追放されるのがいつも被害者とは限らない
ジークをボコボコにする事だけ考えながら書いてたら長くなってました。
ナーガロス討伐から数時間後
村には久しぶりの活気が戻っていた
長年村人達を苦しめていた脅威
生贄という食料
その全てが終わったのだ。
広場には多くの村人が集まり、一行へ感謝の言葉を送っていた。
「本当にありがとうございました!」
「これで娘達を怯えさせずに済みます……!」
「助かりました!」
村人達は頭を下げる。
しかしその中心で胸を張る男がいた。
「フハハハハハ!!」
ジークである。
「良いだろう!!」
マントを翻す。
「さあ!!」
両腕を広げる。
「この真の勇者!!ジーク・バルサローザを讃えたまえ!!」
ルーナが頭を抱える。
「始まった…カロンさん達にやってもらったくせに…」
エルナは遠い目をした。
「勝った途端これだ……」
ミラはため息を吐く。
「一回死んだ程度で治ると思った私が馬鹿でしたわ……」
一方て
少し離れた場所。
沙耶は仕事終わりの団子を食べながらその光景を眺めていた。
「弾除けが調子良いでござる」
カロンは苦笑する
「ほっとけよ」
レオンも肩を竦めた
「ある意味才能だな」
リバティーナも頷く。
「普通なら恥ずかしくて出来ません」
その時、ジークが再び叫ぶ。
「皆の者!!」
「今日からこの村は勇者ジーク・バルサローザの――」
「勝手に領地化すんな!!」
「お前王様なのか!?」
「だから嫌われるんですわ!!」
三人が慌てて止める
村人達も苦笑していた
今のところはただの騒がしい男
ただの痛い勇者気取り
カロン達もそう思っていた
だが広場の喧騒の中、ジークだけは別の事を考えていた。
カロンのバイク
ガーディアン90
ククリRPV
笑い合う仲間達
その目に浮かんだ感情は感謝でも憧れでもない
もっと濁った何かだった
広場の喧騒はまだ続いていた。
村人達は討伐の話で盛り上がり、
子供達はナーガロスの大きさを身振り手振りで語り合っている
久しぶりの平和だった。
そんな中、ジークは満足そうに腕を組んでいた。
そして何かを思い出したように振り返る。
「それと」
ルーナ
エルナ
ミラ
三人へ視線を向けた
「最近お前達は勝手が過ぎる、カロンに毒されたか…力を制御出来ずに暴れるように俺には見えた…」
三人は一瞬だけ顔を見合わせる。
「は?」
「何の話だ?」
「突然ですわね」
ジークは咳払いをした。
「次から俺の許可無く魔法を放つな、飽くまでお前達は俺のパーティだ、カロンの指揮下ではない」
空気が少しだけ変わった
村人達は気付いていない
ジークは続ける。
「パーティとは統率が重要だ勝手な判断は混乱を招く、特にルーナ…前に出過ぎだ炎魔法は俺の指示を待て」
ルーナの眉が僅かに動く。
ジークは気付かない。
「エルナもだ、最後の氷魔法は悪くなかっただが俺の作った流れがあったから成功した」
「……」
「ミラも補助役に徹しろ、毒は俺の攻撃を通すために使うものだ」
ミラの笑顔が消えた。
それは別に怒鳴っている訳ではない。
暴力でもない。
だかどこか妙だった。
まるで仲間ではなく
自分の所有物に話しているような
そんな響きがあった。
ルーナは苦笑する。
「いや、でもあの時は――」
ジークは最後まで聞かない。
「言い訳はいい、俺は勇者だ」
胸を張って断言する、しかしいつも演説のような態度とは明らかに違う
「お前達は俺の仲間だ…だから俺の指示に従えばいい」
ほんの数秒の沈黙、それだけだった
だがルーナ達三人の表情から笑顔が消えていた。
カロンは遠くからそれを見る
まだ何も言わない
ただほんの少しだけ
眉をひそめた
今までは笑えた
痛い奴だと思えた
騒がしいだけの男だと思えた
だがその日初めて。
ジークの中にある"何か"が、
僅かに顔を覗かせた。
翌朝
ナーガロス討伐を終えた一行は既に村を後にしていた。
天気は快晴、街道には心地良い風が吹いている。
本来なら実に平和な旅路だった。
本来なら…
「先日の任務は我ながら見事だった……」
原因は一人だった。
ジークは胸を張りながら歩いている。
「やはり俺は名将……!」
誰も聞いていない、しかし構わない
「次の任務も俺が率いてやろう!」
自信満々だった
そしてルーナ達はいつもより静か、
ルーナは空を見上げる
エルナは額を押さえる
ミラは無言で祈り始めた
もはや反射行動だ
しかしカロン達は
「お前が仕切るってのは花火片手に火薬庫入るようなもんだ!その自信どっから湧いてくんだよ!永久機関か!?」
カロンが即座に切り捨てる。
「なっ……!?」
レオンも真顔で追撃する。
「お前が率いた瞬間"パーティ"じゃなく"遭難者の列"になる」
「そこまで言う!?」
エマもおもしろがって参加する。
「詐欺師でももうちょい現実的なホラ吹きますよ?」
「ホラじゃない!!」
スタオンヌも珍しく辛辣だった。
「失敗例として論文に載せたいレベルですね♡」
「論文!?」
沙耶も腕を組む。
「拙者、あそこまで綺麗に吹き飛ばされる人間を初めて見たでござる」
リリーナは笑いを堪えていた。
「二回とも魔物にホームランされる人も中々居ないわよ!普通ピッチャー交代させられるでしょ」
「事故だ!!」
カロンは更に畳み掛ける。
「ナメクジが有馬記念に挑むようなものだぞ?
