に“大物”が姿を現す…
町のハンターが突然しゃがみ込み、小さく囁いた
「……熊だ」
木々の隙間、黒い巨体がゆっくりと歩いている
レオンも思わず息を呑む
「……デカいな」
午前中の鹿や鳥とは比べ物にならない。
山の主とも呼べる風格だった
リバティーナは静かに一歩前へ出る。
「難しい相手ですね……」
ライフルを取り、ゆっくりと構えた
「私がやります」
その瞬間だった
いつもの穏やかな表情は消え去る
ハンティングキャップのつばから覗く瞳は鋭く
獲物だけを真っ直ぐ見据えている
呼吸は乱れない、肩も揺れない
指先一つさえ震えない
まるで山と一体になったような静けさだった
その姿に、レオンは思わず見惚れてしまう。
(……ヤバ…カッコよ……)
いつもの、いたずらっぽく笑う恋人とは別人だった
静寂が流れる
そして
――パンッ!!
乾いた銃声が山へ響く
熊は数歩よろめき、その場へ崩れ落ちた。
町のハンター達も目を見開く。
「一発で……!」
「す、すげぇ……!」
リバティーナはゆっくりと安全装置を掛け、息を吐く。
「熊は……胴体を狙わないと倒せないんですよね、
頭部は骨が厚く、角度によっては弾が逸れる事もありますから」
淡々と説明するその姿は、まさに熟練の狩猟者だった。
カロンは感心したように笑う。
「いやー、スタオンヌもだけどさ、ドゥラメリア姉妹、普段とのギャップ凄いな」
スタオンヌも妹を見て優しく微笑む。
「さすが、リバティー♡」
リバティーナは照れくさそうに頬を掻く。
「姉さんまで……」
その瞬間張り詰めていた空気がほどけ、いつもの優しいリバティーナへ戻る。
そんな姿を見ていたレオンは、小さく笑った。
(やっぱり……俺の彼女、最高だな)
その横顔は誰にも気付かれないくらい穏やかで、少しだけ誇らしげだった。
日が山の稜線へ近付き始めた頃。
リバティーナの言葉通り、一行は日没前に下山した
町の人々が待つ集会所前
そこには解体された獣肉と、町自慢の新鮮な野菜が並べられている。
やがて、辺り一帯へ香ばしい匂いが漂い始めた。
「いい匂い……」
町の子供達が鼻をひくつかせる
その頃カロンは焼き上がった鹿のレバーを
串へ刺し、静かに山の方角へ歩いた
土へ串を立て、軽く頭を下げる。
「……ごちそうさま、またこの町の実りを…」
スタオンヌも隣へ立ち、そっと手を合わせる。
「カロン様……山と、生き物に感謝を……ですね♡」
少し離れた場所で見ていたリバティーナも、小さく微笑んだ。
「最初は虐殺でもするかと思いましたが…少しは見直しました」
「少しかよ」
カロンが苦笑すると一同から笑いが起こる。
そして今度は料理人の顔になる
次ははカロンと食材との勝負
フライパンへ熊肉を入れ、じっくり焼く
脂が溶け、香ばしい音を立てる
一切れ味見をすると、少し考え込んだ
「熊の脂って意外と甘いな……なら醤油と砂糖だな」
次はヒヨドリ
丁寧に下処理を終えたスープを一口飲む。
「これは……出汁が濃い…余計な味付けはいらないな」
町の人達も、その真剣な表情を見守っていた。
やがて。
次々と料理が完成する。
香ばしく焼き上げた鹿肉のバターガーリック焼き
透き通った旨味が溢れるヒヨドリのスープ
日ノ本産の味噌の香りが食欲をそそる牡丹鍋
そしてアクアと紫苑から贈られた醤油で仕立てる
熊肉のすき焼き。
さらに町自慢の野菜
川魚の塩焼き
炊きたての白飯まで並ぶ
町長が目を潤ませた
「今年は収穫祭を諦めかけていた……まさか、
こんな形で皆と囲めるとは……」
集会所前には長机が並べられた
町の人々もカロン達も
皆が席へ着く
町長が杯を掲げる。
「皆さん!少し早いですが……
今年の、大収穫祭を開催します!」
「「「「乾杯!!」」」」
歓声が町へ響く
レオンは熊肉を頬張るなり、目を丸くした。
「美味い!熊ってこんなに柔らかいのか!」
リリーナはすき焼きを口へ運び、幸せそうに笑う。
「これ、ワインに合うわね♡」
エマも鹿肉を頬張りながら頷く。
「やっぱりロンくんの料理は絶品ですね」
沙耶は牡丹鍋を夢中で食べる
「味噌が最高でござる!」
スタオンヌは優しく微笑みながらカロンを見る。
「今日一日で、町の皆さんも笑顔になりましたね♡」
カロンは照れくさそうに頭を掻いた。
「まあ……美味い飯は、人を幸せにするからな」
夜空の下
笑い声と湯気が立ち昇る
魔王との戦いの合間
それは、旅人達が町へ残した、小さくも温かな"収穫祭"だった。
収穫祭も終わり
町は再び静かな夜を迎えていた。
集会所の灯りも消え、人々は満ち足りた表情で家路につく
その頃…
宿の裏庭では、小さなランタンの灯りの下で二人が並んで座っていたカロンとスタオンヌ
膝の上には、それぞれ今日一日を共にした猟銃。
真鍮ブラシを通し、油を差し、丁寧に手入れをしていく
カロンは満足そうに笑った
「今日は大活躍だったな」
スタオンヌも微笑み返す
「カロン様も、お疲れ様でした♡」
静かな時間が流れる。
やがてカロンがぽつりと呟く
「俺さ……今日ので、またスタオンヌに惚れ直したわ」
その一言に、スタオンヌの手が止まる。
「……っ♡」
耳まで赤く染まり、照れ笑いを浮かべた。
「ありがとうございます……♡」
「昔……父さんや兄さんと一緒に山へ入った事を思い出しました……♡」
「今日は、あの頃みたいで……とても楽しかったです♡」
カロンは猟銃を閉じ、満足そうに頷く。
「また行こうな…今度は釣りでもいいし、山菜採りでもいい」
スタオンヌは嬉しそうに笑った。
「はい♡」
「今度もご一緒します♡」
山から吹く夜風が二人の髪を優しく揺らした
翌日。
町の人々は今回の害獣駆除をきっかけに、狩猟で得た恵みを町の名産として活かす取り組みを始める。
鹿。
猪。
熊。
自然の恵みを無駄なくいただく料理。
それはやがて、多くの旅人を呼び寄せる新たな名物となった。
――山間の小さな町に、「ジビエ」という新たな名物が誕生したのである。
因みに母の地元がモデルです
めっちゃ頼もしいドゥラメリア姉妹↓
狩猟に行こう | 福島ナガト #pixiv https://www.pixiv.net/artworks/147643329




