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26/42

勇者だけ蚊帳の外

足手まといがいるとカロンも本気を出さなきゃいけません

祠の外。

巨大な扉は無残にも地面へ転がりその向こうには

ぽっかりと暗闇が口を開けている

 

周囲は静かだった。

森を吹き抜ける風に木々の揺れる音

そして時折聞こえる鳥の鳴き声

洞窟の中とは違い、外は平和そのものだった

 

ククリRPVは入口付近に停車されている。

その車体上部

銃座に腰掛けるリリーナは退屈そうに頬杖をついていた。

 

「それにしても……」

 

遠くの森を眺める。

 

「カロンくんも変な所でお人好しよね」

 

 

その下ではエマが車体にもたれ掛かりながら帳簿を開いている。

「ですねぇ……」

 

ペンを走らせながら苦笑した。

 

「普通なら断りますよ」

 

 

エマは洞窟の方を見る。

数十分前の出来事を思い出していた。

 

村に着く

↓

ジークが勝手に話を聞く

↓

勝手に依頼を受ける

↓

勝手に勇者宣言

↓

気付けば全員で魔物退治



意味が分からない。

「そもそもジークさんが出しゃばらなければ、ここにも来なくて済んだんですけどね」

 

リリーナも頷いた

「そうそう、それに付き合うとか普通無いでしょ」

呆れたようにため息を吐く。


「アタシだったら見捨てて魔物の餌にしてるわ♡」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

だが笑いながらも分かっている。

 

カロンは最初から断れた。

ジークが勝手に引き受けた事など知った事ではない。

それでも来た。

生贄、村人達の不安、人助けでは無くカロンにとっては気に入らないから倒す

そういうものを見てしまうと放置出来ない。


「やっぱり優しいんですよねぇ……」

エマがぽつりと呟く。

 

 

リリーナは少し笑った。

「本人に言ったら怒るやつね♡」

 

 

「間違いなく怒ります『そんなんじゃねえよ!』って」

 

 

その時だった、洞窟の奥から――

 

ドゴォォォン!!

 

地面が僅かに震えた。

 


「始まったかな」

リリーナは銃座に腰を上げる。

 

その口元には笑み。

「さて…何分持つかしらね、ジークくん♡」


洞窟の中は想像以上に広かった。

 

祠の地下にあるとは思えないほど天井は高く、左右には無数の横穴が伸びている。

 

壁には古い魔導灯の名残らしき物も見えるが、今はほとんど機能していない。

 

薄暗い通路の奥からは風が吹き抜け、不気味な音を響かせていた。

 

そんな中、先頭を歩く男だけは妙に元気だった。

 

「皆、俺に続け!!」

 

ジークが剣を掲げる。

 

「人喰いの化け物を討ち!!民を救う!!これぞ冒険!!これぞ勇者の誉れ!!後世に語り継がれる英雄譚の――」

 

 

誰も聞いていなかった。

カロンはショットガンを肩に担ぎながら周囲を警戒している。

 

その右隣にはスタオンヌ。

 

左隣には沙耶。

 

まるで護衛対象を囲む近衛兵だった。

 

 

スタオンヌはカロンの腕へそっと寄る。

「カロン様♡」

柔らかな笑顔ですり寄る

「隣……よろしいですか?」

 

カロンはそれに優しい笑顔で答えた

「もういるだろ」

 

「はい♡」

満足そうだった


反対側では沙耶が真面目な顔で周囲を見渡している。

 

「なにがあっても殿と仲間はお守りするでござる!」

腰の刀へ手を添える。


カロンは信頼を込めて一言

「おう」

 

沙耶は少し嬉しそうだった。

 

 

その後ろ、レオンとリバティーナも並んで歩いている

 

 

洞窟の奥は暗い、足元も悪い。

リバティーナは少しだけレオンへ身体を寄せた。

「レオンさん……結構長い洞窟ですね……」

 

レオンも周囲を警戒しながら頷く。

「そうだな」

そして自然な動作でリバティーナの手を取った。

「リバティーは俺から離れないで」

 

リバティーナの顔が少し赤くなる。

「……はい♡」

幸せそうだった

 

 

しかしそんな光景に先頭から声が響いた

「おい!!」

 

振り返ると

「俺の格言を無視するな!!あとイチャイチャするな!!」

 

 