年末を汚すな!」
「俺はナメクジじゃない!!」
全方向から撃たれる。
ジークはしばらく口をパクパクさせていた。
やがて少しだけ肩を落とす。
「そこまで言わなくても……」
完全な被害者面だった。
街道に笑い声が響く、少なくとも表面上は
いつもの騒がしい旅だった。
ただ
その輪の少し後ろ、ルーナ達三人だけは。
昨日の言葉を忘れていなかった。
『俺の許可無く魔法を放つな』
あの時のジークの顔。
ほんの一瞬だけ見えた、笑えない何かを…
翌日は朝日が昇る野営地では仲間達がそれぞれ支度を進めていた。
カロンとスタオンヌは朝食の準備
レオンは車両の点検
リバティーナは紅茶の準備
平和だった、少なくともあの男が現れるまでは。
「あーっはっはっはっは!!」
全員が同時に嫌そうな顔をした…ジークである
しかも何故かドヤ顔だった
昨日あれだけ馬鹿にされたとは思えない
ジークは胸を張る
「どうだ!!」
腰のホルスターから何かを抜く。
鈍く輝く大型拳銃。
「俺の新たな獲物だ!!」
「嫌な予感しかしねぇ……」
「始まった……」
「朝から元気ですわね……」
ジークは構わず続ける。
「これで俺はさらなる高みへ到達するだろう!!」
誇らしげに掲げる。
サンドホーク .50AE。
大口径の.50アクション・エクスプレス弾を放つ巨大拳銃。
一般的な拳銃とは比較にならない威力を持つ。
そして。
「150万ダストの代物だ!!」
胸を張る、しかし誰も拍手しない。
レオンが一言。
「品の無い銃だ」
その一言にジークは顔をしかめた
「なっ!?」
レオンは興味も無さそうに言う。
「軍じゃ採用してる国は無い、反動は強い、弾は重い、命中率も悪い、知名度だけの趣味の銃だな」
レオンの感覚で言えば確かに実用性は低い
しかし…ジークは素人故の感覚で物を言う
「ぐっ……!お前達はロマンが分からんのか!!」
必死だった、そんな中
エマがこっそりカロンへ近付く。
誰にも聞こえない声で秘密を語る
「ちなみにロンくん」
「ん?」
エマはニヤリと笑った。
「仕入値15万ダストなのは内緒ね」
「ぷっ……!」
危なかった。
カロンは吹き出す寸前で口を押さえる
「何がおかしい!!」
「い、いや……」
肩が震える。
「頑張ったな……」
「そうだろう!」
ジークは全く気付いていない、銃を手に入れた事自体に満足していた。
しかし悪ノリかエマは更に追撃する。
「しかも中古で」
「やめろ……!」
限界だった
朝の街道に再び笑い声が響いた
「ならば刮目しろ!!」
サンドホーク .50AEを掲げる。
「この威力を!!」
ルーナ達が訝しむ
「嫌な予感しかしねぇ……」
「止めた方がいい気がする」
「手遅れですわ」
既に構えていた。
しかも片手で。
レオンが眉をひそめる
「おい!それ――」
言い終わる前だった。
「はぁぁぁぁっ!!」
引き金を引く
ドォォォォン!!!
凄まじい爆音に鳥が一斉に飛び立ち
地面が震える。
威力だけなら本物だった。
だが、次の瞬間
「へ?」
反動、それはほぼ事故だった。
ゴキッ!!
右肩脱臼
さらに…
.50AE弾の凄まじい反動は銃そのものを跳ね上がらせ、スライド部分はジークの顔面を殴り付けた
鼻、顎、前歯を全部まとめて殴られる
「ぶべぇっ!!?」
なお、カロンやエマの感覚で見たら綺麗だった、芸術的だった
ジークが動かない
数秒間は全員が固まる
そして限界が来た。
カロンの肩が震え、耐える、しかし無理だった
「ッッッッッ!!!!」
「ッッアッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」
大爆笑
レオンも吹き出した。
「ダメだ……!もうダメだ!!」
リリーナは腹を抱えている。
「待って♡笑い死ぬ♡アハハハハハハハ!!!」
沙耶も肩を震わせる。
「これは反則でござる……!」
スタオンヌですら口元を押さえていた。
「ふふっ……ふふふふっ♡」
そして
こういう事では普段あまり笑わないリバティーナまで涙を拭いている
「っ……!ふっ……!アッハッハッハッハ!!!!」
完全に堕ちた
ルーナは大きなため息を吐く。
「あー、アホくせぇ〜……」
ミラは倒れているジークを見下ろす。
「あ〜あ完全に伸びてますわね、エルナさん、氷」
エルナは近寄る
顔を覗き込みそして真顔で呟いた
「顔面とか折れてないよな?」
「ぐふっ……」
生きてはいた
レオンはサンドホークを拾い上げ、しばらく観察
「銃に罪は無いな、素人が片手で撃つモンじゃない」
全員頷いた、問題は使い手だった
カロン達からすれば無償で喜劇を提供してくれる、
いい道化師だ
夜、宿屋の一室
昼間の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。
窓の外では虫の鳴き声が聞こえる。
だがその静寂を打ち壊す音があった。
ドン!!
ガン!!
椅子が倒れる。
机が揺れる。
「クソッ!!クソ!!クソォォォォッ!!!」
ジークだった、今日の一件か、日々の積み重ねか
普段の尊大な勇者の仮面は完全に剥がれている
床を踏み鳴らす。
まるで地団駄を踏む子供
だがその顔に浮かぶ感情は嫉妬だった
「舐めやがって……!!」
拳を握る
「なんなんだアイツらは!!なんで俺を認めない!!」
机を殴る
「ククリも!!ガーディアンも!!あのバイクも!!」
目が血走っている
「俺が持つに相応しい!!なんでアイツが持ってるんだ!!本来なら勇者の俺が!!」
今まで以上に支離滅裂な言動、そして、更に濁った感情が溢れ出る
「女達もだ!!なんでアイツの隣にいる!!全部!俺の隣にいるべきだろう!!」
ルーナ達は黙っていた
聞いているだけで気分が悪くなる
しかしジークは止まらない。
「いずれ乗っ取る…」
根拠の無い自信でも口元が歪む。
「俺が真の勇者になる…クレイン王国だろうが何だろうが関係ない……最終的には全員俺に従うんだ」
その声に、ルーナが痺れを切らして立ち上がった
「おい」
冷めた声、明らかに軽蔑と呆れが込められていた
「もう止めとけよ」
ジークが睨む、でもルーナは怯まない。
「カロンさん達には世話になってるだろ、今生きてるのだってあの人達のお陰じゃないか」
エルナも頷いた
「少なくとも我々は助けられた…恩を仇で返すんじゃない」
ミラも静かに言う。
「そもそもですわ、成り上がろうという考え方そのものが間違っています、人は誰かを踏み台にして上へ行くものではありません」
しかしジークは冷たい目を向けた。
今までとは違う。
ルーナ達も思わず息を呑む。
「……そうか」
感情の無い声。
「お前達に反論は認めない」
ゆっくり立ち上がる
「最近は少しお前達を甘やかし過ぎたようだな」
その言葉に三人は沈黙した。
ジークの発言、理屈、目指す物、全て支離滅裂、
妄想の中で生きているかのような思考だった