しかしそれを諌めるルーナが即座に怒鳴る

「前見ろ!!先頭歩いてる自覚持て!!」

 

エルナも続く。

「集中しろ!!死にたいのか!?」

 

ミラは呆れたようにため息を吐いた。

「だからモテないんですわ」

 

ジークは何も言い返せない

いや言い返そうとした

「ぐっ……!!」

 

だが後ろを見れば

カロンの両隣には美少女二人

 

その隣を見れば

レオンとリバティーナが仲良く手を繋いでいる。

 

そして自分の横には…

「前見ろ」

 

「集中」


「邪魔ですわ」

 

 

「………」

洞窟の冷たい空気とは別の意味で、

彼の心は少し寒かった

 

その時だった。

 

ゴォォォォ……

 

 

洞窟の奥から何か巨大な生物の唸り声が響く

全員の表情が変わった

 

ついにボス部屋が近い、洞窟の通路を抜けた先。

そこには巨大な空洞が広がっていた。

 

天井は見えないほど高く、岩肌には長い年月をかけて形成された鍾乳石が垂れ下がっている。

 

そして部屋の中央

とぐろを巻くように鎮座していた。

 

蛇龍ナーガロス

全長二十メートルを超える巨大な魔物

 

蛇のような長い胴体

龍を思わせる角

鋭い牙の隙間から漏れる唸り声

 

黄色く濁った瞳が侵入者達を見下ろしていた。

 

ゴォォォォォ……

 

低い唸り声だけで空気が震える

普通の冒険者なら足が竦む光景だった

 

 

だが、場違いに張り切った声

「蛇の化け物め!!」


よくぞ出てきてくれたとでも言いたいように

飛び出したのはジークだった

剣を抜き放ち、堂々と前へ出る「この勇者ジーク・バルサローザが討ち滅ぼしてくれる!!」

 

 

ナーガロスは再び方向を上げる

「ゴォォォォォ!!」

 

洞窟全体が揺れた

 

 

しかし後ろのカロン達は妙に落ち着いていた。


リバティーナが観察するようにナーガロスを見上げた。

「姉さん、あの魔物……」

 

スタオンヌも少し考えた後、頷く。

「そうね、知能が退化して凶暴性だけを強化したタイプねろ恐らく長期間野生化してるわ」

 

レオンも腕を組む。

「なんか魔王軍っぽくないな」

 

確かに、魔王軍系統の魔物特有の統率や知性が感じられない

ただ暴れる蛇、そんな印象だった。

 

カロンもナーガロスを眺める。

「多分野良だろ」

ショットガンを肩に担ぎながら呟く。

「噂には聞いてたが初めて見たな」

 

そしてリバティーナを見る

「リバティーナ、野良って倒しても罪にならないんだっけ?」

 

突然の法律相談だった。

それに対してリバティーナは即答した

「魔王と無関係で、一度も人的被害を出さず、人類との友好意思が認められる魔物のみに保護法は適用されます」

 

ナーガロスを見てリバティーナが判断したのは

「既に犠牲者を出している時点で討伐対象ですね、法的にも問題ありません」

 

法律のプロの言葉に一安心

「なるほど」

 

「良かった、合法か」

 

「安心して斬れるでござる」


「そうね♡」

全員納得した、心置きなく戦っていい

 

ジークはその光景にツッコんだ

「おい!!少しは焦れ!!なんで討伐許可の確認してるんだ!!」

 

しかしルーナが頭を抱えた。

「いや大事だろ、後から問題になるより」

 

エルナも頷く。

「むしろちゃんとしてる」

 

ミラは呆れたようにため息を吐く。

「だから貴方は勢いだけなんですわ」

 

相手は本能のままに暴れる蛇、言わば猛獣

冷静に考えれば安全な距離を取らずに距離を詰める方が得策では無い

「ぐっ……!!」

 

その時だった。

ナーガロスの巨大な瞳が細まる。

獲物と認識した。

 

ズズズズズ……

 

巨体がゆっくりと動き始める

鱗が岩盤を削る音が響く

空気が変わった

今度こそ戦闘が始まる


ナーガロスが唸る

巨体に普通の冒険者なら逃げ出してもおかしくない威圧感。

 

だが。

 

「行くぞ!!」

 

改めてジークは飛び出した

 

その声にルーナ達も続いた

 