一般常識や最低限の礼儀がある人間なら完全に否定できるような言動ばかりだ。
しかしルーナ達は反論出来ない
だがそれには理由があった。
ジークと三人
旅の始まり
切ろうと思えば切れる
だが簡単には切れない、まるで呪いのような鎖。
それが三人を縛っていた
ルーナは唇を噛む
エルナは目を伏せる
ミラは何も言わなかった
そしてその会話を廊下の向こうで聞いている者がいた。
カロンだった、本当に偶然だった。
だが聞いてしまった。
「………」
表情は変わらない。
怒りも無い、驚きも無い
ただ静かに考えていた
今日までの言動、ふざけているようにしか見えないが、本人は真剣だったのだろう
そして今の言葉
カロンは壁にもたれたまま目を閉じる
やがて小さく息を吐いた
「なるほどな……」
誰にも聞こえない声だった。
翌朝、一行は宿の食堂で朝食を取っていた。
しかし、テーブルの空気は少し重かった。
昨日の夜、カロンは偶然聞いてしまった
ジークの本音、嫉妬、欲望
しかしそれは気にするほどでは無い、間違っても叶う事はなからだ
カロンが指摘したいのは仲間達への態度
だからと言って怒っている訳ではない
ただ確認は必要だった
「ジーク」
突然名前を呼ばれたジークが顔を上げる。
「ん?」
カロンは淡々としていた。
「昨日は騒がしかったみたいだけど」
ジークの肩が僅かに揺れる。
「なんか文句があるなら別に辞めてもいいんだぜ?」
食堂が静かになる中カロンは続けた。
「資金なら持ってていい、無一文で放り出すほど鬼じゃねぇし好きにしろよ?」
穏やかな声だった
脅しではない
本当に選択肢を与えている
だからこそ、ジークより先に反応した者がいた
「待って下さい!!」
椅子が鳴る、立ち上がったのはルーナだった
顔色が悪い、明らかに焦っている…
「カロンさん!!すみません!!クビだけは勘弁して下さい!!」
カロンが目を細める
ルーナだけじゃない、エルナも立ち上がった
「言って聞かせますから!昨日の件なら我々からも謝ります!」
ミラも頭を下げる。
「ご迷惑をお掛けしましたわ……どうか見捨てないで下さいませ……」
食堂が静まり返る
当のジークですら呆気に取られていた。
あまりにも予想外
カロンは三人を見る、その表情は必死だった。
ジークを庇っている、そう見えた
だが、本質は何かが違う
恐れている、そんな風にも見えた
レオンも気付いたらしい
眉をひそめる
リバティーナも違和感を覚えていた。
エマは無言。
スタオンヌも三人を見つめている。
カロンは少し考えた、ここで追及するのは簡単だ
だが三人の反応を見る限り事情がある
表から押しても駄目だ、そう判断した
「……そうか」
カロンはそれ以上何も言わない。
「なら今はいい」
ルーナ達が安堵する。
だが、カロンの中では別の疑問が生まれていた。
なんでそこまで庇う?
少なくともジークの為じゃない
何か別の理由がある
ルーナ達は目を逸らす
そしてジークだけが、何故か満足そうに笑っていた
それがカロンには少しだけ気に入らなかった。
その日のジークは機嫌が良かった、
正確には勘違いしていた。
朝の一件
ルーナ達が必死に庇った事で
「やはり俺は必要とされている」
という都合の良い解釈をしていたのである。
そして調子に乗った。
宿場町の広場、自由時間にベンチで本を読んでいたリリーナの前にジークが現れる。
「リリーナ今日は僕と楽しまないかい?」
キメ顔
しかしリリーナは本から目を離さない。
「うるさいわね…マフィアの人身売買に売り飛ばすわよ?」
ページをめくる
「ふ……分からん女だ」
何故か笑う
「分かりたくもないわよ」
即答だった
しかしジークは諦めない、もはや暴走だった、常人には理解出来ないほどに妄想は肥大化している
今度はスタオンヌへ向かう
「スタオンヌ」
「君の知性と美貌は素晴らしいどうだ?