今回は違う、少なくとも戦う意思だけは全員揃っていた。

 

ルーナが両手を振り上げる。

「フレイム!!」


轟炎が一直線に走った

赤い火柱がナーガロスの頭部へ直撃した。


 

同時にミラが妖しく微笑む。

「ポイズンミスト♡」

 

紫色の煙が洞窟内へ広がる。

視界を奪いながら毒を浸透させる補助魔法。

 

その隙を逃さない

ジークとエルナが一気に踏み込む。

「はぁぁぁぁっ!!」

 

ジークの鋭い太刀筋、

タイミングを合わせエルナも氷剣を振るう

 

「……くっ!!」

 

ギィィィン!!

金属同士がぶつかったような音

 

しかし硬い、あまりにも硬過ぎた

 

 

ルーナの炎

 

ミラの毒

 

ジークの剣

 

エルナの氷剣

 

 

確かに当たっている

だが鱗に僅かな傷が付いただけだった

ナーガロスは痛がる素振りすら見せない。

むしろ鬱陶しそうに首を振る

 

 

ルーナが狼狽える、今のは彼女にとってはかなりの強撃

「嘘だろ……」

 

 

エルナも距離を取る。

「全然通ってない……!」

 

しかし、ジークはまだ諦めない

「ならば!!」

 

 

後方へ飛ひ、剣を構えたまま魔力を練る。

「ファイヤー!!」

 

火球がナーガロス目掛けて放たれた

通常の冒険者なら十分強力な魔法だった


轟音と共に爆ぜ、炎がナーガロスを包む

 

だが煙が晴れるそこにいたのは。

ほぼ無傷の魔物だった。

 

鱗の一部が焦げた程度


「くそ……!!」

 

ジークは次こそは、とさらに魔法を放つ、

 

「トルネード!!」

 

風の刃が唸りを上げる

岩を削りながらナーガロスへ直撃

だが結果は同じだった。

 

 

僅かな傷が増えた、それだけ

 

ナーガロスは巨大な瞳でジーク達を見下ろしている。

 

まるで

「その程度か」

そう言わんばかりに。

 

決して弱くはない

ジーク達の攻撃は、冒険者として見ればそれなりな水準だった

むしろ平均以上だろう、だが相手が悪かった

 

ナーガロスがゆっくりと身体を起こす

巨体が持ち上がる

洞窟の天井に届きそうなほど

 

そして巨大な尾が振り上げられた。

 

ルーナ達はすぐさま危険を察知した、

「まずい!!」

「避けろ!!」

 

 

その瞬間、

後方で見ていたカロンが、ようやく口を開いた

 

「……なるほどな」 

 

戦況を見ていた目が少しだけ鋭くなる

洞窟を揺るがす咆哮、ナーガロスの尾が振り上がる。

 

ルーナ達は距離を取る

ジークも歯を食いしばりながら後退した

 

カロンもここまで戦って分かった

ジーク達は決して弱くはない、威張るだけの事はある

だが…決定打が無い。

 

その時だった

後方から足音が響く

 

 

カロンだった

「……」

 

何も言わない、ただ前へ出る

 

ジークが振り返り制止しようとした

「おい!手出しは無用で――」

だかその言葉は最後まで続かなかった


 

カロンが静かに両手を組む。

左右の指が複雑に絡み合う今まで見た事の無い印相

 

 

スタオンヌの瞳が僅かに見開かれる。

「カロン様…その印は……」

 

烏枢沙摩身印

炎を司る浄化の印

 

カロンの周囲に熱気が集まり空気が揺らぐ

洞窟の温度が一気に上昇した。

 

状況が理解出来ずにたじろぐジーク

「な……?」


カロンから放たれる膨大な魔力と炎熱に呆気に取られるルーナ達三人

「え……?」

 

「これは……」


「まさか……」

 

 

カロンはナーガロスを見据え

そして静かに告げた

 

「プロメテウス」

 

轟ッ――――!!!

 

炎が生まれた

火球ではない、火柱でもない

 

それはまるで太陽の欠片

 

ジークが放ったファイヤーの何十倍もの炎塊が

ナーガロスへ突っ込む

 

 

洞窟全体が赤く染まる

岩肌が熱でひび割れる

 

ルーナ達は反射的に顔を庇った。

 

ドォォォォォォォォォォン!!!