今度僕の専属研究者に――」
「嫌です♡」
〇・一秒だった。
ルーナ達も若干引いていた。
そして少し離れた場所で、カロンだけは笑っていなかった。
ジークは相変わらずだ。
痛い、空回る、鬱陶しい。
だが昨夜聞いた言葉を知っている今
その軽薄な態度の奥にある感情が見えてしまう。
そして
「……さて」
カロンは小さく呟いた
そろそろ、ルーナ達から事情を聞く必要があるかもしれない。
夜、宿の一階
酒場スペースは今日も賑わっていた。
旅人や商人、地元の客の笑い声が飛び交っている
その一角。
スタオンヌがグラスを片手にジークへ近付いた。
「ジークさん」
不意を突かれたようにジークは振り返る
「ん?」
スタオンヌは柔らかく微笑んだ。
「少しご一緒に飲みませんか?」
ジークの目が輝く。
「ほう……ふふふ……良いだろうようやく僕の
魅力に気づいたか…!」
昼間の惨敗など完全に忘れていた。
笑顔のまま席へ案内する
その様子を遠くから確認したカロンは静かに席を立つ。
レオンが一言
「行くのか?」
カロンは頷いた。
「少しな」
レオンは何も聞かない。
ただ
「気を付けろよ」
それだけ言った
数分後
ジーク達の宿泊部屋
そこにはルーナ、エルナ、ミラ三人が揃っていた
ルーナが首を傾げる。
「カロンさん……?アタシ達に話って……?」
カロンは壁にもたれ少しだけ言葉を選ぶ。
「実はさ…最近気になってたんだ」
真剣に三人を見る
「なんで君達がジークを庇うのかって」
空気が止まり
ルーナの表情が強張った
エルナも目を伏せる
ミラだけが口を開いた。
「実は……」
しかしエルナが止める
鋭い声だった
「ミラ、止めろ」
ミラも言葉を止める
エルナは苦しそうに首を振った
「すまないカロン殿……それは他言出来ない事に
なっている」
カロンは黙って聞く。
だが違和感があった、何かを隠している
それだけじゃない怯えている
まるで口にした瞬間に何かが起こるかのような
そんな空気
焦りや悔しさそして不安
三人ともそう言った表情だった
カロンは小さく息を吐く。
そして静かに言った。
「……なら」
カロンの声は穏やかだった
「俺に約束させてくれないか?」
三人が顔を上げる。
「え……?」
「君達の話を聞いた事は他言しない、勝手に動いたりもしない、必要なら俺だけで抱える」
一歩前へ出る。
「その代わり」
三人を真っ直ぐ見る。
「力を貸す…借金でも脅しでも契約でもなんでも、もし困ってるなら一緒に解決しよう」
夜風が吹く、誰も喋らない
だがその沈黙は先程までと違っていた。
ルーナの瞳が揺れる
エルナも驚いた顔をしている
ミラは唇を噛んだ
三人とも理解していた、カロンは事情を知らない
なのに手を差し伸べている。
見返りも無く当然のように
その姿は少なくとも自分達が知る"勇者"より
ずっと勇者らしく見えた
宿の一室
ルーナは何度も周囲を確認する。
エルナもミラも、まるで誰かに聞かれる事を恐れているようだった
そして、ルーナが震える手で一枚の羊皮紙を取り出す
「……これ」
カロンへ見せた
古びた契約書だった…
題名には大きく書かれている。
『勇者パーティ所属契約書』
カロンは最初はただの雇用契約だと思った。
だが読み進める内……眉が動く
第一条
ルーナ、エルナ、ミラは勇者ジークの指示に従うものとする。
第二条
依頼内容、危険度を問わず参加を義務付ける。
なお怪我、後遺症、死亡についてジークは一切の責任を負わない。
第三条
報酬の分配割合は勇者ジークが決定する。
第四条
パーティ内で知り得た情報を第三者へ漏洩してはならない。
第五条
勇者ジークの許可なくパーティを脱退してはならない。
第六条
契約違反が認められた場合、違約金を請求する事が出来る。
第七条
勇者ジークが必要と判断した場合、私生活においても指示に従う。
……
……
カロンは最後まで読んだ
そして羊皮紙を静かに畳んだ。
表情は変わらない
だが知っている者なら分かる
今、カロンは本気で怒っていた
ギャングとして盗みもした
喧嘩もした
人を脅した事もある
だがこれは違う
あまりにも醜い
あまりにも卑怯だった
ルーナが俯く。
「……アタシ達」
声が震える。
「元々は貧しい町に住んでて……魔法しか取り柄が無かったんです……」
目に涙が浮かぶ。
「でも今の時代……魔法じゃ食っていけない……冒険者なんて時代遅れだし……」
言葉が詰まる。
エルナが引き継いだ