 

 

直撃、ナーガロスの巨体を炎が飲み込む。

 

 

地響きと爆風

火炎が渦を巻きながら洞窟中へ広がる。

 

圧倒的な火力に誰も言葉を失った

 

 

 

そして数秒後、炎が晴れる

ナーガロスは――生きていた。

鱗の一部が焼け焦げている

 

だが致命傷には至っていない

「ゴォォォォォ……!!」

 

苦しそうではあるがしかし倒れない。

 

カロンは頭を掻いた。

「あー……」

 

少しだけ面倒そうな顔。

「やっぱ魔法耐性高いんだな……

じいちゃんの炎が効かないなら相当だ……」

 

軽く言うのだが周囲はそれどころではなかった。

 

 

ジーク達4人、全員固まっている。

 

ジークに至っては顔面蒼白だった。

震える指でカロンを指差す。

 

「おかしいだろ!?なぜ俺より強力な炎魔法を使える!?」

 

カロンは首を傾げる。

「さあ?昔から使えたからな、あと今のはじいちゃんが編み出した技だ、俺は知らない」

 

「答えになってない!!」

 

 

レオンは苦笑した。

「だから言っただろ、カロンは昔から色々出来るって」

 

スタオンヌも微笑む。

「まだまだありますよ♡」

 

 

その一言に、ジーク達四人は嫌な予感しかしなかった、まだまだカロンの底が見え無い


ナーガロスは明確に標的を変えていた。

勇者ノーザン・クレインの大技 プロメテウス、

その一撃は確かに効いている

 

本能だけになった獣であっても、それくらいは理解出来るらしい

 

濁った瞳がカロンを捉える。

そして巨大な尾が振り上げられた。

 

ゴォォォォッ!!

 

空気が裂けるもはや生き物の尾というより

巨大な鞭、岩壁すら粉砕しかねない質量だった

 

ジークが叫ぶ

「避けろ!!」


ルーナ達も息を呑む。

 

だがカロンは動かない

胸の前で静かに両腕を交差する

今度は別の印相

 

再生と循環、神秘を司る

軍荼利印


「転移魔法」

 

そう唱えた瞬間

その場からカロンの姿が消えた

 

ナーガロスの尾は空を切る。

正確には、軌道上にいた別の誰かへ向かった

 

ジークの眼前に迫る巨大な鞭

「え?」

ドガァァァァン!!


気づいた頃にはジークは壁へ吹き飛んだ。

「ぶへっ!!??」

 

派手に激突し地面に転がる。

 

ルーナ達が悲鳴をあげる

「ジークーーー!?」


「なんでそこにいるんだ!?」

 

「先頭だったからですわ!!」

三人は一瞬の出来事に驚愕した

なんとか戦いを目で追うのがやっとの状態、ナーガロスの理解を超える強さと獰猛さ、そしてそれを涼しい顔で相手取るカロン

 

カロンは少し離れた場所へ再出現した。

倒れているジークを見る

「あ、ごめん」

 

全然悪びれていなかった。

しかしナーガロスは止まらない。

 

怒り狂ったまま二撃目、再び尾が振り下ろされる。

今度は確実にカロンを狙っていた。

 

だがカロンは慌てない。

 

 

今度は両手の中指を合わせる

冥王すら調伏する呪殺の印

大威徳根本印

 

ルーナ達の目が見開く、緊張と同時に今度は何が起きる?と言う期待感を感じていた

 


「ジーク、起きろ」

 

淡々と告げる。

 

 

光が走り、そして

さっきまで瀕死だったジークが

 

ガバッ!!


「ぐはっ!!??」

復活した。

 

しかし起き上がった位置はちょうどナーガロスと

カロンの間に

 

ナーガロスの尾

 

ジーク

 

カロン

と言う完璧な位置関係

 

ドゴォォォォン!!