「だから……最近の魔族増加でジークが仲間を募集してるって聞いて……最後のチャンスだと思った」
ミラも苦笑する。
「契約内容も最初はそこまで酷くありませんでしたの…少しずつですわ…旅を続ける内に条件が増えて……気付いた時には……」
言葉を失う中、ルーナが涙を拭い再会する
「違約金なんて払えねぇ……脱退したら借金だけ残る……だから……だからアイツを庇うしかなかったんだ……」
カロンは何も言わない。
ただもう一度契約書を見る。
第五条。
脱退禁止。
第六条。
違約金。
第七条。
私生活への干渉。
そして第四条。
"第三者への漏洩禁止"
だからか、三人が怯えていた理由
カロンはようやく全てを理解した
ルーナ達はジークを庇っていたんじゃない。
縛られていた、ただそれだけだった
そしてカロンの仲間でいる事はルーナ達にとって、
ジークの横暴から身を守る、最低限の安全地帯だった…、ジークを追い出すのはそれを同時にそれを
奪う事になる……
そしてカロンは静かに息を吐く。
「……なるほどな」
声は穏やかだった、瞳だけは冷えていた。
今までジークを見てきた
ウザい奴だと思っていた
痛い奴だと思っていた
だがそれは間違いだった。
コイツはただの道化じゃない
もっと質の悪い何かだ
カロンは羊皮紙を閉じ、そして三人を見る。
「分かった」
その声を聞いたルーナ達はもう一度、
自分達の今後が不安になる
ルーナ達はもう限界だった
今まで誰にも言えなかった
言ったら違約金
言ったら裏切り
言ったらどうなるか…
そんな恐怖を抱えながら旅を続けてきた。
だから
カロンの次の言葉はあまりにも反則だった。
「辛かったな……」
ルーナ達の肩が震える
カロンは優しく続ける
「すぐに気付いてやれなくてごめん」
その一言だった。
責めない
怒らない
なぜ隠していたとも言わない
ただそう言ってくれた
ルーナの瞳から涙が零れる。
「カロンさん……!」
エルナも顔を伏せる。
「カロン殿……!」
ミラも涙を拭う。
「カロン様……!」
思い返せば初対面では衝突もした
敵対もした
警戒もしていた
だが
食事を奢ってくれたのも。
車に乗せてくれたのも。
一緒に戦ったのも。
魔法を褒めてくれたのも。
強くなれると教えてくれたのも
全部カロン達だった。
少なくともジークではなかった
ルーナが堪えきれず飛び込む
「うぅっ……!」
続いてエルナ
そしてミラ
三人とも安心出来る場所を探していた
ただそれだけだった
カロンは驚かなかった。
優しく三人を受け止める
頭を撫で、背中をさする
そして静かに言った。
「大丈夫だ、俺がなんとかしてやる」
その言葉に三人は声を上げて泣いた
初めてだった、誰かに助けて貰えるかもしれないと
そう思えたのは。
数時間後。
深夜の宿の廊下
全員が寝静まった頃
月明かりだけが窓から差し込んでいた。
そこにカロンとスタオンヌが立っている。
スタオンヌは微笑んだ
「上手く行ったみたいですね、カロン様♡」
カロンも小さく頷く。
「そうだな…そっちは?大丈夫だったか?」
スタオンヌは胸を張る、少しだけ得意げだった。
「はい♡モルヒネでぐっすりです♡」
部屋の中
「……ふふぁふはは……俺が……勇者で……」
完全に寝ていた。
スタオンヌ特製の睡眠補助付き。
カロンは部屋の中を一瞥する。
そして小さく呟いた。
「さて……」
優しい顔は消えていた…ルーナ達は開放する
それを知らないジークは、
人生で最後になるかもしれないほど気持ち良さそうに眠っていた
翌朝
宿屋で最も注目を集めているテーブルがあった。
カロン達である
他の宿泊客が注目する
いつもと違う事が一つ
ルーナ達三人の様子だった。
昨日までの遠慮や警戒が嘘のように消えている。
ルーナはカロンの隣へ座り少し照れながら笑う。
「カロンさん……♡昨日はありがとう……♡」
エルナも珍しく柔らかい表情をしていた。
「これからもカロン殿の力になれるよう努力しよう……♡」
ミラは腕を絡ませる。
「ずーっと宜しくお願いしますね……♡
ご主人様♡」
そんなやり取りを見たガチ恋勢三人が黙っている訳もない。
リリーナが机を叩く。
「ズルい!!アタシの方が先輩なんだから!!」
沙耶も負けない。
「殿の傍は拙者がお守りするでござる!」
スタオンヌは嬉しそうだった。
「ふふっ♡にぎやかで嬉しいです♡」
結果
カロンの周囲を美女六人の完全包囲が完成した
そして当然。
面白くない男が一人
「おい!!」
全員が見る
「少なくともお前達は俺の仲間だろう!!」
ルーナ達を指差す
「そいつを好きになるなどおかしいだろ!!」
そして、ルーナが首を傾げる
「いやー、飽くまで仕事の付き合いだし……」
エルナも頷く
「勝手に友達だの恋人みたいだの思われたとて……」
ミラは紅茶を飲みながら微笑む。
「正直迷惑ですわ…」
宿中に響く絶叫
カロン達は吹き出した、ジークが青筋を浮かべて叫ぶ
「俺は勇者だぞ!!」
間髪入れず3人が今までの不満をぶちまけるように
「自称な」
「実績ゼロ」
「借金1800万♡」
「やめろぉぉぉぉ!!」
食堂中が笑いに包まれる。
だがカロンは少しだけ安心していた
昨日まで怯えていた三人がこうして笑えている
それだけで十分だった
そしてその光景を見ながらジークだけが気付いていなかった。
自分が本当に一人になり始めている事に
しかしそんな事ジークは納得していない。
「これがわからんのか!?」
懐から羊皮紙を取り出す
例の契約書だった
得意げに広げる
「契約だ!!お前達は俺のパーティメンバーだ!!ルーナ!エルナ!ミラ!この契約がある限り――」
カロンが頭を掻く
「あ〜あ…自分から出しやがったな」
「なに?」
その時、現れたのがリバティーナだった
弁護士としてその契約書を受け取る
そして真顔で言った。
「こちら完全に無効ですね」
ジークの表情が曇った
「なんだと?」
リバティーナは淡々としていた
「まず第一に」
契約書を指差す
「後付けで極端に一方的な労務提供を強いる内容」
「第二に管理者としての責任を一切負わない条項」
「第三に私生活への介入」
「第四に脱退の自由を著しく侵害」
指摘していくときりが無い、それを一つひとつ読み進める。
そして最後に、読んでいる途中で呆れ果てたかのように、大きなため息
「契約内容の更新の同意は無し、片務契約の範疇を逸脱、法的な契約書ですらありません…小学生の落書きですか?」
「ぐっ……!!」
カロンも呆れ笑いを浮かべ、ジークを見る
「てな訳だ、お前、こんな紙切れで勇者ごっこしてたんだな流石に引くわ」
ジークがいよいよ狼狽してきた
「なっ……!?」
その瞬間ルーナが立ち上がった。
ゆっくり
震える手で契約書を見る。
何度も怯えた紙。
「カロンさん……この契約書……」
小さく呟く…カロンは優しく頷いた。
「ああ、良いぞ」
それだけだった。
許可いや…解放だった。
ルーナの瞳に涙が浮かぶ。
エルナも
ミラも
ビリッ
最初に破いたのはルーナだった。
ビリビリビリッ!!
エルナも続く。ミラも。
三人で契約書を引き裂き
呪いだった物がただの紙屑になる
そして3人が破り捨てた紙をジークへ投げつけた
紙吹雪のように舞う
「…………」
言葉が出ない
目の前で自分の勇者としての行いを完全に否定された。
ルーナは真っ直ぐジークを見る
もう怯えていなかった
「終わりだ」
エルナも続く。
「もう従わない」
ミラは微笑む。
その笑顔は冷たかった。
「さようならですわ」
宿は静まり返る。
ジークは初めて理解した
自分が失ったのは契約書ではない、仲間だったのだと。
破り捨てられた契約書の切れ端が床に散らばっている
ルーナ達は既にジークを見ていなかった。
だが、ジークだけは違った。
「ふざけるなァァァァァ!!」
顔は真っ赤、目は血走っている
「全部貴様のせいだ!!」
カロンを指差す。
「俺の仲間を!!」
「俺の未来を!!」
「俺の勇者伝説を!!」
「全部台無しにしやがって!!」
今にも飛び掛かりそうな勢いだった。
だがカロンが忠告する
「おっと、立ち上がるんじゃないぞ?」
「……なんだと?」
怒りのまま睨み付ける。
カロンは顎で下を指した。
「その椅子の下を見てみろよ」
ジークが恐る恐る覗き込む、同時に凍りついた
そこには、黒い金属製の円盤、配線付き
明らかに怪しい物体
「離圧式地雷だ」
「は?」
「お前のケツが浮いた瞬間爆発する、木っ端微塵だな」
「はぁぁぁぁぁ!?」
顔面蒼白。
怒りが一瞬で消え代わりに恐怖が来た
カロンは平然としている。
「大丈夫だ、多分一瞬だから痛くない」
「嫌だぁぁぁぁ!!」
食堂中がざわつく
レオンは顔を背けた
肩が震えている
エマはニヤけを我慢出来ず帳簿で口元を隠した、
スタオンヌは既に笑顔。
リリーナは完全に笑いを堪えている
そしてカロンは立ち上がる
「よしもう良いな」