「ぶべらっ!!??」

 

 

二撃目を全身で受け、そのまま吹き飛んだ

 

「ジークーーー!!」

 

「今蘇生した意味あるか!?」

 

「弾除けにはなりましたわ!!」

 

 

地面に転がるジークは必死に声ん振り絞る

「人の心ないのか……」

 

ルーナ達は別の意味で衝撃を受けていた。

 

 

スタオンヌは思わず呟く

「凄い……カロン様、まだあんなに魔法を……」

 

リバティーナも感心していた

「意外ではありますが……流石は勇者ノーザン・クレイン様の孫ですね……」

 

 

レオンは苦笑する。

「あれも昔からあったぞ、使う機会が無かっただけで」


そして沙耶だけは別のものを見ていた。

次々と印を結び魔法を操るカロン。

 

その姿は勇者ではない

魔導士でもない

もっと異質な何か。

 

沙耶は思わず呟く

「殿…あの姿……正に明王でござる……」

 

刀へ手を添えた

 

その言葉に誰も反論出来なかった。

なぜなら今、ナーガロスよりも

カロンの方がよほど規格外に見えていたからだった


ナーガロスはまだ倒れていない。

鱗は焦げ、肉は裂け

確実にダメージは蓄積している。

 

だがその巨体は未だ健在だった。

「ゴォォォォォォ!!!」

 

怒りの咆哮、洞窟全体が揺れる

カロンはその様子を見ながら頭を掻いた。


「しかし分が悪いな、やっぱ……」

 

正面から殴り合うには硬すぎる

なら別のやり方をするだけ

再び腕を胸の前で交差させるカロン

 

軍荼利印。


「脱出するぞ」

 

 

次の瞬間、視界が歪んだ。

そして全員の姿が消える。

 

祠の入口、エマとリリーナの声が聞こえた

「お疲れ様」


「どう?勝った?」


二人は随分呑気だった。

 

カロンは洞窟を指差し

「射撃準備だ!アイツ硬すぎ!」

 

エマの顔が少しだけ真面目になる。

「了解」

 

リリーナは既に銃座へ。

「任せなさい♡」

 

 

その時だった。

 

ゴォォォォォォォ!!!

 

祠の奥から轟音。

 

 

巨大な岩壁を砕きながらナーガロスが飛び出してくる。

 

散々突き回され、完全に頭に血が上っていた

 

 

ジーク達はその圧とスピードに狼狽える

「追って来たぞ!!」


「速い!!」


「なんだあの執念は!?」

 

 

だがリリーナは笑っていた

銃座へ身体を預ける


50口径重機関銃、ククリRPV最大の武装


「吹っ飛びなさい♡」

 

ガガガガガガガガガガッ!!!

 

銃声が森を揺らす


毎秒放たれる大口径弾、

高硬度装甲鋼ですら貫通する怪物じみた威力

 

ナーガロスの鱗へ直撃する。

 

ドガガガガガガガガッ!!!

 

今までびくともしなかった鱗が砕け、肉が裂ける

 

「ゴァァァァァァァ!!!」

 

絶叫と銃声が全てを飲み込む


自分達が全力で浅い傷を付けるのがやっとだった相手を、機関銃が削り取っている。

「嘘だろ……」

「貫通した……」

「恐ろしいですわ……」


「ありえん……」

 

そんな状況に言葉が出ない


目に見えてダメージを受けたナーガロスだが

しかし巨大魔族のタフネスか、蛇の生命力か

まだ終わらない

 

そんな様子をスタオンヌは研究者の目でナーガロスを見ていた。


そして何かを取り出し

「ミラさん!」

ミラの名前を呼ぶ


「はい?」

差し出されたのは小型の薬液容器

ミラは目を見開いた

 

「これは……?」

 

スタオンヌが微笑む。

「ボツリヌストキシンです、打ち込めば全身の筋肉を麻痺させます」

 

 

さらっと恐ろしい事を言った


「……」

 

若干引き気味のルーナとエルナ

「物騒すぎるだろ……」


「本当に科学者か?」

 

そう言われてもスタオンヌは笑顔だった

「科学者ですよ♡」

 

しかし、ミラは手渡された猛毒に興味津々だった

食い入るように容器を見つめている…


「なるほど……」

ミラは容器の口に手をかざすと

毒が紫色の光へ変換され手の内へ吸い込まれていく

 

「…あっ…♡」

毒を吸い上げながら妖艶な笑みを浮かべ、そして

指先をナーガロスへ向けた。

 

「ポイズンダート♡」


機関銃で傷付いた部位を狙い、針状の毒弾が放たれ、吸い込まれるように突き刺さった

 

ナーガロスの巨体が初めて大きく揺らぐ

 

そして 

その場に崩れ落ちる

 

ジーク達は呆然とする。

目の前で行われているのは、勇者の戦いではなかった。

 