ミラが真っ先に反応し腕を組む
「はい♡ご主人様♡」
エルナも頭を下げる。
「何処までもお供致します」
ルーナは涙を拭いながら笑う。
「カロンさん……本当にありがとうございます……」
カロンは照れ臭そうに頭を掻いた。
「気にすんな…どっかで飯食ったら次行くぞ」
そして誰一人としてジークを見なかった。
まるで最初からそこに居なかったかのように。
そのまま宿を出る。
駐車場にはガーディアン90、ククリRPV、バイク
いつもの光景
そして宿の中から絶叫が響く。
「待てぇぇぇぇ!!」
「待て!!」
「待てと言っているんだ!!」
ジークは椅子に座ったままピクリとも動けない。
「俺が!!」
「真の勇者が!!」
「待てと言っているんだぞ!!」
返事は無い誰も振り返らない。
「待たないとコロス!絶対殺す!!殺してやる!!」
窓の外、遠ざかるカロン達の車列
もう声も届かない距離へ
それから数時間、誰もいなくなった部屋
ジークは震える手で椅子を掴む
「……なんでだ」
床には破られた契約書
空になった部屋
「俺は……勇者なのに……」
ジークは未だに椅子に座ったまま、動けずにいた。
「…………」
ルーナもエルナもミラも、もう誰もいない
自分だけだ
ジークは考えた、自分は何がしたかったのだろうか
新たな魔王を討伐する為か
世界を救う為か
王に頼まれた大義だからか
違う、そんな立派な理由など最初から無かった
ただ――。
英雄になりたかった。
誰もが自分を称え、誰もが自分を見上げ
美女達に囲まれ、勇者として語り継がれたかった
それだけだった。
数時間後…
「……認めんぞ…俺は……」
ジークはまだ諦めていなかった
ジークの思い描く栄光、どんな魔も打倒す強さで
英雄として民の歓声の中で持て囃されたい
世界中の美女達に心からの賛美を受けたい
富と名誉と力、全てを持つ事を認められる英雄…
やがては自分が選んだ愛する美女と幸せな家庭を築き、子々孫々に自らの栄光と血脈を未来へ繋げて行く…引退後、英雄の子はまた世界に名を轟かせ、慕ってくれる孫に囲まれ、自分は栄光と穏やかさの中で永遠の存在となる…、カロンやレオンのような男には到底叶うわないだろう…ジークはそう思っていた…
『なんかさ……キミ見てるとイライラするなぁ……
消しちゃおっか!』
「!!」
翌朝、ジークは椅子から転げ落ち、床で目を覚ました、現実だ、生きている
ジークは椅子に張り付いた地雷を手に取る
妙に軽かった、空の菓子の缶くらいの重さ
慎重に開けると…中身は空っぽ、側だけの模型だった
数秒後。
「カロォォォォォン!!!」
宿中に魂の叫びが響き渡った
一方、その十数時間前、宿を出てからしばらく
街道から少し外れた草原
風が爽やかに吹き抜ける
空は高く、雲はゆっくり流れていた
ガーディアン90とククリRPVは木陰へ停車
カロン達は昼休憩を取っていた。
「いや〜……朝から疲れたわ〜」
カロンは寝転がる。
レオンは苦笑しながら水筒を渡す。
「しかしカロン、お前があの三人の為にあそこまで動くとはな」
カロンは受け取った水を飲みながら少し考える。
「まあ…話してみたら結構いい子達だったし、放っとけないさ」
少し離れた場所では
ルーナ達三人がリリーナや沙耶と話している
昨日までの重苦しい空気はもう無い
普通に笑っていた、レオンもそれを見る
「まったく……」
呆れたような声、だがどこか嬉しそうだった。
カロンはニヤリと笑う。
「あと三人とも結構気持ち良かったし!」
「………ん?」
レオンはそれ以上は…聞かなかった
その頃
ルーナ達の方では。
「ご主人様〜♡」
「アハハハ!」
「本当に懲りないな……」
スタオンヌ達も
「賑やかですね♡」
「でも嫌いじゃないわ♡」
「殿は人たらしでござるな」
旅はまだ続く、仲間は増えた、騒がしさも増えた。
そして何より
ようやくルーナ達は笑えるようになった。
遠くの空を見上げながらカロンは小さく欠伸をする
※宿に許可を得てやってます
前作では散々な目に遭ったルーナ達のそっくりさん達。
パラレルワールドでカロンの父ワイアットは言いました。
「助けてもらう価値がある人間になってから出直しな」
だから今回は助ける。
段々折り返し地点、次回からも頑張ります
笑えるようになった3人↓
もう脇役じゃないヒロイン達 | 福島ナガト #pixiv https://www.pixiv.net/artworks/147418528