軍事力。

 

科学。

 

魔法。

 

 

ありとあらゆる手段を総動員した

カロン流の討伐だった。


ミラの放ったボツリヌストキシンが全身へ回り切っていた。

 

巨大な身体は地面へ横たわり、辛うじて瞳だけが動いている。

 

それだけだった。

 

先程まで洞窟を揺らしていた怪物は、今や巨大な置物と化している。

 

ルーナは思わず呟いた。

「これもう勝ちじゃないか……」

 

 

ジークも引き攣った顔で頷く。

「勇者の戦いとは一体……」

 

 

カロンはナーガロスを見下ろした。

「中々しぶといな……」

そして振り返る。

「沙耶、トドメ」

 

 

沙耶は静かに頷いた。

「御意」

 

刀を最上段に構えようとした時だった


「あ、少し待って下さい」

スタオンヌが待ったをかける

そんな状況に全員の視線が集まった

スタオンヌは真面目な顔でナーガロスを観察していた

 

「首を落とした瞬間、ボツリヌス菌を含んだ血液が飛散する可能性があり、二次被害の恐れがありますね」

 

さすが研究者

最後まで事故を警戒していた

そして荷物から金属製タンクを取り出すと…

 

エルナへ差し出した

「エルナさん、これを」

 

 

エルナは訝しみながら受け取る

「これは……?」

 

「液体窒素です」


−196℃の物質にジークがたじろぐ

「なんで持ち歩いてるんだ!?」


「科学者なので♡」

全く答えになっていなかった

逆にこんな危険の管理が甘い科学者もいない

 

 

しかし

スタオンヌの目は真剣だった、科学と魔法の共演、

いつに無く探究心を刺激されていた

「先程のミラさんの反応を見る限り、

エルナさんの魔力も強化出来るかもしれません」


そして選択を委ねる

「試してみませんか?」

 

 

エルナは液体窒素を見て

そして自らの魔力で生成した氷剣を見る

 

少しだけ口元が上がった

「尽力しよう……」


すると氷剣が生き物のように液体窒素を吸い始めた


やがて、エルナや氷剣だけには留まらず、

本来のエルナの間合いを遥かに超えて、

周辺にまで影響を及ぼし始めた。


白い霧が溢れ出すし、温度が急激に低下

遂には周囲の草木が凍り付き始めた


仲間達もこれ程の力は見た事が無い

「これは……エルナさん…?」

「魔力が増幅されてる……!」

 

エルナは氷剣を構え…静かに

そして

「アブソルートゼロ」

 

その瞬間

 

ゴォォォォォォ……

白銀の冷気が放たれた。

 

ナーガロスの身体が凍り付く。

 

鱗

 

肉

 

骨

 

そして血管の一本に至るまで。

全てが氷へ変わっていく

 

数秒後、そこに残っていたのは巨大な氷像だった。

 

健かに、無駄の無い動作での一瞬の出来事、その結果出来上がった芸術作品に仲間達も魅入った

「綺麗……エルナも中々やるな…」


「芸術ですわ……」

 

「いや怖い怖い怖い」

 

 

そして、カロンが頷く

「今だ」

 

沙耶が前へ出る

逆手に握られた直刀 

その姿はあまりにも自然だった

まるで最初からそこに立っていたかのように

「――――」


誰にも見えないほどの一閃、

氷の割れる音が遅れてやって来る

 

キィン――

氷像の首に一筋の線が走り

 

そして、巨大な首が滑り落ちた

洞窟前に静寂が訪れる。

 

そしてレオンが口を開いた。

「討伐完了だな」

 

その一言で終わった


ミラやエルナは今回の成果に、自信が着いたようで

カロンやスタオンヌに感謝をしていた。


一方。

ジークは呆然としていた。

 

 

自分達が苦戦した怪物

  

それが、毒、重機関銃、液体窒素、そして居合

あまりにも自由な方法で討伐されたのだから

ジークは空を見上げた。

 

「勇者とは……」

 

誰も答えなかった。



降三世→必殺技、烏枢沙摩→炎系、大威徳→蘇生系

軍荼利→攻撃以外で色々便利系、金剛夜叉→その内出す

因みに不動剣印とかは出さない予定です。それっぽい技が思い付かなかったのと、カロンにとっては降三世明王が中心なので

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